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【敵同士→恋】10話(3)【探偵ミステリーBL】
しおりを挟む突然、車が道路脇に急停止した。
玄沢がハンドルに拳を叩きつける。
「一体、何度言ったらわかるんだ!? 一人で突っ走るなと、あんなに言っただろう! 犯人と鉢合わせしていたら、どうするつもりだったんだ!」
「でも……」
「聞きたくない!」
怒声が車内を揺らす。
「どうして……どうしてメッセージがきた時点で、俺に連絡しなかった!?」
「よ、夜中で迷惑かと……」
「迷惑!? 今こうしている方がよほど迷惑だと思わないのか!」
玄沢の手が伸び、胸倉を掴まれる。
助手席のガラスに押しつけられた陽向の視界に、街灯に照らされた玄沢の顔が浮かぶ。
その顔は怒りに歪み、普段の冷静さは微塵もない。
「どうして、お前はこうも俺をイライラさせるんだ……! 時々、無性に殴りたくなる! わざとなのか!?」
怒りのはけ口を探すように、玄沢の拳が窓ガラスを何度も打ちつけた。
「違っ──ただ俺は……」
陽向は言いかけたが、続きは喉に詰まったまま出てこなかった。
本音を言えば、距離を置きたかった。
いくら自分でも、失恋したその日に平気な顔で相手に会えるほど、図太い神経は持ち合わせていない。
視線を逸らすと、後部座席の花束が再び目に入った。
その横には、線香の箱。
黒いスーツ姿の玄沢と重なり、胸の奥にざわりと嫌な予感が走った。
(もしかして、今日の用事って——)
血の気が引き、パニックが押し寄せる。
「本当にごめんなさい……! 電話なんてするべきじゃなかった! 気が動転してて、つい——」
「そういうことを言っているんじゃないっ! どうして、わからないんだっ……!?」
玄沢は拳を窓に押し当て、顔を近づけた。
「なぜ連絡せず、勝手に動いたんだ……!」
「ご、ごめん——」
「謝罪はいらない! 理由を言え!」
「理由って……理由なんか……」
好きだからに決まっている。
好きだから距離を置きたかった。
好きだから迷惑をかけたくなかった。
好きだから——結局は頼ってしまった。
でもそんなこと、言えるはずない。
この想いは繭のまま、葬り去ると決めたのだ。
頑なに押し黙っていると、玄沢の身体がふっと離れた。
「……わかった」
短く告げると、車は再び急発進した。
街灯がオレンジ色に流れる夜道を、車は無言で進む。
陽向は震えそうになる唇を噛み、ただ車窓に映る景色を見つめていた。
やがて、見慣れぬ道へと差しかかっていく。
「……どこに行くの?」
「…………」
「ねぇ、どこに——」
「黙ってろ!」
玄沢の怒声が、鼓膜を射抜いた。
あの冷静沈着な玄沢とは思えない、感情むき出しの叫びだった。
虚しさが押し寄せる。
だが同時に、かすかな怒りも湧いてくる。
自分にだって、こんなことになった理由はいくつもある。
なのに──頭ごなしに怒鳴られる筋合いはない。
そもそも、自分は立派な大人の男だ。
玄沢にいちいち許可を取る義務なんてない。
すべてを自分の思い通りにできると思っているなら、それは玄沢の傲慢だ。
思い上がりも甚だしい。
冷え冷えとした沈黙が、車内を支配する。
一瞬でも気を抜けば、陽向の口から泣き言か罵倒がこぼれそうだった。
それから車が止まるまでのあいだ、陽向はグッと唇を噛みしめ続けた。
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現在、中華ファンタジーBLを連載中です!
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■あらすじ動画(1分)
https://youtube.com/shorts/o6KYEqYVPOI
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