『転生悪役令嬢、スライムで世界を変える』 ~追放先で見つけたヌルヌルが産業革命を巻き起こしました~

のびすけ。

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第四部 ぷに神話と異世界の夜明け

魔王城(スパリゾート)ほかほか攻略戦!

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聖都ラクトルに「抱きしめ法」という名の温もりを取り戻した私たち。次なる目標は、この異世界の諸悪の根源――魔王ゼムが居座る、黒鉄の魔王城。
だが、私たちの作戦会議は、およそ“攻略戦”と呼ぶには、あまりにも湯けむりに満ちていた。

「目標はただ一つ! “魔王を温泉に沈めて、心身ともに“ととのわせる”!」

私が王城の作戦司令室(元・玉座の間)で高らかに宣言すると、集った仲間たちが「おおーっ!」と雄叫びを上げた。
壁に広げられた魔王城の見取り図には、すでに赤ペンで「大浴場」「サウナ室」「岩盤浴ゾーン」などの書き込みがびっしりとされている。これは、戦争ではない。リゾート開発だ。

「まず、魔王城を囲む溶岩の堀は、ルフ博士の触媒で“ぷに美肌の湯”に置換します!」
「城門前の前衛部隊は、わたくしの特設アロマサウナテントで戦闘意欲を蒸発させますわ!」
「玉座の真下には、スリィ印の“足湯トラップ”を設置。魔王が玉座に座った瞬間、強制的に足を温め、思考能力を低下させます」
「そして、捕らえられているという伝説のドラゴンは……背中流し担当に任命しましょう!」

セラフィーネ率いる聖都騎士団は、剣や槍の代わりに、真新しいヒノキの湯桶とぷにタオルを手に、目を輝かせている。
かくして、歴史上最も平和で、最もお節介な攻略戦の火蓋が切って落とされた。



魔王領へと向かう道中、私たちの軍勢は異様な光景を呈していた。
巨大なリザードキャラバンが、ぷにぷにしたお湯をなみなみと湛えた巨大な木桶を背負い、“歩く温泉”として進軍していく。騎士たちは行軍の合間に、そのお湯で温タオルを作り、凝り固まった肩を癒している。

「ティアナ様、この“湯搬送キャラバン”……画期的です! これなら、どんな戦場でも兵士の士気を温かく保てます!」
「ええ、セラフィーネ。戦いの基本は、フロントローディングよ。突撃と同時に、まず相手に“癒し”を浴びせる。相手が気持ちよくなっている隙に、交渉を始めるの。覚えた?」
「は、はいっ!(これが異世界の戦術……!)」

魔王城が、黒い巨体を見せる。城を囲む真っ赤な溶岩の堀が、不気味な熱気を放っていた。

「ルフ博士、お願い!」
「任せな! いっけぇーい! ぷにクリスタル・超湯化触媒、投下ァ!」

ルフ博士が開発した触媒クリスタルが、放物線を描いて溶岩堀へと投げ込まれる。
次の瞬間、真っ赤なマグマが、まるで美しい化学反応のように、淡い琥珀色の“超高温ぷにスープ”へと転換した。

城壁の上で見張りをしていた魔王軍の兵士が、信じられないものを見た、という顔で叫ぶ。
「ば、馬鹿な!? 我が城の絶対防御、溶岩堀が……いい匂いのするお風呂になったぁぁ!?」

「まだ熱すぎるわ! スリィ、冷却!」
『お任かせを』

スリィの分裂体が、無数に堀へと飛び込み、熱を吸収。沸騰していたお湯は、見る見るうちに42℃の、入浴に最適な温度へと変わっていった。白い湯気が立ち上り、魔王城の周囲を、幻想的な霧で包み隠す。
その隙を突き、騎士団が“湯桶シールド”を構え、城内へと突入した。



城内では、魔王軍本隊が鉄壁のバリケードを築いて待ち構えていた。
だが、私たちはその目の前で、悠々と巨大なテントを設営し始めた。

「貴様ら、決戦の最中にキャンプか! ふざけるな!」

魔王軍の隊長が叫ぶ。だが、その声はすぐに驚愕に変わる。
テント内部から、灼熱の蒸気が吹き出し、あたり一帯が超高温・高湿度空間に変貌したのだ。

「ぷにローリュー!」

テントの中で、ロウリュ係のルフ博士が、アロマぷに水を焼けた石へと振りかける。
発生した蒸気爆風には、セリオ特製の“筋弛緩ハーブ”と“闘争心軟化フェロモン”がたっぷりと含まれていた。

