侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。

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最終章 始まりの君へ、この永遠の祝福を

魂の抱擁、愛という名の祝福

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闇の抵抗が、完全に止んだ。
世界を覆っていた憎悪の爪も、絶望の触手も、まるで悪夢から覚めたかのように、その動きを止めている。

影の少女――千年の孤独をその身に宿した魔王の魂は、ただ呆然と、俺たちが見せた“ありえたかもしれない未来”の残光を見つめていた。

その瞳には、もはや拒絶の色はない。ただ、千年の時を経て初めて向けられた“優しさ”に対する、深い戸惑いだけが浮かんでいた。

彼女は、震える手を、そっとこちらに伸ばしかけていた。
救いを求める、か細い仕草。
それに応えるのが、俺たちの最後の役目だ。

俺は、最後の仕上げにかかる。
仲間たちを振り返り、その一人ひとりの瞳を、しっかりと見つめた。

「みんな……最後の力を貸してくれ。お前たちの、ありったけの“想い”を、俺の剣に」

俺の言葉に、ヒロインたちは力強く頷いた。
もう、誰一人として迷う者はいなかった。

俺たちが成すべきことは、この哀れな魂を断罪することではない。
ただ、その千年の孤独を、俺たちの愛で満たし、癒すことだ。

最初に、クラリスが一歩前に出た。その瞳には、王女としての気高き慈愛が満ちていた。

「イッセイ様。わたくしの想いを……この国の民を愛し、平和を願う、この王家の祈りを、あなたに捧げますわ」

彼女の胸から溢れ出たのは、夜明けの空のような、気高い紫色の光だった。

次に、ルーナが妖艶に、しかしどこまでも真摯な笑みを浮かべた。

「あたしのぜーんぶ、あげる。イッセイくんを、そして、泣いてるあの子を丸ごと受け入れたいっていう、この情熱的な愛を、ね」

彼女から放たれたのは、夕焼けのように燃える、情熱的な紅の光。

「あたしの商売は、みんなを笑顔にするためのもの! だから、あの子にも笑ってほしい! これは、あたしの商魂と、あんたへの愛よ!」

リリィの快活な声と共に、太陽のような、眩しい山吹色の光が弾けた。

一人、また一人と、仲間たちの想いが光となり、俺の掲げた《精霊剣リアナ》へと注ぎ込まれていく。

「イッセイ様、私の全てはあなたのものです。この不器用な忠誠が、あなたの力となるのなら……!」

セリアの、どこまでも真っ直ぐな想いは、一点の曇りもない純白の光となった。

「拙者の剣は、未来を守るためにある。その未来には、当然、あの子の笑顔も含まれている。イッセイ殿、我が魂、受け取られよ!」

サーシャの揺るぎない覚悟は、研ぎ澄まされた刃のような、鋭い琥珀色の光を放つ。

「精霊たちが歌っています。哀しい魂に、安らぎの祝福を、と。わたくしの祈りも、共に……」

シャルロッテの清らかな祈りは、若葉のように瑞々しい、翠色の光となって剣に宿る。

「ボクの歌は、希望の歌ウサ! 一番哀しい魂にこそ、一番優しい歌を届けるんだ! この想い、全部持っていくウサ!」

フィーナの太陽のような笑顔から、空色の光が溢れ出した。

「……独りぼっちは、寒いにゃ。だから、あたしの温もり、全部あげるにゃ。もう、寒くないように……」

ミュリルの無垢な優しさは、月の光のように穏やかな、銀色の光となった。

八つの想いが、色とりどりの光となって《精霊剣リアナ》に注ぎ込まれていく。
剣は、その輝きを増し、もはや武器としての形状を失っていた。

それは、ただ、どこまでも温かく、優しい光の奔流。愛と祝福の光そのものと化していた。

俺は、その光の剣を手に、ゆっくりと影の少女へと歩み寄った。
一歩、また一歩と、水晶の湖面を歩く。

俺の歩みに合わせて、湖面に波紋が広がり、岸辺の白い花々が、まるで祝福するかのように一斉に輝き始めた。

影の少女は、怯えたように後ずさろうとする。
だが、その足はもう動かない。

彼女もまた、俺が、そして俺たちが放つ光から、目を逸らすことができなかったのだ。

ついに、俺は彼女の目の前に立った。
そして、剣を振るうのではなく――その少女を、彼女を抱きしめるリアナの魂ごと、優しく、力強く、抱きしめた。

「もう、いいんだ。もう、独りで泣かなくていい」

俺の腕の中で、影の少女の身体が、びくりと震えた。
千年の時を経て、初めて触れる他者の温もり。
それは、彼女にとって、あまりにも衝撃的だっただろう。

俺は、腕の中の二つの魂に語りかけるように、祝福の光に満ちた剣を、影の少女の胸に、そっと押し当てた。
それは、貫くためではない。
その魂の最も深い、凍てついた場所へ、俺たちの想いを届けるために。

「お前が背負ってきた哀しみも、憎しみも、孤独も、全部俺たちが受け止める。だから、もう自分を責めるな。お前は、悪なんかじゃない」

温かい光が、奔流となって、彼女の影の身体を、内側から満たしていく。
千年の間、彼女の心を縛り付けてきた孤独という名の氷が、ゆっくりと、しかし確実に、溶けていくのが分かった。

影のように黒かった彼女の身体が、徐々に光を取り戻していく。
それは、まるで夜明けの空が白んでいくかのような、荘厳で、美しい光景だった。

俺は、彼女の耳元で、そっと囁いた。

「おかえり。……もう一人の、リアナ」

その言葉が、最後の引き金だった。
彼女の瞳から、黒い涙ではない、透明な、美しい一筋の涙が、静かにこぼれ落ちた。
それは、彼女が流した、千年間で初めての、救いの涙だった。
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