【敵→恋】春雪に咲く花【探偵ミステリーBL】

郁雨いくううう!

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【敵同士→恋】11話(3)【探偵ミステリーBL】

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玄沢はわずかに顔を上げ、指の隙間からじっと墓を見つめた。

「雪人と束縛男の遺体が見つかった。冬の雪山で」

長い沈黙のあと、玄沢はほとんど面倒くさそうな声音で言った。

「警察は、ネットで知り合った者同士の集団自殺だと判断した。当時、そういうのが世間で流行っていてな。でも俺は信じなかった。雪人は——あの束縛男に、殺されたんだと確信した」

玄沢の声が低く、怒気を孕む。

「二人の体内からは精神安定剤が検出された。警察は『死への恐怖を紛らわせるため』と判断したが、あの薬は睡眠導入剤──いわゆる睡眠薬の代わりにも使われるものだ。

たぶん、男は雪人にあれを盛って、自殺と見せかけて殺したんだ。雪人を、完全に自分のものにするために」

「……警察は、知ってたの? 二人が付き合っていたことを?」

陽向は、ためらいながら尋ねた。

「いや。関係を悟られそうなログはすべて消去されていた。会う場所も、ほとんどが家か別荘で、人目を避けていたらしい。それで何が『全部受け止めてくれる』だよ」

喉の奥で短く笑うと、玄沢は拳をぎゅっと握りしめた。

「二人の関係を知っていたのは、本人たちと俺だけだった。だから、すぐ警察に向かった。ここで俺が黙っていたら、雪人は永遠にあの冬の雪山に閉じ込められたままになってしまう気がして……。俺は、事件の再捜査を求めて訴えた。だが警察は拒否した。それどころか——」

玄沢の口調に苦味がにじむ。

「『仮にお前の言っていることが本当だとしても、男同士の痴情のもつれに構っている暇はない』とまで言われた」

陽向は、何と言えばいいかわからなかった。

警察には今なお旧弊な価値観を持つ者も多い。
まともな同性愛者であれば、何かあっても警察に頼るのは最後の手段——それが現実だ。

「愕然としたよ。あそこまで露骨な差別を受けたのは、初めてだった。同時に、恐ろしくもなった。自分もその『仲間』だと思われたらどうしよう、完全に否定できるのか……ってな」

苦悶ともつかない声が混じる。

「友情のために男と寝てもいいと思った俺は、本当にストレートなのか。……そう思い始めた瞬間、怖くなった。雪人との関係を聞かれる前に、俺は逃げ出した。

ゲイかもしれない自分を認めることも、認めて差別を受け止める覚悟も……当時の俺には、なかったんだ」

玄沢は陽向の方をちらりと振り返り、ふっと笑った。
その目元には、深い皺と疲労が刻まれていた。

「……俺はどうしようもなく弱いんだ。お前と違って」
「違う。俺だって、強くなんかないよ」

陽向は、ふるふると首を振る。

「いや。お前は強い。少なくとも、俺よりは。何があっても、いつだって正面から堂々と戦ってる。……自分自身とさえもな」

玄沢は視線を墓へ戻した。

「後日、雪人の葬式が行われた。両親は泣いていた。『あの子は絶対に自殺するような子じゃない』って。

俺は、決めた。せめて俺の手で、あいつの死の真相を突き止めようってな」

声は淡々としていたが、その奥には熱がこもっていた。

「すぐに会社を辞め、事件の調査を始めた。やがて、LGBTに理解のある警察や弁護士の一部と繋がりができて、彼らが表立って調べられない案件を代わりに調査するようになった。

そうしているうちに、固定の依頼も増えてきて……俺は、正式にLGBT——主にゲイ専門の探偵になったんだ」

玄沢はくるりと振り返り、陽向と正面から向き合った。
疲れのにじんだ顔に、自嘲気味の笑みが浮かぶ。

「『ヒーローだ』なんて言われるけど、俺はそんなもんじゃない。俺はただ、全部から逃げてきたんだ。

雪人から、束縛男から、警察から、差別から、……そして、自分自身からも。探偵は、その逃げの結果にすぎない」

「……それは違うっ!」

陽向は思わず一歩、踏み出していた。
同時に、隣の柳桜の枝から雪がどさりと落ちる。

「玄沢さんは、ちゃんと向き合ってる! バーやクラブにいる人たちも、みんな言ってた。玄沢さんに助けられたって。依頼人たちだってそう! みんな玄沢さんに恋しちゃうほど、救われたって思ってる!」

力が入りすぎているのか、足下の雪がぎしぎしと軋む。
陽向は声を押し殺そうとしたが、それとは裏腹に熱だけが募っていった。

「俺のときだって、そうだった! 本来の依頼人は海斗なのに、俺にまで手を差し伸べてくれた。普通の探偵なら、絶対にそこまではしない! 玄沢さんが、どれだけ人の痛みに寄り添ってるか——俺は知ってる!」

「……ありがとう」

玄沢は顔をしかめるように笑った。

「でも俺がこんな話をしたのは、慰めてほしかったからでも、誉めてもらいたかったからでもない。俺は、ただ——」

一歩、また一歩と玄沢が近づいてくる。
足元の雪が、キュッキュッと乾いた音を立てた。

玄沢の目は、まっすぐに陽向に向けられていた。
一瞬たりとも逸らされることはない。

「……俺はただ、お前を守りたいんだ。もう二度と、雪人のように、大切な誰かを失いたくない。危険な場所にいるやつを、黙って見ているなんて……できないんだ」



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ご覧いただき、ありがとうございます。

現在、中華ファンタジーBLを連載中です!
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■あらすじ動画(1分)
https://youtube.com/shorts/o6KYEqYVPOI

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