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連載
119.コミカライズ発売記念特別編
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俺が通っている九重高校。敷地内の裏山には、平安時代から残る小さな稲荷神社がある。
ここは掃除の時間以外、生徒があまり来ない場所だ。
雨が降らない限りは、友人の紗雪と慧と千景と一緒にここでお昼をとっている。
俺たちの姿が見えると、二狐が駆け寄って来た。
「蒼真ぁ!今日のお弁当なぁに?」
俺の足元にすり寄る二狐を、遅れてやって来た一狐が窘める。
「こら、二狐!犬ころみたいにはしゃぐな。俺たちは誇り高き神使なんだぞ」
そう。白い子犬にしか見えない彼らは、ここの稲荷神社の神使だ。
「わかってるよぅ」
二狐は俺の持っているお弁当箱の匂いを嗅ぎながら返事をする。
その返事に適当さを感じとったのか、一狐は苛立った様子でタシタシと足を鳴らした。
「全然わかってないだろうが!」
このやり取りは毎度のことだ。
俺は小さく笑って、境内のベンチに腰掛け、お弁当の包みを開ける。
「今日は一狐たちの好きな油揚げロールだよ」
油揚げでひき肉を巻いて、出汁で煮たおかずである。
「わぁい!」
二狐はふわふわの尻尾を、ぶんぶんと揺らした。
分けてあげる用にと、一狐と二狐用の小皿は持って来ている。その小皿におかずを載せて、二匹に出してあげた。
「千景たちの分もあるから、良かったら食べて」
「やった!ありがとうな!」
千景は大喜びで、油揚げロールを取り皿に載せる。
寮暮らしの千景は、お昼はいつも購買のパン。俺のお弁当をわけてもらうのを、楽しみにしている。
慧も続いて取りながら、俺に言う。
「ありがとう、蒼真。だけど、たくさん用意するの大変じゃないか?いつも持ってこなくていいんだぞ」
「「え!」」
それを聞いて、油揚げロールにかぶりついていた一狐と二狐、千景の動きが止まる。
油揚げロールを咥えながら俺の答えを待つその表情は、ひどく不安そうだった。
ちょっと噴き出しそうになるのを堪え、俺は微笑む。
「お弁当は作るんだし、量が増える分には問題ないよ」
前の晩に下ごしらえしておいたり、おかずを作り置きして冷凍保存することも覚えた。
やっていくうちに、どんどんと要領がよくなってきている気がする。
俺の返答に、千景たちはホッとして食事を再開する。
「ねぇ、蒼真君。その手に持っている、ちいさい袋は何?」
紗雪の質問に、俺は袋を開けながら言う。
「あ、これ?火焔のお弁当箱だよ。この前、結月さんが買ってきてくれたんだ」
どこで手に入れたのか、小さいけれど作りのしっかりしている楕円形の木のお弁当だ。
俺がそれを小鬼の火焔に手渡すと、火焔は紗雪たちに向かって自慢げに掲げる。
「弁当箱の形は、蒼真の弁当箱と一緒か」
「お揃いで良かったわね」
慧と沙雪の言葉に、火焔はにっこりと笑う。
「お弁当作りも一緒にやったんだよね?」
火焔はコクコクと頷き、お弁当箱を皆に開けて見せた。
中には油揚げロールと一緒に、豆二つ分の大きさのおにぎりが幾つか入っている。
四苦八苦しつつ、火焔が握ったおにぎりだ。
ちなみにこの小さなおにぎりは、俺のお弁当の中にも入っている。
随分多めに作ってるなぁと思ったら、俺の分も作ってくれてたんだよね。
「ふふ、可愛いおにぎりね。私も今度、蒼真君たちと一緒にお弁当作りがしたいわ」
羨まし気な紗雪に、慧がすかさず顔をしかめる。
「紗雪に出来るのか?」
「失礼ね。出来るわよ」
「お嬢様に?」
「家庭科もちゃんと受講してるんだから。慧より上手いわよ」
慧と紗雪はムッと眉を顰める。
二人の間に不穏な空気を感じて、俺は慌てる。
「えっと、じゃあ、今度のお休みの日に、皆で一緒にお昼でも作る?」
俺の提案に、千景と火焔がすかさず手を挙げる。
「おお!賛成!やりたい!」
お互いを睨みあっていた慧と紗雪も、こちらに顔を向けて頷く。
「いいな、それ」
「絶対に行くわ!」
「じゃあ、約束ね」
智樹も誘おうかな。河太や河次郎もやりたいって言うかもしれない。
ともあれ、皆でわいわい作るのは楽しみだ。
