幸せの翼

悠月かな(ゆづきかな)

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ご満悦のクルック

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翌朝、私はクルックが眠っている事を確認し、足音を忍ばせ扉の前に立った。

(学びまでだいぶ早いが、致し方ない…クルックが付いて来たら面倒だ。今のうちに部屋を出よう)

ドアノブに手を掛けた時だった。

「サビィ…どちらに行かれますの?」

背後から、クルックの声が聞こえた。
私は、溜め息をつき振り返る。

「クルック…君を連れて行くわけにはいかない」
「まぁ!どうしてですの?私が付いて行った方が良いに決まってます。場が和みますわ」

クルックは、自信満々に胸を張っている。
確かにクルックが同行する事で、ギクシャクする事もないかもしれない。
しかし、彼女が余計な事を口走る可能性が非常に高い。

「クルック…君は、また余計な事を口走るのではないか?」
「何を仰いますの?私は口が硬いと自負していますのに」
「いや…クルック。自ら口が硬いと断言する事が、まず疑わしい」
「まぁ!酷いですわ…私が一番サビィの事を考えていますのに…サビィが困るような事は、決して口にしませんわ!」
「クルック、悪いが君を連れて行く気はない」

私が再びドアノブに手を掛けると、ガタガタと大きな音が背後から聞こえてきた。

「こうなったら、実力行使ですわ!」
 
私は嫌な予感がして振り返った。
すると、クルックが鞭をしならせながら私の胸に飛び込んできた。

「さぁ、サビィ行きますわよ!」

クルックは、鞭を私の腕にしっかりと絡めた。

「クルック…その鞭を解いてくれ」
「いいえ!決して解きませんわ。サビィを支えてさしあげます!」

並々ならぬ意気込みが伝わってくる。
私は再び溜め息をついた。
こうなるとクルックは絶対に引かない。

「クルック…余計な事を口走らないように。この約束を守れるか?」
「勿論ですわ!約束します。さぁ!参りましょう。子供達が待ってますわ!」

私は、クルックの気迫に押されながら部屋を出た。

(仕方がない…なるようになれ…だ…)

腕にクルックを巻き付けたまま学びの場へと向かうのだった。



私は、クルックを腕に巻き付けたまま巨木へとやって来た。

「やはり、まだ早いな…」

クルックが、興味深そうにキョロキョロと周りを見回している。

「ここが学びの場なのですね…子供達は?ブランカやラフィはどこにいますの?」
「まだ来ていない。時間が早いからな」
「そうでしたの。でも、私は外に出る事は滅多にありませんので、ワクワクしていますのよ。サビィ…あの木の枝からぶら下がっている物はなんですの?」
「あぁ…あれは、ブランコだ。子供達がよく乗って遊んでいる」
「サビィ、私…ブランコに乗りたいです」

私は、クルックを腕から離すとブランコに乗せた。

「それで、どうすれば良いのですか?」
「まず、枝から吊るされている縄を掴む。そして、前後に揺らす」
「分かりましたわ。まずは、縄を掴むのですね」

クルックは、鞭を縄に絡ませる。

「それで、前後に揺らす…」
クルックは、ブランコを揺らそうと体を前後に揺らしたが、小刻みに揺れるだけだった。

「サビィ…これのどこが楽しいのですか?ただ、ガタガタするだけですわ」
「体が小さいから漕ぐのは無理のようだな…そのまま、しっかり掴まっていろ」

私は、後ろからクルックの体をソッと押した。

「なるほど!これが正しいブランコの乗り方なのですね」

徐々に振り幅が大きくなっていく。

「まぁ!風が心地良いですわ!確かに、これは楽しいです!」

クルックはブランコが気に入ったようだ。
鼻歌を歌いながら揺られている。
「あら?もしかしてクルック?」

ブランカが驚いた表情で、前方から歩いてきた。

「ブランカ、お久しぶりです。今日は学びを見学しにきましたわ」
「本当に久しぶりね。クルックに会えて嬉しいわ」

ブランカは嬉しそうに、クルックを見つめている。

「そんな所に集まって、どうしたんだい?」

続いてラフィが到着し、私達に問い掛ける。

「あれ…?君は…クルックかい?」
「ラフィもお久しぶりですわね」
「うんうん久しぶりだね~今日はどうしたんだい?」
「学びの見学をする為に、サビィに付いて来ましたの」
「子供達の学びに興味があるのかな?」
「ええ!とても興味がありますわ!子供達だけではなく、教師としてのあなた方にも興味がありますの」
「クルック、静かに見学しているように。私達や子供達の邪魔をした時には、強制的に部屋に戻すからな」

私は、得意げに胸を張るクルックに釘を刺す。

「分かってますわ。私はここから温かく皆様を見守っております」
「うん。まぁ…良かったらゆっくりして行ってよ。僕達は、これから学びの準備を始めるけど…1人で大丈夫かい?」
「大丈夫ですわ。ラフィ、お気になさらず準備を始めて下さい」

クルックは、そう答えると上機嫌にブランコを漕ぎ始めた。

「クルック、ブランコのコツを掴んだみたいね。」
そのようだ。クルックが大人しくしているうちに、準備を始めよう」

私達は目を合わせ頷くと、学びの準備に取り掛かった。


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