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第七章 王都の休日
サーシャ編「武の道と故郷への想い」
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王都の朝靄に包まれた一角、重厚な石造りの会議場では、各地から集まった地方領主たちが集まり、緊張感の漂う空気が流れていた。
「……それで、ヒノモトへの支援を、ですか?」
初老の男爵が疑念を含んだ声を上げる。彼の隣に座る若い侯爵は、腕を組みながらサーシャを観察していた。
「国が乱れたのは、瘴気によるものと……我々に、どう証明なさるおつもりか?」
重い視線を背中に浴びながらも、サーシャは一歩、堂々と壇上に進み出た。その腰には、凛と輝く和剣・「朱霜」を携えている。
「証明など、いたしませぬ。これは、願いではなく――誓いにございます」
静かに、だが確固たる意志を込めた声音に、会場が静まり返る。
「我がヒノモトは、瘴気と闇に侵されました。民は傷つき、土地は汚され、武士たちは散っていきました」
彼女の瞳には、一片の迷いもない。
「しかし、それでもなお。命を捨ててでも守る価値があると、私は信じております。我が故郷を。……あの桜咲く丘を、子らの笑顔を」
侯爵が口角をわずかに上げた。「……貴女は、名誉ではなく、義を語るのですね」
サーシャは深く一礼した。
「武とは、振るうことにあらず。守る者を思い、我を律する心なれば。ヒノモトは、その誓いを掲げ、今ここに再生の道を歩み始めております。どうか、その道を見届けていただきたく」
一瞬の沈黙ののち、老齢の伯爵が杖を鳴らした。
「よろしい。これほどの覚悟を持つ者に、我らが背を向ける道理はない」
徐々に、会場内に拍手が広がり――会談は成功裏に終わった。
──
その日の午後、サーシャは王都郊外の小高い丘に立っていた。そこには、小さな石碑が並んでいる。
「皆……聞こえておるか」
風が静かに吹く中、彼女はひとつの墓の前で膝を折った。墓標には、かつて彼女と共に闘った剣士――幼馴染の名が刻まれている。
「……わしは、また剣を取ってしもうた。されど今の剣は、己が正義のために振るうものに非ず」
彼女は、剣をそっと膝に置き、両手を合わせる。
「民の笑顔を守るため、ヒノモトの未来を切り開くため。この剣は……おぬしらと共にある」
静かに、目を閉じる。その頬を、一筋の涙が伝った。
──
日が暮れた王都の屋敷。サーシャは訓練場で素振りを続けていた。額には汗が滲んでいるが、その動きに迷いはない。
「……サーシャ。まだ続けるのか?」
イッセイが声をかけると、彼女は振り向かずに答えた。
「はい。まだ、振り足りませぬゆえ」
「さっきの会談の後だぞ。少しは休んでも――」
「――拙者が休んでよいのは、ヒノモトが本当に笑える日が来た時でござる」
イッセイは微笑みを浮かべ、そっと腰を下ろした。
「じゃあ、俺も付き合うよ」
「えっ」
「刀の扱いはお手のものだ。少し、見せてみろよ」
サーシャはわずかに頬を赤らめつつ、すぐに構え直した。
「では……参る!」
木刀がぶつかる音が、夜空に小気味よく響く。
訓練を終えた後、夜空を見上げながら、彼女はそっと呟いた。
「イッセイ殿……感謝しております。皆が見捨てかけた地を、共に歩んでくださり……」
「俺は、君の生き様に惚れたんだ。だからついていくだけさ」
「……拙者の心が、少しだけ、軽うなったでござる」
祭の熱気が冷めたあとも、彼女は決して忘れない。
武とは、誰かを切るためにあるのではない。
守るべきもののために、己を律する――それが、真の剣士の道。
サーシャは静かに、再びその剣を握り直した。
明日もまた、新たな覚悟を抱いて。
「……それで、ヒノモトへの支援を、ですか?」
初老の男爵が疑念を含んだ声を上げる。彼の隣に座る若い侯爵は、腕を組みながらサーシャを観察していた。
「国が乱れたのは、瘴気によるものと……我々に、どう証明なさるおつもりか?」
重い視線を背中に浴びながらも、サーシャは一歩、堂々と壇上に進み出た。その腰には、凛と輝く和剣・「朱霜」を携えている。
「証明など、いたしませぬ。これは、願いではなく――誓いにございます」
静かに、だが確固たる意志を込めた声音に、会場が静まり返る。
「我がヒノモトは、瘴気と闇に侵されました。民は傷つき、土地は汚され、武士たちは散っていきました」
彼女の瞳には、一片の迷いもない。
「しかし、それでもなお。命を捨ててでも守る価値があると、私は信じております。我が故郷を。……あの桜咲く丘を、子らの笑顔を」
侯爵が口角をわずかに上げた。「……貴女は、名誉ではなく、義を語るのですね」
サーシャは深く一礼した。
「武とは、振るうことにあらず。守る者を思い、我を律する心なれば。ヒノモトは、その誓いを掲げ、今ここに再生の道を歩み始めております。どうか、その道を見届けていただきたく」
一瞬の沈黙ののち、老齢の伯爵が杖を鳴らした。
「よろしい。これほどの覚悟を持つ者に、我らが背を向ける道理はない」
徐々に、会場内に拍手が広がり――会談は成功裏に終わった。
──
その日の午後、サーシャは王都郊外の小高い丘に立っていた。そこには、小さな石碑が並んでいる。
「皆……聞こえておるか」
風が静かに吹く中、彼女はひとつの墓の前で膝を折った。墓標には、かつて彼女と共に闘った剣士――幼馴染の名が刻まれている。
「……わしは、また剣を取ってしもうた。されど今の剣は、己が正義のために振るうものに非ず」
彼女は、剣をそっと膝に置き、両手を合わせる。
「民の笑顔を守るため、ヒノモトの未来を切り開くため。この剣は……おぬしらと共にある」
静かに、目を閉じる。その頬を、一筋の涙が伝った。
──
日が暮れた王都の屋敷。サーシャは訓練場で素振りを続けていた。額には汗が滲んでいるが、その動きに迷いはない。
「……サーシャ。まだ続けるのか?」
イッセイが声をかけると、彼女は振り向かずに答えた。
「はい。まだ、振り足りませぬゆえ」
「さっきの会談の後だぞ。少しは休んでも――」
「――拙者が休んでよいのは、ヒノモトが本当に笑える日が来た時でござる」
イッセイは微笑みを浮かべ、そっと腰を下ろした。
「じゃあ、俺も付き合うよ」
「えっ」
「刀の扱いはお手のものだ。少し、見せてみろよ」
サーシャはわずかに頬を赤らめつつ、すぐに構え直した。
「では……参る!」
木刀がぶつかる音が、夜空に小気味よく響く。
訓練を終えた後、夜空を見上げながら、彼女はそっと呟いた。
「イッセイ殿……感謝しております。皆が見捨てかけた地を、共に歩んでくださり……」
「俺は、君の生き様に惚れたんだ。だからついていくだけさ」
「……拙者の心が、少しだけ、軽うなったでござる」
祭の熱気が冷めたあとも、彼女は決して忘れない。
武とは、誰かを切るためにあるのではない。
守るべきもののために、己を律する――それが、真の剣士の道。
サーシャは静かに、再びその剣を握り直した。
明日もまた、新たな覚悟を抱いて。
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