【敵→恋】春雪に咲く花【探偵ミステリーBL】

郁雨いくううう!

文字の大きさ
36 / 55

【敵同士→恋】10話(3)【探偵ミステリーBL】

しおりを挟む



突然、車が道路脇に急停止した。
玄沢がハンドルに拳を叩きつける。

「一体、何度言ったらわかるんだ!? 一人で突っ走るなと、あんなに言っただろう! 犯人と鉢合わせしていたら、どうするつもりだったんだ!」
「でも……」
「聞きたくない!」

怒声が車内を揺らす。

「どうして……どうしてメッセージがきた時点で、俺に連絡しなかった!?」
「よ、夜中で迷惑かと……」
「迷惑!? 今こうしている方がよほど迷惑だと思わないのか!」

玄沢の手が伸び、胸倉を掴まれる。
助手席のガラスに押しつけられた陽向の視界に、街灯に照らされた玄沢の顔が浮かぶ。
その顔は怒りに歪み、普段の冷静さは微塵もない。

「どうして、お前はこうも俺をイライラさせるんだ……! 時々、無性に殴りたくなる! わざとなのか!?」

怒りのはけ口を探すように、玄沢の拳が窓ガラスを何度も打ちつけた。

「違っ──ただ俺は……」

陽向は言いかけたが、続きは喉に詰まったまま出てこなかった。

本音を言えば、距離を置きたかった。
いくら自分でも、失恋したその日に平気な顔で相手に会えるほど、図太い神経は持ち合わせていない。

視線を逸らすと、後部座席の花束が再び目に入った。
その横には、線香の箱。

黒いスーツ姿の玄沢と重なり、胸の奥にざわりと嫌な予感が走った。

(もしかして、今日の用事って——)

血の気が引き、パニックが押し寄せる。

「本当にごめんなさい……! 電話なんてするべきじゃなかった! 気が動転してて、つい——」
「そういうことを言っているんじゃないっ! どうして、わからないんだっ……!?」

玄沢は拳を窓に押し当て、顔を近づけた。

「なぜ連絡せず、勝手に動いたんだ……!」
「ご、ごめん——」
「謝罪はいらない! 理由を言え!」
「理由って……理由なんか……」

好きだからに決まっている。

好きだから距離を置きたかった。
好きだから迷惑をかけたくなかった。
好きだから——結局は頼ってしまった。

でもそんなこと、言えるはずない。
この想いは繭のまま、葬り去ると決めたのだ。

頑なに押し黙っていると、玄沢の身体がふっと離れた。

「……わかった」

短く告げると、車は再び急発進した。

街灯がオレンジ色に流れる夜道を、車は無言で進む。
陽向は震えそうになる唇を噛み、ただ車窓に映る景色を見つめていた。

やがて、見慣れぬ道へと差しかかっていく。

「……どこに行くの?」
「…………」
「ねぇ、どこに——」
「黙ってろ!」

玄沢の怒声が、鼓膜を射抜いた。
あの冷静沈着な玄沢とは思えない、感情むき出しの叫びだった。

虚しさが押し寄せる。
だが同時に、かすかな怒りも湧いてくる。

自分にだって、こんなことになった理由はいくつもある。
なのに──頭ごなしに怒鳴られる筋合いはない。

そもそも、自分は立派な大人の男だ。
玄沢にいちいち許可を取る義務なんてない。

すべてを自分の思い通りにできると思っているなら、それは玄沢の傲慢だ。
思い上がりも甚だしい。

冷え冷えとした沈黙が、車内を支配する。
一瞬でも気を抜けば、陽向の口から泣き言か罵倒がこぼれそうだった。

それから車が止まるまでのあいだ、陽向はグッと唇を噛みしめ続けた。


○●----------------------------------------------------●○

ご覧いただき、ありがとうございます。

現在、中華ファンタジーBLを連載中です!
興味がありましたら、お越し下さいませ☺

■あらすじ動画(1分)
https://youtube.com/shorts/o6KYEqYVPOI

○●----------------------------------------------------●○
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...