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第八章 ハーレムな日常と、八百階層の追憶
氷点下の円卓会議
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舞台は、冒険者学校が保有する中でも最も豪華なゲストルーム。
無駄に広いマホガニーのテーブル。
その中央に、僕、相川翔太。
そして、僕を挟んでテーブルの左右には、二つの派閥が完璧に陣取っていた。
右側には、僕の「現在(いま)」の日常そのもの。
僕の恋人(正妻)を自称する陽奈美。
気高き聖騎士のエレオノール。
クールな賢者の凛花さん。
そして、戦闘狂の格闘家、麗華。
…現代組(モダン・ガールズ)だ。
左側には、僕の「過去(すべて)」そのもの。 聖女にして王女のセラフィーナ。
ハイエルフの大魔法使い、ルナリア。
忠誠の聖騎士、ブリジット。
そして、僕の服の裾をさっきから固く握りしめている兎獣人(ラパン)のミミ。
…異世界組(ワールド・トラベラーズ)だ。
(…なにこの空間、地獄かな?)
空気は、シベリアの永久凍土もかくやというほどに冷え切って、張り詰めている。
誰も口火を切らない。
ただ、現代組の四人(特に陽奈美)から放たれる、「説明しろ」という無言のプレッシャーと、「こいつらが新しい雌(メス)か」という品定めするような異世界組の視線が、僕の胃をキリキリと締め付けていた。
僕の【鑑定】スキルが、この世の終わりみたいに、視界の端でアラートを鳴らし続けている。
【鮎川 陽奈美:状態(嫉妬MAX、混乱、独占欲(暴走寸前)】
【エレオノール:状態(警戒、分析中、相手の戦闘力を推測)】
【九条 凛花:状態(情報収集中、計算中、最悪のパターンを予測)】
【王 麗華:状態(観察、強者への興味、臨戦態勢)】
【セラフィーナ:状態(再会の歓喜、絶対的自信、所有権の主張)】
【ルナリア:状態(分析中、この世界の魔力構造に興味津々、主様への執着)】
【ブリジット:状態(警戒、団長への忠誠、敵意)】
【ミミ・コットンポウズ:状態(不安、ご主人様から離れたくない、眠い)】
(カオスすぎるだろぉぉぉぉっ!!)
もう、情報量が多すぎてパニックになりそうだ。
その氷のような沈黙を、堂々と破ったのは、異世界組のリーダー格であるセラフィーナだった。
彼女は、まるでこの場が自分の謁見(えっけん)室であるかのように、背筋をピンと伸ばし、ゆっくりと口を開いた。
その視線は、僕にだけ注がれている。
「――まず、わたくしたちがここに至った経緯(けいい)を、ご説明いたしますわ、我が勇者様」
「(我が勇者様…?)」
陽奈美の表情が、一瞬で凍りついたのが分かった。
セラは、そんな陽奈美たち現代組の存在など、まるで空気か、そこに置かれた調度品ででもあるかのように、一切意に介していない。
「貴方様が、魔王を討伐し、わたくしたちの世界(アインツベルグ)から姿を消された後…。ええ、わたくしたちの悲しみは、言葉では言い表せませんでしたわ」
うっとりと、あの日のことを思い出すように彼女は続ける。
「ですが、世界は確かに平和になりました。魔王という脅威は去り、人々は復興へと歩み始めたのです」
(そうか、よかった…)
僕が異世界で戦い抜いた十年は、無駄じゃなかったんだ。
僕が安堵(あんど)の息を漏らしたのも束の間、セラの表情が、ふっと曇った。
「…ですが、その平和は、長くは続きませんでしたわ」 「え?」
「貴方様が去られてから、数年後。世界各地に、原因不明の『時空の歪み』が出現し始めたのです」
隣に座っていたルナリアが、セラの言葉を引き継ぐ。
「あれは、魔力的な特異点(シンギュラリティ)じゃった。わらわの解析でも、その発生原因は不明。じゃが、そこから溢れ出てくる魔物どもは…」
ルナは、心底うんざりしたように、そして憎々しげに続けた。
「魔王軍の残党などとは、比較にならぬほど…質の悪い、凶悪な連中じゃった」
「わたくしたちも、全力で応戦しました」
今度はブリジットが、こぶしを握りしめながら言う。
「ですが、敵は倒しても倒しても、歪みから無限に湧いてくるのです。まるで、世界そのものが、わたくしたちを拒絶し、破壊しようとしているかのように…!」
「ミミたち、怖かったウサ…! 勇者様がいない世界なんて、もうダメかと思ったぴょん…!」
ミミが、あの日の恐怖を思い出して、僕の服の裾をさらに強く握りしめる。
僕は、言葉を失った。
僕が去った後、彼女たちがそんな過酷な戦いを続けていたなんて。
「…それで、どうやって、ここに?」
僕が一番聞きたかった、核心の質問を口にする。
どうやって、世界の垣根を越えてきたんだ?