俺は自分のお弁当の中にある小さなおにぎりを摘まんで口に入れ、同じくおにぎりを頬張る火焔と微笑みあった。
ここは掃除の時間以外、生徒があまり来ない場所だ。
雨が降らない限りは、友人の紗雪と慧と千景と一緒にここでお昼をとっている。
俺たちの姿が見えると、二狐が駆け寄って来た。
「蒼真ぁ!今日のお弁当なぁに?」
俺の足元にすり寄る二狐を、遅れてやって来た一狐が窘める。
「こら、二狐!犬ころみたいにはしゃぐな。俺たちは誇り高き神使なんだぞ」
そう。白い子犬にしか見えない彼らは、ここの稲荷神社の神使だ。
「わかってるよぅ」
二狐は俺の持っているお弁当箱の匂いを嗅ぎながら返事をする。
その返事に適当さを感じとったのか、一狐は苛立った様子でタシタシと足を鳴らした。
「全然わかってないだろうが!」
このやり取りは毎度のことだ。
俺は小さく笑って、境内のベンチに腰掛け、お弁当の包みを開ける。
「今日は一狐たちの好きな油揚げロールだよ」
油揚げでひき肉を巻いて、出汁で煮たおかずである。
「わぁい!」
二狐はふわふわの尻尾を、ぶんぶんと揺らした。
分けてあげる用にと、一狐と二狐用の小皿は持って来ている。その小皿におかずを載せて、二匹に出してあげた。
「千景たちの分もあるから、良かったら食べて」
「やった!ありがとうな!」
千景は大喜びで、油揚げロールを取り皿に載せる。
寮暮らしの千景は、お昼はいつも購買のパン。俺のお弁当をわけてもらうのを、楽しみにしている。
慧も続いて取りながら、俺に言う。
「ありがとう、蒼真。だけど、たくさん用意するの大変じゃないか?いつも持ってこなくていいんだぞ」
「「え!」」
それを聞いて、油揚げロールにかぶりついていた一狐と二狐、千景の動きが止まる。
油揚げロールを咥えながら俺の答えを待つその表情は、ひどく不安そうだった。
ちょっと噴き出しそうになるのを堪え、俺は微笑む。
「お弁当は作るんだし、量が増える分には問題ないよ」
前の晩に下ごしらえしておいたり、おかずを作り置きして冷凍保存することも覚えた。
やっていくうちに、どんどんと要領がよくなってきている気がする。
俺の返答に、千景たちはホッとして食事を再開する。
「ねぇ、蒼真君。その手に持っている、ちいさい袋は何?」
紗雪の質問に、俺は袋を開けながら言う。
「あ、これ?火焔のお弁当箱だよ。この前、結月さんが買ってきてくれたんだ」
どこで手に入れたのか、小さいけれど作りのしっかりしている楕円形の木のお弁当だ。
俺がそれを小鬼の火焔に手渡すと、火焔は紗雪たちに向かって自慢げに掲げる。
「弁当箱の形は、蒼真の弁当箱と一緒か」
「お揃いで良かったわね」
慧と沙雪の言葉に、火焔はにっこりと笑う。
「お弁当作りも一緒にやったんだよね?」
火焔はコクコクと頷き、お弁当箱を皆に開けて見せた。
中には油揚げロールと一緒に、豆二つ分の大きさのおにぎりが幾つか入っている。
四苦八苦しつつ、火焔が握ったおにぎりだ。
ちなみにこの小さなおにぎりは、俺のお弁当の中にも入っている。
随分多めに作ってるなぁと思ったら、俺の分も作ってくれてたんだよね。
「ふふ、可愛いおにぎりね。私も今度、蒼真君たちと一緒にお弁当作りがしたいわ」
羨まし気な紗雪に、慧がすかさず顔をしかめる。
「紗雪に出来るのか?」
「失礼ね。出来るわよ」
「お嬢様に?」
「家庭科もちゃんと受講してるんだから。慧より上手いわよ」
慧と紗雪はムッと眉を顰める。
二人の間に不穏な空気を感じて、俺は慌てる。
「えっと、じゃあ、今度のお休みの日に、皆で一緒にお昼でも作る?」
俺の提案に、千景と火焔がすかさず手を挙げる。
「おお!賛成!やりたい!」
お互いを睨みあっていた慧と紗雪も、こちらに顔を向けて頷く。
「いいな、それ」
「絶対に行くわ!」
「じゃあ、約束ね」
智樹も誘おうかな。河太や河次郎もやりたいって言うかもしれない。
ともあれ、皆でわいわい作るのは楽しみだ。
俺は自分のお弁当の中にある小さなおにぎりを摘まんで口に入れ、同じくおにぎりを頬張る火焔と微笑みあった。
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