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10巻
10-1
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ステア王立学校中等部の夏季休暇。
俺――フィル・グレスハートは今、アルフォンス兄さん、友人のアリスやカイルと一緒に、コルトフィア王国を旅行している。
最終目的地は、アルフォンス兄さんの婚約者の待つコルトフィア王都にある城。
その王城まではコルトフィアを観光しつつ、ゆったりのんびりの馬車旅だ。
大変なことはひとつもない……はずだったのだが、またもやトラブル続出。
ピレッドの街では領主の密輸が発覚し、タズ村の森では魔獣ボルケノが大暴れ。
俺が解決へ導いたとバレないようにしつつ、領主の悪事を暴き、ボルケノを倒した。
本当に大変だったよぉ。のんびり旅なんてできやしない。
旅の唯一の癒しといえば、ヴィノ村で会った可愛い子ヴィノたちと戯れたことくらいだ。
ともあれ、目的のコルトフィア王都まであと少し。未来のお義姉さんはどんな人なんだろう。
アルフォンス兄さんの弟として、コルトフィア王家の方々に好印象をもってもらわなくちゃ。
ヴィノ村を出発したその日の夜、俺たちは王都手前のサルベールという街に到着した。
ここは劇場や闘技場など、娯楽施設が多い。コルトフィアでも有名な観光の街である。
アルフォンス兄さんの提案で、この街で数日観光してから王都へ向かうことになっていた。
まぁ、ピレッドやタズ村の件があったせいで、俺の単独観光は許されず、アルフォンス兄さんと一緒にという条件付きなのだけど。
俺は宿屋の窓から、外の大通りを見下ろした。
この世界にもランプ式の街灯はあって、道を照らしてくれる。
サルベールは通りに街灯がたくさん並んでいるんだな。今まで行ったことがある街で、夜でもこんなに明るいのは初めてだ。
これだけ明るかったら、日が暮れてからも出かける気になるよね。
うちのグレスハート王国は、王都の大通りでさえ街灯が少なかったもんなぁ。
日が暮れたら寝て、日の出とともに起きる農業国民が多いからだろうか。
ただ、ステアやドルガドの王都も、ここまで街灯は多くない。大通りを外れると真っ暗だった。
グラント大陸の船の玄関口でもある商業国カレニアの港街は、夜でも煌々と明るかったけれど、それは港の一画だけで、街全体で比べたらこのサルベールに敵わないだろう。
窓の外を歩く観光客は、劇場通りと呼ばれる通りへと向かっていた。劇場通りとは、その名の通り小劇場や大劇場が並んでいる道である。
サルベールには大小様々な劇場があって、昼も夜も演劇や歌劇が観られるようになっている。
観客を飽きさせないよう、同じ演目でも昼と夜とでガラリと内容を変えたり、お客の反応を見て日々構成を変えたりするそうで、一週間毎日、昼の部と夜の部に通うなんて人もいるらしい。
せっかく来たのだから昼も夜も観たいけど、子供の俺に許されているのは当然昼の部のみである。
……早く大人になりたい。
仕方ないのでサルベールに到着した日はそのまま就寝し、観光は明日に持ち越されることになった。
◆ ◆ ◆
翌日。まずひとつ目の観光は、大劇場で歌劇を観ること。
アルフォンス兄さんと俺とカイルとアリス、アルフォンス兄さん付きの近衛兵であるリックやエリオット、さらに六人の護衛の合計十二人。
王族としての街観光となると、護衛の人数がどうしても増えてしまう。
本当は庶民観光で気軽にちょこちょこ巡りたいけど、今回は我慢するほかない。
王族や貴族専用の入り口から劇場に入り、二階のボックス席に座る。
ボックス席は周りが囲われているタイプで、小声で会話するくらいであれば、他の観客の迷惑にならなそうだ。
アルフォンス兄さんは隣に腰掛けた俺を見て、満足げに頷く。
「やっぱり水色の服を選んで良かった。さり気なく入っている銀糸の刺繍が、フィルの髪色にとても似合っているよ」
この服を着てから、十数回目にもなるお褒めの言葉である。
小劇場なら普段着で気軽に観られるが、大劇場は正装もしくは正装に近い格好というのが暗黙のルールとなっている。
