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18巻
18-1
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グレスハート王国第三王子である俺――フィル・グレスハートは身分を隠し、鉱石屋の息子フィル・テイラとしてステア王立学校に留学している。
この前帰郷した時、父さんに自重しろと念を押されてしまったので、今学期こそは目立たない学生生活を送ろうと決めた。
しかし、新学期が始まって早々、トラブルに巻き込まれる。
タイロンの群れに襲われていた商人たちを助けたところ、俺を天使であると誤解した彼らによって、『天の御使い様が窮地を救ってくださった』という奇跡のお話として噂になってしまったのだ。
目立ってしまうことに思い悩んだ俺は、いっそのこと透明になろうと考えた。だけど、鉱石を使って姿を消す実験をしていたら、いつの間にかそれが学校の怪奇話になっちゃって……。
本当にひっそり過ごしたいだけなのに、やることなすこと、とことん裏目に出ている気がする。
しかもこの前、後輩のキャルロットとステア王国の王子であるセオドア殿下から、とある噂を聞いた。
どうやら、俺のような青みがかった銀髪で背格好もよく似た少年が、俺の従者カイルと同じ黒髪の少年を引き連れ、近隣諸国を巡って人助けをしているらしい。
この世界において、青みがかった銀髪は珍しく、クリティア聖教会では聖なる者の証として珍重している。
先のタイロンの一件もあって、助けられた人たちは、その少年のことを天の御使い様だともてはやしているそうだ。
これって下手したら、街へ出た途端に俺をその少年だと勘違いし、騒ぐ人が出てくるかもしれないってことだよね?
なんでだ。目立たないことを目標にしていたのに、なぜ厄介ごとが出てくるのか……。
俺は透明になって、目立たず出歩きたいんだよぉぉぉ‼
セオドア殿下と再会して、少し経った日の放課後。
俺は寮の裏手の森にある小屋を、友人のカイルとトーマとレイ、アリスとライラと一緒に訪れていた。
リビングのソファに座った俺は、一枚の紙を見て唸る。
「うーん、どうしよう」
眉間にしわを寄せている俺を見て、アリスが尋ねる。
「その紙って……今日の商学の授業で配られた、課題に関するものよね?」
ステア王立学校の商学は、座学の他に体験的な授業を取り入れている。
自分たちで商品を販売したり、市場調査をして回ったり、商売している人のお話を聞きに行ったり……。
今度の課題は、その体験的な授業の一つ。
ステアの市場にあるお店に行き、お仕事を体験させてもらって、そこで得た知識をレポートにまとめるというものなのだ。
商学の授業で配られたプリントには、課題に協力してくれるお店の一覧や、注意事項などが記されていた。
ちなみに、今年はアリスを含めここにいる皆が商学を受講しているので、全員このプリントを持っている。
ライラは鞄から自分のプリントを取り出し、ため息を吐く。
「わかるわぁ。フィル君もどのお店にするか、決めかねているんでしょう? 悩むわよねぇ」
「え? あ、いや、僕は……」
俺が答える前に、ライラはテーブルの上にプリントを置いた。
「私もどのお店にしようか悩んでいるのよ。実家の商売と関連があるお店にするか、まったく違うお店にするか……」
ブツブツ言いながら、頭を抱えている。
プリントを覗くと、店名一覧のうち、気になるお店にチェックを入れているようだ。
飲食店や雑貨店、肉屋や果物屋などなど、あらゆるジャンルの店に印が付いている。
迷いに迷っているライラの心の様子が、リストから垣間見えた。
「他の皆はもう決めた?」
アリスの問いに、トーマはのほほんとした口調で答える。
「僕はシープ書店さんにするよぉ」
学問の国であるステアには、大小様々な書店がある。
いろんなジャンルを取り揃えている書店もあれば、専門書のみを扱っているところもある。
シープ書店は、図鑑だけを扱っている専門書店だ。
トーマの返答を聞いて、俺は納得する。
「あぁ、トーマはよくあのお店に行くもんね」
図鑑を購入するためというより、店主と図鑑談議をするために通っているのだとか。
