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君の幸せを願う
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ラフィの見舞いから戻った私は、ソファに座りマレンジュリティーを飲んでいた。
(あれで良かったんだ…サビィ…)
私は自分に言い聞かせる。
心を落ち着ける為にティーカップに口を付ける。
なぜか、マレンジュリの香りを感じる事ができない。
私は溜め息をつくとカップを置いた。
「サビィが…マレンジュリテイーを残しましたわ!大変ですわ!サビィ?大丈夫ですか?熱でもありますの?」
いつもの如くクルックが大騒ぎしている。
「いや、残してはいない。まだ飲んでいる途中だ」
「おかしいですわ!サビィは飲み終わるまで、カップを置いたりしませんわ!」
私はウンザリしながらクルックを見た。
「考え事をしていたからだ。時にはカップを途中で置く事くらいある」
「考え事ですか…ラフィのお見舞いから帰ってきてから、ずっとボーッしてますわ」
「失礼な。ボーッとなどしていない」
私はもう一度カップを手に取ると、残っていたマレンジュリテイーを一気に飲み干した。
「やっぱり、おかしいですわ!サビィなら、そんな飲み方はしません!優雅にいかに美しく飲むか計算しながら飲みますもの!」
クルックは私の事を良く理解してる。
その分、ちょっとした変化にも敏感に反応する。
今の私には少し面倒に感じる。
(少し放っておいて欲しいのだが…)
再び溜め息をついた瞬間、扉をノックする音が響いた。
私は安堵の息を漏らしソファから立ち上がる。
「サビィ、私よ…」
その声に私の動きが止まる。
「ブランカ…」
私がそのまま応対できずにいると、クルックが再び騒ぎ始めた。
「サビィ?ブランカですわよ。早く応対した方が良いですわ!」
「分かってる…」
私が扉を開けると、ブランカが困ったような…それでいて泣き出しそうな表情で立っていた。
「急にごめんなさい…少し話したくて…」
「大丈夫だ。中に入ると良い」
私は彼女を招き入れると、ソファに掛けるように促した。
「ブランカ、良く来てくれましたわ!歓迎致します」
クルックが嬉しそうにガタガタと揺れている。
「クルック、こんにちは」
ブランカが笑顔で答える。
マレンジュリテイーと茶請けの菓子を並べ終え、私はブランカの前に座った。
「サビィ…ありがとう」
「いや、気にする事はない」
ティーカップを抱えたまま、俯くブランカ。
暫く沈黙の時間が流れる。
私は彼女が口を開くまで待った。
「私…ラフィのお見舞いに行ったの…」
ポツリポツリとブランカが話し始める。
「それで…色々と聞いたわ…天使の国の過去や、天使長室の隠し部屋の事とか…」
「そうか…今後の事について、ザキフェル様から声が掛かるとは思っている」
「ええ…そうね…」
そして、また訪れる沈黙の時間…
カップを握るブランカの白く長い指に目が留まる。
(ブランカは…指も美しいのだな…)
未練がましい自分に嫌気が差し頭を振った。
(しっかりするんだ、サビィ!)
自分を鼓舞すると、私はブランカに尋ねた。
「君の話しは、そのような事ではないだろう?」
ブランカは一瞬小さく肩を震わせたが、覚悟を決めたように顔を上げ私を見た。
「ラフィが…エイミーとの事を説明してくれたの…彼女がアシエルと交際している事や、悩んでいるエイミーの相談に乗っていた…って…」
「ラフィは、ちゃんと君に説明したのだな?」
「ええ…ラフィがエイミーを抱き締めたと思った事も私の勘違いだった…アシエルと喧嘩した彼女が、泣きながらラフィに抱き付いたらしくて…」
そうだったのか…
ラフィなら、無下にする事はできないだろう。
ブランカは更に続ける。
「サビィ…ごめんなさい!私…やっぱり…あなたの気持ちに答えられなくて…」
やはり、その話しか…おおよその見当は付いていた。
私はゆっくり頭を振った。
「ブランカ…君が気にする事はない。私の一方的な想いだったのだから…」
ブランカの瞳からハラハラと涙が溢れる。
「私…サビィの…優しさに…甘え過ぎてた…いつも、サビィは…話しを聞いてくれたわ…でも、それは…結果的にあなたを傷付けてた…」