観劇をした後も観光を続けるので完全なる正装ではないが、俺たちも全員ドレスアップをしていた。もちろん護衛のリックたちも、近衛兵の正装を着ている。
それにしても、相変わらずアルフォンス兄さんは、手放しで俺のこと褒めてくれるなぁ。
ただ、俺もこの服は装飾が控えめなので、とても気に入っている。
「ありがとうございます。アルフォンス兄さまも、すごくお似合いですよ」
「そうかい? ありがとう」
爽やかに微笑むアルフォンス兄さんは、金糸の刺繍が施されたピーコックグリーンのジャケットを着ていた。刺繍だけでなく生地自体にも光沢があるので、とても華やかだ。
アルフォンス兄さんだからこそ、着こなせる服だと思う。
すると、隣でぼそぼそと話すカイルとアリスの声が聞こえた。
「この格好、落ち着かないな」
「実は、私も。ドレスが素敵過ぎて、緊張するわ」
カイルは黒をベースとした正装で、アリスは薄いピンクのドレスを着ている。
アルフォンス兄さん自ら見立てて用意した服だけあって、二人ともとても似合っていた。
しかし、本人たちにしてみると、高級感のある服はひどく緊張するものらしい。
わかる。俺だって少し慣れてはきたものの、前世からの庶民感覚が抜けきらなくて、汚したらどうしようってすぐ考えちゃうもんな。こういう綺麗な服より、断然普段着のほうがいい。
まぁ、劇を観るためには我慢するほかないのだけど……。
何せリックおすすめの、今サルベールで一番有名な劇団の歌劇だって話だからな。
最新の時事ネタを取り入れる自由さ、脚本の面白さ、役者の歌唱力や演技力、どれをとっても素晴らしいと言っていた。
「わぁ、満席ですね」
劇場内を見回しつつ言ったアリスに、後ろで控えていたリックが微笑む。
「昨夜チケットを買いに来た時、売り場の子が最新作をやるって教えてくれました。皆、その噂を聞きつけて来たのではないでしょうか」
なるほど。多くの観客がどこかわくわくした顔をしているのは、最新作が観られるかもしれないという期待によるものか。
「それにしても、昨日の今日でよくチケットが取れたね」
俺たちが街に着いたのは夜だ。これだけ人気なら、その時間帯にチケットを買いに行って、人数分を手に入れるのは奇跡に近い。
すると、リックは少し首を傾げる。
「そこが不思議なんですよね。この席が一般席より少し金額が高いこともあるのかもしれませんが、わりとすんなり取れたので驚きました」
すんなり? 突然のキャンセルでも出たのだろうか?
俺も一緒になって首を傾げたその時、劇場内の灯りが徐々に消えていった。
軽やかな音楽が流れ、舞台の幕が上がる。
まずはヴィノたちがのどかに草を食むシーンから始まった。
ヴィノはコルトフィアで神聖視されている山羊だ。
へぇ、動物も役者が演じているのか。
顔を白塗りにしてヴィノの顔を描き、頭には角、体に毛糸をつけている。
四つん這いの状態なのに、動きは滑らかで、ヴィノの動きが上手く表現されていた。
メェメェという鳴き声を使い、ヴィノ役が歌う。そこへヴィノ遣いや村人の役者が現れ、ヴィノ役の声に合わせて、平凡ながら幸せな日常を生き生きと歌いあげる。
肉声であるにもかかわらず、彼らの歌声はホール全体に響いた。
この出だしだけで、表現力も演技力もすごいことがわかる。
のどかな雰囲気は、ヴィノと村人の住む平和な村に、新しい領主がやって来たことで一変する。
村人は強欲な領主に搾取され、虐げられて弱っていく。
ヴィノたちは人々から感じた苦しみを、ヴィノの神様へ訴えた。
その神様は人の言葉を話すようで、威厳のある声で歌いながら村人たちを思って憂い、苦悩する。
やがてヴィノの神様は、神の言葉を届ける使いをヴィノたちに授けるのだった。
「神の言葉を届ける……使い?」
何か……この内容どこかで……。
俺が前のめりになって舞台を観ていると、岩山のセットに乗ったヴィノの神様が消え、入れ替わりで帽子をかぶった子供が現れた。
帽子を目深にかぶっているので顔はよく見えないが、その子供役は小柄な女性が担当しているみたいだ。
少年のような声色で、その役者はヴィノたちに向かって言う。
「私はヴィノの御使い!! 神より命を受け、領主の悪事を白日の下にさらす!!」
その宣言に、ヴィノ役だけでなく観客たちからも歓声が上がる。
ヴィノの御使い!
