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最終章 第二話 すべての“好き”が、君への道標だった
祭りのあとの静けさに、君を想う
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ひよりのステージは、完璧だった。
LinkLive“卒業”文化祭の大トリ。すべてのステージが終わり、祭りの終わりを告げる最後の時間がやってきた。
それまでの熱狂が嘘のように、会場は期待に満ちた静寂に包まれる。
ステージが暗転し、一本のピンスポットライトが、ステージの中央にぽつんと置かれた一本のマイクスタンドを照らし出した。
そこに、ゆっくりと現れたのは、純白のドレスに身を包んだひよりだった。
いつもの《ひよこまる♪》としての元気な姿ではない。
髪をゆるく巻き、淡いメイクを施したその姿は、もう“妹”ではなく、一人のアーティストとしての覚悟と、恋する乙女の儚さを同居させていた。
「……今日は、わたしの、最後のわがままを聞いてください」
マイクを通して響いたその声は、震えていたが、凛としていた。
彼女が歌い始めたのは、誰も聞いたことのない、スローなバラード。
彼女自身が、この日のために作詞したという新曲だった。
イントロは、ピアノの静かな旋律だけ。ステージ袖で見守る俺は、その最初のワンフレーズで、息を呑んだ。
『――君の声が、私の声になった日を覚えてる? 臆病なひよこは、優しい嘘に守られて、初めて空の青さを知ったんだ』
それは、俺たちの始まりの物語。
声を失った彼女の代わりに、俺が《ひよこまる♪》になった、あの日々。
歌詞は、淡々と、しかし愛おしむように、俺との思い出を紡いでいく。
二人で交わしたくだらない会話、嫉妬に胸を痛めた夜、それでも隣にいるだけで満たされた温かい時間。
それは、ファンに向けた歌であると同時に、たった一人、俺だけに向けた、あまりにも真っ直ぐな恋文だった。
そして、曲はサビへと向かう。静かだったピアノに、ストリングスが重なり、彼女の声が、感情の奔流となって解き放たれる。
『「お兄ちゃん」って呼ぶたびに、心がきゅっと痛かった。でも、もう隠さない。隠せない。この声の、本当の届け先は――』
『世界で一番、君が、好き』
“お兄ちゃん”じゃない。“君”と、彼女は確かに歌った。
それは、もう妹の甘えなんかじゃない。
一人の女性が、愛する人へ捧げる、魂からの告白だった。
その声は、もう“お兄ちゃん”に甘えるだけの妹の声ではなかった。
一人のアーティストとして、ファンを、そして俺を、魅了する力に満ちていた。俺は、溢れそうになる涙を、堪えることができなかった。
◇
文化祭は、万雷の拍手と感動の中、幕を閉じた。
祭りの熱狂が、まるで遠い夢のように静かに冷めていく。
ファンたちが去り、がらんとしたイベントスペースで、俺は一人、客席の隅に座り、まだ余韻が残るステージを眺めていた。
「……天城くん」
ふいに声をかけられ、顔を上げる。そこには、私服に着替えた夜々先輩が立っていた。
「最高の舞台だったわ。……ひよりちゃんも、そして、あなたも」
その表情は、どこまでも晴れやかだった。「わたくしは、自分の信じる美学を貫いただけ。……悔いはないわ。……さようなら、天城くん。いいえ――レイ。最高の、ライバルだったわ」
そう言って微笑んだ彼女は、もう俺の隣を求める女王ではなかった。
自分の道を、気高く歩いていく一人の女性だった。
「コウくん!お疲れ様でした!最高のフィナーレ、マジで泣けました!」
次に現れたのは、メグとみなとさんだった。
二人は、肩を並べて、同じクリエイターの顔で笑っている。
「アタシ、決めました!コウくんのソロデビュー、全力でプロデュースします!最高の相棒と、最高の推しを、アタシが世界一のスターにするんスよ!」
「……私も、手伝います。私たちの創る“景色”で、あなたの声を、もっと遠くまで届けたい」
彼女たちはもう、俺に恋するだけじゃない。
俺という存在を、自分たちの夢を叶えるための、最高のパートナーとして見てくれていた。
るるといのりちゃんも、最後に挨拶に来てくれた。
「先輩、ありがとうございました!」「お兄ちゃん、大好きでした!」
その笑顔は、もう王子様に助けられるお姫様のものではない。
自分の足で、未来へと歩き出す、小さな勇者たちの顔だった。
夜々先輩も、メグも、みなとさんも、それぞれの仲間たちと、晴れやかな顔で帰路についていった。
この祭りで、俺はたくさんの“答え”を受け取った。
そして、俺自身の“答え”も見つけた。
もう、迷いはない。
俺はスマホを取り出し、連絡先を開く。たくさんの大切な名前が並ぶ中、指は、迷うことなく一つの名前をタップした。
メッセージアプリが起動する。
伝えたい言葉は、山ほどある。
でも、今は、ただ一言でいい。
『お疲れ様。最高のステージだった。今から、少しだけ話せないか?』
送信ボタンを押す。
画面に「送信しました」の文字が表示される。祭りのあとの、心地よい静寂。