ブランカの涙は止まらない。
「泣くな…ブランカ、君は悪くない」
ハンカチを取り出しブランカに渡す。
彼女は、それで涙を拭いながら私を見た。
「私を変えてくれたのは…君とラフィだ。私は、そもそも1人が好きだった。友人などいなくても良い…そんな考えを変えてくれたのは、君達なのだ…」
「サビィ…」
「私は、自分にできない事がないと自負していた。困る事など皆無であった…友人など煩わしいだけだと思っていた。」
私は、話しながら昔の自分を思い出していた。
子供の頃から、私は単独行動だった。
誰と過ごす事よりも、自室で本を読み知識を深めた。
自分の知らない事を知る喜び…
知識を得る事が何よりも楽しく、私の好奇心を満たしてくれた。
私はそれで良い…それで充分だと思っていた。
しかし、…アシエルの元で、ラフィとブランカと共に学ぶようになり、私の気持ちが少しずつ変化していった。
「アシエルの元で、学び始めた時…煩わしそうにする私に、めげずに2人で何度も何度も話し掛けてくれただろう?」
私は当時を思い返しながら、ブランカに言った。
「ええ…あの頃のサビィは、とても頑なで…ラフィと、どう攻略するべきか…と頭を悩ませていたわ」
「そうだったな…あの頃は、正直言うと迷惑でしかなかった」
「やっぱり…迷惑だったのね」
「ああ…神殿に通う事が苦痛だった時期だった」
「え!そんなに?」
ブランカが驚き目を見開いた。
「冗談だ」
私はニヤリと笑うと話しを続けた。
「最初は、煩わしいと感じていたのは本当だ。しかし…気付けば、いつの間にか神殿に通う事が楽しいと感じるようになっていた」
ラフィやブランカと、たわいのない話しをする事が楽しいと感じていた。
私は初めて他の天使と交流し、時には助け合いながら共に学んできた。
「私にとって、2人はかけがえのない友人だ。だから、私は…2人に幸せになってもらいたい」
「サビィ…」
「それに、今の私は、天使長の隠し部屋に興味津々なのだ」
「あ…ラフィから聞いたわ。珍しい物がたくさん保管させているんですって?」
私は笑顔で頷き言葉を続けた。
「用途不明の物もあるようなのだ。私はザキフェル様にお願いして、それらを調べさせて頂きたいと考えている。今後の天使の国に必要な物もあると思うのだ」
「そうね…この国は破壊されてしまった所もあるし…今後の悪魔対策のヒントも見つかるかもしれないわ…」
「残念ながらセレンツリーの林も焼失してしまったし…考えねばならぬ事は山程ある。それに…水盤とも仲を深めねばならないと思ってもいる」
「そうね…子供達の為にも、早く学びを再開させたいし…サビィの水盤もラフィの百科事典も、学びに必要になるものね」
「ああ、ブランカ…だから、泣いている時間はないのだよ。私達は、これからこの国の立て直しや悪魔対策と…とにかく忙しくなるだろう」
気付けばブランカは泣き止み、いつもの瞳の輝きを取り戻していた。
「そうね…サビィ。私、もっとシッカリしなくちゃいけないわ。いつも、あなたやラフィに助けられてばかりだもの。自分に何ができるか、ちゃんと考えてみる。2人に助けられるばかりじゃなくて…私自身で考え歩んで行けるように…」
私は再び笑顔で頷いた。
「ブランカ…最後にひとつだけ願いがある」
「何かしら?」
首を傾げるブランカ…
そんな彼女を愛らしいと思うのは…これで最後にしよう…
私は、そんな想いを込めて彼女に告げる。
「私に遠慮せずに幸せになって欲しい…」
「サビィ…」
彼女の瞳が揺れる。
「君も…ラフィも大切な友人だ。私は君達が幸せならそれで良い…」
「サビィ…」
ブランカの瞳から再び涙が溢れ始める。
「サビィは優し過ぎる…」
私は軽く頭を振った。
「それは今日までだ。明日からは友人としてのサビィに戻る。君にはラフィがいる」
ブランカが泣きながら何度も頷いている。
「さぁ…ブランカ、ラフィの元に帰りなさい。ラフィも、君の帰りを待っているだろう?」
私はブランカの手を取り扉まで案内する。
ブランカは涙を拭い顔を上げる。
「サビィ…またね」
「ああ…ブランカ、また…」
私は、ゆっくりと扉を開ける。
ブランカは私の手を離し外に出ると、笑顔で手を振り扉を閉めた。
「フーッ…」
