イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。

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第20章『ご近所ハーレム、はじめました!?』

僕なりの答えと、鳴りやまないチャイム 予約中

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AM 10:11 - 絶体絶命アンサータイム

「それで、コウ。……あなたの大切な人は、どの子なの?」



母さんが放ったその一言は、時を止める魔法だった。

俺の部屋の玄関。そこにいる全員の呼吸が止まる。シン、と静まり返った空気の中、俺に向けられる三対六つの瞳。そのすべてに、違う色の期待が揺らめいていた。



(ここから、ひよりの一人称視点)



お兄ちゃん、お願い……! なんて答えるの!? ここはやっぱり、長年連れ添った「妹」って言うべきだよ! でも、でも、もし「彼女」って意味で聞いてるなら……私のこと、ちゃんと「女の子」として……。うぅ、どっちを選んでも地獄で天国だよぉ……!



(ここから、メグの一人称視点)



きたきたきた! ラブコメの最終選択肢イベント! まさかリアルで立ち会えるなんて! ここで私を選んでくれたら、もう一生推す! いやもうすでに一生推してるけど! 神棚作って毎日お供えする! だからお願いコウくん、私っていう最高の推しを選んでくれぇぇぇ!



(ここから、夜々の一人称視点)



まさか、こんな形で答えを迫られるなんて……。彼の母親の前で……。でも、少しだけ……ほんの少しだけ、期待している自分がいるのが悔しい。ここで私を選んだら、あなた、ただの後輩じゃなくなるのよ? その覚悟、あるのかしら……天城くん。



(三人称視点に戻る)



三者三様の想いが、無言の圧力となって俺の背中に突き刺さる。父さんは「おいおい、お母さん」と苦笑いしているが、母さんの目は真剣だ。逃げ場はない。

俺は一度、ゆっくりと目を閉じた。そして、息を吸い込む。



覚悟を、決めた。



俺はまず、メグの方に向き直った。

「母さん、父さん。紹介するよ」



びくり、とメグの肩が跳ねる。

「こっちは、隣の部屋に住んでる葛城メグ。俺がVチューバーとして活動してる事務所の、大事なスタッフなんだ。いつも元気で、俺が落ち込んでるときも、一番に気づいて応援してくれる。俺にとっては、かけがえのない**“仲間”**だよ」



「……っ!」

メグが息を呑むのが分かった。彼女は驚いたように目を見開いたあと、ふっと顔を赤らめて俯いた。



次に、俺は階段の上に立つ夜々先輩を見上げた。

「そして、こっちは上の階に住んでる不知火夜々先輩。事務所の大先輩で、いつもは厳しいけど、誰よりも周りのことが見えてる人だ。俺が活動で悩んでるとき、いつも的確なアドバイスをくれる。俺が心から尊敬してる、最高の**“先輩”**なんだ」



「……っ、ば……」

夜々先輩が何かを言いかけて、唇をきゅっと結んだ。その表情は、不満そうでありながら、どこか照れているようにも見えた。



そして最後に、俺は隣に立つひよりの肩に、そっと手を置いた。

ひよりの体が、小さく震える。



「最後に、こいつは天城ひより。知っての通り、俺の義理の妹だ。わがままで、すぐ拗ねて、手がかかるけど……でも、俺がこの世界に飛び込むきっかけをくれた、一番の理解者だ。俺が“レイ”としてマイクの前に立てるのは、こいつがいてくれるから。ひよりは、俺がこの世界で一番大切で、絶対に守らなきゃいけない、たった一人の**“妹”で――そして、最高の“相棒”**だよ」



言い切った。

これが、今の俺が出せる、たった一つの、誠実な答えだった。



AM 11:30 - 嵐のあとのコーヒータイム

「あらあら、コウったら隅に置けないわねぇ」



結局、母さんはそう言ってニヤニヤ笑うだけだった。俺の答えに納得したのか、あるいは面白がっているだけなのか。父さんは「そうか、良い仲間に恵まれてるんだな。よかったじゃないか、コウ」と穏やかに微笑んでくれた。



嵐のようにやってきた両親は、嵐のように「じゃあ、また来るわね!」と言い残して去っていった。

そして、玄関には俺と、三人のヒロインだけが取り残された。



気まずい。

さっきまでの喧騒が嘘のように、空気が重い。



「……」

「……」

「……」



この沈黙を破ったのは、意外にも夜々先輩だった。

「……まあ、模範解答だったんじゃないかしら。後輩としては、安心したわ」

そう言って、ふい、と顔をそらす。でもその横顔は、少しだけ優しかった。



「そーそー! “仲間”って言ってもらえて、アタシもちょっと嬉しかったし! これからもマネージャー見習いとして、ビシバシ応援していくんでよろしくね、コウくん!」

メグも、いつもの元気な笑顔でそう言った。無理してる感じは、ない。



最後に、ひよりが俺の服の裾をくいっと引っ張った。

「……相棒、か。まあ、悪くない、かな。……でも、妹だけじゃ、やだからね」

ぷくっと頬を膨らませるその顔は、いつものひよりだった。



三者三様の反応。誰も怒っていない。誰も、傷ついていない。

俺の答えは、ちゃんと届いたらしかった。



「……ありがとうな、みんな」

俺がそう言うと、三人は顔を見合わせて、小さく笑った。

この瞬間、俺たちの関係は、ただの“ご近所さん”から、何かもう一つ別の、名前のない特別なものに変わった気がした。



PM 8:00 - 鳴りやまないチャイム

その日の夜、俺は一人、部屋で今日の出来事を振り返っていた。

(全員、大切な人に決まってる。でも……)

“仲間”や“先輩”や“相棒”。

その言葉で括れない、特別な感情が自分の中にも芽生え始めていることに、俺はもう気づいていた。

(いつか、この“大切”の意味を、ちゃんと選ばなきゃいけない日が来るのかもしれないな)



そんな感傷に浸っていた、その時だった。



ピンポーン。



まただ。またこの音だ。

苦笑しながらドアを開けると、そこにはエプロン姿のひよりが立っていた。

「お兄ちゃん、今日の夜ご飯、どうする? 昨日のお礼も兼ねて、夜々先輩のビーフシチューと、メグちゃんの唐揚げと、私の生姜焼き……全部混ぜて“ご近所スペシャル丼”にしてみない?」

「それ、ただの闇鍋だろ!」



俺がツッコミを入れると、ひよりの後ろからメグがひょっこり顔を出した。

「え、何それ面白そう! アタシも混ぜてよ!」



「やめなさい、あなたたち。食べ物を冒涜する気?」

呆れた声と共に、上の階から夜々先輩が降りてくる。



結局、また全員が俺の部屋の前に集まってしまった。

ひよりがいて、隣にメグがいて、上に夜々先輩がいて。

この騒がしくて、面倒で、でもどうしようもなく温かい日常。



「……もう、全員入れよ。今日は鍋だ、鍋」

俺がため息混じりにそう言うと、三人は待ってましたとばかりに笑顔で部屋になだれ込んできた。



鳴りやまないチャイムは、きっと恋の始まりの合図。

そして、この騒がしい日常こそが、俺にとっての答えなのかもしれない。



ご近所ハーレム生活は、まだ始まったばかり。

そして俺の胃袋と心臓は、これからも毎日、嬉しい悲鳴を上げ続けるのだろう。

まあ、それも……悪くない。
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