侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。

文字の大きさ
49 / 214
第五章 冒険編 〜ハイエルフとの出会い

決断と祝福の精霊

しおりを挟む
 森の奥深く、瘴気の中心部にもっとも近いとされる「禁域」。その結界の前に、イッセイたちはついにたどり着いた。



 黒くねじ曲がった根が地表を這い、毒々しい紫煙が静かに立ち上る。空気そのものがどこか淀んでおり、息をするたびに体力が削られていくような圧迫感があった。



「ここが……魔樹の瘴気の根源か」

 イッセイが剣に手をかけながら、慎重に周囲を見渡す。



「空気の密度が変わってる……まるで、この場所そのものが異界に近いような気配ですの」

 クラリスが眉をひそめ、護衛のルーナがそれを支えるように立つ。



「精霊たちが……泣いている。ここにいるだけで、心が締めつけられるようだわ」

 シャルロッテが胸元に手を当て、精霊との交信に集中する。



「けど、まだ完全には堕ちてない。希望は……残ってる」

 フィーナが前に出て、魔力を周囲へと広げながら言った。



 その瞬間、大地が大きくうねり、腐ったような臭気と共に巨大な魔物が姿を現した。



 木と獣が融合したような異形の存在で、体中から瘴気が噴き出している。

 無数の触手、赤黒く濁った瞳、口の代わりに裂けた顎から漏れ出す瘴気の波——。



「出やがった……ッ!」

 イッセイが剣を抜き、瞬時に構える。



「イッセイくん、援護するにゃん!」

 ミュリルが跳躍し、双剣を抜いて急接近。



「回復と支援は任せて、うさ!」

 フィーナが結界を展開し、味方全体を包むように魔力を流し込む。



「まさか、ここまで来るとは……けれど、引くつもりなどありません!」

 セリアが毅然とした態度で前線に躍り出た。



「私も行くよ!」

 リリィが弓を構え、矢に魔力を纏わせる。



 激戦が始まった。



 魔物の触手がうなりを上げ、瘴気が空間を歪めていく。

 イッセイの剣が光を切り裂き、ミュリルとルーナが左右から挟み撃ちし、セリアが鋭く踏み込む。

 フィーナが全体を支援し、リリィが遠距離から狙撃する中、シャルロッテだけが一歩後ろで震えていた。



「……私に……できるの? 本当に……」



 その声はかすかだったが、イッセイには届いた。



「シャルロッテ!」

 イッセイが強く叫ぶ。

「君の祈りを、精霊たちはきっと聞いてくれてる。信じるんだ、自分を」



 だがそのとき、魔物が怒り狂ったように瘴気を爆発させた。

 濃厚な闇が辺りを包み、視界を奪い、仲間たちをそれぞれ孤立させるように押し分ける。



「っく……この、瘴気の壁……!」

 ルーナが咳き込みながら剣を構えるも、視界はゼロ。



「イッセイくん! どこ……っ!」

 ミュリルの叫びも、濁った空気にかき消された。



 その時だった。濃霧のような瘴気の中から、無数の触手が飛び出し、セリアとフィーナを打ち倒す。



「がっ……!」



「セリア!? フィーナ!」



 イッセイが声を上げた次の瞬間、瘴気が襲いかかり、イッセイの体も地面に叩きつけられる。



「……くっそ……負けられない……」

 膝をつきながら、それでも剣を手放さない。



 だが、誰の目にも状況は絶望的だった。



「もう、ダメ……」

 シャルロッテが震える声で呟いたその時——。



 森の風が大きく渦を巻き、空間がひときわ輝いた。



 柔らかな光が降り注ぎ、そこに現れたのは、精霊《シェイル=アルファリア》。銀白の髪をなびかせ、気品に満ちた人型の姿をとる。



『森の娘よ。そなたの声、確かに届いている。我が名はシェイル=アルファリア。風と清浄の祝福を司るもの』



「シェイル……アルファリア……?」

 シャルロッテは光の中で手を伸ばし、涙を流しながら微笑んだ。



『そなたの勇気に応えよう。我が祝福を、この地に。そして、そなたに』



 精霊の力が彼女の身に宿る。

 まばゆい風の光が舞い、シャルロッテの身体を包み込む。



「……これが、精霊の祝福……あたたかい……」



 そして彼女は静かに瞳を開き、輝く風を纏って前へ進み出る。



「イッセイさん、今です!」



「ああっ、行くぞ!」



 イッセイが前に踏み込み、全員の動きが一つに合わさる。



 ルーナとセリアが魔物の動きを封じ、ミュリルが脚を切り裂き、リリィの魔法矢が急所を射抜く。

 シャルロッテは精霊の加護で全員を支えながら、風の刃を放つ。



「——いけえぇっ!!」



 イッセイの剣が光を放ち、魔物の心核を貫いた。



 魔物が絶叫をあげ、瘴気が晴れ渡っていく。

 風が吹き抜け、草木が震え、小鳥のさえずりが森へ戻ってきた。



「終わった……んだね」



 シャルロッテがその場に膝をつく。



 イッセイがそっと彼女に手を差し伸べた。



「君のおかげだ。君の力がなければ、この森はもう……」



「私じゃありません……精霊たちが、皆さんが……でも……私も、少しは役に立てたなら」



 彼女の瞳は、澄み切った空を見上げていた。



 そして、風が二人の頬を優しく撫でた。



 森は、静かに呼吸を取り戻していた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!! スティールスキル。 皆さん、どんなイメージを持ってますか? 使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。 でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。 スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。 楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。 それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。 2025/12/7 一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

処理中です...