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20・おかえりなさい
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悪しきものたちを相手に、お前が何をすればいいかはじきわかる。それまで絶対に石を失くすな。
そう命令して、ハスはどこかへ出かけていった。
「確かに、失くしたら絶対怒られそう」
どうせまた口汚く罵られるに決まっている。
いや、今度こそ噛みつかれるに違いない。
庭の動物たちも黙っていないだろう。
無愛想な迷い犬だと思っていたけれど、まさかあんな口の悪い犬だと思わなかった。
縁側で針仕事をしながら、ガミガミうるさいハスを思い出し杏はため息をついた。
「でも、これを見たら文句言えないはず」
さっきから杏は、石を保管するための小さな布袋を作っていた。
小学生の頃から給食着のボタンつけや体育着の名札つけも自分でやってきたから、針仕事は得意なのだ。
袋を巾着のようにして石を入れ、紐の長く余った部分を首にかけておけば簡易のペンダントのようになる。肌身はなさず持つならこれで完璧だ。
袋にしまう前に、杏は改めて石を眺めた。
おっかなびっくり指先でつまみ、陽にかざしてみたらふわりと色が変化した。
「きれい」
青から紫、そして赤オレンジ黄色緑。色は次々と変化し、いつまでもみていたくなる。
「ねえちょっと」
縁側の足元から声がした。
よく庭で見かける2羽のキジバトだった。
「ちょっとよろしいかしら?」
メスらしき方が、ずいと杏の前に進み出た。
「え、ええどうぞ」
驚きながらも、礼儀正しいキジバトに返事する。
「そこのレンゲツツジのことなんだけど」
と、キジバトは少し先に植えてあるレンゲツツジの木を指して言った。
「根が小石にぶつかって、痛くて困っているんですって。なんとかしてやってもらえません?」
ツツジの木がこのところ少し枯れて始めているのは知っていた。水も肥料も効果がなく「なんでかなあ」と若葉ちゃんも首を傾げていた。
なるほど、根が石に邪魔されているなら簡単だ。
杏はスコップを取ってくると、レンゲツツジの植わっている土を掘り返してみることにした。
キジバトの言った通り、掘り出した地面から小石がゴロゴロ出てきた。石を取り除いた杏は、レンゲツツジを柔らかな土にもう一度植え直した。
「これで大丈夫かな」
「ありがとう」
キジバトが満足そうに鳴き、レンゲツツジの木がサラサラと揺れた。
「どういたしまして」
杏が答えると、庭を風が吹き抜け、いくつもの声が聞こえてきた。何羽もの鳥が目の前に現れ、嘴にくわえていた花を杏の足元に落としていった。
花を拾い上げたら、「おかえり。やっと帰ってきたんだね」と耳元で声がした。
声がしたほうを見たら、肩に止まっていた赤いてんとう虫が飛んでいくのが見えた。
舞い落ちる木の葉。
踊る虫と歌う鳥たち。
ああそうだ。
前にもこんなことがあった。
母の魔法は本当だったのだ。
「ただいま」
杏は答えた。
そう命令して、ハスはどこかへ出かけていった。
「確かに、失くしたら絶対怒られそう」
どうせまた口汚く罵られるに決まっている。
いや、今度こそ噛みつかれるに違いない。
庭の動物たちも黙っていないだろう。
無愛想な迷い犬だと思っていたけれど、まさかあんな口の悪い犬だと思わなかった。
縁側で針仕事をしながら、ガミガミうるさいハスを思い出し杏はため息をついた。
「でも、これを見たら文句言えないはず」
さっきから杏は、石を保管するための小さな布袋を作っていた。
小学生の頃から給食着のボタンつけや体育着の名札つけも自分でやってきたから、針仕事は得意なのだ。
袋を巾着のようにして石を入れ、紐の長く余った部分を首にかけておけば簡易のペンダントのようになる。肌身はなさず持つならこれで完璧だ。
袋にしまう前に、杏は改めて石を眺めた。
おっかなびっくり指先でつまみ、陽にかざしてみたらふわりと色が変化した。
「きれい」
青から紫、そして赤オレンジ黄色緑。色は次々と変化し、いつまでもみていたくなる。
「ねえちょっと」
縁側の足元から声がした。
よく庭で見かける2羽のキジバトだった。
「ちょっとよろしいかしら?」
メスらしき方が、ずいと杏の前に進み出た。
「え、ええどうぞ」
驚きながらも、礼儀正しいキジバトに返事する。
「そこのレンゲツツジのことなんだけど」
と、キジバトは少し先に植えてあるレンゲツツジの木を指して言った。
「根が小石にぶつかって、痛くて困っているんですって。なんとかしてやってもらえません?」
ツツジの木がこのところ少し枯れて始めているのは知っていた。水も肥料も効果がなく「なんでかなあ」と若葉ちゃんも首を傾げていた。
なるほど、根が石に邪魔されているなら簡単だ。
杏はスコップを取ってくると、レンゲツツジの植わっている土を掘り返してみることにした。
キジバトの言った通り、掘り出した地面から小石がゴロゴロ出てきた。石を取り除いた杏は、レンゲツツジを柔らかな土にもう一度植え直した。
「これで大丈夫かな」
「ありがとう」
キジバトが満足そうに鳴き、レンゲツツジの木がサラサラと揺れた。
「どういたしまして」
杏が答えると、庭を風が吹き抜け、いくつもの声が聞こえてきた。何羽もの鳥が目の前に現れ、嘴にくわえていた花を杏の足元に落としていった。
花を拾い上げたら、「おかえり。やっと帰ってきたんだね」と耳元で声がした。
声がしたほうを見たら、肩に止まっていた赤いてんとう虫が飛んでいくのが見えた。
舞い落ちる木の葉。
踊る虫と歌う鳥たち。
ああそうだ。
前にもこんなことがあった。
母の魔法は本当だったのだ。
「ただいま」
杏は答えた。
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