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【敵同士→恋】13話(1)【探偵ミステリーBL】
しおりを挟む「はっ! 今、何時っ!?」
差し込む日の光が眩しくて、陽向は飛び起きた。
ベッドサイドの時計に目をやると、表示は十四時六分。
「はあ~……」
ほっと安堵の息を吐きつつ、もぞもぞとベッドから身体を起こす。
隣では玄沢が、陽向の腰に腕を回したまま、穏やかな寝息をたてていた。
(まったく……信じられない)
この男と、自分が寝たなんて。
ハッとして窓に目をやると、カーテンの隙間から暖かい陽光が燦々と差し込んでいた。
「は、晴れてる! シーツ、干さなきゃ! ってか、玄沢さん! 今日、仕事はっ!? 依頼の予約とか入ってないよねっ!?」
パニックに近い勢いで玄沢を揺すり起こすと、「うーん」と寝ぼけたような声が返ってきた。
「……にゃい、と思う……」
「そう、にゃいね。良かった。じゃ、さっさと起きて、ご飯食べて……あ! その前に新聞、取りに行かなきゃ!」
バタバタとベッドから飛び降りようとしたその時。
背後からシーツが引っ張られ、陽向の身体が再びベッドへと戻された。
「陽向……」
気がつくと玄沢と向かい合わせに横たわっていた。
彼の指先が、陽向の額にかかる髪をやさしく払う。
「……陽向、さっきはすごく良かった」
寝起きのかすれ声が、やけに甘く耳に残る。
荒い親指の腹が、そっと陽向の目元をなぞる。
「お前は……とても綺麗だ。この眼も、肌も、何もかも——全部」
玄沢の顔には、これまで見たことのないような穏やかな笑みが浮かんでいた。
陽向は、自分の体温が一気に十度くらい上昇したような気がした。
「あ……あははは……やだなぁ~玄沢さん。また寝ぼけて~。相変わらず、朝が弱いんだからぁ~」
赤面した顔を見られまいとベッドから逃れようとするも、またもや手を取られ——。
ギシ、とスプリングの軋む音。
玄沢が上にのしかかり、両肘で陽向の逃げ道を塞いだ。
「陽向……」
眠気の残る目で、じっと見下ろしてくる。
「……あのクソ男……ああ、海斗だったか。あいつから尾行用の写真をもらったとき以来……お前のことが頭から離れなくて」
そこまで言って、玄沢はふっと苦笑する。
「そん時は、見た目だけで繊細で大人しい奴なんだと思い込んでた。でも、実際に会ってみたら——」
玄沢の目元が、笑みとも呆れともつかぬほどに細くなる。
「植木鉢は投げるわ、ハサミで人を脅すわ、汚い言葉は使うわ、ちっこい体であちこち引っ掻き回すわ……もう、全然予想と違った」
「ははっ……すみませんね。繊細でも大人しくもなくて……」
苦笑いを浮かべると、玄沢は指の関節で陽向の頬をゆっくりとなぞった。
「……でも、だからこそ、一気に引き込まれた。お前は本当に生き生きしてて……一瞬たりとも、目が離せなくなって、それで——」
「はいカットォ!」とでも言いたげに、陽向は玄沢の額に容赦ない頭突きを喰らわせた。
(ってか、この寝起き癖、どうにかしてくれ……!)
毎朝こんなんじゃ、糖分の過剰摂取で命が危ない。
陽向は額を押さえる玄沢の腕の下をくぐり抜けて、ベッドから抜け出した。
「~~ッ」
しばらく呻いた後、玄沢がゆっくりと身を起こす。
額を押さえたまま、不思議そうな顔でこちらを見る。
「……何で、俺は頭が痛いんだ……?」
「……覚えてないの?」
「…………」
しばし沈黙したあと、玄沢はぽつりと呟いた。
「お前と寝たことなら覚えてるぞ……それはもう……隅々まで……」
「わーっ! そっちじゃなくて! わかった、もういい、もういいよっ!」
陽向は手をパンパンと叩いて、会話を断ち切った。
「とにかく、起きて! 俺、新聞取ってくるから!」
「……いや、いい……俺が、行くよ……」
「その状態で?」
まだ額を押さえている玄沢に、陽向は意地悪く軽口を返す。
ベッドの側に近寄り、玄沢の頭をポンポンと軽く叩く。
「俺が取ってくるから。戻ってくるまでには、ちゃんと起きてなよ。海斗のことも……どうするか、決めなくちゃいけないし」
「……わかった、それじゃ……頼む……」
気力を振り絞ってベッドから起き上がろうとする玄沢を横目に、陽向はドアに向かう。
が、途中でふと立ち止まり、振り返った。
「……あのさ、ちょっと聞きたいんだけど」
落ち着きなく、ベッドの方へと視線を彷徨わせる。
「海斗からさ、どこまで聞いたの? 俺のその——」
「ベッドでの奉仕ぶりをか……?」
玄沢は、すぐさま首を横に振った。
「ほとんど聞いてないよ。俺はお前の写真に見とれてたから、話半分にしか聞いてなかったし……。それに、そういうのは、実地で調べればいいことだからな?」
「なっ……」
顔が一気に熱を持つ。
陽向は床に転がっていたクッションを、勢いよく玄沢に投げつけた。
「バカっ! アホッ! おたんこなすっ!」
「はっ、いつもと違ってキレがないな」
どうやら完全に目が覚めたようだ。
玄沢はクッションを軽々と受け止め、真剣な表情で陽向を見つめた。
「陽向、約束してくれないか?」
その声色は、いつになく静かだった。
陽向は、ドアノブにかけた手をそっと離す。
「約束?」
「あぁ。次、何かあったら、必ず俺に知らせてくれ。どんなに怒ってても、パニックになっててもいい。一瞬でいいから、俺のことを思い出してくれ」
命令でも懇願でもない、不思議な重みのある言葉だった。
命令されればされるほど反発したくなる──そんな陽向の性格を見抜いているかのように。
陽向は、すとんと頷いた。
「わかった。約束するよ」
玄沢は満足げに微笑むと、糸の切れた人形のようにベッドへごろんと倒れ込んだ。
※
その後、なんとか玄沢をベッドから引きずり出すことに成功した陽向は、新聞を取りにビルの一階へ下りた。
裏口には全テナントの郵便受けが並んでおり、陽向は事務所の受け口を確認する。
中には新聞のほか、午前配達の郵便物も届いていた。
それらを取り出そうとした瞬間——。
「な……っ」
後頭部に衝撃が走り、陽向は反射的に郵便受けに手をついた。
手にしていたチラシや封筒が地面に散らばる。
風俗広告やピザのメニューに描かれた女性たちが、妙に明るい笑顔で陽向を見返してきた。
「おい、今すぐ車をまわせ」
背後から、数人の男たちの囁き声が聞こえる。
(くそっ、一体、誰が……)
振り向こうとするも、意識がみるみる遠のいていく。
(やばい……玄沢さんに……知らせないと……。何かあったら真っ先にって、さっき約束したばっかりなのに——)
そのまま、陽向の意識は深い闇へと沈んでいった。
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ご覧いただき、ありがとうございます。
現在、中華ファンタジーBLを連載中です!
興味がありましたら、お越し下さいませ☺
■あらすじ動画(1分)
https://youtube.com/shorts/o6KYEqYVPOI
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