傘使いの過ごす日々

あたりめ

文字の大きさ
52 / 106

面倒ごとは勘弁

しおりを挟む
酒場に問題なく到着できた。
昨晩の一件から道の端を通るのを避けるようになった。

やはり酒場に来れば笑い声や怒声の交じる喧騒が響いていた。
看板娘がやって来て席に案内する。
周囲から注文が飛び交っているのを全て拾いながら静也を席に案内するものだから当の静也はあんぐりと口を開けたまま案内されていく。

今日酒場に来るのはいつもより早いが、それでも殆どの席が埋まり、更にぞろぞろと客が押し寄せてくることになる。
厨房から漂う料理の旨そうな匂いが食欲を増進させられる。
匂いに釣られ次から次へ客が寄ってくる。
料理を頬張る者をみていると、やはりうまい飯は人の心を満たすものだと再確認させられる。
静也も他の客も我先にと注文をする。それはここの料理はすぐに品切れ、もとい食材切れになるからだ。
食材を買いだめしていれば良いのにと思っている者も多くいるのだが、店舗を改築、増築しようとしているかららしくそっちに金をまわしているのもあって多くは買いだめできないらしい。
そんなことがあるらしと知ったのもあるが、これからもお世話になると思うのでどんどん通うことにしようと思った。

注文を頼み食事をしていると入り口から見知った顔を見かける。
その人物とはレナである。
周りをキョロキョロと見渡している。そして何かを見つけると真っ直ぐにそちらへ向かう。
静也の席へと。
ニコニコと笑顔でこちらへ来るものだから何を言ってくるのかと少し身構えた。

「あー、警戒しないでいいよ。今日はね、話をしに来たの。」

と、いまだに笑顔を絶やさないレナ、食事を続けていいよと続ける。
そして、向かいの椅子に座り、見つめてくる。

「そういえば昨日はありがとうね。本当に助かったよ。」

レナが気絶していた時に背負って組合の貸し出し部屋に運んだときのことだ。

「いえいえ、全然問題なかったですよ。」

笑顔で返答する。女性に体重のことを話す場合冗談でも重たいとは言わないほうがいいと先人の教えがあるからだ。

「それで…覚えているかい?昨日、」

顔を赤くしながらもじもじと質問するレナを見て昨日の俺は何をしたんだと困惑する。

「すいません…昨日はほとんど酔ってて覚えてないんです。」
「そ、そうなんだ…」

そういって安堵の息を漏らした。残念そうな表情もうかがえる。深く聞かないほうがいいのだろうと思いその話題から離れることにした。

「ご一緒にご飯食べませんか?俺の奢りで大丈夫ですよ」
「あ、いや、ボクも支払うよ。これでも一端の銀級冒険者だよ。そのくらい問題ないさ。」

レナは自身の豊満な胸をたたく。叩かれた振動で揺れる胸に視線が向いてしまう。
無論、他の客もだ。
ふたりは食事を楽しんだ。

過去、冒険していた時のことだったり、迷宮と呼ばれる神々の造ったといわれるモノの攻略の時の話などを聞いた。
とても面白く、そして為になった。
ついつい頼んでしまった酒も進み、二人はほろ酔い気分で会話するのだった。


「いやー本当にこんなに楽しかった食事は久しぶりだよぉ」

レナは静也にべったりとくっついた状態でそう言う。
静也はまんざらではなさそうである。

「こちらこそ、楽しかったですよ。ありがとうございます」
「もぉ、かたいなぁシズヤくんはぁ…気軽に接してくれたらいいのに。」

レナは静也の前に立つとずいっと顔を近づける。
真正面から顔を見られているのと彼女の胸元が見えて恥ずかしくなり視線を逸らす。
それでもぐいぐいと押してくる。

「わっ、わかったわかったって!ほら、これでいいでしょ」

すると、レナはやっと離れる。
静也は解放され安堵の息を漏らす。


二人が分かれての帰り道、ほろ酔いは未だ冷めずうかれながら帰っていた。
魔導ランタンの並んだ帰路、ランタンから発せられる光に集る虫を見ると、前世のことを思い出される。
しかし、なぜか前世の記憶が色褪せて思いだし難い。
やっと捻りだし思い出せるくらいで自分のこと以外が掠れていくようにも感じられた。
それに気付くと足を止めてしまう。
疲れているから、酔っているからと考える、そう思い込むことにするも静也の顔は晴れない。

前方からなにやら男達が走っている。
昨日のならず者達だ。
昨日の報復をしに来たものだと思い、傘を召喚する。
すると急に警戒し、距離を開ける。
ならず者達の中から割って出てきたのはあの寡黙なグローブ男だった。

「…待て。…俺たちは、別に戦いに、来たわけじゃない…」

グローブ男はいたるところに怪我をしていた。
しかし、まだ報復しに来たわけじゃないとは信じてはいなかった。静也はむしろ警戒した。

「な、なんの用ですか」
「それは俺から話すで、こいついっつもこんなんやけん。あ、俺は『ガラン』、まぁ、話っちゅうのはな、俺たちのグループに入って欲しいってだけや。」

昨日のピアス男だ。そんな提案をされるが

「お断りします。」

即答だ。ならず者の仲間入りなんて誰が言ってもするわけがない。

「勿論、タダでとは言わんで。俺たちのアジトにある武器、防具、好きなん選んでもらってもかまへん、その代わり、俺たちのアジトを奪ってのっとっとるやつらを一緒に倒してほしいんや。」
「そんなの、自分らでやればいいじゃないですか。」
「そうはいかんのや。うちのリーダーの『バラン』でも手こずるんや、そんなん相手にしてたらバランが死んでまう。」

バランとは寡黙なグローブ男だ。バランは話を聞いていて悔しそうな顔をしている。

「そんなのと戦わせようってこと?俺で倒せるわけがないでしょ。それに死ぬようなことしたくないですよ」
「そこをなんとか頼むって。この通りや」

ガランが頭を下げる。周りのならず者は驚くばかりだった。

「……俺からも、頼む…」

ついにはバランまでも頭を下げる。
他のならず者もおれも、おれからもと、頭を下げる。
目の前には十数人の男たちが静也に頭を下げている。そんな光景が村の道の端でおきている。
通行人もいるのでこのままでは変な噂が立たれるのではと思い

「わ、わかっ、分かりましたって!だからもう頭を上げてください!話は明日また聞きますから。」

ガランが顔をバッと上げる、歓喜と期待の眼差しを直に受け静也は一歩後退りしてしまった。

「ありがとなぁ!ほんまありがとな!明日…せやなぁ組合の裏にある『グールデン』ってところによってくれ、「ガランから聞いてないか」って言ったら入れさせてくれるはずや!」

話がどんどんと進んでいき、静也は灰になりそうだった。
ならず者と関わりがある、なんて噂が立たれると思うとお先真っ暗の未来しか見えない。

「わかりました。けど、俺はあなたたちとは一切つるむ気はないですし。この件が終わったらならず者をやめて真っ当に働いてくださいね。」
「あ?なに言って…「やめてくださいね?」…はい」

これ以上、ならず者と一緒にいたら俺がどんな目で見られるか。ちょっと察しろと言わんばかりの目でにらみつける。

「ほな、また明日、きてくれな。」

ぞろぞろと去っていく者たちを見送り、見えなくなったころには尻から倒れた。
面倒ごとはもう勘弁してくれと思わず叫んでしまいそうになった。
通行人から大丈夫か?がんばったな、なんだったんだと、質問の嵐

宿に戻るころには疲れ果て、部屋に入りベッドに横になり、泥のように眠ってしまった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

処理中です...