小さなパン屋の恋物語

あさの紅茶

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四章◆それは誇り◆

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とても聞きづらい質問だったのだろう。
綾菜の顔からは笑顔が消えていた。
けれど聞いておかなければという強い意思も見える。

琴葉は一度深呼吸をしてから、静かに口を開いた。

「綾菜さん、さっき素敵なお店って言ってくださいましたよね。私も本当に素敵なお店だと思うんです。」

質問に対する答えになっておらず、綾菜はどうすべきか迷って口をつぐんだ。
すると琴葉はにこりと笑って続ける。

「このパン屋minamiは、早瀬設計事務所にデザインをお願いしたんですよ。」

「え?」

思いもよらぬ情報に、綾菜は驚いて声を上げた。
早瀬設計事務所は基本的に個人の案件を受けないからだ。
ただ、綾菜は早瀬設計事務所の社長の娘ではあるが社員ではないので、詳しいことはわからない。
不思議そうな顔をする綾菜に、琴葉は言った。

「どういう繋がりかは知りませんが、父が依頼したことは間違いないです。暖かみがあっておしゃれで、でもこの地域の風景に溶け込んでいる。私、このお店が大好きです。人を優しい気持ちにさせてくれるデザイン。雄大さんはそんな素敵な会社でお仕事をされてるんですね。」

「琴葉ちゃん。」

「両親の事故は不慮の事故です。恨んでいるかと聞かれれば、うーんどうでしょう。よくわからないです。あまり考えたことがありません。経営状況は正直あまりよろしくないです。だけどそれは私の力不足ですし、それでもminamiのパンを食べたいって仰ってくれるお客様のために、これからもパンを焼き続けたいです。」

キラキラとした瞳で語る琴葉に、綾菜は胸を打たれて自分を恥じた。
少しでも琴葉を疑ったことが申し訳なくて、頭をブンブンと振る。
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