これってもしかして、ピレッドの事件のこと?
そしてあのヴィノの御使いは、俺かっ!?
「あ、あ、アルフォンス兄さま、これって……」
「今回の最新作はピレッドの一件のようだね。時事を取り入れるのが早いとは聞いていたが、これほどまでとは……」
唸るアルフォンス兄さんに、俺は眉を下げて困り顔をする。
「感心してる場合ではないです。僕たちのこと、劇にされちゃってますよ」
これは、ピレッドの街で領主の悪事を暴いたことを演劇にしたものだ。
ピレッドの街でヴィノと散歩をしていた時、俺が領主家のことを話題にすると、以前から領主家を良く思っていなかったヴィノたちは物申してやると意気込み、暴走を始めた。
そのヴィノたちが持ってきた不正の証拠や、アルフォンス兄さんの活躍によって領主の罪が明らかになったまでは良かったのだが……。
不本意ながらヴィノの群れを引き連れて屋敷の屋根に現れた俺は、街の人々に「ヴィノの御使い様」と呼ばれ、像まで作られることになってしまった。
帽子を目深にかぶっていたので顔はバレていないはずだが、どうにも居心地が悪い。
ボックス席だからそこまで気にせずともいいのに、状況が状況なだけに自然と声を潜めてしまう。
「そうだね。この劇のヴィノの御使い役も確かに可憐だが、フィルに比べるとやはり内から輝く可愛らしさが足りないよね」
アルフォンス兄さんはジッと舞台を見つめて、眉をひそめた。
俺が言いたいのはそういうことじゃないんだが……。
劇にされたということは、この話が一気に人々に広がるということだ。
いや、まぁ、内容としてはピレッドの人々の認識とほぼ変わりはなく、全くの嘘ってわけでもないのだけど……。
「アルフォンス殿下。もしかしてリックがチケットをすんなり取れたのは、私たちをグレスハートの一行だと気がついてのことでしょうか」
エリオットが言うと、アルフォンス兄さんは舞台を見つめながら頷いた。
「昨夜私たちが到着した時点で、すでに情報を入手していたのかもしれない。今日この演目にしたのも、私たちを意識してだろう。そう考えると、劇団の中に随分情報収集に長けた者がいるものだね」
確かに、ストーリーはドラマチックになってはいるが、内容はとても忠実だった。
ピレッドの件を知っている人が、すぐに劇の内容と結びつけられるくらいに……。
舞台では旅の途中に村に立ち寄った王子が、ヴィノの御使いとともに領主を糾弾していた。
その役者はアルフォンス兄さんと雰囲気の似ている、華やかな美形だ。
ヴィノの御使いがキャスケットの帽子をかぶっていることからも、人物の特徴を捉えたキャスティングや衣装といえる。
「領主を引っ捕らえろっ!」
「ハッ!」
王子の命により、兵士が領主たち家族を捕らえる。
「王子様お許しをっ!! お許しをぉぉぉぉっ!!」
「いやぁ! どうして私がこんな目に遭うのっ!」
領主一家が連れて行かれると、村人たちは歓喜の声を上げた。
そして岩山に立ったヴィノの神様と御使いに、村人たちが感謝の歌を捧げる。
そんな感動的なフィナーレで、舞台は幕を閉じた。
幕が下りてしばらくしても、観客たちからの拍手は鳴り止まない。
俺たちも観客と一緒に、拍手を送る。
題材の問題はあるが、劇自体はとても素晴らしかった。その賞賛は素直にするべきだろう。
幕が再び開いて、役者たちが揃って観客にお辞儀をする。
王子様役の人が真ん中にいて、役者たちにお辞儀を促す。若そうに見えるが彼が団長なのだろうか。
挨拶を終え幕が下がっていく中、舞台の彼がこちらを見た気がした。
ランプが灯り、劇場内が再び明るくなると、観客が席を立ち始めた。
劇に夢中で、何だかあっという間だったなぁ。
「私たちもそろそろ移動しようか」
微笑むアルフォンス兄さんに、俺たちは頷く。
「昼までに少し時間があるけど、どこか行きたいところはあるかい?」
尋ねられて、俺は考え込む。
行きたい場所は、闘技場だけど。そこはカイルがゆっくり見たいだろうから、昼を食べた後のほうがいいよな。
