イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。

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第19章 るる☆るん!小学生最後の夏休み、偶然のデート♡

プロローグ

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 小学生最後の夏休み。

 なのに、私は——なんだか取り残されたみたいに、部屋でぼーっとしていた。



 外は青空。真昼のセミが、ジジジジッと元気よく鳴いている。

 でも、私の心は、ちょっと曇り空。



「……はぁ」



 机の上には、半分終わった自由研究と、まだ手をつけていない読書感想文。

 それに、次の配信の台本メモ。

 Vtuberとしてのお仕事は大好きだけど、こういう時は……小学生としての私が、ちょっぴり寂しくなる。



 パパとママはお仕事で忙しいし、

 仲のいい友達は、家族旅行やサマーキャンプでいない。

 みんなのグループチャットには、「海行ってきた!」「花火大会めっちゃきれいだった!」なんて写真が次々送られてくる。



「いいなぁ……」



 スマホを置いて、ベッドにごろんと寝転ぶ。

 視界の端にぬいぐるみのウサギちゃんがいて、なんとなく愚痴をこぼした。



「私だって、夏休みの思い出……作りたいよ」



 思い出、という言葉を口にした瞬間。

 脳裏に浮かんだのは——



 あの人の笑顔。



 優しくて、ちょっとだけ頼りなくて……でも、すごく安心する声。

 私の世界を、あたたかくしてくれる人。



「……もしできるなら、あの人と……」



 小さく呟いて、両手で顔を覆った。

 だめだ、考えただけで心臓がくすぐったい。



 そんな時だった。

 スマホがピコンと鳴る。



《事務所からの連絡:急ぎのロケ取材に参加できますか?》



「え、ロケ?」

 内容を確認すると、近くの水族館と動物カフェの取材らしい。

 子供目線の感想が欲しいとかで、急遽《るる☆るん!》に声がかかったみたい。



 ちょっとだけ迷ったけど……考える間もなく返信した。



《はい!行きます!》



 ——だって、夏休みの思い出になるかもしれないから。







 翌日。

 待ち合わせ場所の駅前に向かうと、そこには……レイさんこと、天城コウさんが立っていた。



「おはよう、るるちゃん」



「……あっ」



 思わず立ち止まってしまう。

 陽射しを浴びて立つその姿は、なんだか映画のワンシーンみたいで。

 胸の奥が、一気に熱くなる。



「えっと……今日のサポート、僕が担当になったんだ。よろしくね」



「よ、よろしくお願いします……」



 心臓がドキンと鳴る。

 だって、こんなの——



(これって、もしかして……デートじゃない……!?)



 もちろん仕事だってわかってる。

 でも、二人で並んで歩くこの感じは……ちょっとだけ、夢みたい。



 水族館の前に着くまでの道のりも、なんだかいつもより短く感じた。

 通りのガラスに映る二人の姿を、ちらっと見てしまう。

 ちょっと背伸びしたワンピース、ツインテールのリボン……

 私、ちゃんと“女の子”に見えてるかな。



「るるちゃん、暑くない? 水分ちゃんと持ってる?」



「あ、はい……持ってます。ありがとうございます」



 自然と頭を撫でられて、びくっとした。

 子供扱いのはずなのに……手のひらのぬくもりが、なぜか全身に広がっていく。



(も、もしかして……夏休みの神様が、くれたごほうび……?)



 そんなことを考えているうちに、水族館の入口が見えてきた。

 青いガラスと、キラキラ光る海のポスター。

 胸の奥で、夏休みの一日が、きらめきだした——。



 水族館の自動ドアをくぐった瞬間、ひんやりとした空気に包まれた。

 外の真夏の暑さが嘘みたいで、思わず「わぁ……」と声が漏れる。



「涼しいね、るるちゃん」



「はいっ……! うわぁ、天井にお魚がいっぱい……!」



 目の前には、青いトンネル水槽。

 頭上を大きなエイがゆったり泳ぎ、その下をカラフルな魚たちが群れをなして通り過ぎていく。

 光が水面でゆらゆら揺れて、まるで海の中にいるみたい。



「ふふ、目がキラキラしてるよ」



「えっ……!」



 思わず彼の顔を見上げると、優しい笑顔。

 その瞬間、心臓がキュッとなる。

 だめだ、さっきから心臓のドキドキが止まらない。



(これ……仕事のロケ、なんだよね……? でも……)



 ゆっくり歩きながら、壁沿いの水槽を見て回る。

 小さな熱帯魚が群れを作って泳ぐたび、思わず彼の腕をつついてしまう。



「見てください! ニモです!」



「あ、本当だ。かわいいなぁ」



「こっちはドリーですよ、映画の!」



 気がつけば、自然に彼と並んで笑い合っている。

 こうやって二人きりで過ごす時間が、まるで本当のデートみたいに思えてくる。







 次のコーナーは、クラゲの幻想的な展示。

 薄暗い部屋に青やピンクの光がゆらめき、無数のクラゲがふわふわ漂っている。



「うわぁ……すごい……」



「きれいだね」



 無意識に、一歩彼のそばに寄る。

 暗いから、なんだか自然と距離が近くなる。

 肩が触れそうで、触れない……その空気だけで胸がドキドキする。



「るるちゃん、ほら……」



 気づけば、彼の手がそっと私の方へ伸びて——

 小さな手のひらに、何か冷たいものが触れた。



「ひゃっ……!」



「あ、ごめん。アイス食べる?」



 彼が差し出したのは、売店で買った小さなアイスバーだった。

 不意打ちにびくっとした私を見て、くすっと笑う。



「……びっくりしました……」



「ごめんごめん。暗いからね」



 でも、その笑顔を見たら、文句なんて言えなかった。

 代わりに、口にアイスを運んだ瞬間——



「あっ」



 ポタッ、と溶けたアイスが私の指先に落ちた。

 慌てて拭こうとすると、彼がさっとハンカチを差し出す。



「ほら、貸して」



「え、あ……」



 優しく、指先を包むように拭われた。

 その瞬間、全身に電気が走ったみたいに熱くなる。



(ちょっ……これ……やばい……!)



 指先に残る彼のぬくもり。

 ハンカチの柔らかさと、かすかに香る洗剤の匂い。

 全部が、心臓をくすぐる。



「……はい、きれいになったよ」



「あ、ありがとうございます……」



 目を合わせられない。

 でも、心の奥ではずっと叫んでいた。



(これ、これって……絶対、デートでしょ……!デートだよ、ね?)







 その後も、水族館の中をゆっくり歩いた。

 大きなイルカの水槽や、色とりどりのサンゴ礁。

 どれも綺麗だったけど——



 いちばん心に残ったのは、

 彼と並んで見上げた、青いクラゲの光だった。



 外に出ると、眩しい夏の日差しが戻ってきた。

 でも、心の中はもう水族館みたいに、静かであたたかい青色で満たされていた。



(……この夏、思い出がひとつできちゃった……)
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