342 / 367
第20章~転生王子と後期授業
2019<亥年>お正月特別編。初夢のお話
しおりを挟む
俺、一ノ瀬陽翔は、生活費を稼ぐためバイト三昧な大学生生活を送っている。
今日は新年初めのイベントスタッフのバイトだ。
ただ、イベントの呼び込みは終わってあとは片付け作業のみなので、イベント中は特にすることはない。
欠伸を噛み殺しながらステージ脇でイベントを眺めていると、バイトの先輩が隣に来て声をかけて来た。
「眠そうだな、陽翔。もしかして、今日もバイト何個かやってきたのか?」
正月はバイト代が上がるので、短時間バイトを一日で何か所か行うことが多い。
「まぁ、この前に一つバイト終わらせてきてはいるんですけど、それが原因じゃないです。今朝、変な夢を見ちゃって……」
俺が脱力気味に言うと、先輩は微かに首を傾げる。
「変な夢?」
俺は話そうと思ったが、一呼吸おいて「やっぱりいいです」と口を閉じた。
「なんだよ。気になるだろ。言えよ」
肩でトンと突かれて、俺は小さくため息を吐いた。
「俺が事故で死んで、異世界の王子様に転生した夢を見たんです」
「王子様?」
「はい。その世界の動物は不思議な力をもっていまして、そんな動物達を召喚獣にしたり、特殊な鉱石を使い魔法みたいなことができたりするんですよ。それで俺は精霊や、伝承の獣を召喚獣にするんです」
そう話をすると、先輩は目を数度瞬かせたのち、ボソリと呟いた。
「それは……願望かな?」
俺は恥ずかしさに顔を覆う。
「やっぱり願望ですかね?動物とかいっぱい出てきて、めっちゃもふもふしてたもんなぁ。昼寝でもふもふして、もふもふに乗って空の旅もして、もふもふ動物と会話も出来て……」
「疲れてんだよ。何をそんなにもふもふしてんのか知らねぇけど、癒しを求めてんだよ」
先輩はそう言って、肩をポンと叩いて慰める。
「まぁ、良かったじゃん。今日のイベントは動物関連なんだし、少しは夢がかなったじゃないか」
あ、そっか。今日のイベントって干支の引き継ぎ式だったっけ。犬と猪を対面させて、「引き継ぎしました~」的なことするんだよな。子犬とウリ坊だったら可愛いだろうなぁ。それは見てみたい。
そんなほのぼの光景を思い浮かべて頬を緩ませていると、先輩がステージを指さした。
「ほら、今ステージで、山犬からボルケノに引き継ぎするところだ」
「……は?山犬?ボルケノ?」
ステージを見ると、虚ろな目をしたやせ細った犬と、巨大な猪がいた。
「なっなななな、何ですかあれっ!!」
俺が驚いて大きな声で言うと、先輩がギョッとして俺の口を塞ぐ。
「イベント中に大きな声を出すなよ。何って決まってるだろう。去年の干支の山犬と、今年の干支のボルケノの引き継ぎ式じゃないか」
俺は塞いでいる手を剥がしながら言う。
「いや、だってあれ夢に出て来た魔獣ですよ?」
「当たり前だろ。魔獣干支引き継ぎ式なんだから」
「魔獣干支って、何だそれっっ!」
俺は叫びながら、ベッドから飛び起きた。
「……え?」
荒い息を吐きながら、シンと静まり返った薄暗い室内を見回す。
え?あれ?……ここって。
すると、うすぼんやりと黄色い何かが光る。
【フィル~?】
うつらうつらと体を揺らしながら光る丸いフォルム。これはコハクだ。
「……コハク」
コハクの光に照らされて、テンガとザクロが目元をこすりながら言う。
【フィル様、何すか?】
【フィル様、事件ですかい?】
窓辺にいたヒスイが、ベッドの脇に立って俺の顔を覗き込む。
【うなされていましたわよ。フィル】
【怖い夢見たですか?】
ホタルが心配そうに俺の胸に顔を摺り寄せ、俺はどっと力が抜けた。
「夢……夢か。そうかぁぁ」
ホタルに顔を埋め、大きく息を吐く。
久々に見た前世の夢が、あれだとは……。魔獣干支って何なんだよ。
干支で犬の次は猪だって言っても、山犬からボルケノに引き継ぎって……。
【フィル様大丈夫ですか?】
ルリの言葉に顔を上げて、皆の頭を撫でて微笑んだ。
「大丈夫。夢見て驚いちゃっただけなんだ。皆を起こしちゃってごめんね」
そう言うと、皆はホッとした様子をみせる。
【まぁ、これだけ騒いでおるのに約一匹起きない者もいるがな】
コクヨウが呆れた様子でチラリと見るその視線の先には、ランドウが大の字で寝ていた。
かぴゅ~かぴゅ~と変な寝息を立て、幸せそうな顔だ。見ていると何だかこちらも眠たくなってくる。
ホタルやテンガも目をトロリとさせ始めたので、俺はホタルたちの頭を撫でて再び横になった。
俺の周りにコクヨウやホタルやテンガたちが来て、寝る態勢をとる。
顔にふわふわの毛が当たって、気持ちが良かった。
ヒスイは俺の毛布を直して、にっこりと微笑む。
「おやすみなさい、フィル。良い夢を」
何だか次は、良い夢が見られそうだった。
今日は新年初めのイベントスタッフのバイトだ。
ただ、イベントの呼び込みは終わってあとは片付け作業のみなので、イベント中は特にすることはない。
欠伸を噛み殺しながらステージ脇でイベントを眺めていると、バイトの先輩が隣に来て声をかけて来た。
「眠そうだな、陽翔。もしかして、今日もバイト何個かやってきたのか?」
正月はバイト代が上がるので、短時間バイトを一日で何か所か行うことが多い。
「まぁ、この前に一つバイト終わらせてきてはいるんですけど、それが原因じゃないです。今朝、変な夢を見ちゃって……」
俺が脱力気味に言うと、先輩は微かに首を傾げる。
「変な夢?」
俺は話そうと思ったが、一呼吸おいて「やっぱりいいです」と口を閉じた。
「なんだよ。気になるだろ。言えよ」
肩でトンと突かれて、俺は小さくため息を吐いた。
「俺が事故で死んで、異世界の王子様に転生した夢を見たんです」
「王子様?」
