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【敵同士→恋】11話(2)【探偵ミステリーBL】
しおりを挟む「俺は驚いたよ。その頃の俺は、自分がストレートだと意識したこともないほど、完全に普通の男だと思ってた。同性愛なんて、どこか遠い国の、別世界の話だと本気で思っていた」
玄沢は墓石に落ちた雪に視線を落とし、ゆっくり言葉を継ぐ。
「でも雪人は、外国人でも異星人でも、ましてや異常者でもなかった。ただの、ごく普通の人間だった。ゲイであることも含めて、すべてが自然で、何ひとつ特別じゃなかった。……だから、すんなり受け入れられたんだ」
思い出をたどるように、玄沢の視線が線香の煙にそって泳ぐ。
「カミングアウトの後も、俺たちは変わらず遊び回ってた。大学を卒業して、社会人になっても、暇を見つけては山へ出かけた。登山やスキーやスノボ。あいつといるのが、当たり前だったから。だけど——」
ふっと息をつき、玄沢は言葉を切った。
沈黙が落ちる。
先の言葉を継ぐのをためらっているのが、空気からひしひしと伝わってきた。
「……いつからだったか。なんとなくだが、雪人は俺に気があるんじゃないかと感じるようになった。
最初は思い違いかと疑ったが、そのうち確信に変わった。たぶん、あいつも俺が気づいていることに気づいていたと思う。でも、お互い何も言わなかった。言えなかった」
玄沢の目がわずかに伏せられる。
「その後も俺たちはただ、友達として時を過ごした。何年も。俺は、待ってた。あいつが、何かを言ってくれるのを、ずっと——」
陽向は思わず、口を挟んでいた。
「……じゃぁ、玄沢さんもその人が好きだったの?」
「いや」
きっぱりと玄沢は首を横に振る。
だが確信を持てなくなったのか、横目で陽向の様子をうかがいながら、ぽつりとこぼす。
「でも、お前には……わかるだろ?」
陽向は言葉を返せず、黙っていた。
玄沢はふっと白い息を吐きながら、静かに続ける。
「もし、雪人が言ってくれていたら……受け入れる準備は、俺にもあった。でもそれは、恋愛感情とは違う」
空を仰いだ玄沢の目は、どこか遠くを見ているようだった。
「雪人は……一生に一度、会えるかどうかわからないほどの、特別な友人だった。この関係を守れるなら、俺は何だってした。
もしあいつが本当に望むなら、寝てもいいとさえ思った。そうすることで、つなぎ止められるなら、それで構わなかった」
ふっと自嘲のような笑みが声音に滲んだが、すぐに消える。
「それくらい、大事だった。家族みたいなもんだったよ。……たぶんこれも、お前が謝花に持ってる〝情〟と同じなんだろうな」
陽向は、おずおずと尋ねた。
「……あんなに否定していたのに?」
「認めたくなかったんだ」
玄沢は「降参だ」とでも言うように、肩をすくめた。
「俺はこの感情を、恋愛だってことにしたかった。雪人のためにも、そう思い込もうとした。
でもたぶん……あいつは、俺のそんな気持ちを薄々わかってたと思う。だから、何も言ってこなかった。俺も、何も言わなかった」
長く吐いた息が、白く煙って玄沢の周りに漂った。
「わかっていたのに、黙っていた。あいつが苦しんでいると知りながらも、今の関係が壊れるくらいなら、それでもいいと……思っていたんだ」
いつの間にか風が出てきて、線香の煙をあっという間に吹き散らしていく。
空気が冷たさを増し、陽向の吐く息さえ白く色づいた。
「……そのうち」
玄沢の声が、風に溶けるように小さく呟かれた。
「雪人は、一人の男と付き合い始めた。同性愛者が集まる出会い系サイトで知り合ったらしい。
俺は危ないって忠告した。けどあいつは、笑いながらこう言った——『ゲイっていうのは、運命の相手と道端でばったり出会ったりはしない。こういうところで探すしかないんだ』って」
当時の記憶を反芻しているのか、玄沢の言葉は途切れ途切れになる。
「……俺は、何も言い返せなかった。俺自身、あいつを宙ぶらりんにさせているという引け目があったから、なおさら」
袖から覗く黒皮の手袋をはめた手が、ぐっと握り締められた。
「初めは、幸せそうだった。相手の男は年上のエンジニアで、真面目で、まめな性格らしかった。『自分のすべてを受け止めてくれる』って、雪人は嬉しそうに言ってた」
ギリギリと革手袋の軋む音が、雪に沈んだ静けさに混じった。
「でもな、それが俺には、自分への当てつけのように聞こえて……それ以上、男の話は聞かないことにした。……そのうち——」
玄沢の背中が、ぶるりと大きく震えた。
寒さのせいか──わずかに見える横顔は、血の気を失ったように白く強ばっている。
「……雪人の様子が、おかしくなってきた。やたらと携帯を気にしたり、俺と距離を取るようになった。最初は笑って『何でもない』と言っていたけど、問い詰めると、異常なほどの束縛を受けていることがわかった」
玄沢の声は低く抑えられていた。
だが、その響きの奥に激しい感情が見え隠れする。
「相手の男は、異様に嫉妬深かった。雪人が他の男と話すのも禁止。決まった時間に電話に出なければ、どこであっても責め立てた。時には——折檻まがいのこともあったらしい。
……俺は何度も言った。別れろって。それでも雪人は、首を振った。『いつもは優しいんだ』って」
クッと冷笑まじりの声が、寒空に響く。
「出会いが少ないからって、あんな男よりマシなやつなんて、いくらでもいるはずだ。
……でも、そのときの俺には、もう雪人のことがわからなくなっていた。前のように一緒に過ごす時間も、ほとんどなくなっていて……。
それに、無理やり別れさせるなんて、俺にそんな権利があるのかどうかもわからなかった。こんな中途半端な気持ちの俺が、あいつを受け止められるのか──自信がなかったんだ」
玄沢は、両手の中に頭を埋めた。
はらはらと舞い落ちる雪が、肩や頭に静かに降り積もっていく。
陽向は思わず、手を伸ばしてそれを払いたくなった。
けれど、どうしても身体は動かない。
ただ黙って、玄沢の背中を見つめ続ける。
やがて、玄沢がぽつりと口を開く。
「俺は……全部知ってたのに、危うい方向に進む雪人を止められなかった。ただ、見ていることしかできなかった。そして——あの事件が起こった」
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ご覧いただき、ありがとうございます。
現在、中華ファンタジーBLを連載中です!
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■あらすじ動画(1分)
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