『転生悪役令嬢、スライムで世界を変える』 ~追放先で見つけたヌルヌルが産業革命を巻き起こしました~

のびすけ。

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第四部 ぷに神話と異世界の夜明け

湯けむり騎士団と“温もり”の革命

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異世界に召喚された私が、この“感じない”世界を救うための第一歩として打ち出した「王宮ぷにクッション配布計画」。
それは、予想通り、鉄壁の抵抗に遭った。

「軟弱!」
「堕落の始まりだ!」
「騎士の尻に、そのような柔らかなものを敷くなど、言語道断!」

王宮の騎士団も、貴族たちも、ぷにクッションを“魂を腐らせる毒”であるかのように忌み嫌い、触れようとすらしなかった。
彼らは、硬い椅子に座り、凝り固まった肩と心を抱えながら、それが“秩序”であり“強さ”であると信じ込んでいたのだ。

「……ダメだわ、スリィ。ここの人たち、凝り固まりすぎている。表面的なアプローチでは、心の氷は溶かせない」
『ええ。より直接的かつ、抗いがたい、“体験型”の癒しが必要です。推奨される作戦名は、【全身ぷに化計画】です』
「なんだか物騒な作戦名ね!? もう少し穏便な方法はないの!?」

その夜、私は騎士団の宿舎を視察し、確信した。
彼らの鎧は常に冷たく、身体は疲労で強張り、表情は凍りついている。彼らに必要なのは、理屈じゃない。問答無用で、身体の芯から温め、強制的にリラックスさせる、荒療治だ。
そう、必要なのは――**「温泉」**である!



「温泉ですって!?」
私の突拍子もない提案に、巫女騎士セラフィーネは、ガラス玉のような瞳を大きく見開いた。
「ですが、ティアナ様! この聖都ラクトルの地下に、そのような熱源は……」

「ないなら、掘ればいいのよ!」
私は、懐からスリィを取り出し、彼を通じて、かろうじて繋がっている元の世界の仲間たちに、緊急通信を送った。
『――というわけなの、ルフ博士! この世界の地下魔素脈を解析して、安全に温泉を掘り当てるための、設計図を送ってちょうだい!』

通信の向こうで、ルフ博士が「面白そうだねぇ!」と叫ぶ声が聞こえる。
数時間後、次元の裂け目から、膨大なデータが転送されてきた。それは、この世界の地質構造を完璧に解析し、安全な掘削ポイントと、魔素を無害な熱水に変換するための、超高度な触媒の設計データだった。

「よし、これならいけるわ! セラフィーネ、騎士団の中から、一番腕の立つ“穴掘り担当”を集めてちょうだい!」
「は、はい! ただちに!」

こうして、異世界の騎士団と、異次元の科学技術、そしてスライムの万能性が融合した、前代未聞の「ぷに温泉建設プロジェクト」が、極秘裏に始動したのである。

建設は、困難を極めた。
硬い岩盤を掘り進めると、封印されていた魔素ガスが噴き出し、スリィが巨大なフィルターとなってそれを浄化。熱水の温度が上がりすぎれば、私が粘体を投げ込んで適温に調整する。
そして三日後。
聖都ラクトルの外れに、巨大な湯気を上げる、総木造の美しい湯殿「聖湯殿ぷにの湯」が、奇跡のように完成した。



開湯の日。
私は、特注の浴衣に身を包み、湯殿の前に仁王立ちしていた。
招待された騎士たちは、湯気の向こうに見える、未知の“お湯”を前に、遠巻きに、そして訝しげに様子を窺っている。

「なんだ、あれは……。煮えたぎる鍋のようだが……」
「入ったら、火傷するのではないか……?」

そんな彼らの前に、私は一歩進み出て、高らかに口上を述べた。
「騎士の皆様! これより、“心解封の湯”を開宴いたします! 硬い鎧も、頑なな心も、今日だけはここに脱ぎ捨て、ぷにの温もりと語らってくださいませ!」

それでも、誰も動こうとしない。
その沈黙を破ったのは、騎士団長であり、この世界で最も“硬派”な男、グランだった。彼は、覚悟を決めたように剣を置くと、無言で湯の中へと足を踏み入れた。

「……ぐ……ッ!」

生まれて初めて体験する“42℃”という温もりに、彼の身体が強張る。
だが、次の瞬間。

「……ふ、ふわぁ……」

彼の口から、驚くほど気の抜けた声が漏れた。
湯のとろみが、長年の戦闘で凝り固まった筋肉を、優しく、しかし確実に、芯から解きほぐしていく。
そこへ、湯の中で待機していたスリィが、そっと彼の背後に回り込み、マッサージ形態へと変形。凝り固まった肩と背中を、絶妙な力加減で揉みほぐし始めた。

