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第26章~転生王子と学校見学
番外編・仮装パーティーのその後で(ルーク・ジャイロ視点)
去年新しく行事として組み込まれた、ステア王立学校仮装パーティー。
今年は他校の生徒を招いていているからか、去年にも増して賑やかだった。
そんな楽し気な雰囲気とは裏腹に、俺――ルーク・ジャイロの心は今、どんよりとしている。
パーティーが始まる前は、俺だって浮かれていたんだ。
彼女……名乗らずの姫に会えると思ったから。
その名乗らずの姫が、まさかフィル・テイラだったなんて……。
女の子の格好をしたテイラに恋をしていたという事実が、ズシリと俺にのし掛ってきている。
会場の壁際に並ぶ椅子に腰掛け、俺は深々とため息を吐く。
「ルーク、大丈夫か?」
隣に座っていたマクベアー先輩が、肩を優しく叩く。
「あー……はい。さっきよりは、だいぶ気持ちが落ち着いてきました」
衝撃的な事実を知ってしばらく頭が真っ白になっていたが、少しずつ考えられるようになってきた。
まぁ、気分が浮上したわけではないけれど。
小さく息を吐き俺が顔を上げると、先ほどまでいた他校生たちの姿がないことに気が付いた。
他校生たちだけでなく、ライオネルさんやテイラたちもいない。
今いるのは、マクベアー先輩とベイル先輩。それから、レイ・クライスとトーマ・ボリスとシリル・オルコットだけだ。
情けない姿を見られた身としては、よく知っている人たちだけなのはありがたいが……。
辺りを見まわす俺を見て、察したマクベアー先輩が教えてくれる。
「他校の生徒たちのことか?ゲッテンバー先生やクロエたちが、会場を案内すると言って連れて行ったぞ」
「そうなんですか」
本来なら会場内の案内など必要ない。
もしかしたら打ちひしがれいている俺を気遣って、連れて行ってくれたのだろうか。
「デュラント先輩やフィル君たちは、寮長や僕たちのために飲み物や食べ物を取りに行ってくれています」
そう言って、オルコットは食べ物の置かれたテーブルの方向を指差す。
そちらを見れば、ライオネルさんとテイラとグラバー、ライラ・トリスタンとアリス・カルターニの姿があった。飲み物や食べ物を選んで、トレイに載せているみたいだ。
そして、そんな彼らを周りの生徒たちは遠巻きに見ていた。
普段より華やかな彼らの装いに気圧されてか、それとも純粋に衣装が眩しくて近寄れないのか……。
今日のテイラは光り輝き、神々しかった。
そんなテイラの横顔が、記憶の名乗らずの姫と重なってきゅっと胸を締め付ける。
俺の表情が微かに歪んだのに気がついたのだろうか、ベイル先輩が頭を下げた。
「寮長、本当にごめん。フィル君も俺も、知っていた皆も、騙そうとか……そういうつもりじゃなくて」
もごもごと話すベイル先輩に、俺はコクリと頷いた。
「わかっています。隠していたのは、真実を知った俺が傷つかないようにでしょう……」
騙してからかうような人たちじゃないことは、充分わかっている。
俺があんまりに真剣だから、余計に言えなくなってしまったんだろう。
もし俺がテイラや他の人の立場だったら、同じような行動をとっていたかもしれない。
むしろ、怒りをぶつけるとしたら俺自身にだ。
一年以上寝食を共にしてきた寮の仲間であり、親しくしている後輩なのに何で気がつかなかったのか。
よく見てみたら、彼女の面影とピッタリと重なるじゃないか。自分の愚かさに嘆きたくなる。
信じたくない気持ちが、自分の記憶をねじ曲げてしまったんだろうか。
それでも、もっと早く気付いたらこんな事態にはならなかった。
「何で気がつかなかったんだろう」
頭を抱えて嘆く俺の肩を、クライスがポンと叩く。
「寮長の気持ち、よくわかりますよ。フィルの変装は完璧でした。俺だって、去年わからずに声をかけたほどですから」
それを聞き、ボリスはその時のことを思い出したらしい。
「そうそう。レイ、フィルのこと運命の人だと思ってたよねぇ」
微笑むボリスにクライスは慌て、オルコットと俺が驚く。
「え!そうなの!?」
「そうなのか?」
身近なところに、仲間がいた。
「あ、いや、フィルだってわかる前の話ですよ。寮長はわかってくれると思いますけど、ドレス姿のフィルは清楚で可憐で、光り輝いて見えたんですよ。そんな可愛い子、運命感じちゃうじゃないですか」
あれは間違えても仕方ないと、クライスは言い訳をする。
まぁ、確かに。クライスや自分を擁護するつもりはないが、去年のテイラの姫姿は光り輝かんばかりの可愛さだった。小さくて可憐で、はかなげな雰囲気を持ちながら、俺を気遣う様子もあって。
