侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。

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第九章 浮遊諸島の聖女と時の遺跡

時の神託と消えた記憶

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 時の遺跡の最奥部――そこは、空間そのものが脈動する奇妙な場所だった。石造りの階段を一段ずつ降りるたびに、空気が震え、耳に届く鼓動のような振動が強まっていく。



「……ここが“記憶の核”」

 フィーナの声が震えていた。それは恐怖ではなく、興奮と畏れが混じった、知識欲の根源から湧く感情だった。



「ここで、全ての時間が交わるのね。過去も未来も、失われた真実も……」

 クラリスが手袋を外し、指先で壁に刻まれた螺旋模様をなぞる。魔力がわずかに反応し、模様が淡い光を帯び始めた。



「気をつけて。これは、ただの模様じゃないわ。触れ方ひとつで、記憶の迷宮に飲まれる可能性もある」

 セリアが声を張り、全員に注意を促す。



 イッセイは壁の中央にある、ひときわ大きな魔法陣に目を向けた。



「ここが……“神託の間”か。古代の聖女が、最後に辿り着いた場所」



「だけど、なんでこんなにも荒れてるの?」

 ルーナが不安げに辺りを見渡す。確かに、神聖な場にしては壁にはひび割れが走り、足元の石畳も崩れている。



「……“何か”が、暴れたあとだね。これは、ただの経年劣化じゃないにゃ」

 ミュリルが、崩れた石を拾い上げ、淡い光を放つ瞳で見つめる。



「瘴気の痕跡もあるウサ……でも、これは混じってる。瘴気だけじゃない、もっと異質な……」

 フィーナが眉を寄せて呟く。



「“魔王”の力、かもしれない」

 イッセイのその一言に、全員が一斉に息を呑んだ。



「ここが……聖女リアナが“封印”された場所。だけど同時に、“何か”が目覚めかけた場所でもある」

 シャルロッテの声が重く響いた。



 その時、空間が微かに震え、遺跡の奥――神託の魔法陣が淡く輝き始めた。



「反応が……始まってる」

 クラリスが身を翻し、全員を振り返る。



「皆、準備を! これから何が出てくるか、わからないわ!」



 魔法陣の光は徐々に強まり、中心からゆっくりと、何かが“現れ”ようとしていた。



「これは……映像?」

 ルーナが呟いたと同時に、神託の光の中に浮かび上がったのは、かつての聖女リアナと思しき少女の姿だった。



「これは記憶映像にゃ……でも、こんなに鮮明に……」

 ミュリルの目に、うっすらと涙が浮かぶ。



 記憶の少女――リアナは、微笑みながら何かを語りかけていた。しかし、言葉は音にならず、ただ唇が動くだけだった。



「声が……聞こえない……っ!」

 セリアが前へ出て、必死に言葉を拾おうとする。



「“思念”の波長がズレてるのかも。わたし、合わせてみる……!」

 シャルロッテが精霊語の術式を展開し、周囲の精霊たちに呼びかける。



 すると――一瞬、全ての空間が静止した。



 そして、再びリアナの姿が現れた時、今度はその声が響いた。



『……私は、封じる。自らの存在ごと、あの“災厄”を。けれど、未来に備えて、記憶の断片だけは……託す。』



「……やっぱり……リアナは、自分ごと“魔王”を封じたのね」

 クラリスが拳を握り締めた。



『いつか、誰かがこの地にたどり着くと信じて……あなたに、この想いを託す……』



 リアナの姿は、光の粒となって空中に舞い散った。



 だがその直後、空間が不気味な音を立て、黒い影が魔法陣の奥からにじみ出てきた。



「来る……ッ! “封印の残滓”だわ!」



「全員、構えろ! ここが――正念場だ!」



 暗黒の瘴気が渦巻く中、黒い腕のようなものが次々と空間を裂き、神託の間へと侵攻を始めていた。



「来るぞ……! 後退はない、ここで押し返す!」

 イッセイが剣を抜き、前に出る。その眼は迷いなく、背後の仲間を守る決意に満ちていた。



「にゃんこパンチだけじゃ足りなさそうにゃ……でも、わたしもやるにゃ!」

 ミュリルが空中で回転しながら、光の結界を張る。



「防御は任せて、ミュリル。フィーナ、バフ展開を頼む」

「了解ウサ! 魔力増幅、神経加速、全身強化……これで最大出力ウサ!」



 フィーナの詠唱が終わると同時に、イッセイたちの体が光に包まれ、力がみなぎっていく。

 次の瞬間、闇の腕の一本が床を割りながら突進してきた。



「させるか! ――《断空閃》!」

 イッセイの斬撃が空間ごと切り裂き、迫る腕を真っ二つにした。だが、切り裂いた闇は即座に再生し、さらに数本の腕が空中から出現する。



「きりがない……これは、“本体”を叩かないと終わらない!」

 セリアが跳躍し、一本の腕を斬り払うも、すぐに背後からもう一本が襲いかかる。



「後ろ!」

 クラリスの氷の矢が飛び、セリアを襲う影を砕いた。



「助かった……! クラリス、ナイス!」

「当然よ。私たちは、皆で勝ち抜くって決めたんだから」



 その時、シャルロッテが目を見開いた。



「……奥に、何かいる。黒い核……おそらく、それが“封印の残滓”の中枢!」



「ルーナ、リリィ! あの中心を狙えるか?」

 イッセイが振り向きながら叫ぶと、二人は同時に頷いた。



「はい、イッセイさま! 光精霊よ、矢となれ!」

「爆裂魔法、三重詠唱――行くよっ!」



 二人の連携魔法が炸裂し、中央の瘴気核を直撃する――かに見えたが、その瞬間、闇の瘴気が膨れ上がり、魔法を飲み込んだ。



「くっ……効いてない!?」

「いや、核が――変化してるウサ! あれは……“反応”してるウサ!」



 次の瞬間、空間そのものがきしみ、核の中心から“人影”が浮かび上がった。それは、闇に包まれたローブを纏い、仮面をつけた少女の姿。



「誰……?」

 ルーナが震える声で問いかける。



 その声に応じるかのように、仮面の少女が口を開いた。



「……わたしは“記憶の番人”。聖女リアナの“忘却された半身”」



「なに……だと……?」



「リアナさまは、自らを封じるために、その“想い”と“怒り”を分けた……。わたしは、その怒りの残滓」



 彼女の足元から、瘴気が再び吹き出し、天井を貫く。



「この世界は、まだ変わっていない。だから……滅びてもいい――と、そう“彼女”は、思っていた」



「違うッ! リアナは、未来に託したはずだ! それを、お前が否定する権利はない!」

 イッセイが叫ぶ。



 その言葉に、仮面の少女の肩がわずかに揺れた。



「ならば――証明してみせて。“怒り”すら超える、“希望”の力を」



 闇の仮面が割れ、その下から現れたのは――リアナと瓜二つの少女の顔だった。



「これより、最終試練を始める」



 時の神託が、再び揺れ始める中、試練の“記憶戦”が幕を開ける――。
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