【敵→恋】春雪に咲く花【探偵ミステリーBL】

郁雨いくううう!

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【敵同士→恋】11話(4)【探偵ミステリーBL】

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陽向は大きく頷いてみせた。
笑おうとしたが、うまくできなかった。

「やっぱり玄沢さんは、みんなのヒーローだよ。みんな、あんたに感謝してる」
「違う。もちろん誰であっても、俺は止める。それが俺の仕事——いや、信念……いや、贖罪だからだ。でもお前は——……」

玄沢はふっと言葉を濁したあと、陽向の目の前で立ち止まった。
じっと見つめてくるその瞳は、深く澄み渡っている。

「……でもお前は特別だ。絶対に失わせはしない」

あまりに真剣な表情に、陽向は思わず口が先に出た。

「特別? それって、特別に『面倒くさい客』ってこと?」
「お前はどうして、いつもそうやって大事なことを茶化すんだ?」

静かにたしなめられ、陽向のせせら笑いが引っ込む。
玄沢が、ためらいがちにその肩に手を添えた。

「間違っていたら訂正してくれ。……お前は、俺のことが好きだろう?」

急に、頭の上にどかっと雪が降ってきたような衝撃を覚えた。

「へっ、へっ……!? いつから気づいて!?」

しまった、と思ったときには遅かった。
これでは認めたも同然だ。

玄沢がくすりと笑う。
久しぶりに見る、痛みのない本当の笑顔だった。

「昨日、お前が俺のことをじっと見てただろう? そのとき、そうじゃないかと感じた」
「へっ……!?」

さすが探偵。そうとしか言いようがない。
まさか、玄沢への恋心を自覚した、まさにその瞬間を言い当てられてしまうなんて——。

パニックに陥っていると、玄沢が手を伸ばしてきた。
親指が、雪でしっとりと濡れた陽向のまつげをそっと拭う。

「この目がな……」
「目?」
「ああ。お前がその手のことを考えてると、この目がキラキラ輝くんだ。比喩じゃなく、本当に」

玄沢の声は、どこか照れくさそうだった。

「それが、何とも言えない不思議な色で……全て、何もかも、もっていかれそうになる」

そう言って、玄沢はわずかに腰をかがめ、陽向の瞳をのぞき込んだ。

「俺はこの目に見つめられると、どうも自分が抑えきれなくなる——」
「くろ——」

陽向の言葉を、玄沢の唇がふさいだ。
冷たく湿ったその感触は、二人の体温と相まって、徐々に温かくなっていく。

「……俺はもう、黙って待つなんてことはしない」

しばらくして唇が離れたとき、玄沢の声にはもう何のためらいもなかった。

陽向は、自分の心臓がバクバクと鳴る音がうるさくて、相手の言っていることが、まともに頭に入ってこなかった。

けれど、今だけは——聞き逃してはいけない気がした。

「陽向。俺は、お前が好きだ」

その一言に、息が——時が、止まった。

どこかで朝鳥が飛び立つ音がした。
緑がさわさわと揺れ、雪が震えるように落ちる。

むせかえるような百合と、抹香のにおい。
柳桜の蕾から滴った透明な水滴が、キラキラと反射しながら、玄沢の肩に落ちる。

息をひそめないと、失ってしまいそうなほどの一瞬の景色。
何でもないこの風景が、すべて意味のあるもののように映った。

——十年後、二十年後。
たぶん自分は、このときの光景を、昨日のことのように鮮やかに思い出せるだろう。

「陽向? おい、陽向?」

玄沢が陽向の肩をつかみ、不安げに顔をのぞき込む。

「おい……もし間違ってたなら謝る。だから怒るな? いいか、ここは墓地だぞ!」

玄沢は辺りを見回し、陽向が投げつけそうな手頃な墓石を探し——
何もなかったことに、ほっと息をついた。

その慌てた様子がおかしくて、陽向はプッと吹き出す。
玄沢の顔が、一瞬にして真っ赤に染まった。

「くそっ、どうしてお前は、こうも心配ばかりかけさせるんだっ……!」
「心配? 呆れてるんじゃなくて?」
「はぁぁ!? お前は一体、何を見てたんだ!? 心配してるからこそ、こんなに怒ったり、慌てたり——っ!」

玄沢は綺麗に整えられた髪を、ぐしゃぐしゃとかき乱した。

「言っておくがな、俺はもっと冷静な人間なんだっ! なのにお前を見ていると、感情の制御ができない! さぞかし、お前は俺のことを滑稽で情けない男だと思ってるんだろうな!」

「へ? 何言ってるの? 情けないのも、滑稽なのも……俺の方で——」

一拍もしないうちに、陽向はたまらず腹を抱えて笑い出した。

「あはは! もしかして俺たち、意外と似た者同士なのかもなっ!」
「おい、バカ言うな。俺はお前ほど短気でも、暴力的でもない」
「俺だって玄沢さんほど寝起きがひどくも、強引でもない!」

玄沢がムッと顔をしかめる。
目を細めると、さらに一歩、近づいてきた。

反射的に後ずさった陽向の背中に、桜の幹の固い感触が当たる。

「……で、返事は?」

からかいを含んだ黒い瞳が、間近でのぞき込んでくる。

「返事?」
「告白のだよ。俺の、一世一代の」
「そ、そんなの、あんたにはお見通しだろう? 探偵さん?」
「いいや、あくまで推理だよ、アシスタント君」

陽向は、これ見よがしに大きなため息をついてみせた。

「そう……。じゃあ、これが真実だ」

そう言って、陽向は玄沢のネクタイを掴み、その唇を、自分の唇でふさいだ。



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■あらすじ動画(1分)
https://youtube.com/shorts/o6KYEqYVPOI

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