いい子だなぁって思ったんだ。不安げな表情の彼女を、守ってあげたいって……。
まぁ、今考えてみれば、あの表情は周りに自分の正体がばれないかと心配していたんだろうけど。
「今思い返してみても、ドレス姿可愛かったよなぁ」
俺がポツリと呟くと、ベイル先輩の顔色が変わる。
「お、俺の衣装のせいかな。せっかくだからって、フィル君に似合うよう可愛くしちゃったんだ。今回の悲劇は、俺の衣装が原因かも……」
あわあわと口元を震わせるベイル先輩に、俺は「いやいや」と否定した。
「確かにとても似合ってましたけど、ベイル先輩のせいじゃないですよ」
それこそ去年の仮装衣装の殆どは、ベイル先輩の手が入っているのだ。
「そうだ。スコットに責任はないぞ」
マクベアー先輩がベイル先輩に言い、ボリスも馬の頭を揺らしながら頷く。
「僕も服は関係ないと思います。だって、レイと初めて会った時、フィルはドレスは着ていなかったのに……もごぅっ!」
ボリスがまだ話している最中にもかかわらず、クライスは横からボリスの口を塞いだ。
「そうだな!俺も衣装のせいじゃないと思う!」
初めて会った時、何があったんだろうか……。
首を傾げる俺たちの視線から顔をそらし、クライスは咳払いをする。
「恋愛マスターの俺からアドバイスするとすれば、寮長は新しい恋を見つけるべきだと思います。新しい恋が、過去の恋の痛手を忘れさせてくれますよ。俺はそうやって心の傷を癒しています」
そう言って、クライスはそっと自分の胸に手をあてる。
クライスは恋をしてはふられてを繰り返しているが、気持ちの立て直しの早さはそういう方法をとっているからなのか。だが、不器用な俺に、その方法ができるのか自信がなかった。
考え込んでいると、テイラたちがこちらへやって来るのが見えた。
「いろいろ持ってきたので、好きなものを取ってください」
グラバーが言って、食べ物や飲み物の載るトレイを俺たちに差し出す。
「ルークは大丈夫かい?」
デュラント先輩が俺の顔を覗き込みながら尋ねる。
「あ、はい」
俺が椅子から立って頷くと、心配そうなテイラと目が合った。
気遣う表情が名乗らずの姫と重なって、俺はブルブルと顔を振る。
それから、泣きそうになる気持ちを堪え、手近なグラスを掴んで一気飲みした。
酸味のある果実ジュースは、やけに酸っぱく感じた。
今年は他校の生徒を招いていているからか、去年にも増して賑やかだった。
そんな楽し気な雰囲気とは裏腹に、俺――ルーク・ジャイロの心は今、どんよりとしている。
パーティーが始まる前は、俺だって浮かれていたんだ。
彼女……名乗らずの姫に会えると思ったから。
その名乗らずの姫が、まさかフィル・テイラだったなんて……。
女の子の格好をしたテイラに恋をしていたという事実が、ズシリと俺にのし掛ってきている。
会場の壁際に並ぶ椅子に腰掛け、俺は深々とため息を吐く。
「ルーク、大丈夫か?」
隣に座っていたマクベアー先輩が、肩を優しく叩く。
「あー……はい。さっきよりは、だいぶ気持ちが落ち着いてきました」
衝撃的な事実を知ってしばらく頭が真っ白になっていたが、少しずつ考えられるようになってきた。
まぁ、気分が浮上したわけではないけれど。
小さく息を吐き俺が顔を上げると、先ほどまでいた他校生たちの姿がないことに気が付いた。
他校生たちだけでなく、ライオネルさんやテイラたちもいない。
今いるのは、マクベアー先輩とベイル先輩。それから、レイ・クライスとトーマ・ボリスとシリル・オルコットだけだ。
情けない姿を見られた身としては、よく知っている人たちだけなのはありがたいが……。
辺りを見まわす俺を見て、察したマクベアー先輩が教えてくれる。
「他校の生徒たちのことか?ゲッテンバー先生やクロエたちが、会場を案内すると言って連れて行ったぞ」
「そうなんですか」
本来なら会場内の案内など必要ない。
もしかしたら打ちひしがれいている俺を気遣って、連れて行ってくれたのだろうか。
「デュラント先輩やフィル君たちは、寮長や僕たちのために飲み物や食べ物を取りに行ってくれています」
そう言って、オルコットは食べ物の置かれたテーブルの方向を指差す。
そちらを見れば、ライオネルさんとテイラとグラバー、ライラ・トリスタンとアリス・カルターニの姿があった。飲み物や食べ物を選んで、トレイに載せているみたいだ。
そして、そんな彼らを周りの生徒たちは遠巻きに見ていた。
普段より華やかな彼らの装いに気圧されてか、それとも純粋に衣装が眩しくて近寄れないのか……。
今日のテイラは光り輝き、神々しかった。