私が、深く息を吐き振り返ると、目の前で涙でグシャグシャになったクルックがフワフワと浮いていた。
「ヒック…グスッ…グスッ…ヒック…」
「クルック…いつからそこにいた…」
「ヒック…い…今…ですわ…グスッ…」
「突然、目の前に涙でグシャグシャなった掛け時計が浮いていたら驚くだろう?」
「だって…だって…サビィが…あまりにも…切なくて…グスッ…」
私は深い溜め息を吐くと、クルックを抱きソファに移動した。
泣き続けるクルックに、ブランカが涙を拭ったハンカチを渡す。
「まぁ…ありがとうございます。グスッ…」
クルックはそのハンカチを鞭で器用に持つと、一旦広げ2つに折りたたんだ。
そして、そのまま思い切り鼻をかんだ。
私のハンカチは、クルックの鼻水でビッショリと濡れている。
「クルック…私は涙を拭く為にハンカチを渡したのだが?」
「まぁ…そうでしたの?涙も鼻水も成分は同じですわ」
「そういう問題ではない」
「細かい事は気にしてはいけませんわ。おかげで、私の鼻はスッキリしましたもの」
私はガックリと肩を落とした。
「私を、失恋の感傷に浸らせる気が全くないようだな」
クルックは鞭を体の前で組み、暫く何か考えていたが、ポツリポツリと話し始めた。
「私…思うのです…」
「何をだ?」
「結局サビィを1番理解しているのは、私ではないかって…」
「は?何を言っている?」
「だって、サビィは…サビィは…こんなにも美しい天使なのですよ」
「それは自負している」
「美しいが故に、ずっと孤独で…やっと好きな女性ができたと思ったら、玉砕してしまいますし…」
「玉砕…は失礼だ」
「私なら、ラフィではなくサビィを選びますわ!」
クルックは胸を張ると、声高に叫んだ。
「………」
「サビィ?その沈黙は何ですの?」
「いや…特に…意味はない…」
「まぁ…良いですわ。これからも私が、サビィを支えますわ!だから、大船に乗ったつもりでドーンと私を頼って下さい!」
「………」
「サビィ…また沈黙してますわ」
これはクルックなりの気遣いだ。
私が苦しくならないように、敢えてこのような態度を取っている。
誤解されやすいが、クルックは心根がとても温かい。
私は、長年クルックと生活を共にしてきている。
最初は喧嘩ばかりしていたが、今はクルックのいない生活は考えられない。
クルックが言うように、私の事を1番理解しているのは恐らく彼女だろう。
私は笑みを浮かべクルックを見た。
「クルックが私を心配してくれている事も、理解してくれている事も分かっている」
「サビィ…!嬉しいですわ!」
クルックは突然動きを止め、あらぬ方向を見ている。
「クルック…どこを見ている?」
「私…私…感動していますの!」
「それは…よかった…」
「サビィ…今の言葉をもう一度、お聞かせ下さい!」
あらぬ方向を見ていたクルックが向きを変え、私にグイグイ迫ってきた。
「一度しか言うつもりはない」
「そんな…もう一度聞きたいですわ!」
「クルック!近い!もう少し離れろ…」
「嫌ですわ!」
私がクルックと格闘していると、部屋にザキフェル様の声が響いた。
「サビィ…例の隠し部屋の件で話しがある。至急、天使長室に来てくれないか?」
体にまとわりつくクルックを、どうにか引き剥がしながら答える。
「ザキフェル様、承知しました。すぐ伺います」
「では、待っている」
私は、天使長室に向かうべくソファから立ち上がった。
「サビィ!さぁ!行きますわよ!」
なぜか、クルックも一緒に行くつもりでいるようだ。
「ちょっと待て。クルック」
「何ですの?早く天使長室に行かなくてはいけませんわ!」
「だから…なぜ、クルックも行くつもりでいる?」
「あら?私は、サビィの1番の理解者ですわ!だから、私も一緒に行きます!」
「まさか…毎回ついて来る気なのか?」
「毎回はついて行きませんわ。私は場をわきまえております」
私は何度目かの深い溜め息を吐きながら、部屋の扉を開ける。
左腕には、クルックがシッカリと鞭を巻き付けている。
「さぁ!張り切って行きますわよ~!」
「クルック…なぜ、君が張り切る?」
「細かい事は気にせずに…ですわ!」
私は苦笑を浮かべ、天使長に向かう。
左腕に巻き付く、もう1人の友に心の中で感謝を述べながら…
おわり