セラフィーナは、僕の目を真っ直ぐに見つめ、ふわりと、この世の何よりも美しく微笑んだ。
「決まっておりますわ。貴方様を、お迎えに上がるために、全てを懸けたのです」
「全てを、懸けた…?」
「ええ」と、今度はルナリアが答える。
「まず、わらわたちは、貴方様をこの世界に召喚した、あの忌々(いまいま)しい女神の神殿に乗り込みましたのじゃ」
「乗り込んだって…」
「ええ。少々、手荒い『交渉』をさせていただきましたわ」
セラが、にっこりと微笑む。
(…それ、絶対『脅迫』って言うんじゃ…)
僕の【鑑定】スキルが、『セラフィーナ:交渉術(物理)LV9』という恐ろしいスキルを表示している。
「女神から強引に聞き出した情報と、わらわの解析、そして…」
ルナは、そこで一度言葉を切り、セラを見た。
セラは、こくりと頷く。
「…アインツベルグ王国に蓄えられていた、全ての魔力。ブリジットの騎士団が命懸けで集めた、国中の魔石。ミミが探し出した、古代の遺産(アーティファクト)。その全てを触媒(しょくばい)にして、わたくしたちは、一回きりの、帰るあてのない『片道転移魔法』を発動させましたのじゃ」
「……ッ!」 僕は、息を呑んだ。
国中の魔力? 片道転移? それは、つまり…。
「ええ」 僕の心を読んだかのように、セラフィーナが静かに告げる。
「わたくしは、王女としての地位も、国も、全てを捨ててまいりました。ルナも、ブリジットも、ミミも…皆、全てを捨て、ただ一点、この世界に残された貴方様の、か細い魔力の残滓(ざんし)だけを頼りに、この世界(ばしょ)へ跳んだのです」
あまりにも、無謀で。
あまりにも、一途な、旅路。
僕の胸が、歓喜と、それ以上に重い、鉛(なまり)のような罪悪感で押し潰されそうになる。
僕のために、彼女たちは、そこまで…。
「…そして」
セラフィーナは、すっと立ち上がった。
彼女の慈愛に満ちたアメジストの瞳が、今、この瞬間、僕だけを射抜いている。
「わたくしたちがここに来た理由は、二つ」
彼女は、人差し指を一本、優雅に立てた。
「一つは――十年越しの約束を果たすため。愛する我が勇者様、貴方様と、再び結ばれるため」
その言葉は、爆弾のようにゲストルームに投下された。
「なっ…!」
陽奈美の顔から、サッと血の気が引くのが分かった。
エレオノールたちも、息を呑んでいる。
だが、セラフィーナは、そんな現代組の反応など、一切気にも留めない。
彼女は、もう一本の指を立て、その二つの理由を、厳かに、しかしはっきりと宣言した。
「…そして、もう一つは」
「再び危機に瀕(ひん)した、わたくしたちの世界を……」
「貴方様のお力で、救っていただきたいのです」
静寂。 時が、止まったかと思った。
僕に、拒否権など、あるはずもなかった。
彼女たちの、全てを捨てた覚悟(おもい)を、僕が受け止めないわけには、いかない。
だが、それを受け入れるということは――。
僕は、ゆっくりと、右隣に座る陽奈美の顔を見た。
彼女は、わなわなと唇を震わせ、今にも泣き出しそうな、それでいて、心の底からの怒りを湛(たた)えた瞳で、僕とセラフィーナを、交互に見つめていた。
二つの世界の、二つの日常。
その狭間で、僕の運命が、再び大きく軋(きし)み始めた音を、僕は確かに聞いていた。
無駄に広いマホガニーのテーブル。
その中央に、僕、相川翔太。
そして、僕を挟んでテーブルの左右には、二つの派閥が完璧に陣取っていた。
右側には、僕の「現在(いま)」の日常そのもの。
僕の恋人(正妻)を自称する陽奈美。
気高き聖騎士のエレオノール。
クールな賢者の凛花さん。
そして、戦闘狂の格闘家、麗華。
…現代組(モダン・ガールズ)だ。
左側には、僕の「過去(すべて)」そのもの。 聖女にして王女のセラフィーナ。
ハイエルフの大魔法使い、ルナリア。
忠誠の聖騎士、ブリジット。
そして、僕の服の裾をさっきから固く握りしめている兎獣人(ラパン)のミミ。
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(…なにこの空間、地獄かな?)