店主も、トーマのことを孫のように可愛がってくれているらしいんだよね。
「とてもいい選択だと思うわ」
アリスは微笑んだものの、カイルが少し心配そうに言う。
「だが、図鑑は重いぞ。運べるか?」
カイルの懸念に、トーマはガッツポーズを作る。
「一日体験の日まで、まだ期間があるもん。それまでに鍛えるよ」
その顔は、やる気に満ちている。
トーマは一度やると決めたら絶対にやり通す、すごい子なんだよね。
苦手な力仕事もきっと頑張るだろうな。
そんなトーマの隣で、レイは息を吐いた。
「俺は本より、食べ物を扱っている店がいいと思うけどなぁ。パネス惣菜店とか良くねぇ?」
パネス惣菜店は、ステアの市場でも有名な惣菜屋さんである。
安くて美味しい惣菜はもちろん、それをパンに挟んだ惣菜パンがステアに住む学者や研究者の間で大人気。
学者や研究者たちは、研究に夢中になるあまり寝食を忘れる人が多いみたいなんだよね。
片手で手軽に食べられる惣菜パンは、そんな彼らの生活を支えている。
鉱石学のシエナ先生も、パネス惣菜店からよくデリバリーしているそうだ。
「なぁ、フィル。もし迷っているなら、俺と一緒にパネス惣菜店にしようぜ」
にこにこしながら俺を誘うレイを見て、ライラが言う。
「パネス惣菜店はいい店だから、私もチェックを入れているけど……。レイがそこにしたいのって、お惣菜の味見ができると思っているからでしょう」
図星だったのか、レイは「うっ」と言葉を詰まらせた。
そんなレイに、ライラとカイルは呆れた目を向ける。
「動機が不純だわぁ」
「レイ、前より食い意地がはってきてないか?」
カイルの言葉を聞いて、俺は「確かに」と頷く。
出会った頃はそこまでではなかったのに、レイは今やすっかり食いしん坊キャラになっているよね。
レイは頬をぷっくり膨らませる。
「成長期なんだからいいだろ、別に。体型は変わってないんだから」
そう。本人が言うように、体型は変わってないんだよね。
だけど、レイは俺やカイルみたいに毎日鍛錬しているわけでもなければ、好んで体を動かす性格でもないからなぁ。
今はいいとしても、将来が心配になってくる。
その気持ちが顔に出ていたのだろう。レイは俺に向かって言う。
「言っておくが、俺が食に目覚めたのは、フィルが原因なんだからな」
「え……僕が原因?」
自分を指さして聞き返すと、レイはコックリと頷いた。
「フィルと出会う前は、そんなに食に興味はなかったんだぜ。フィルと出会って食材や作り方に興味が出て、同じメニューでも作る人が違うだけで様々な変化があることに気がついたんだ。料理の魅力と奥深さを知っちゃったんだよなぁ」
それを聞いて、ショックを受ける。
なんてことだ。俺のせいでレイが食いしん坊になったのか。
料理は素晴らしいものだから、それが伝わったのは嬉しいことだけど……。
「だから、一緒に仲良く惣菜店にしようぜ!」
何が『だから』なのか意味がわからないが、レイは笑顔で俺に握手を求めてきた。
ところが、カイルがその手を遮る。
「フィル様はすでに店を決めている。……商学の授業の時、そう言っていましたよね?」
俺の顔を窺いながら、カイルは俺に確認した。
そういえば、授業中に独り言を言った気がする。
蝙蝠の獣人であるカイルは聴覚が鋭い。どうやら俺の呟きを、カイルの耳が拾ったらしい。
「あ……うん。行きたいお店があるんだ」
俺がコクリと頷くと、レイはつまらなそうな顔をする。
「なんだ、もう決まってんのかよ」
「どこのお店にするの?」
興味深そうに尋ねてくるライラに、俺は微笑んだ。
「ニコさんのお店にお願いしようと思っているよ」
ニコさんとは、鍛冶屋を営むニコ・ラウノさんのことだ。
有名なドルガド王国の鍛冶職人ゴードン・ベッカーさんの一番弟子で、ステアの街に店を構え、いろいろな日用品を作っている。
有名なゴードンさんから免許皆伝を受けただけあって、素晴らしい腕前の持ち主なのだ。
俺も包丁や鍋など、いろいろなキッチン用品を買わせていただいている。
ニコさんはよくお店にも立っているけど、鍛冶職人でもあるから、鍛冶場にも詰めているはず。
どんなスケジュールでお仕事をしているか、前々から興味があったんだよね。
俺の返答を聞いて、アリスは小首を傾げる。