「な、なんだ、このいい匂いは……。身体の力が……抜けて……」
「剣が……重い……。なんだか、すごく……眠……」

屈強な魔王兵たちが、次々と武器を取り落とし、その場で気持ちよさそうに眠り始める。
戦闘不能。ただし、全員が極上のリラックス顔。
ノエルが、手元の記録板に冷静に書き込んだ。
「敵前衛部隊、サウナにより無力化。被害、ゼロ。むしろ、全員の健康状態が向上した可能性あり」



ついに、私たちは魔王ゼムが待つ、玉座の広間へとたどり着いた。
漆黒の玉座に鎮座するゼムは、その身に纏う黒晶の鎧から、絶対零度の威圧感を放っていた。

「来たか、軟弱者ども。その下劣な“温もり”とやらで、この我を屈させられるとでも思ったか」

私が一歩、彼に向かって踏み出した、その瞬間。
ぐにゅっ。
足元の床が、ゼリーのように沈んだ。

「何だ、この床は!?」
「特注のトラップよ、魔王様。“足を温めると、頑固な心も温まる”って、私の故郷では言うの」

床一面に、スリィが薄く擬態していたのだ。温かい足湯ぷにが、ゼムの硬いブーツに絡みつく。
さらに、床から伸びたぷに触手が、彼のブーツを掃除機のように吸い取り、その素足を、強制的に足湯の中へと浸した。

「や、やめろ……! 我は硬き闇! 感情を封印せし、孤高の覇者……! 足の裏から、温もりが……溶け……る……!」

ゼムが動揺している隙に、私たちは玉座の広間そのものを、巨大なサウナ室へと改造していく。
壁面からはローズぷにミストが噴射され、天井からは光る癒しゼリーが吊るされ、捕らえられていたドラゴンは、なぜか率先して魔王軍幹部の背中を流し始めている。

「フッ……こんな程度の温かさ……我が黒晶鎧が、屈するものか……!」
強がるゼムに、私は最後の切り札を投入した。

「――熱波ぷにマイスター、入室!」

バスタオル一枚の勇ましい姿となったリムナとセラフィーネが、巨大な羽うちわを手に、サウナ室へと突入!

「「いざ尋常に、“ぷに熱波”、参ります!!」」
二人が力強くうちわを扇ぐと、灼熱の蒸気がゼムを襲う。

「熱っ! あ゛あ゛あ゛あ゛!! 我が、我が鎧が、蒸れるッ!!」

――十分後。
全ての鎧を脱ぎ捨て、タオル一枚で、神妙な顔つきの魔王が、サウナ室のベンチに座っていた。
その頬は上気し、瞳には、どこか遠くを見るような、穏やかな光が宿っていた。

「……負けた。いや、勝ち負けなど、もうどうでもいい。我は今……“生”を、感じている……」
「それが、“ととのい”よ。ようこそ、魔王様」



その日の夜、魔王城の大広間は、巨大な湯上がりラウンジへと改装されていた。
ぷに甘酒と湯上がりゼリーを囲み、魔王も、騎士も、町民も、同じ浴衣を着て、身分も種族も関係なく、笑い合っている。
停戦条約は、歴史上最も平和な「ほかほか入湯協定」として、即日締結された。

私は、中庭に新設された星空露天風呂で、隣に並んで浸かるゼムに、そっと語りかけた。

「硬くなるだけじゃ、孤独になるだけよ。でも、柔らかいだけでも、自分を守れない。大切なのは、外側は柔らかく、でも、芯は熱く。――“半熟たまご理論”、覚えなさいな」
「は、半熟、たまご……!」

ゼムは、その言葉を、まるで失われた魔法の呪文のように、何度も繰り返していた。

翌朝。魔王城の天守には、湯桶で作られた即席の王座が置かれ、私はゼムに“ぷにタオル王冠”を授けた。
「これより、貴方は――“ホカホカ魔王陛下”ですわ!」
兵士も、騎士も、町民も、一体となって叫ぶ。
「「「ホカホカ万歳――!!」」」

こうして、異世界の“硬さ”を巡る戦いは、全てが温かく、柔らかく、そして、ぷるぷるに解決した。
帰り道。私とスリィを故郷へと送り返す次元の門が、湯気のように開く。
見送りに来たセラフィーネと、少しだけ表情が柔らかくなったゼムが、大きく手を振っていた。

「――さあ、帰りましょう、スリィ! 私たちの国へ!」

私が光の門へと飛び込もうとした瞬間。
ゲートの向こうの景色が、一瞬だけ、ぐにゃりと歪んだ。
そこに映ったのは、見たこともない、高いビルが立ち並び、鉄の箱が走り回る、不思議な街の光景だった。

「……え? なに、今の……」

私たちのぷるぷるな旅は、どうやら、まだとんでもない寄り道を、用意してくれているらしい。
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