(あれで良かったんだ…サビィ…)
私は自分に言い聞かせる。
心を落ち着ける為にティーカップに口を付ける。
なぜか、マレンジュリの香りを感じる事ができない。
私は溜め息をつくとカップを置いた。
「サビィが…マレンジュリテイーを残しましたわ!大変ですわ!サビィ?大丈夫ですか?熱でもありますの?」
いつもの如くクルックが大騒ぎしている。
「いや、残してはいない。まだ飲んでいる途中だ」
「おかしいですわ!サビィは飲み終わるまで、カップを置いたりしませんわ!」
私はウンザリしながらクルックを見た。
「考え事をしていたからだ。時にはカップを途中で置く事くらいある」
「考え事ですか…ラフィのお見舞いから帰ってきてから、ずっとボーッしてますわ」
「失礼な。ボーッとなどしていない」
私はもう一度カップを手に取ると、残っていたマレンジュリテイーを一気に飲み干した。
「やっぱり、おかしいですわ!サビィなら、そんな飲み方はしません!優雅にいかに美しく飲むか計算しながら飲みますもの!」
クルックは私の事を良く理解してる。
その分、ちょっとした変化にも敏感に反応する。
今の私には少し面倒に感じる。
(少し放っておいて欲しいのだが…)
再び溜め息をついた瞬間、扉をノックする音が響いた。
私は安堵の息を漏らしソファから立ち上がる。
「サビィ、私よ…」
その声に私の動きが止まる。
「ブランカ…」
私がそのまま応対できずにいると、クルックが再び騒ぎ始めた。
「サビィ?ブランカですわよ。早く応対した方が良いですわ!」
「分かってる…」
私が扉を開けると、ブランカが困ったような…それでいて泣き出しそうな表情で立っていた。
「急にごめんなさい…少し話したくて…」
「大丈夫だ。中に入ると良い」
私は彼女を招き入れると、ソファに掛けるように促した。
「ブランカ、良く来てくれましたわ!歓迎致します」
クルックが嬉しそうにガタガタと揺れている。
「クルック、こんにちは」
ブランカが笑顔で答える。
マレンジュリテイーと茶請けの菓子を並べ終え、私はブランカの前に座った。
「サビィ…ありがとう」
「いや、気にする事はない」
ティーカップを抱えたまま、俯くブランカ。
暫く沈黙の時間が流れる。
私は彼女が口を開くまで待った。
「私…ラフィのお見舞いに行ったの…」
ポツリポツリとブランカが話し始める。
「それで…色々と聞いたわ…天使の国の過去や、天使長室の隠し部屋の事とか…」
「そうか…今後の事について、ザキフェル様から声が掛かるとは思っている」
「ええ…そうね…」
そして、また訪れる沈黙の時間…
カップを握るブランカの白く長い指に目が留まる。
(ブランカは…指も美しいのだな…)
未練がましい自分に嫌気が差し頭を振った。
(しっかりするんだ、サビィ!)
自分を鼓舞すると、私はブランカに尋ねた。
「君の話しは、そのような事ではないだろう?」
ブランカは一瞬小さく肩を震わせたが、覚悟を決めたように顔を上げ私を見た。
「ラフィが…エイミーとの事を説明してくれたの…彼女がアシエルと交際している事や、悩んでいるエイミーの相談に乗っていた…って…」
「ラフィは、ちゃんと君に説明したのだな?」
「ええ…ラフィがエイミーを抱き締めたと思った事も私の勘違いだった…アシエルと喧嘩した彼女が、泣きながらラフィに抱き付いたらしくて…」
そうだったのか…
ラフィなら、無下にする事はできないだろう。
ブランカは更に続ける。
「サビィ…ごめんなさい!私…やっぱり…あなたの気持ちに答えられなくて…」
やはり、その話しか…おおよその見当は付いていた。
私はゆっくり頭を振った。
「ブランカ…君が気にする事はない。私の一方的な想いだったのだから…」
ブランカの瞳からハラハラと涙が溢れる。
「私…サビィの…優しさに…甘え過ぎてた…いつも、サビィは…話しを聞いてくれたわ…でも、それは…結果的にあなたを傷付けてた…」
ブランカの涙は止まらない。
「泣くな…ブランカ、君は悪くない」
ハンカチを取り出しブランカに渡す。
彼女は、それで涙を拭いながら私を見た。
「私を変えてくれたのは…君とラフィだ。私は、そもそも1人が好きだった。友人などいなくても良い…そんな考えを変えてくれたのは、君達なのだ…」
「サビィ…」
