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第七章 王都の休日
ミュリル編「猫耳の小さな祈り」
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王都の片隅、日差しの差し込む白亜の教会。
その敷地の一角、小さな庭園には花が咲き乱れ、子どもたちの笑い声が響いていた。
「こら、あんまり走ると転ぶにゃんよ~!」
ミュリルが両手を広げて追いかけると、子どもたちはきゃっきゃと声をあげて逃げる。
「ミュリルおねーちゃん、にゃんって変な喋り方ー!」
「変じゃないにゃん! 可愛いにゃんよ!」
笑い声と追いかけっこ。それは、かつてミュリルが知らなかった、温かな世界だった。
──
数刻前。
「本日からの奉仕活動、よろしくお願いいたします」
神父が頭を下げると、ミュリルはぴしっと姿勢を正した。
「拙者……じゃなかった、ミュリル、心を込めて頑張るにゃん♪」
治癒魔法の心得を持つミュリルは、イッセイの旅に同行する以前、時折こうして教会で奉仕活動を行っていた。
特に子どもたちの世話は得意で、動物のような耳としっぽに彼らはすぐ懐いてしまう。
「ミュリルお姉ちゃん、これ描いたの! 見て!」
「にゃあっ、じょうずにゃんね! お魚さんが泳いでるにゃ!」
絵を褒め、魔法で膝擦り傷を癒し、花壇に水をやり、お昼には一緒にパンを分け合う。
だがその一方、ミュリルの心の奥底には、ほんの少しだけ、過去の影がよぎっていた。
(……拙者も、かつてはこうして誰かに甘えたかったにゃ……)
孤児として路地裏で育ったミュリル。
寒さと飢えと恐れの中で、誰かを頼ることを知らずに育った。
今でも時折、夢に見ることがある――優しく撫でてくれた、名も知らぬ修道女の手のぬくもり。
だからこそ、いま自分がその手になりたいと思う。
「にゃんでもないことでも、そばにいるだけで、元気になれるにゃん……♪」
ミュリルはそう呟いて、小さな子どもの髪を撫でた。
──
夕方。
奉仕活動の終わり、教会の片隅でミュリルは祈っていた。
手を組み、目を閉じて、静かに願う。
「この子たちが、明日も笑っていられますように。拙者たちの旅が、誰かを救うものでありますように」
その姿を、遠くから見守っていたのはイッセイとクラリスだった。
「……ミュリルって、不思議な子よね」
クラリスがぽつりと言う。
「うん。あの耳としっぽだけじゃなくて……すごく繊細で、優しい」
イッセイの言葉に、クラリスはうなずいた。
「彼女の“にゃん語”って、ただの癖じゃないのかも。本当は、誰かに優しくしたい、っていう気持ちの言葉なのよ」
ミュリルが子どもたちに囲まれて、最後の絵本を読み聞かせる。
「――そして、勇気を出した猫ちゃんは、大好きな森を守ったのにゃ♪」
拍手と笑顔。
その中心に、ミュリルの猫耳がふわふわと揺れていた。
イッセイはふと、空を見上げた。
雲間から差し込む夕陽が、優しい色に染まっていた。
「彼女がいるだけで、俺たちも元気になるんだ。……本当に、癒しの力ってすごいな」
小さな手、小さな笑顔、小さな勇気。
それは誰かを救う、大きな光になる。
ミュリルはその日、改めて気づいたのだった。
自分が“いる”ことの意味を。
そして、その優しさが仲間たちを包んでいることを。
その敷地の一角、小さな庭園には花が咲き乱れ、子どもたちの笑い声が響いていた。
「こら、あんまり走ると転ぶにゃんよ~!」
ミュリルが両手を広げて追いかけると、子どもたちはきゃっきゃと声をあげて逃げる。
「ミュリルおねーちゃん、にゃんって変な喋り方ー!」
「変じゃないにゃん! 可愛いにゃんよ!」
笑い声と追いかけっこ。それは、かつてミュリルが知らなかった、温かな世界だった。
──
数刻前。
「本日からの奉仕活動、よろしくお願いいたします」
神父が頭を下げると、ミュリルはぴしっと姿勢を正した。
「拙者……じゃなかった、ミュリル、心を込めて頑張るにゃん♪」
治癒魔法の心得を持つミュリルは、イッセイの旅に同行する以前、時折こうして教会で奉仕活動を行っていた。
特に子どもたちの世話は得意で、動物のような耳としっぽに彼らはすぐ懐いてしまう。
「ミュリルお姉ちゃん、これ描いたの! 見て!」
「にゃあっ、じょうずにゃんね! お魚さんが泳いでるにゃ!」
絵を褒め、魔法で膝擦り傷を癒し、花壇に水をやり、お昼には一緒にパンを分け合う。
だがその一方、ミュリルの心の奥底には、ほんの少しだけ、過去の影がよぎっていた。
(……拙者も、かつてはこうして誰かに甘えたかったにゃ……)
孤児として路地裏で育ったミュリル。
寒さと飢えと恐れの中で、誰かを頼ることを知らずに育った。
今でも時折、夢に見ることがある――優しく撫でてくれた、名も知らぬ修道女の手のぬくもり。
だからこそ、いま自分がその手になりたいと思う。
「にゃんでもないことでも、そばにいるだけで、元気になれるにゃん……♪」
ミュリルはそう呟いて、小さな子どもの髪を撫でた。
──
夕方。
奉仕活動の終わり、教会の片隅でミュリルは祈っていた。
手を組み、目を閉じて、静かに願う。
「この子たちが、明日も笑っていられますように。拙者たちの旅が、誰かを救うものでありますように」
その姿を、遠くから見守っていたのはイッセイとクラリスだった。
「……ミュリルって、不思議な子よね」
クラリスがぽつりと言う。
「うん。あの耳としっぽだけじゃなくて……すごく繊細で、優しい」
イッセイの言葉に、クラリスはうなずいた。
「彼女の“にゃん語”って、ただの癖じゃないのかも。本当は、誰かに優しくしたい、っていう気持ちの言葉なのよ」
ミュリルが子どもたちに囲まれて、最後の絵本を読み聞かせる。
「――そして、勇気を出した猫ちゃんは、大好きな森を守ったのにゃ♪」
拍手と笑顔。
その中心に、ミュリルの猫耳がふわふわと揺れていた。
イッセイはふと、空を見上げた。
雲間から差し込む夕陽が、優しい色に染まっていた。
「彼女がいるだけで、俺たちも元気になるんだ。……本当に、癒しの力ってすごいな」
小さな手、小さな笑顔、小さな勇気。
それは誰かを救う、大きな光になる。
ミュリルはその日、改めて気づいたのだった。
自分が“いる”ことの意味を。
そして、その優しさが仲間たちを包んでいることを。
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