そんなテイラの横顔が、記憶の名乗らずの姫と重なってきゅっと胸を締め付ける。
俺の表情が微かに歪んだのに気がついたのだろうか、ベイル先輩が頭を下げた。
「寮長、本当にごめん。フィル君も俺も、知っていた皆も、騙そうとか……そういうつもりじゃなくて」
もごもごと話すベイル先輩に、俺はコクリと頷いた。
「わかっています。隠していたのは、真実を知った俺が傷つかないようにでしょう……」
騙してからかうような人たちじゃないことは、充分わかっている。
俺があんまりに真剣だから、余計に言えなくなってしまったんだろう。
もし俺がテイラや他の人の立場だったら、同じような行動をとっていたかもしれない。
むしろ、怒りをぶつけるとしたら俺自身にだ。
一年以上寝食を共にしてきた寮の仲間であり、親しくしている後輩なのに何で気がつかなかったのか。
よく見てみたら、彼女の面影とピッタリと重なるじゃないか。自分の愚かさに嘆きたくなる。
信じたくない気持ちが、自分の記憶をねじ曲げてしまったんだろうか。
それでも、もっと早く気付いたらこんな事態にはならなかった。
「何で気がつかなかったんだろう」
頭を抱えて嘆く俺の肩を、クライスがポンと叩く。
「寮長の気持ち、よくわかりますよ。フィルの変装は完璧でした。俺だって、去年わからずに声をかけたほどですから」
それを聞き、ボリスはその時のことを思い出したらしい。
「そうそう。レイ、フィルのこと運命の人だと思ってたよねぇ」
微笑むボリスにクライスは慌て、オルコットと俺が驚く。
「え!そうなの!?」
「そうなのか?」
身近なところに、仲間がいた。
「あ、いや、フィルだってわかる前の話ですよ。寮長はわかってくれると思いますけど、ドレス姿のフィルは清楚で可憐で、光り輝いて見えたんですよ。そんな可愛い子、運命感じちゃうじゃないですか」
あれは間違えても仕方ないと、クライスは言い訳をする。
まぁ、確かに。クライスや自分を擁護するつもりはないが、去年のテイラの姫姿は光り輝かんばかりの可愛さだった。小さくて可憐で、はかなげな雰囲気を持ちながら、俺を気遣う様子もあって。
いい子だなぁって思ったんだ。不安げな表情の彼女を、守ってあげたいって……。
まぁ、今考えてみれば、あの表情は周りに自分の正体がばれないかと心配していたんだろうけど。
「今思い返してみても、ドレス姿可愛かったよなぁ」
俺がポツリと呟くと、ベイル先輩の顔色が変わる。
「お、俺の衣装のせいかな。せっかくだからって、フィル君に似合うよう可愛くしちゃったんだ。今回の悲劇は、俺の衣装が原因かも……」
あわあわと口元を震わせるベイル先輩に、俺は「いやいや」と否定した。
「確かにとても似合ってましたけど、ベイル先輩のせいじゃないですよ」
それこそ去年の仮装衣装の殆どは、ベイル先輩の手が入っているのだ。
「そうだ。スコットに責任はないぞ」
マクベアー先輩がベイル先輩に言い、ボリスも馬の頭を揺らしながら頷く。
「僕も服は関係ないと思います。だって、レイと初めて会った時、フィルはドレスは着ていなかったのに……もごぅっ!」
ボリスがまだ話している最中にもかかわらず、クライスは横からボリスの口を塞いだ。
「そうだな!俺も衣装のせいじゃないと思う!」
初めて会った時、何があったんだろうか……。
首を傾げる俺たちの視線から顔をそらし、クライスは咳払いをする。
「恋愛マスターの俺からアドバイスするとすれば、寮長は新しい恋を見つけるべきだと思います。新しい恋が、過去の恋の痛手を忘れさせてくれますよ。俺はそうやって心の傷を癒しています」
そう言って、クライスはそっと自分の胸に手をあてる。
クライスは恋をしてはふられてを繰り返しているが、気持ちの立て直しの早さはそういう方法をとっているからなのか。だが、不器用な俺に、その方法ができるのか自信がなかった。
考え込んでいると、テイラたちがこちらへやって来るのが見えた。
「いろいろ持ってきたので、好きなものを取ってください」
グラバーが言って、食べ物や飲み物の載るトレイを俺たちに差し出す。
「ルークは大丈夫かい?」
デュラント先輩が俺の顔を覗き込みながら尋ねる。
「あ、はい」
俺が椅子から立って頷くと、心配そうなテイラと目が合った。
気遣う表情が名乗らずの姫と重なって、俺はブルブルと顔を振る。
それから、泣きそうになる気持ちを堪え、手近なグラスを掴んで一気飲みした。
酸味のある果実ジュースは、やけに酸っぱく感じた。
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