街並みを見るだけでも楽しいが、アリスがいるから買い物ができるお店を回るのもよさそうだ。
そんなことを考えていると、安全確認のため先にボックス席を出たリックとエリオットが戻ってきた。エリオットは軽く礼をして、アルフォンス兄さんに向かって報告する。
「アルフォンス殿下。外に劇団の者が来ております」
「劇団の者が? どうして?」
アルフォンス兄さんが不思議そうに尋ねると、リックが声を少し潜めて言う。
「劇団の座長がぜひご挨拶したいと申しているそうです。もしご了承いただけるなら、外にいる者が案内するそうですが……。いかがなさいますか?」
リックの問いに、アルフォンス兄さんは小さく唸る。
アルフォンス兄さんが彼らを警戒する気持ちはわかる。
一般的に劇団の多くは、劇団運営のためスポンサーを欲している。
権力者に後ろ盾になってもらえれば、金銭面の援助だけでなく、いろいろと優遇してもらえることもあるからだ。
だけど、この劇団はおそらくスポンサーを求めてはいない。
理由はこの劇団の良さ――時事ネタを自由に取り上げているという点にある。
スポンサーが関わってくると、演目の自由度が失われるし、場合によっては都合のいい脚色を要求されることもあるからな。本来の良さを失って、固定ファンを逃しては本末転倒だ。
この劇団は俺たちが劇場にいるとわかって、ピレッドの演目を行った。
ならば、これもただの挨拶ではなく、何かしらの意図のある接触と考えるのが妥当だろう。
何にしても、実際会って話を聞いてみないとわからないか……。
「アルフォンス兄さま。僕、その座長さんとお話ししてみたいです。アルフォンス兄さまも気になっていらっしゃることがあるのでしょう?」
俺がそう言うと、アルフォンス兄さんが少し困った顔をした。
「確かにそうだが……」
「ご挨拶して、それからお昼を食べに行きましょう」
俺の微笑みに、アルフォンス兄さんは苦笑して俺の頭を撫でた。
「わかったよ。じゃあ、座長に会いに行こうか」
俺たちがボックス席から出ると、劇団員は劇場内にある客間へと案内した。
そこは上流階級の人を通す特別な部屋らしく、豪華な調度品が並んでいる。
部屋の中には、こちらに向かって深々と頭を下げる人物が三人いた。
「申し訳ありません。私が自らご案内するべきでしたが、舞台終わりの姿はとてもお見せできるものではありませんので……」
綺麗に整えられた服装は清潔感があった。汗臭さどころか、ふんわりと香油の香りもする。
どうやら案内してもらう間に、着替えてきたらしい。
「それは承知している」
アルフォンス兄さんが軽く頷き、劇団員に顔を上げるように言う。
真ん中にいたのは、先ほどの舞台で王子役をしていた彼だった。
俺たちにソファを勧め、アルフォンス兄さんの許可を得て、彼らも対面しているソファに座る。
「私は劇団ジルカを率いております、座長のリベル・オーヴィンと申します」
やはりこの人が、座長だったのか。
満面の営業スマイルで挨拶するリベルの口調は、とても快活で歯切れが良かった。
俺たちの手前、言葉遣いに気をつけてはいるが、チャキチャキとした元気さが言葉の端々に感じられる。
二十代前半かな? その年齢で座長は、やはり若い。
舞台の上ではアルフォンス兄さんに雰囲気が似ていると思ったが、リベル本人を前にすると、あれは演技によるものだったのだとわかる。
金髪碧眼で華やかな点は共通しているが、元気な口調や仕草はアルフォンス兄さんにはないものだ。
「隣にいるのが劇団の脚本と劇場管理を任せているグラン・ケイブ。うちの劇団の看板役者のユラ・ミニマです」
リベルの右隣にいるグランという人は、黒髪で体が大きいわりに、全体的に印象が薄かった。
チラチラとリベルを見て、彼が何か粗相をしないかと不安そうな顔をしている。
リベルの左隣にいるユラという人は、とても小柄な女性だ。
身長やその線の細さから、おそらくこの人がヴィノの御使い役を演じた人だろう。
赤い髪のショートカットで、舞台ではあんなに生き生きとしていたのに、今は無表情だった。
何を見ている風でもなく、ただ前を見つめている。
