『転生悪役令嬢、スライムで世界を変える』 ~追放先で見つけたヌルヌルが産業革命を巻き起こしました~

のびすけ。

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第一章:スライム工房、爆誕!

洞窟ライフとスライム寝袋と、時々、嫉妬の炎

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「さあ、着きました。ここが私の棲み処です。どうぞ、ご自由におくつろぎください」

スリィの知的で落ち着いた声に案内され、私が目にしたもの――それは、想像の斜め上をいくほどに、見事なまでの「洞窟」だった。
しっとりと湿った岩肌、ひんやりと肌を撫でる空気、奥から聞こえる微かな水音。そして、空間全体に満ちる清浄な魔力の匂い。スライムにとっては最高級のスイートルームなのかもしれないけれど、人間にとっては……。

(貴族令嬢が住む場所じゃない! 断じて!!)

羽根布団ふかふかの天蓋付きベッドで眠っていた数日前が、もはや前世の記憶のように遠い。私はわさわさと生い茂る光る苔を避け、持っていたローブを地面に敷いて、どさりと腰を下ろした。

「……スリィ、あなた、本当にここで寝てるの?」
『はい、快適ですよ。湿度は常に80%を維持し、温度も一定。魔力の流れも安定しており、肌の潤いを保つには最適の環境です』
「スライム基準の最適解ね……。人間にはちょっと、いえ、かなり厳しいかな!」

私がわざとらしく星を飛ばしながら言うと、スリィはぷるんと身体を揺らし、洞窟の隅に生えていたキノコを器用に粘体で摘み取って差し出してきた。

『お腹が空いているのでは? こちらの“ヒカリダケ”は食用です。生でもいけますが、炙ると香ばしい』
「お願いだから毒々しい色だけはしてないでちょうだい……って、わ、本当に光ってるのね、これ」

その日から、私とスリィの奇妙なサバイバル生活が始まった。
昼間は森で木の実やキノコを採集し、夜は洞窟で火を熾して暖を取る。スリィは驚くほど博識で、食べられる植物や安全な水場を的確に教えてくれた。まるで高性能なサバイバルガイドだ。

ただ、問題があった。夜だ。
辺境の森の夜は、想像以上に冷え込む。昼間の暖かさが嘘のように、地面からじわじわと冷気が這い上がってきて、骨の芯まで凍えさせる。

「さ、寒い……! ローブ一枚じゃ、いずれ凍死するわ……!」

火を大きくしても、背中側から容赦なく冷気が襲ってくる。歯の根が合わずにガチガチと震える私を見かねて、スリィが静かに提案してきた。

『ティアナ様。私の粘体には、高い保温効果があります。……宜しければ、貴女を覆って差し上げましょうか?』
「え? それって……寝袋?」
『物理的にはそうなります。言わば“スライム寝袋”ですね』
「そのまんまじゃない! しかも素材があなた自身って、色々アウトな気がするんだけど!?」

しかし、このままでは本当に体調を崩してしまう。背に腹は代えられない。私は羞恥心と生存本能を天秤にかけ、最終的に後者を選んだ。

「……じゃあ、お願いしようかしら。ただし! 変なことしたら、叩き潰して乾燥させてやるから!」
『光栄です』

スリィはゆっくりと私の背後から近づくと、その身体を薄く、広く引き伸ばしていく。やがて、ひんやりとしたゼリー状の膜が、まるで第二の皮膚のように私の身体を優しく包み込んだ。

(うわっ……なに、この感覚……!)

最初はゼリーの冷たさに驚いたが、すぐに彼の体温がじんわりと伝わってきた。それはまるで、ぬるめのお風呂に浸かっているような、心地よい温かさ。ぷるぷるとした弾力が身体のラインにぴったりとフィットし、外の冷気を完全にシャットアウトしてくれる。
何より、この絶対的な安心感はなんだろう。母親の胎内にでもいるかのような、守られている感覚。

「……あったかい……。むしろ、快適……」

思わず本音が漏れる。これは、ただの暖房器具ではない。究極の癒しグッズだ。

「……やばい、これ、癖になりそう……」
『ええ。ぜひ、癖になってください』

その瞬間、スリィの声のトーンが、ほんのわずかに低くなった気がした。まるで「他の何者にも代えがたい存在になりたい」とでも言うような、仄暗い独占欲の響き。

(え、何この圧!? 今、ちょっとゾクッとしなかった!?)

