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第十六話 「戻ってきた日常」
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陽の光が、まるでエネルギーを帯びたように降り注ぎ、
思わず小鳥の囀りが聞こえてきそうな翌朝。
私は、いつもよりも華麗に目覚めることができた。
昨日の出来事に、自然と思いを巡らせる。
一悶着はあったものの……
うゆくんのご両親の真実が明らかになったこと。
そして何より、初めて彼の“本当の笑顔”を見ることができたこと。
その事実だけで、胸の奥が満たされていく。
そんな面持ちで、私はベッドから起き上がり、身支度を始めた。
準備は、いつも奈々が手伝ってくれている。
ちなみに奈々は、私が幼少の頃からずっと世話をしてくれている。
筋金入りの守銭奴で慇懃無礼な専属メイドだ。
けれど——私のことを誰よりも大切にしてくれているのも、嫌というほど分かっている。
だから、多少の無礼は見なかったことにしている。
「お嬢様、今日は随分とご機嫌ですね。
いつもは五回以上起こさないと、なかなかお目覚めになりませんのに」
「ふふん、分かる?」
「昨晩、色々あったこと、あなたも知っているでしょう?
やっと、うゆくんの“本気の笑顔”が見られて……嬉しかったの」
「スチルとして保存したいくらいには……」
「……すちる?」
また、おかしなことを言っているとでも言いたげな表情で、
奈々は黙々と私の髪を梳かしてくれる。
「鈴乃お嬢様の奇行は今に始まったことではありませんし、
嬉しいことがあって何よりでございます」
「き、奇行って……」
唐突に失礼である。
もっとも、今の私は特に機嫌が良いため、すべてを許すことにした。
今日は私が日直の当番だったため、部屋で朝食を済ませ、そそくさと準備をして一人で家を出ようとした。
——その時だった。
うゆくんが、ものすごい勢いで追いかけてきたのである。
可愛っ……
「どうしたの? こんなに急いで」
はぁはぁ、と息を切らしながら、うゆくんは答えた。
「鈴乃…と、一緒に登校したくて」
……なんて可愛らしい理由だろうか。
それに、昨日の今日なのに元気そうでよかった、と思う一方で。
息を切らしたその姿が実に色っぽく、私は必死に鼻の下が伸びるのを抑えた。
……いけない、今は朝だ。
私は、何事もなかった顔を装いながら、彼と並んで登校した。
学校へ着き、日直の仕事をこなしている最中。
正直、記憶の片隅からすっかり抜け落ちていた人物が、目の前に現れた。
(うわぁ……出た……)
だが、いつもとはまるで違う様子を見て、気がついた。
——彼は、あの夜会で起きた出来事を知っているらしい。
少なくとも、そう感じさせる表情だった。
「……鈴乃、おはよう。
急で悪いが、今日の放課後に二人で話がしたいんだが」
「…おはようございます。
承知いたしましたわ」
「それじゃあ、あとで迎えに行く」
「……ええ。お待ちしておりますわ」
これは……
もしかしなくとも、もしかするかもしれない。
それに、もし本当にすべてを知っているとしたら——
……あくまで私の勘なのだけれど。
四大財閥の娘ともあろう者が仮にも当主たちの目の前であんな醜態を晒したのだ。
近年稀に見る悪役っぷりである。
いくら煩わしい婚約者とはいえ、
彼からしてみれば、防波堤代わりで、
家柄も、ちょうど良かっただけの存在だ。
一歩間違えれば、己や周囲の身を滅ぼしかねないほどの行動だったのだ。
そんな危うい女と、今後も関係を続けたいと思う男性など居ないに等しい。
ましてや、上に立つ人間であれば尚更だ。
結婚など……正気の沙汰ではない。
しかし——
彼があの夜会にいたかどうかなど、
正直なところ、私にはまったく覚えがなく、見当もつかなかった。
それでも。
婚約破棄の可能性が浮上しただけで、私は内心歓喜していた。
これこそ本当の“棚ぼた”である。
私はさらに上機嫌になり、
つい小さく鼻歌までこぼしながら、
日直の仕事をすべて終わらせるのであった。
うゆくんが傍にいたことにも気づかずに—…。
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思わず小鳥の囀りが聞こえてきそうな翌朝。
私は、いつもよりも華麗に目覚めることができた。
昨日の出来事に、自然と思いを巡らせる。
一悶着はあったものの……
うゆくんのご両親の真実が明らかになったこと。
そして何より、初めて彼の“本当の笑顔”を見ることができたこと。
その事実だけで、胸の奥が満たされていく。
そんな面持ちで、私はベッドから起き上がり、身支度を始めた。
準備は、いつも奈々が手伝ってくれている。
ちなみに奈々は、私が幼少の頃からずっと世話をしてくれている。
筋金入りの守銭奴で慇懃無礼な専属メイドだ。
けれど——私のことを誰よりも大切にしてくれているのも、嫌というほど分かっている。
だから、多少の無礼は見なかったことにしている。
「お嬢様、今日は随分とご機嫌ですね。
いつもは五回以上起こさないと、なかなかお目覚めになりませんのに」
「ふふん、分かる?」
「昨晩、色々あったこと、あなたも知っているでしょう?