「はい。その世界の動物は不思議な力をもっていまして、そんな動物達を召喚獣にしたり、特殊な鉱石を使い魔法みたいなことができたりするんですよ。それで俺は精霊や、伝承の獣を召喚獣にするんです」
そう話をすると、先輩は目を数度瞬かせたのち、ボソリと呟いた。
「それは……願望かな?」
俺は恥ずかしさに顔を覆う。
「やっぱり願望ですかね?動物とかいっぱい出てきて、めっちゃもふもふしてたもんなぁ。昼寝でもふもふして、もふもふに乗って空の旅もして、もふもふ動物と会話も出来て……」
「疲れてんだよ。何をそんなにもふもふしてんのか知らねぇけど、癒しを求めてんだよ」
先輩はそう言って、肩をポンと叩いて慰める。
「まぁ、良かったじゃん。今日のイベントは動物関連なんだし、少しは夢がかなったじゃないか」
あ、そっか。今日のイベントって干支の引き継ぎ式だったっけ。犬と猪を対面させて、「引き継ぎしました~」的なことするんだよな。子犬とウリ坊だったら可愛いだろうなぁ。それは見てみたい。
そんなほのぼの光景を思い浮かべて頬を緩ませていると、先輩がステージを指さした。
「ほら、今ステージで、山犬からボルケノに引き継ぎするところだ」
「……は?山犬?ボルケノ?」
ステージを見ると、虚ろな目をしたやせ細った犬と、巨大な猪がいた。
「なっなななな、何ですかあれっ!!」
俺が驚いて大きな声で言うと、先輩がギョッとして俺の口を塞ぐ。
「イベント中に大きな声を出すなよ。何って決まってるだろう。去年の干支の山犬と、今年の干支のボルケノの引き継ぎ式じゃないか」
俺は塞いでいる手を剥がしながら言う。
「いや、だってあれ夢に出て来た魔獣ですよ?」
「当たり前だろ。魔獣干支引き継ぎ式なんだから」
「魔獣干支って、何だそれっっ!」
俺は叫びながら、ベッドから飛び起きた。
「……え?」
荒い息を吐きながら、シンと静まり返った薄暗い室内を見回す。
え?あれ?……ここって。
すると、うすぼんやりと黄色い何かが光る。
【フィル~?】
うつらうつらと体を揺らしながら光る丸いフォルム。これはコハクだ。
「……コハク」
コハクの光に照らされて、テンガとザクロが目元をこすりながら言う。
【フィル様、何すか?】
【フィル様、事件ですかい?】
窓辺にいたヒスイが、ベッドの脇に立って俺の顔を覗き込む。
【うなされていましたわよ。フィル】
【怖い夢見たですか?】
ホタルが心配そうに俺の胸に顔を摺り寄せ、俺はどっと力が抜けた。
「夢……夢か。そうかぁぁ」
ホタルに顔を埋め、大きく息を吐く。
久々に見た前世の夢が、あれだとは……。魔獣干支って何なんだよ。
干支で犬の次は猪だって言っても、山犬からボルケノに引き継ぎって……。
【フィル様大丈夫ですか?】
ルリの言葉に顔を上げて、皆の頭を撫でて微笑んだ。
「大丈夫。夢見て驚いちゃっただけなんだ。皆を起こしちゃってごめんね」
そう言うと、皆はホッとした様子をみせる。
【まぁ、これだけ騒いでおるのに約一匹起きない者もいるがな】
コクヨウが呆れた様子でチラリと見るその視線の先には、ランドウが大の字で寝ていた。
かぴゅ~かぴゅ~と変な寝息を立て、幸せそうな顔だ。見ていると何だかこちらも眠たくなってくる。
ホタルやテンガも目をトロリとさせ始めたので、俺はホタルたちの頭を撫でて再び横になった。
俺の周りにコクヨウやホタルやテンガたちが来て、寝る態勢をとる。
顔にふわふわの毛が当たって、気持ちが良かった。
ヒスイは俺の毛布を直して、にっこりと微笑む。
「おやすみなさい、フィル。良い夢を」
何だか次は、良い夢が見られそうだった。
146
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
ねえ、今どんな気持ち?
かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた
彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。
でも、あなたは真実を知らないみたいね
ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・
俺の伯爵家大掃除
satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。
弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると…
というお話です。
心が折れた日に神の声を聞く
木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。
どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。
何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。
絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。
没ネタ供養、第二弾の短編です。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。
しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹
そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる
もう限界がきた私はあることを決心するのだった
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。