空気は、シベリアの永久凍土もかくやというほどに冷え切って、張り詰めている。
誰も口火を切らない。
ただ、現代組の四人(特に陽奈美)から放たれる、「説明しろ」という無言のプレッシャーと、「こいつらが新しい雌(メス)か」という品定めするような異世界組の視線が、僕の胃をキリキリと締め付けていた。
僕の【鑑定】スキルが、この世の終わりみたいに、視界の端でアラートを鳴らし続けている。
【鮎川 陽奈美:状態(嫉妬MAX、混乱、独占欲(暴走寸前)】
【エレオノール:状態(警戒、分析中、相手の戦闘力を推測)】
【九条 凛花:状態(情報収集中、計算中、最悪のパターンを予測)】
【王 麗華:状態(観察、強者への興味、臨戦態勢)】
【セラフィーナ:状態(再会の歓喜、絶対的自信、所有権の主張)】
【ルナリア:状態(分析中、この世界の魔力構造に興味津々、主様への執着)】
【ブリジット:状態(警戒、団長への忠誠、敵意)】
【ミミ・コットンポウズ:状態(不安、ご主人様から離れたくない、眠い)】
(カオスすぎるだろぉぉぉぉっ!!)
もう、情報量が多すぎてパニックになりそうだ。
その氷のような沈黙を、堂々と破ったのは、異世界組のリーダー格であるセラフィーナだった。
彼女は、まるでこの場が自分の謁見(えっけん)室であるかのように、背筋をピンと伸ばし、ゆっくりと口を開いた。
その視線は、僕にだけ注がれている。
「――まず、わたくしたちがここに至った経緯(けいい)を、ご説明いたしますわ、我が勇者様」
「(我が勇者様…?)」
陽奈美の表情が、一瞬で凍りついたのが分かった。
セラは、そんな陽奈美たち現代組の存在など、まるで空気か、そこに置かれた調度品ででもあるかのように、一切意に介していない。
「貴方様が、魔王を討伐し、わたくしたちの世界(アインツベルグ)から姿を消された後…。ええ、わたくしたちの悲しみは、言葉では言い表せませんでしたわ」
うっとりと、あの日のことを思い出すように彼女は続ける。
「ですが、世界は確かに平和になりました。魔王という脅威は去り、人々は復興へと歩み始めたのです」
(そうか、よかった…)
僕が異世界で戦い抜いた十年は、無駄じゃなかったんだ。
僕が安堵(あんど)の息を漏らしたのも束の間、セラの表情が、ふっと曇った。
「…ですが、その平和は、長くは続きませんでしたわ」 「え?」
「貴方様が去られてから、数年後。世界各地に、原因不明の『時空の歪み』が出現し始めたのです」
隣に座っていたルナリアが、セラの言葉を引き継ぐ。
「あれは、魔力的な特異点(シンギュラリティ)じゃった。わらわの解析でも、その発生原因は不明。じゃが、そこから溢れ出てくる魔物どもは…」
ルナは、心底うんざりしたように、そして憎々しげに続けた。
「魔王軍の残党などとは、比較にならぬほど…質の悪い、凶悪な連中じゃった」
「わたくしたちも、全力で応戦しました」
今度はブリジットが、こぶしを握りしめながら言う。
「ですが、敵は倒しても倒しても、歪みから無限に湧いてくるのです。まるで、世界そのものが、わたくしたちを拒絶し、破壊しようとしているかのように…!」
「ミミたち、怖かったウサ…! 勇者様がいない世界なんて、もうダメかと思ったぴょん…!」
ミミが、あの日の恐怖を思い出して、僕の服の裾をさらに強く握りしめる。
僕は、言葉を失った。
僕が去った後、彼女たちがそんな過酷な戦いを続けていたなんて。
「…それで、どうやって、ここに?」
僕が一番聞きたかった、核心の質問を口にする。
どうやって、世界の垣根を越えてきたんだ?