やっと、うゆくんの“本気の笑顔”が見られて……嬉しかったの」
「スチルとして保存したいくらいには……」
「……すちる?」
また、おかしなことを言っているとでも言いたげな表情で、
奈々は黙々と私の髪を梳かしてくれる。
「鈴乃お嬢様の奇行は今に始まったことではありませんし、
嬉しいことがあって何よりでございます」
「き、奇行って……」
唐突に失礼である。
もっとも、今の私は特に機嫌が良いため、すべてを許すことにした。
今日は私が日直の当番だったため、部屋で朝食を済ませ、そそくさと準備をして一人で家を出ようとした。
——その時だった。
うゆくんが、ものすごい勢いで追いかけてきたのである。
可愛っ……
「どうしたの? こんなに急いで」
はぁはぁ、と息を切らしながら、うゆくんは答えた。
「鈴乃…と、一緒に登校したくて」
……なんて可愛らしい理由だろうか。
それに、昨日の今日なのに元気そうでよかった、と思う一方で。
息を切らしたその姿が実に色っぽく、私は必死に鼻の下が伸びるのを抑えた。
……いけない、今は朝だ。
私は、何事もなかった顔を装いながら、彼と並んで登校した。
学校へ着き、日直の仕事をこなしている最中。
正直、記憶の片隅からすっかり抜け落ちていた人物が、目の前に現れた。
(うわぁ……出た……)
だが、いつもとはまるで違う様子を見て、気がついた。
——彼は、あの夜会で起きた出来事を知っているらしい。
少なくとも、そう感じさせる表情だった。
「……鈴乃、おはよう。
急で悪いが、今日の放課後に二人で話がしたいんだが」
「…おはようございます。
承知いたしましたわ」
「それじゃあ、あとで迎えに行く」
「……ええ。お待ちしておりますわ」
これは……
もしかしなくとも、もしかするかもしれない。
それに、もし本当にすべてを知っているとしたら——
……あくまで私の勘なのだけれど。
四大財閥の娘ともあろう者が仮にも当主たちの目の前であんな醜態を晒したのだ。
近年稀に見る悪役っぷりである。
いくら煩わしい婚約者とはいえ、
彼からしてみれば、防波堤代わりで、
家柄も、ちょうど良かっただけの存在だ。
一歩間違えれば、己や周囲の身を滅ぼしかねないほどの行動だったのだ。
そんな危うい女と、今後も関係を続けたいと思う男性など居ないに等しい。
ましてや、上に立つ人間であれば尚更だ。
結婚など……正気の沙汰ではない。
しかし——
彼があの夜会にいたかどうかなど、
正直なところ、私にはまったく覚えがなく、見当もつかなかった。
それでも。
婚約破棄の可能性が浮上しただけで、私は内心歓喜していた。
これこそ本当の“棚ぼた”である。
私はさらに上機嫌になり、
つい小さく鼻歌までこぼしながら、
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