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次の日の早朝、男たちが車でやってきた。伯父はパスポートとボストンバックと共に車に押し込められ、どこかに連れていかれた。そして、結局帰って来なかった。
真帆はそれからの日々を何事もなく過ごした。はた目からはそんな風に見えたと思う。
伯母も従兄弟たちも、最初は帰ってこない伯父を心配していたが、そのうち諦めたように、以前の生活に戻った。伯母の真帆への接し方は、そっけなくなったが、そこまで変化しなかった。可もなく、不可もない毎日を送
った。
真帆は中学卒業とともに、寮のある高校へ進学したから、その後伯父がどうなったのかは知らない。死んだのだろう。勝手にそう思っている。
あの家とも、それきりだ。伯母たちがどうしているのかも知らない。伯父がいなくなってから、店の経営状態は良くなかった。伯母が切り盛りして、従兄弟たちも店に出ているようだったが、以前のように繁盛しているとは言い難かった。
真帆は当然のことながら、手伝いなどしなかった。伯母も手伝えなどとは言わなかった。家では、固い表情で寝起きを繰り返すだけの毎日を送った。従兄弟から「お前、幽霊みたいだな」と言われたことがある。その通りだった。真帆はあの家で一度死んだ。
だから、大人になっても、こんな風に死んだようにしか毎日を過ごせないのだ。生きることになんの楽しみも見出だせず。すべてのものが信じられない。嫌悪感しか抱けない。
だが、生きることに意味を感じられなくても、死ぬこともできなかった。死に対して、ある別な理由から、真帆の精神がそれを拒んだ。死んではいけない。生きられる者が自死を選ぶことに対して、許せない強い想いがあった。
「生きる屍」という表現は自分に相応しいと真帆は思う。だが、屍ならなぜ、このように涙が流れるのだろう。この苦しい胸のつかえはいつになったら消し去れるのだろう。人の優しさに痛みを感じるのだろう。
自分ではどうしようもできない苦しみの海に真帆は長い月日、溺れかけている。それも、もう限界が近かった。
真帆はそれからの日々を何事もなく過ごした。はた目からはそんな風に見えたと思う。
伯母も従兄弟たちも、最初は帰ってこない伯父を心配していたが、そのうち諦めたように、以前の生活に戻った。伯母の真帆への接し方は、そっけなくなったが、そこまで変化しなかった。可もなく、不可もない毎日を送
った。
真帆は中学卒業とともに、寮のある高校へ進学したから、その後伯父がどうなったのかは知らない。死んだのだろう。勝手にそう思っている。
あの家とも、それきりだ。伯母たちがどうしているのかも知らない。伯父がいなくなってから、店の経営状態は良くなかった。伯母が切り盛りして、従兄弟たちも店に出ているようだったが、以前のように繁盛しているとは言い難かった。
真帆は当然のことながら、手伝いなどしなかった。伯母も手伝えなどとは言わなかった。家では、固い表情で寝起きを繰り返すだけの毎日を送った。従兄弟から「お前、幽霊みたいだな」と言われたことがある。その通りだった。真帆はあの家で一度死んだ。
だから、大人になっても、こんな風に死んだようにしか毎日を過ごせないのだ。生きることになんの楽しみも見出だせず。すべてのものが信じられない。嫌悪感しか抱けない。
だが、生きることに意味を感じられなくても、死ぬこともできなかった。死に対して、ある別な理由から、真帆の精神がそれを拒んだ。死んではいけない。生きられる者が自死を選ぶことに対して、許せない強い想いがあった。
「生きる屍」という表現は自分に相応しいと真帆は思う。だが、屍ならなぜ、このように涙が流れるのだろう。この苦しい胸のつかえはいつになったら消し去れるのだろう。人の優しさに痛みを感じるのだろう。
自分ではどうしようもできない苦しみの海に真帆は長い月日、溺れかけている。それも、もう限界が近かった。
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