「私は、自分にできない事がないと自負していた。困る事など皆無であった…友人など煩わしいだけだと思っていた。」
私は、話しながら昔の自分を思い出していた。
子供の頃から、私は単独行動だった。
誰と過ごす事よりも、自室で本を読み知識を深めた。
自分の知らない事を知る喜び…
知識を得る事が何よりも楽しく、私の好奇心を満たしてくれた。
私はそれで良い…それで充分だと思っていた。
しかし、…アシエルの元で、ラフィとブランカと共に学ぶようになり、私の気持ちが少しずつ変化していった。
「アシエルの元で、学び始めた時…煩わしそうにする私に、めげずに2人で何度も何度も話し掛けてくれただろう?」
私は当時を思い返しながら、ブランカに言った。
「ええ…あの頃のサビィは、とても頑なで…ラフィと、どう攻略するべきか…と頭を悩ませていたわ」
「そうだったな…あの頃は、正直言うと迷惑でしかなかった」
「やっぱり…迷惑だったのね」
「ああ…神殿に通う事が苦痛だった時期だった」
「え!そんなに?」
ブランカが驚き目を見開いた。
「冗談だ」
私はニヤリと笑うと話しを続けた。
「最初は、煩わしいと感じていたのは本当だ。しかし…気付けば、いつの間にか神殿に通う事が楽しいと感じるようになっていた」
ラフィやブランカと、たわいのない話しをする事が楽しいと感じていた。
私は初めて他の天使と交流し、時には助け合いながら共に学んできた。
「私にとって、2人はかけがえのない友人だ。だから、私は…2人に幸せになってもらいたい」
「サビィ…」
「それに、今の私は、天使長の隠し部屋に興味津々なのだ」
「あ…ラフィから聞いたわ。珍しい物がたくさん保管させているんですって?」
私は笑顔で頷き言葉を続けた。
「用途不明の物もあるようなのだ。私はザキフェル様にお願いして、それらを調べさせて頂きたいと考えている。今後の天使の国に必要な物もあると思うのだ」
「そうね…この国は破壊されてしまった所もあるし…今後の悪魔対策のヒントも見つかるかもしれないわ…」
「残念ながらセレンツリーの林も焼失してしまったし…考えねばならぬ事は山程ある。それに…水盤とも仲を深めねばならないと思ってもいる」
「そうね…子供達の為にも、早く学びを再開させたいし…サビィの水盤もラフィの百科事典も、学びに必要になるものね」
「ああ、ブランカ…だから、泣いている時間はないのだよ。私達は、これからこの国の立て直しや悪魔対策と…とにかく忙しくなるだろう」
気付けばブランカは泣き止み、いつもの瞳の輝きを取り戻していた。
「そうね…サビィ。私、もっとシッカリしなくちゃいけないわ。いつも、あなたやラフィに助けられてばかりだもの。自分に何ができるか、ちゃんと考えてみる。2人に助けられるばかりじゃなくて…私自身で考え歩んで行けるように…」
私は再び笑顔で頷いた。
「ブランカ…最後にひとつだけ願いがある」
「何かしら?」
首を傾げるブランカ…
そんな彼女を愛らしいと思うのは…これで最後にしよう…
私は、そんな想いを込めて彼女に告げる。
「私に遠慮せずに幸せになって欲しい…」
「サビィ…」
彼女の瞳が揺れる。
「君も…ラフィも大切な友人だ。私は君達が幸せならそれで良い…」
「サビィ…」
ブランカの瞳から再び涙が溢れ始める。
「サビィは優し過ぎる…」
私は軽く頭を振った。
「それは今日までだ。明日からは友人としてのサビィに戻る。君にはラフィがいる」
ブランカが泣きながら何度も頷いている。
「さぁ…ブランカ、ラフィの元に帰りなさい。ラフィも、君の帰りを待っているだろう?」
私はブランカの手を取り扉まで案内する。
ブランカは涙を拭い顔を上げる。
「サビィ…またね」
「ああ…ブランカ、また…」
私は、ゆっくりと扉を開ける。
ブランカは私の手を離し外に出ると、笑顔で手を振り扉を閉めた。
「フーッ…」
私が、深く息を吐き振り返ると、目の前で涙でグシャグシャになったクルックがフワフワと浮いていた。
「ヒック…グスッ…グスッ…ヒック…」
「クルック…いつからそこにいた…」
「ヒック…い…今…ですわ…グスッ…」
「突然、目の前に涙でグシャグシャなった掛け時計が浮いていたら驚くだろう?」
「だって…だって…サビィが…あまりにも…切なくて…グスッ…」