まさに三者三様だな。
「私はグレスハート王国皇太子アルフォンス・グレスハート。こちらが末の弟のフィル、弟の友人のアリスとカイルだ」
紹介されて俺たちが軽く頭を下げると、リベルはそれに微笑む。
「グレスハート王国の皇太子殿下様方におかれましては、サルベールの数ある劇団の中から我がジルカの公演を観に来てくださいまして、まことにありがとうございます」
そう言って綺麗な所作でお辞儀をすると、両側の二人も続いてそれに倣う。
「とても素晴らしかったよ」
「ヴィノの演技が本物みたいでした」
「皆さん歌が本当にお上手で、聞き惚れてしまいました」
「踊りの陣形がすごかったです」
アルフォンス兄さんに続き、俺とアリスとカイルが感想を述べた。
「ありがとうございます」
ユラは恐縮するように小さくお辞儀をし、リベルとグランは安堵した顔で笑う。
「お褒めの言葉をいただいたこと、皆に伝えます」
「練習時間がほとんどなく不安でしたが、そう評価いただけたなら良かったです」
そりゃあそうだろうな。あれがピレッドの事件をネタにしたものだとすると、一週間も経っていない。
脚本や歌を作る必要もあるから、ほとんど練習の時間はなかったに違いない。
「あれは……ピレッドの出来事を取り上げた演目なのだろう?」
アルフォンス兄さんの切り込んだ質問に、グランの喉がわかりやすいぐらいにゴクリと動く。
「その通りです」
リベルが答えると、アルフォンス兄さんは三人をジッと見つめて言う。
「内容の正確さにも驚かされたよ。随分詳しく調べたものだね」
口調は穏やかなのに、誤魔化しがきかない雰囲気がある。
そのオーラには、さすがのリベルも笑顔が少し強ばった。
「うちの劇団の中に、話のネタを集めることだけを仕事とする者たちがいるんです。ただ、今回は特別でして……。グランとユラがピレッドに里帰りをしていた折、たまたま事件に居合わせました」
あの野次馬の中に、グランたちがいたのか。全然気がつかなかった。
屋根の上からだと遠かったし、見に来ていた人の顔をちゃんと見る余裕はなかったもんな。
それにグラン自体の印象が薄いうえに、ユラは小さい。見えていても認識できたかどうか……。
「実は我々は早くに親を亡くし、ピレッドの孤児院で育ちました。領主の悪事には感づいておりましたが、証拠がなくては孤児院に迷惑がかかると思って何もできず……」
「今回私たちが里帰りしたのも、本格的にその悪事の証拠を集めようと考えたからなんです」
グランとユラがそう話すと、リベルが少し興奮して言う。
「グランたちからアルフォンス皇太子殿下が領主を断罪したという話を聞いて、私は胸のすく思いでした! あのヴィノの御使い様も、もしや手配された者ですか? そちらの護衛の方とヴィノ遣いが、その場に一緒にいたそうですが……」
ヴィノ遣いのロデルさんとリックたちがいたところを、どうやら見られていたらしい。
話の内容からすると、俺がその御使い様だとは気づかれていないみたいだけど……。
リベルに尋ねられたアルフォンス兄さんは、微かに笑う。
「さぁ、どうかな。私は知らないよ」
含みのある否定を、リベルは肯定と捉えたらしい。
「わかっております。決して他言はいたしません。アルフォンス皇太子殿下は我々の故郷を救ってくださった恩人ですから」
リベルは真剣な顔で言い、グランとユラもしっかりと頷く。
「ピレッドの一件を最新作の劇に選び、僕たちに観せたのはなぜですか?」
俺がそう尋ねると、リベルはこちらに視線を向ける。
「アルフォンス皇太子殿下がどういった方であるか、我が国民に広めることはとても重要だと考えたからです。同時に我が劇団に興味を持っていただき、我々の情報の速さ、正確さを認識していただきたいという気持ちもありました。それには、ピレッドの件を劇としてお観せするのが一番かと思いまして」
リベルはそう言って、にっこりと笑う。
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