その中で、俺はただ静かに、たった一人のヒロインからの返信を待っていた。
俺たちの本当の物語は、ここから始まるのだから。
LinkLive“卒業”文化祭の大トリ。すべてのステージが終わり、祭りの終わりを告げる最後の時間がやってきた。
それまでの熱狂が嘘のように、会場は期待に満ちた静寂に包まれる。
ステージが暗転し、一本のピンスポットライトが、ステージの中央にぽつんと置かれた一本のマイクスタンドを照らし出した。
そこに、ゆっくりと現れたのは、純白のドレスに身を包んだひよりだった。
いつもの《ひよこまる♪》としての元気な姿ではない。
髪をゆるく巻き、淡いメイクを施したその姿は、もう“妹”ではなく、一人のアーティストとしての覚悟と、恋する乙女の儚さを同居させていた。
「……今日は、わたしの、最後のわがままを聞いてください」
マイクを通して響いたその声は、震えていたが、凛としていた。
彼女が歌い始めたのは、誰も聞いたことのない、スローなバラード。
彼女自身が、この日のために作詞したという新曲だった。
イントロは、ピアノの静かな旋律だけ。ステージ袖で見守る俺は、その最初のワンフレーズで、息を呑んだ。
『――君の声が、私の声になった日を覚えてる? 臆病なひよこは、優しい嘘に守られて、初めて空の青さを知ったんだ』
それは、俺たちの始まりの物語。
声を失った彼女の代わりに、俺が《ひよこまる♪》になった、あの日々。
歌詞は、淡々と、しかし愛おしむように、俺との思い出を紡いでいく。
二人で交わしたくだらない会話、嫉妬に胸を痛めた夜、それでも隣にいるだけで満たされた温かい時間。
それは、ファンに向けた歌であると同時に、たった一人、俺だけに向けた、あまりにも真っ直ぐな恋文だった。
そして、曲はサビへと向かう。静かだったピアノに、ストリングスが重なり、彼女の声が、感情の奔流となって解き放たれる。
『「お兄ちゃん」って呼ぶたびに、心がきゅっと痛かった。でも、もう隠さない。隠せない。この声の、本当の届け先は――』
『世界で一番、君が、好き』
“お兄ちゃん”じゃない。“君”と、彼女は確かに歌った。
それは、もう妹の甘えなんかじゃない。
一人の女性が、愛する人へ捧げる、魂からの告白だった。
その声は、もう“お兄ちゃん”に甘えるだけの妹の声ではなかった。
一人のアーティストとして、ファンを、そして俺を、魅了する力に満ちていた。俺は、溢れそうになる涙を、堪えることができなかった。
◇
文化祭は、万雷の拍手と感動の中、幕を閉じた。
祭りの熱狂が、まるで遠い夢のように静かに冷めていく。
ファンたちが去り、がらんとしたイベントスペースで、俺は一人、客席の隅に座り、まだ余韻が残るステージを眺めていた。
「……天城くん」
ふいに声をかけられ、顔を上げる。そこには、私服に着替えた夜々先輩が立っていた。
「最高の舞台だったわ。……ひよりちゃんも、そして、あなたも」
その表情は、どこまでも晴れやかだった。「わたくしは、自分の信じる美学を貫いただけ。……悔いはないわ。……さようなら、天城くん。いいえ――レイ。最高の、ライバルだったわ」
そう言って微笑んだ彼女は、もう俺の隣を求める女王ではなかった。
自分の道を、気高く歩いていく一人の女性だった。
「コウくん!お疲れ様でした!最高のフィナーレ、マジで泣けました!」
次に現れたのは、メグとみなとさんだった。
二人は、肩を並べて、同じクリエイターの顔で笑っている。
「アタシ、決めました!コウくんのソロデビュー、全力でプロデュースします!最高の相棒と、最高の推しを、アタシが世界一のスターにするんスよ!」
「……私も、手伝います。私たちの創る“景色”で、あなたの声を、もっと遠くまで届けたい」
彼女たちはもう、俺に恋するだけじゃない。
俺という存在を、自分たちの夢を叶えるための、最高のパートナーとして見てくれていた。
るるといのりちゃんも、最後に挨拶に来てくれた。
「先輩、ありがとうございました!」「お兄ちゃん、大好きでした!」
その笑顔は、もう王子様に助けられるお姫様のものではない。
自分の足で、未来へと歩き出す、小さな勇者たちの顔だった。
夜々先輩も、メグも、みなとさんも、それぞれの仲間たちと、晴れやかな顔で帰路についていった。
この祭りで、俺はたくさんの“答え”を受け取った。
そして、俺自身の“答え”も見つけた。
もう、迷いはない。
俺はスマホを取り出し、連絡先を開く。たくさんの大切な名前が並ぶ中、指は、迷うことなく一つの名前をタップした。
メッセージアプリが起動する。
伝えたい言葉は、山ほどある。
でも、今は、ただ一言でいい。
『お疲れ様。最高のステージだった。今から、少しだけ話せないか?』
送信ボタンを押す。
画面に「送信しました」の文字が表示される。祭りのあとの、心地よい静寂。
その中で、俺はただ静かに、たった一人のヒロインからの返信を待っていた。
俺たちの本当の物語は、ここから始まるのだから。
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