私は深い溜め息を吐くと、クルックを抱きソファに移動した。
泣き続けるクルックに、ブランカが涙を拭ったハンカチを渡す。
「まぁ…ありがとうございます。グスッ…」
クルックはそのハンカチを鞭で器用に持つと、一旦広げ2つに折りたたんだ。
そして、そのまま思い切り鼻をかんだ。
私のハンカチは、クルックの鼻水でビッショリと濡れている。
「クルック…私は涙を拭く為にハンカチを渡したのだが?」
「まぁ…そうでしたの?涙も鼻水も成分は同じですわ」
「そういう問題ではない」
「細かい事は気にしてはいけませんわ。おかげで、私の鼻はスッキリしましたもの」
私はガックリと肩を落とした。
「私を、失恋の感傷に浸らせる気が全くないようだな」
クルックは鞭を体の前で組み、暫く何か考えていたが、ポツリポツリと話し始めた。
「私…思うのです…」
「何をだ?」
「結局サビィを1番理解しているのは、私ではないかって…」
「は?何を言っている?」
「だって、サビィは…サビィは…こんなにも美しい天使なのですよ」
「それは自負している」
「美しいが故に、ずっと孤独で…やっと好きな女性ができたと思ったら、玉砕してしまいますし…」
「玉砕…は失礼だ」
「私なら、ラフィではなくサビィを選びますわ!」
クルックは胸を張ると、声高に叫んだ。
「………」
「サビィ?その沈黙は何ですの?」
「いや…特に…意味はない…」
「まぁ…良いですわ。これからも私が、サビィを支えますわ!だから、大船に乗ったつもりでドーンと私を頼って下さい!」
「………」
「サビィ…また沈黙してますわ」
これはクルックなりの気遣いだ。
私が苦しくならないように、敢えてこのような態度を取っている。
誤解されやすいが、クルックは心根がとても温かい。
私は、長年クルックと生活を共にしてきている。
最初は喧嘩ばかりしていたが、今はクルックのいない生活は考えられない。
クルックが言うように、私の事を1番理解しているのは恐らく彼女だろう。
私は笑みを浮かべクルックを見た。
「クルックが私を心配してくれている事も、理解してくれている事も分かっている」
「サビィ…!嬉しいですわ!」
クルックは突然動きを止め、あらぬ方向を見ている。
「クルック…どこを見ている?」
「私…私…感動していますの!」
「それは…よかった…」
「サビィ…今の言葉をもう一度、お聞かせ下さい!」
あらぬ方向を見ていたクルックが向きを変え、私にグイグイ迫ってきた。
「一度しか言うつもりはない」
「そんな…もう一度聞きたいですわ!」
「クルック!近い!もう少し離れろ…」
「嫌ですわ!」
私がクルックと格闘していると、部屋にザキフェル様の声が響いた。
「サビィ…例の隠し部屋の件で話しがある。至急、天使長室に来てくれないか?」
体にまとわりつくクルックを、どうにか引き剥がしながら答える。
「ザキフェル様、承知しました。すぐ伺います」
「では、待っている」
私は、天使長室に向かうべくソファから立ち上がった。
「サビィ!さぁ!行きますわよ!」
なぜか、クルックも一緒に行くつもりでいるようだ。
「ちょっと待て。クルック」
「何ですの?早く天使長室に行かなくてはいけませんわ!」
「だから…なぜ、クルックも行くつもりでいる?」
「あら?私は、サビィの1番の理解者ですわ!だから、私も一緒に行きます!」
「まさか…毎回ついて来る気なのか?」
「毎回はついて行きませんわ。私は場をわきまえております」
私は何度目かの深い溜め息を吐きながら、部屋の扉を開ける。
左腕には、クルックがシッカリと鞭を巻き付けている。
「さぁ!張り切って行きますわよ~!」
「クルック…なぜ、君が張り切る?」
「細かい事は気にせずに…ですわ!」
私は苦笑を浮かべ、天使長に向かう。
左腕に巻き付く、もう1人の友に心の中で感謝を述べながら…
おわり
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四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
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