「すでにニコさんのお店に決まっていたなら、さっきはなんで難しい顔をしていたの?」
俺は課題のプリントをテーブルに置いて、皆の顔を見回す。
「えっと、その……課題をこなすためには、ステアの街に出る必要があるでしょ?」
そう言うと、皆も俺が悩んでいる理由に思い当たったようだ。
「もしかして、例の聖なる髪色の少年の噂のことを気にしているの?」
アリスに聞かれて、俺はコクリと頷いた。
ステアの近隣諸国で人助けをして回っている、青みがかった銀髪の少年と背の高い黒髪の少年の噂。
人助けはいいことだが、彼らは派手な立ち回りをしており、かなり目立っているらしい。
「噂を聞いたセオドア殿下に、忠告を受けたんだよ。注目を浴びちゃうから、なるべく学校の敷地外に出ないほうがいいって」
俺の言葉に続き、カイルが物憂げな顔で言う。
「フィル様は面倒ごとを呼び込みますからね」
それを聞いた皆は、「あぁ」と妙に納得した声を漏らした。
レイは眉を寄せ、腕組みをして唸る。
「その噂については俺も調べたけど、まだステアでは目撃されてないみたいじゃん。少し出歩くくらいなら大丈夫じゃねぇ?」
確かに、少年たちは隣国のドルガドやティリアなどで目撃情報が多く、ここステアにはまだ来ていないようだ。
「だけど、ステアにも噂は届いているわよね?」
「この前フィルたち、先輩たちに『噂になってないか』って聞かれていたよね?」
アリスとトーマが、俺の顔を窺いながら尋ねる。
そう。最近、「目撃されている少年はフィルか?」と、聞かれることが増えてきている。
噂がかなり広まっているようだから、街に出たらそのことについて俺に尋ねてくる人も出てくるよね。
「なんで僕とカイルに特徴が似てるんだろう。これじゃあ、安心して課題もできないよ」
しょんぼりと肩を落とした俺は、深いため息を吐いた。
俺と特徴が似ている、人助けをして歩く少年かぁ。
自分の髪を摘まんで、ジッと見つめる。
せめてこの髪が、その子と同じ珍しい髪色でなければなぁ。
こうして頭を悩ませることもないだろうに。
その時、ふとあるアイデアが浮かんだ。
いっそのこと、染めたらどうかな。
染色することのできる動物の能力や植物などを利用して、髪色を変えられるはず。
ファッションとして、髪を染めている人を見たこともあるし……。
維持するのが大変だろうから長期間は無理だとしても、短期間ならなんとかなるんじゃないかな。
「ねぇ、お店の体験期間だけ、この髪を染めてみたいんだけど……」
俺は思いついたアイデアを、皆に聞いてみる。
すると、五人は大きく目を見開き、あんぐりと口を開けた。
レイは口をパクパクと動かしたあと、俺に向かって叫ぶ。
「はぁ!? 今、自分の髪を染めるって言ったか!?」
トーマが震える指で、俺の頭を指さす。
「そ、そそ、その髪の毛を?」
その言葉に続いて、ライラとアリスとカイルが、真剣な顔で俺に尋ねてきた。
「聖なる髪を、染めるですって?」
「冗談よね?」
「フィル様、冗談だって言ってください!」
なぜそんな反応するんだろうか。
皆の勢いに気圧されながら、俺は言う。
「えっと、ダメなの? お洒落として髪を染めている人もいるし、いいかなって……思ったんだけども」
後半はもごもごと声を小さくしていった俺に、カイルはガックリと頭を垂れた。
「やはり本気なんですかぁぁ」
他の面々も揃ってため息を吐き、額を押さえた。
どうやら友人たちは、俺が髪を染めることに反対らしい。
「派手な色にはせず、落ち着いた暗めの色にするつもりだよ。それでも、ダメ?」
首を傾けて尋ねる俺に、レイがげんなりとした顔で言う。
「染める色がどうとかいう問題じゃないんだよ。フィルは無理なの」
『無理』と言われ、俺は眉を寄せる。
「えぇ、どうして? もしかして、王族だから? 確かに、帰国した王子の髪が違う色になっていたら、皆が驚いちゃうと思うけど……」
初めは違和感があっても、いずれ見慣れるのではないだろうか。それに、今回は短期間だけだし。
すると、トーマが「違う違う」と首を横に振った。
「今回の件に限っては、フィルが王族であることとは関係ないよ」
トーマの言葉に、アリスは真面目な顔で頷く。
「そう。フィルのように聖なる髪を持つ人は、髪を染めてはいけないの」
聖なる髪の人は……髪を染められない?