「あッ、そこっ……! 背中の古傷が……溶けて……いく……!」

グラン団長が、恍惚の表情で湯の中に沈んでいく。
その光景を見て、他の騎士たちも、おそるおそる、一人、また一人と、湯の中へと入っていった。
やがて、湯殿の中は、屈強な騎士たちの「あ゛~」とか「う゛~」とかいう、この上なく気の抜けた声で満たされたのだった。



その頃、事件は起きていた。
湯殿の壁の向こう側、女湯では、乙女騎士団の面々が、キャーキャーと黄色い声を上げていた。
シャルロッテが異次元通信で送ってきた設計図には、悪戯心で「男女の湯を隔てる壁の一部を、マジックミラーならぬ“ぷに可視バリア”にする」という、とんでもない機能が盛り込まれていたのだ。

「見て! あちらの影、グラン団長ではないかしら!? なんて無防備な背中……! 眼福ですわ!」
「副長! それよりも、見てください! 湯に浸かった私たちの鎧が、ぷに成分でコーティングされて、つやつやに輝いています!」

公序良俗と戦うのは、どうやらどの世界でも私の宿命らしい。

だが、その時。
湯殿の外が、にわかに騒がしくなった。森の闇が裂け、魔王軍の先遣隊を名乗る、黒鎧の軍団が突撃してきたのだ。

「魔王ゼム様に仇なす、軟弱者どもめ! この“癒し”の根城ごと、叩き潰してくれる!」

隊長バロスが、そう叫びながら湯殿の回廊に踏み込んだ、その瞬間。
ずるんっ!
彼の足が、床に仕込んでおいた“ぷに転倒トラップ”に捕らえられ、盛大に宙を舞った。

「ば、馬鹿な! 床が……腕が溶けるように……!?」

バロスは、そのままの勢いで、露天風呂へと頭からダイブした。

ざぶーん!

湯の中から顔を出した彼に、私は湯桶を片手に、にっこりと微笑んだ。
「あら、ご来館ありがとうございます! お客様、“湯あみセット”はお持ちでして?」

「ゆ、油断するな! 我らは魔王陛下の、精鋭……!?」

バロスの言葉は、続かなかった。
スリィが、彼の頭に、ぽすん、と温かいタオルを乗せたからだ。
『どうぞ、お客様。温度は41.5℃。ごゆっくり、おくつろぎください』

あまりの心地よさに、バロスは抵抗する気力も失い、ぜぇぜぇと息をつきながら、湯に肩まで浸かった。

「……っ……なんだ……この……抗いがたい……無……念…………(とろけ顔)」

敵将、わずか10秒で、即・湯落ち。
彼の部下たちも、次々とぷにトラップにハマり、温泉の心地よさの前に、戦意を喪失していった。



深夜二時。
屋根の上で、私とセラフィーネは、湯気が星を揺らす光景を、並んで眺めていた。
眼下では、つい数時間前まで敵同士だった騎士と魔王兵が、同じ湯に浸かり、湯上がり粥をすすりながら、語らっている。

「……奇跡の、ようです。戦わずに、敵が……笑っている」
「奇跡じゃないわ。みんな、心のどこかでは、“触れ合いたい”って願っていた。ただ、その方法を知らずに、心を凍らせていただけ。湯は氷を溶かし、ぷには心を溶かす。――ただ、それだけのことよ」

セラフィーネは、そっと、自分の籠手を外した。そして、震える手で、私の手を握った。
「わたくしも……氷を、溶かしたい。……ティアナ様」

彼女の手は、まだ少し冷たかった。でも、確かな温もりが、そこにあった。
私たちが手を繋いだ瞬間、聖都ラクトル全体を覆っていた、冷たい“感情封印結界”が、ぱきん、と音を立てて砕け散った。
街に、温かい風が吹き、家々の窓に、柔らかな灯りが灯り始める。

翌朝。
私は、聖都の民衆の前で、新たな法の布告を宣言した。

「今日をもって、このラクトルの地に敷かれた“触れ合い禁止令”は、無効とします! 代わりに、新しい法を定めましょう! “抱きしめ法”第一条――『誰かが寒そうにしていたら、理由を問わず、ぷにっと抱きしめること』!」

割れんばかりの喝采が、温もりを取り戻した街に、響き渡った。
私たちの次なる目標は、ただ一つ。

「さあ、次は魔王城を――銀河一の、極楽温泉リゾートに改装するわよ!!」
私の号令に、騎士も、町民も、そして温泉で骨抜きになった魔王兵たちも、一体となって「おおーっ!」と雄叫びを上げたのだった。
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