気のせいかしら。でも、彼のぷるぷるに包まれていると、思考までとろけてしまいそうだ。私は心地よい眠気に抗えず、あっという間に意識を手放した。

◆ ◆ ◆

数日後。
スライム寝袋のおかげで凍死の危機は去ったものの、新たな問題が浮上した。

「暇……! 猛烈に暇だわ……!!」

そうなのだ。やることがない。
魔法の才能は凡人レベルだし、畑を耕す道具もない。スリィと話すのは楽しいけれど、四六時中というわけにもいかない。

(前世では、仕事か趣味に没頭していたから、こんなに時間を持て余したことなかったのに……。ああ、何か作りたい! 便利なものを! 私の生活を豊かにする何かを!)

その瞬間、私の頭に稲妻が走った。
そうだ。作ればいいじゃない。

(前世の私は、商社で商品開発を担当していた! ゼロからコンセプトを練り、試作品を作り、市場に送り出すプロ! そして趣味はDIYとガジェットいじり! この世界には“魔道具”という便利なものがあるじゃない!)

前世の知識と、この世界の魔法知識。そして、最高の素材。
そう、私の隣には、最高のぷるぷる素材(スリィ)がいる!

「決めたわ! 快適なスローライフを送るための、魔道具開発を始める!」

私が高らかに宣言すると、スリィが不思議そうに身体を揺らした。

『魔道具、ですか?』
「そうよ! まずは第一弾! 夜の寒さを乗り切るための、携帯用暖房器具……名付けて、“魔導湯たんぽ”よ!」
『素材はどうします? まさか、また私を寝袋に?』
「違うわよ! あなたの一部を、少しだけ分けてもらうの!」
『……使い方によっては変態ですね』
「今さら!? 私があなたに初めて会った時の奇行を忘れたの!?」

私はスリィに頼み込み、彼の身体の一部である粘体を分けてもらった。それは彼の意志で分離させることができ、本体から離れても一定時間は保温性と弾力を保つらしい。

(このぷるぷる素材を、魔力を込めやすい布で包んで……熱を効率よく保持するための簡単な魔法陣を刺繍すれば……)

前世で培った商品企画のノウハウが、頭の中で高速回転する。ターゲットは「寒さに凍える私」。提供価値は「手軽で持続的な温かさ」。差別化要素は「最高のぷにぷに触感」。

試行錯誤の末、ついに試作品第一号が完成した。
手のひらサイズの、ぷにぷにした布袋。魔力を込めると、じんわりと温かくなる。

「できた……! “スライムヒートパック”よ!」

抱きしめると、ほんのり温かい。そして、ちょっとヌルヌルする。

「……最高じゃないの、これ」

失ったものは確かに多い。公爵令嬢の地位も、婚約者も、贅沢な暮らしも。
でも、今、私の手の中には、新しく生み出したものがある。スリィと一緒に、自分の力で作り上げた、ささやかな幸せの形。

「ねぇ、スリィ。私、案外、こっちの人生のほうが楽しいかもしれない」

私の呟きに、スリィは静かに答えた。

『私は最初から、そう思っていましたよ。ティアナ様が笑っているのを見るのは、悪くありませんから』

その言葉が、ヒートパックよりもずっと、私の心を温めてくれた。
こうして、追放された悪役令嬢の洞窟DIYライフは、確かな一歩を踏み出した。
──後に世界を揺るがす「スライム産業革命」の、あまりにもささやかで、あまりにもぷにぷにな幕開けとも知らずに!
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