【敵→恋】春雪に咲く花【探偵ミステリーBL】

郁雨いくううう!

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【敵同士→恋】10話(1)【探偵ミステリーBL】

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陽向は、じっと携帯の画面を見つめた。

(今さら、海斗が何の用だ? まさか謝るつもりじゃないだろうな。そんなことしても絶対に許さないけど!)

怒りのままに、アプリを開く。

『たすけて』

絵文字も句読点もない。慌てて打ったような一文。
さあっと血の気が引いていくのを感じる。

──たいしたことはない。これも、いつものこと。
同情を誘い、許しを乞おうという魂胆だ。

頭ではそう繰り返すのに、胸の鼓動だけが不安を訴え続けていた。

カチ、カチ──。
時計の音が、やけに耳につく。

どれほどのあいだ、そうして固まっていただろう。

(……やっぱり、これはおかしい)

陽向は、むくりとソファから身を起こした。

もし同情を引きたいだけなら、海斗はメールではなく直接来たはずだ。
冷たい目で見られようと、毎回しつこく職場に押しかけてくるほど、面の皮の厚い男なのだから。

急いでスウェットを脱ぎ捨て着替え、コートをひったくるように羽織った。
そのまま外へ飛び出し、タクシーを捕まえる。

行き先は、自分のアパート。
ほかの場所など、考えられなかった。

海斗がいるなら、そこしかない。
一年間を共に過ごした直感が、そう告げていた。

深夜料金を払い、タクシーを下りる。
階段を急ぎ足で駆け上がりながら、ポケットから鍵を取り出した。

鍵穴を探す指先が、小刻みに震えているのがわかった。

ガチャリ。
早朝三時の澄んだ空気に、鍵の音がやけに大きく響いた。

そっとノブを回す。
自分の家なのに、まるで侵入しているかのような緊張感。
扉が開くたび、心臓の鼓動はバクバクと速さを増していった。

しーん。
部屋は真っ暗だった。

海斗は電球まで持ち去ったのか、照明はつかない。
窓から射す月光と雪の反射が、淡く床を照らすばかり。

目をこらす。
物音も、人影もない。

「……はぁ」

安堵と落胆の入り混じったため息がもれた。
やはり杞憂か。
そう思い、玄関のドアを閉めようとしたその時──。

廊下に、点々と染みのようなものが落ちているのが目に入った。

(何だ、これ……前はなかったはず)
ドアを押さえたまま身を乗り出す。
黒いと思った染みは、赤かった。

——血だ!

ギョッとして身を引く。
アドレナリンが一気に駆け巡り、心臓が痛いほど鳴った。

足でドアを留め、指先でそっと触れる。
まだ乾ききっていない。
ねばりのある赤が、じわりとついてきた。

——温かい。

(まさか、これ、海斗の……!?)

「……海斗、海斗っ!」

玄関を開け放したまま部屋に駆け込む。
だが血痕は廊下で途切れ、室内には何もなかった。

「海斗!? どこにいるんだ!」

必死に探し回っても、海斗の姿も手がかりも見つからない。
暗闇に取り残され、陽向は呆然と立ち尽くす。

バタン!
鋭い音と共に、玄関のドアが閉じた。

肩がびくりと竦む。
恐る恐る振り返ると、そこには閉ざされた玄関のドアがあった。

(風で閉じたのか……?)

慌ててドアを開ける。
だが雪は降っているものの、風はない。
自然に閉まるはずがない。

何より、真新しい雪の上に、自分のものではない足跡があった。
ぞわり、と戦慄が足下から這い上がってくる。

……気のせいか。
誰かに見られているような視線も感じた。

心臓が肋骨を叩き割らんばかりに暴れ出す。

陽向は飛び出すように外へ出て、階段を駆け下りながら携帯を取り出した。
震える指でコールボタンを押す。

ルルルルルル……。
呼び出し音が、やけに遠く虚しく響いた。

(お願いだ、出てくれ……!)

朝の四時。
普通なら誰も出ない時間。
わかっていても、願わずにはいられない。

閑静な住宅街の通りは、夜明け前の深い闇と静寂に沈んでいた。

ヒタ、ヒタ、ヒタ……。

呼び出し音に混じって、もう一つの靴音が背後から響く。
つかず離れず、自分の足音をなぞるように。

陽向は耳に携帯を押しつけたまま、靴音を無視した。

(……お願い! お願いだ! 出てくれ!)



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ご覧いただき、ありがとうございます。

現在、中華ファンタジーBLを連載中です!
興味がありましたら、お越し下さいませ☺

■あらすじ動画(1分)
https://youtube.com/shorts/o6KYEqYVPOI


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