34 / 55
【敵同士→恋】10話(1)【探偵ミステリーBL】
しおりを挟む陽向は、じっと携帯の画面を見つめた。
(今さら、海斗が何の用だ? まさか謝るつもりじゃないだろうな。そんなことしても絶対に許さないけど!)
怒りのままに、アプリを開く。
『たすけて』
絵文字も句読点もない。慌てて打ったような一文。
さあっと血の気が引いていくのを感じる。
──たいしたことはない。これも、いつものこと。
同情を誘い、許しを乞おうという魂胆だ。
頭ではそう繰り返すのに、胸の鼓動だけが不安を訴え続けていた。
カチ、カチ──。
時計の音が、やけに耳につく。
どれほどのあいだ、そうして固まっていただろう。
(……やっぱり、これはおかしい)
陽向は、むくりとソファから身を起こした。
もし同情を引きたいだけなら、海斗はメールではなく直接来たはずだ。
冷たい目で見られようと、毎回しつこく職場に押しかけてくるほど、面の皮の厚い男なのだから。
急いでスウェットを脱ぎ捨て着替え、コートをひったくるように羽織った。
そのまま外へ飛び出し、タクシーを捕まえる。
行き先は、自分のアパート。
ほかの場所など、考えられなかった。
海斗がいるなら、そこしかない。
一年間を共に過ごした直感が、そう告げていた。
深夜料金を払い、タクシーを下りる。
階段を急ぎ足で駆け上がりながら、ポケットから鍵を取り出した。
鍵穴を探す指先が、小刻みに震えているのがわかった。
ガチャリ。
早朝三時の澄んだ空気に、鍵の音がやけに大きく響いた。
そっとノブを回す。
自分の家なのに、まるで侵入しているかのような緊張感。
扉が開くたび、心臓の鼓動はバクバクと速さを増していった。
しーん。
部屋は真っ暗だった。
海斗は電球まで持ち去ったのか、照明はつかない。
窓から射す月光と雪の反射が、淡く床を照らすばかり。
目をこらす。
物音も、人影もない。
「……はぁ」
安堵と落胆の入り混じったため息がもれた。
やはり杞憂か。
そう思い、玄関のドアを閉めようとしたその時──。
廊下に、点々と染みのようなものが落ちているのが目に入った。
(何だ、これ……前はなかったはず)
ドアを押さえたまま身を乗り出す。
黒いと思った染みは、赤かった。
——血だ!
ギョッとして身を引く。
アドレナリンが一気に駆け巡り、心臓が痛いほど鳴った。
足でドアを留め、指先でそっと触れる。
まだ乾ききっていない。
ねばりのある赤が、じわりとついてきた。
——温かい。
(まさか、これ、海斗の……!?)
「……海斗、海斗っ!」
玄関を開け放したまま部屋に駆け込む。
だが血痕は廊下で途切れ、室内には何もなかった。
「海斗!? どこにいるんだ!」
必死に探し回っても、海斗の姿も手がかりも見つからない。
暗闇に取り残され、陽向は呆然と立ち尽くす。
バタン!
鋭い音と共に、玄関のドアが閉じた。
肩がびくりと竦む。
恐る恐る振り返ると、そこには閉ざされた玄関のドアがあった。
(風で閉じたのか……?)
慌ててドアを開ける。
だが雪は降っているものの、風はない。
自然に閉まるはずがない。
何より、真新しい雪の上に、自分のものではない足跡があった。
ぞわり、と戦慄が足下から這い上がってくる。
……気のせいか。
誰かに見られているような視線も感じた。
心臓が肋骨を叩き割らんばかりに暴れ出す。
陽向は飛び出すように外へ出て、階段を駆け下りながら携帯を取り出した。
震える指でコールボタンを押す。
ルルルルルル……。
呼び出し音が、やけに遠く虚しく響いた。
(お願いだ、出てくれ……!)
朝の四時。
普通なら誰も出ない時間。
わかっていても、願わずにはいられない。
閑静な住宅街の通りは、夜明け前の深い闇と静寂に沈んでいた。
ヒタ、ヒタ、ヒタ……。
呼び出し音に混じって、もう一つの靴音が背後から響く。
つかず離れず、自分の足音をなぞるように。
陽向は耳に携帯を押しつけたまま、靴音を無視した。
(……お願い! お願いだ! 出てくれ!)
○●----------------------------------------------------●○
ご覧いただき、ありがとうございます。
現在、中華ファンタジーBLを連載中です!
興味がありましたら、お越し下さいませ☺
■あらすじ動画(1分)
https://youtube.com/shorts/o6KYEqYVPOI
○●----------------------------------------------------●○
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