頭の中でアリスの言葉を反芻させた俺は、目を瞬かせた。
「えぇ!? 本当に!?」
驚愕する俺に、ライラはコックリと頷く。
「そうなのよ。昔、神子探しである問題が起こってね。それ以来、聖なる髪を染めると災いが起こると言われているの」
今度は俺が口をあんぐりと開ける番だった。
「聖なる髪を染めると災いが起こる!?」
神子というのは、クリティア聖教会本部で育てられている聖なる髪を持つ子供のこと。
聖教会は聖なる髪の子が生まれると、親の承諾を得て引き取り、神子として育てるのだ。
だけど、その神子探しで問題が起こったとか、災いとか、全部初耳なんですけど!
「じゃあ、皆は災いを警戒して反対しているの?」
他の髪色の人は染められるのに……理不尽すぎない!?
動揺する俺を見て、レイは嘆息した。
「本当に知らないんだな。結構有名な話だぞ?」
「聞いたことない」
首を横に振る俺に、アリスは苦笑する。
「フィルが知らないのも、仕方がないのかもしれないわ。私は知り合いのクリティア聖教信者から聞いたけれど、グレスハート王家が信仰していらっしゃるのはクリティア聖教ではないし、他の国に比べて、グレスハート王国は聖教会の支部が小さいもの」
その話を聞いて、レイは「あぁ、そうか」と呟く。
「そういや、何年か前に支部が縮小されたとか聞いたな。いや、それにしたって、聖なる髪の持ち主であるフィルが知らないとは……」
レイは息を吐いて、俺に視線を向ける。
この話は、俺が知っていなきゃ変、ってくらいに有名なようだ。
「そもそもフィルは、クリティア聖教会が聖なる髪の子を神聖視している理由を聞いたことがある?」
アリスの質問に、俺は考え込む。
「この髪色が神に愛されし子の印だって言われているのは知っているけど……それ以外に、ってこと?」
自分の頭を指さす俺に、アリスは微笑んで頷く。
「フィルのような髪色が神に愛されし子の印だって言われるようになったのは、クリティア聖教会の五代目の教皇様が同じ髪色だったからなの。妖精や精霊との結びつきが強く、特別な力でたくさんの人を救った偉大な方なのよ」
「へぇ、それで青みがかった銀髪が、クリティア聖教会にとって特別なものになったのかぁ」
聖なる髪が神聖視される、詳しい背景までは知らなかったな。
ライラはにこっと笑って、俺に教える。
「五代目は、初の女性の教皇様だったのよ。クリティア聖教会本部のあるフィラメント皇国には、大きな立像があるわ」
「歴代の教皇様の中で、一番人気なんだよねぇ」
のほほんと言うトーマに、レイは頷く。
「聖なる髪の子を探して神子にするようになったのも、五代目がきっかけだよな」
レイの情報に、俺は目を瞬かせる。
「五代目がきっかけ?」
「そう。すっごい人気だったからさ。五代目が亡くなったあと、信者の数が激減したらしいんだ。そこで五代目と同じ聖なる髪の子を探し出し、将来的に司教や大司教になる神子として育てることになったわけ。多分、改宗を防ぎ、新たな信者を得る目的があったんだろ」
なるほど。五代目の代わりとなる、新しいカリスマが必要だったわけか。
クリティア聖教会が聖なる髪の持ち主に固執するのは、そういう理由があったんだな。
俺が「ふむふむ」と相槌を打っていると、ライラが言う。
「そして神子探しが始まったわけなんだけど……そこで、さっき言った災いが起きたのよ」
本題に戻ったので、俺は居ずまいを正した。
「何があったの?」
俺が聞くと、ライラは咳払いを一つして答える。
