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【敵同士→恋】6話(2)【探偵ミステリーBL】
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カウンター奥のカーテンの隙間から、玄沢が手招きをしてきた。
陽向は客の愚痴を聞いてやっているリエをちらりと見、席を立つ。
ちょうど入れ違いに、先ほどの女性がカーテンから出てきた。
「ありがとう。今後のことはお願いします」
女性は来た時と違い、いくぶん穏やかな顔をしていた。
そのまま玄沢と陽向に軽く会釈すると、靴音を響かせて去っていく。
「こっちだ」
玄沢にうながされ、陽向はカーテンをくぐる。
店のバックヤードにある狭い廊下には、備品が入ったダンボールが点々と積まれていた。
「さっきの人、大丈夫だったの? 来た時、顔色悪かったみたいだけど」
前を行く玄沢の背中に問いかける。
「あぁ、まだ未遂だったから、被害自体はなかった」
「未遂?」
「まあな——さ、ついたぞ」
廊下を突き抜け、裏口のちょうど右手にある部屋の前で玄沢は立ち止まった。
「ここは?」
「ヤリ部屋だ」
言ってから、玄沢は少し慌てて補足を入れる。
「そうママたちが呼んでるだけだ。つまりここは……意気投合した客同士が逢い引きに使う部屋で……」
「なるほど、それでヤリ部屋ね。玄沢さんも、さっきの人をここに連れ込んだの?」「語弊のある言い方をするな。俺はただここを簡易の事務所として使わせてもらってるだけだ」
「了解。わかってるよ」
くすっと笑うと、玄沢はバツの悪そうな顔をした。
〝ヤリ部屋〟は、物置のような空間だった。
入ってすぐ左手には金属のラックがずらりと並び、酒のストックや食品が入ったダンボールが並ぶ。
さらに奥のラックの床下には、壊れたイスやテーブルが積まれており、地震が来たら一発で崩れそうな様相だった。
正面にはスチール製のデスクとパイプイスが二脚。
さっきまで玄沢たちが使っていたのだろう。
デスクの上には、まだ湯気の立つ二組のカップがあり、片方の縁には色の薄い口紅の跡が残っている。
「そういえば、依頼って女の人も結構来るものなの?」
「あの人は一応、まだ男だ」
「へ……男⁈ 全然そんな感じには見えなかったけど……」
思わず声を上げると、玄沢は「しぃ」と唇に指を当てた。
「最近多いんだ。トランスジェンダーを狙った詐欺が。さっきの依頼人も、残りの手術のために積み立ててた貯金を、美容整形関係者を名乗る男たちに騙し取られそうになったらしい」
「……詐欺?」
「ああ。ここ一ヶ月、もう何件も似た事件が起きてる。でも中々、被害者が名乗り出てくれなくてな。
セクシャル・マイノリティーの多くは、自分に何があっても、それを明るみに出さずに済ませてしまう。周囲や世間からの偏見や差別を恐れてな」
玄沢の声が、いつになく低く深くなる。
「犯行グループもそれをわかってて、徐々に手口が大胆になってきてる。今のうちに尻尾を掴んでおかないと」
静かな炎を宿したその目に、陽向は思わず息をのんだ。
胸の奥に複雑な思いがわだかまり、大きなため息が漏れる。
「そっか……世の中には最低な奴らが、腐るほどいるもんなんだね。俺なんて、海斗みたいな小粒でまだマシだったってことか」
「そういう言い方をするな」
玄沢はデスクの縁に腰をかけ、長い足を足首で組んだ。
「それで、謝花のことだが……俺に任せてくれないか」
「え……? じゃぁ、俺は? 何をすればいい?」
「何も。大人しく待っていってくれ」
「はぁ!?」
思わず声が裏返る。
「何もしないでいられるか! これは俺の問題なのに!」
「普通の人間はな、探偵を雇った時点で、何もしないものだぞ」
「そんなの知るか! とにかく俺は、あいつを自分の手で見つけ出して懲らしめないと気が済まないんだ!」
「ワガママいうな」
「ワガママじゃないだろう!」
玄沢がこめかみを押さえ、これ見よがしに大きなため息を吐いた。
「だから嫌なんだよ」
玄沢は立ち上がり、陽向の前に立ちはだかる。
「お願いだから、大人しくしててくれ。お前が余計なことをすると、さらに状況が悪くなる」
「俺のせいだっていうの? 海斗がこんなことをしたのも?」
「そういうことを言ってるんじゃない。ただ、お前が動くと……俺が気が気じゃなくなるんだ」
はっと、陽向は鼻で笑った。
「気が気じゃないって、俺は別に、お守りを頼んでるわけじゃない! これでも大人の男だ。自分のことは自分でやるし、玄沢さんは情報だけくれれば——それが探偵の仕事だろう?」
玄沢がむっとした顔になる。
「自分のことは自分で、なんて言ったが、それができてないから言ってるんだ。お前にできるのは、せいぜいその場をかき回すことくらいだ」
「……ッ」
カッと頬に熱が集まる。あと一言でも突かれれば、胃の中のマグマが噴き出しそうだった。
「そんなに俺のことが面倒なら、どっかに監禁でもしておけ! それから悠々と調査でも何でもすればいいだろう!」
玄沢の顔が、一瞬にして固く強ばる。
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ご覧いただき、ありがとうございます。
現在、中華ファンタジーBLを連載中です!
興味がありましたら、お越し下さいませ☺
■あらすじ動画(1分)
https://youtube.com/shorts/o6KYEqYVPOI
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