セラフィーナは、僕の目を真っ直ぐに見つめ、ふわりと、この世の何よりも美しく微笑んだ。
「決まっておりますわ。貴方様を、お迎えに上がるために、全てを懸けたのです」
「全てを、懸けた…?」
「ええ」と、今度はルナリアが答える。
「まず、わらわたちは、貴方様をこの世界に召喚した、あの忌々(いまいま)しい女神の神殿に乗り込みましたのじゃ」
「乗り込んだって…」
「ええ。少々、手荒い『交渉』をさせていただきましたわ」
セラが、にっこりと微笑む。
(…それ、絶対『脅迫』って言うんじゃ…)
僕の【鑑定】スキルが、『セラフィーナ:交渉術(物理)LV9』という恐ろしいスキルを表示している。
「女神から強引に聞き出した情報と、わらわの解析、そして…」
ルナは、そこで一度言葉を切り、セラを見た。
セラは、こくりと頷く。
「…アインツベルグ王国に蓄えられていた、全ての魔力。ブリジットの騎士団が命懸けで集めた、国中の魔石。ミミが探し出した、古代の遺産(アーティファクト)。その全てを触媒(しょくばい)にして、わたくしたちは、一回きりの、帰るあてのない『片道転移魔法』を発動させましたのじゃ」
「……ッ!」 僕は、息を呑んだ。
国中の魔力? 片道転移? それは、つまり…。
「ええ」 僕の心を読んだかのように、セラフィーナが静かに告げる。
「わたくしは、王女としての地位も、国も、全てを捨ててまいりました。ルナも、ブリジットも、ミミも…皆、全てを捨て、ただ一点、この世界に残された貴方様の、か細い魔力の残滓(ざんし)だけを頼りに、この世界(ばしょ)へ跳んだのです」
あまりにも、無謀で。
あまりにも、一途な、旅路。
僕の胸が、歓喜と、それ以上に重い、鉛(なまり)のような罪悪感で押し潰されそうになる。
僕のために、彼女たちは、そこまで…。
「…そして」
セラフィーナは、すっと立ち上がった。
彼女の慈愛に満ちたアメジストの瞳が、今、この瞬間、僕だけを射抜いている。
「わたくしたちがここに来た理由は、二つ」
彼女は、人差し指を一本、優雅に立てた。
「一つは――十年越しの約束を果たすため。愛する我が勇者様、貴方様と、再び結ばれるため」
その言葉は、爆弾のようにゲストルームに投下された。
「なっ…!」
陽奈美の顔から、サッと血の気が引くのが分かった。
エレオノールたちも、息を呑んでいる。
だが、セラフィーナは、そんな現代組の反応など、一切気にも留めない。
彼女は、もう一本の指を立て、その二つの理由を、厳かに、しかしはっきりと宣言した。
「…そして、もう一つは」
「再び危機に瀕(ひん)した、わたくしたちの世界を……」
「貴方様のお力で、救っていただきたいのです」
静寂。 時が、止まったかと思った。
僕に、拒否権など、あるはずもなかった。
彼女たちの、全てを捨てた覚悟(おもい)を、僕が受け止めないわけには、いかない。
だが、それを受け入れるということは――。
僕は、ゆっくりと、右隣に座る陽奈美の顔を見た。
彼女は、わなわなと唇を震わせ、今にも泣き出しそうな、それでいて、心の底からの怒りを湛(たた)えた瞳で、僕とセラフィーナを、交互に見つめていた。
二つの世界の、二つの日常。
その狭間で、僕の運命が、再び大きく軋(きし)み始めた音を、僕は確かに聞いていた。
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