「聖なる髪の子を聖教会に迎える際、今は保護者の許可が必要になっているでしょう。でも、昔は違ったの。神子探しが始まった当初は、かなり強引に子供たちを集めていたらしいのよ」
「……親が拒否しても無理矢理子供を連れていく、みたいな?」
眉を顰める俺に、カイルが頷く。
「そうです。まぁ、拒否する親は、少なかったみたいですけどね。子供たちは神の子として丁重に扱われるので、衣食住の心配はいらないですし、しっかりとした教育も受けられる。神子期間が終われば司教や大司教の地位が約束されているので、将来は安泰です。それに、神子を出した家は、聖教会から褒賞を受けたり、優遇措置を取ってもらえたりしますしね」
このあたりは、今と一緒だ。
子供たちの将来を考えて、神子にする家庭が多いとは俺も聞いたことがある。
そう決断することも、子に対する親の愛情だと思う。
「だけど、中には嫌がる親もいるでしょ? 神子になった時点で、家族との縁が切れるわけだし」
縁が切れれば、家に帰ることも、親や兄弟に会うこともできない。
そもそも幼い時に引き離されることが多いから、自分がどこで生まれたのか、親は誰なのかさえわからない子がほとんどだ。
うちの家族は、俺との縁を切りたくないからクリティア聖教会を拒否した。
同じように、子を手放したくない家庭も当然あっただろう。
「子供を手放したくない家はどうなったの?」
俺が身を乗り出して尋ねると、アリスは表情を曇らせて答える。
「クリティア聖教会の手から逃れるため、子供を家の中に隠して育てたり、居場所を悟られないように各地を転々としたりしたらしいわ。そして、中には子供の髪を染めた人がいたのよ」
聖なる髪が原因で子供が狙われているなら、染める人も当然出てくるよな。
「じゃあ、そこで災いが?」
尋ねた俺に、レイがコックリと頷く。
「それが実際の原因かはわからないけど……。髪を染めた子が見つかった時、神子探しをさらに拡大させようとしていた当時の教皇が、病に伏したんだ。さらに、クリティア聖教会のあるフィラメント皇国で、立て続けに災害が発生した。神子集めが過激になってきているのは、皆知っていたからな。災いだと思うのも自然な流れだろ?」
まぁ、後ろめたいことをしたあとに良くないことが起これば、紐づけて考えちゃうもんな。
腕を組んで唸る俺に、アリスは静かな声で言う。
「単なる偶然か。もしくは聖なる髪の子を愛する精霊たちや、特別な力を持つ聖なる髪の子自身の仕業か。真相はわからないわ。ただ、強引な神子探しをやめた途端に、立て続けに起こっていた良くないことはピタリと止まったの」
「その出来事が元で、聖なる髪を染めると災いが起こると言われるようになったんです」
そう話すカイルに、俺は腕組みをしたまま尋ねる。
「でも、そう言われているだけで、髪を染めたのが原因だとは確定していないんだよね? なら、僕が髪色を変えたって、本当に災いが起こるとは限らないんじゃ――」
言い終える前に、カイルとレイがズイッと顔を寄せてきた。
「絶対にやめてください」
「確定していないからこそ、やんなよ。絶対!」
その勢いに気圧され、俺はコクコクと頷いた。
「言ってみただけだってぇ」
疑わしげな顔をしたままの二人が元の体勢に戻ると、俺はため息を吐いた。
第一、俺の髪の毛が青みがかった銀髪だっていうのは、学校の皆やニコさんも知っているわけだもんな。
そんな言い伝えがあるようじゃ、こっそり髪を染めるわけにはいかないか。
気づかれた瞬間、「災いが起こる」と大騒ぎになるのは目に見えている。
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