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【敵同士→恋】11話(1)【探偵ミステリーBL】
しおりを挟むキィ、と小さな音を立てて車が止まる。
陽向の座る後部座席の窓からは、こんもりとした林が見えた。
その間から、唐破風の大きな屋根がのぞいている。
(お寺? なんで、こんなところに俺を……?)
まさかとは思うが、玄沢はこのまま自分を永遠に葬り去るつもりなのでは。
そんな疑念が脳裏をよぎった時——
「ついて来い」
玄沢が花束を持って車を降りた。
そのまま振り返ることなく、すたすたと歩いていく。
陽向は一瞬、この隙に脱走してしまおうかと考えた。
が、そんなことをすれば確実に殺される。
それだけは、なんとなくわかった。
仕方なく車を降り、重たい足取りであとを追う。
「ここで待ってろ」
墓地の入り口で玄沢が言い、ひとり社務所の方へ向かっていく。
戻ってきたときには、線香と水を張ったバケツを手にしていた。
「あの……俺、邪魔なようなら車で待っていようか? 大丈夫。勝手に帰ったりしないし」
勇気を振り絞って声をかけたが、玄沢は何も言わずに墓地へと入っていってしまう。
これには、さすがに腹が立った。
いったいどこの世界に、依頼人にこんな尊大な態度をとる探偵がいるんだ。
ブツブツ文句を言いながらも、結局はついていく。
一度心を許した相手に、とことん弱い自分が情けない。
悶々しながら墓地の迷路のような狭い道を進む。
本州の墓地に来たのは初めてだった。
陽向は、こじんまりとした形の墓に驚いた。
沖縄では亀甲墓——文字通り亀の甲羅を象った、屋根つきの小さな家のような墓が主流だ。
墓の前には「墓庭」と呼ばれる大きなスペースがあり、清明祭(シーミー)の時期になると、そこに親戚一同が集まり、飲めや歌えやの宴会が繰り広げられる。
元気いっぱいの子供たちが墓の屋根を滑り台代わりにして遊ぶのも、沖縄の墓参りでは見慣れた光景だった。
「わっぷ!」
玄沢が突然立ち止まったため、陽向は鼻をしたたかに相手の背中へ打ちつけてしまった。
「ごめんっ……!」
無感情に振り返った玄沢と目が合い、陽向は慌てて距離を取った。
だがすぐに、なぜ自分がこんなに怯えなきゃならないのかと思い直す。
わざとそっけない口調で問いかける。
「ここは?」
「知り合いの墓だ。今日が命日でな」
玄沢はくいっと顎で前方を示し、持っていた花束を墓の横に置いた。
御影石の正面には「佐々木家」と彫られている。
墓の斜め横には柳桜が植えられ、桃色をのぞかせた小さな蕾が雪の重みでゆらゆらと揺れていた。
玄沢は墓の後ろに置かれていた雑巾を手に取り、丁寧に墓石を拭き始めた。
花立ての水を替え、燃え尽きた線香を片づけ、手水の水も入れ替える。
その一連の手つきは儀式のように厳かで、無駄な動きが一切なかった。
まるで、今まで同じことを何千回と繰り返しているかのように。
最後に白い花束を生け、線香に火をつける。
淡い煙が灰色の空へと筋を描きながら立ち昇っていく。
陽向は、ちらりと墓の横に彫られた名前に目をやった。
雪人 享年二十七
若い。
あまりにも若すぎる。
直感的に思った。
たぶん、この人が——玄沢の「亡くなった親友」なのだろう。
(そして、玄沢さんが探偵になるきっかけを作った人……)
陽向は慌てて首を横に振った。
故人に嫉妬してどうする。
そんなこと、海斗に改心を促すのと同じくらい不毛だ。
「——昔」
手を合わせていた玄沢が、ぽつりと口を開いた。
顔を上げた相手の横顔の一部が、陽向の視界に入る。
「俺が大学生の時だ。同じ学部に、性格は正反対なのに、なぜか気の合う奴がいた」
玄沢はふと、空を仰ぐ。
透き通るような灰色の空。
その中を、ちらちらと細かな雪が舞い始めていた。
「雪人は名前の通り、ウィンタースポーツが好きな奴でな。それがきっかけで仲良くなったんだ。知り合ってからは、毎週のように二人でスキーやらスノボやら、登山に出かけていた」
玄沢の声は、柔らかな懐かしさに満ちていた。
「雪人は俺とは違って穏やかな性格で、いつもにこにこしていた。人の悪口や愚痴なんて、一度も聞いたことがない。
でも案外、したたかなところもあって、気づけば俺なんて、知らないうちに操縦されてることもしばしばだった」
くすりと笑った玄沢の口元から、その笑みはすぐに消えてしまった。
「ある日のことだ。雪人が、自分はゲイだと告白してきた」
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ご覧いただき、ありがとうございます。
現在、中華ファンタジーBLを連載中です!
興味がありましたら、お越し下さいませ☺
■あらすじ動画(1分)
https://youtube.com/shorts/o6KYEqYVPOI
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