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「一週間後の夜、そっちに行くから都合つけておいてくれ」
兄の航太からメールを受信した時、真帆はいつもと違う印象を受けていた。出勤前のメールだった。兄が連絡を寄越し、真帆が一人暮らしをしているアパートにやって来ることは、珍しいことではなかった。しかし、いつもなら、いつが都合がよいのかを真帆に問い、自分はいつでも大丈夫だという決まった言葉を聞いていたはずだ。
きっといつもの用件ではないのだろう、と真帆は察していた。いつもの、というのは、金の受け渡しだった。
航太が持ってくる金の総額は、そろそろ一千万円になろうとしていた。
真帆は、兄が何をしてこれだけの大きな額の金を作っているのか、尋ねたことはなかった。兄が目的を果たそうとしてくれていることが重要あり、どこで何をしているのかなどは、関係ないと思っていた。たとえ、犯罪の匂いのする金であっても。兄が危ない橋を渡っていようとも。
もし、それで、どんな悪い結末が待ち受けていたとしても、それならそれで構わなかった。真帆はもう、うまく生きようとは思っていなかった。
いつもどおりの身支度をして、バス停へと歩いて行った。高校を卒業してから数年が経つ。その間、住んだアパートは三つ目になり、仕事は四度変わった。
今は、兄と同じく足立区内に住んでいる。二十三区の中でも一番の広さを誇る区であるのに、交通の便は悪く、電車が走っていない街がいくつもある。真帆はバスに乗るのはあまり好きでなかった。それでも、最寄りの駅まで歩くなら、隣の区の駅まで歩いてもさほどの労力の違いはない。電車が利用しにくいところに住んでいたので、嫌いなバスに乗らざる得なかった。
真帆の乗るバスは、いつもたいてい座れる。通勤時間のピークのよりも早い時間ということもあるのかもしれないが、こんな辺鄙なところから、駅まで行く利用者が少ないせいだと思っていた。この辺のサラリーマンなどは、自家用車を利用したり、原動機付自転車を利用したりしており、バスに乗ってくるのは、女性と電車通学しているような高校生が多かった。
バスに長時間揺られていると、考えなくてもよいことを考えてしまう。だから、バスは嫌いだ。真帆はそう思っていた。今日も、一番後ろの座席に座ると、やっぱりひとりでに頭の中で考え事をしていた。
幸せになりたい。笑って暮らしたい。どんなに渇望しても、叶わなかった過去がある。ならば、私はもう未来に期待はしない。全てのことに恵まれなかった過去からは、明るい未来が見える明日などないのだ。
朝の景色は、他の人にはすがすがしいものとして、目に映っているのだろうか。真帆には、手の届かない忌々しいイメージの象徴でしかなかった。果たして、自分には朝を気持ちよいと迎えられる日がくるのだろうか。
頭の中では、毎日そんなことばかり考えている。
自分の力ではどうすることもできない不幸がある。とりかえしのつかない不幸な出来事がある。誰が悪いのだ。自分には、もう背負うことができないほどの不幸だ。それを、変わりに背負って苦しんでくれるのは、兄しかいない。
朝、兄が連絡をしてきたせいだろう。今日は、自分の不幸と、兄の二つが合わさって、真帆にもよくわからないイメージが浮かんできていた。自分を救ってくれるのは、兄なのか、それとも自分と一緒に不幸の道づれになってくるのが、兄なのか。新しい職場に着いても、答えはでなかった。
兄の航太からメールを受信した時、真帆はいつもと違う印象を受けていた。出勤前のメールだった。兄が連絡を寄越し、真帆が一人暮らしをしているアパートにやって来ることは、珍しいことではなかった。しかし、いつもなら、いつが都合がよいのかを真帆に問い、自分はいつでも大丈夫だという決まった言葉を聞いていたはずだ。
きっといつもの用件ではないのだろう、と真帆は察していた。いつもの、というのは、金の受け渡しだった。
航太が持ってくる金の総額は、そろそろ一千万円になろうとしていた。
真帆は、兄が何をしてこれだけの大きな額の金を作っているのか、尋ねたことはなかった。兄が目的を果たそうとしてくれていることが重要あり、どこで何をしているのかなどは、関係ないと思っていた。たとえ、犯罪の匂いのする金であっても。兄が危ない橋を渡っていようとも。
もし、それで、どんな悪い結末が待ち受けていたとしても、それならそれで構わなかった。真帆はもう、うまく生きようとは思っていなかった。
いつもどおりの身支度をして、バス停へと歩いて行った。高校を卒業してから数年が経つ。その間、住んだアパートは三つ目になり、仕事は四度変わった。
今は、兄と同じく足立区内に住んでいる。二十三区の中でも一番の広さを誇る区であるのに、交通の便は悪く、電車が走っていない街がいくつもある。真帆はバスに乗るのはあまり好きでなかった。それでも、最寄りの駅まで歩くなら、隣の区の駅まで歩いてもさほどの労力の違いはない。電車が利用しにくいところに住んでいたので、嫌いなバスに乗らざる得なかった。
真帆の乗るバスは、いつもたいてい座れる。通勤時間のピークのよりも早い時間ということもあるのかもしれないが、こんな辺鄙なところから、駅まで行く利用者が少ないせいだと思っていた。この辺のサラリーマンなどは、自家用車を利用したり、原動機付自転車を利用したりしており、バスに乗ってくるのは、女性と電車通学しているような高校生が多かった。
バスに長時間揺られていると、考えなくてもよいことを考えてしまう。だから、バスは嫌いだ。真帆はそう思っていた。今日も、一番後ろの座席に座ると、やっぱりひとりでに頭の中で考え事をしていた。
幸せになりたい。笑って暮らしたい。どんなに渇望しても、叶わなかった過去がある。ならば、私はもう未来に期待はしない。全てのことに恵まれなかった過去からは、明るい未来が見える明日などないのだ。
朝の景色は、他の人にはすがすがしいものとして、目に映っているのだろうか。真帆には、手の届かない忌々しいイメージの象徴でしかなかった。果たして、自分には朝を気持ちよいと迎えられる日がくるのだろうか。
頭の中では、毎日そんなことばかり考えている。
自分の力ではどうすることもできない不幸がある。とりかえしのつかない不幸な出来事がある。誰が悪いのだ。自分には、もう背負うことができないほどの不幸だ。それを、変わりに背負って苦しんでくれるのは、兄しかいない。
朝、兄が連絡をしてきたせいだろう。今日は、自分の不幸と、兄の二つが合わさって、真帆にもよくわからないイメージが浮かんできていた。自分を救ってくれるのは、兄なのか、それとも自分と一緒に不幸の道づれになってくるのが、兄なのか。新しい職場に着いても、答えはでなかった。
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