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【敵同士→恋】13話(3)【探偵ミステリーBL】
しおりを挟む「へ……?」
陽向の言葉に、海斗は一瞬きょとんとした後、盛大に吹き出して笑った。
「まさか! そんなこと、一度も思ったことはないよ!」
あまりにキッパリ言うものだから、陽向は妙に複雑な気分になった。
……それはそれで、男のプライドが傷つく。
「だってさぁ」
海斗は、床についた陽向の手に自分の手を重ねてきた。
薄闇の中、明るい茶の瞳が妖しく光り、赤い舌が艶やかに唇を舐める。
「俺さぁ、何でか陽向には挿れたくなっちゃうんだよね」
「へっ……? ちょ、ちょっと、やめろよ!」
耳元に息を吹きかけられ、思わず肩をすくめる。
玄沢に〝そこ〟が弱点だと知らされてからというもの、どうにも耳に敏感になってしまった。
両手で海斗を押しやるが、筋トレで鍛えた身体はびくともしない。
むしろあっという間に両腕を掴まれてしまう。
「ねぇ、いいじゃん。久しぶりにしない? ずっとこんなとこにいて、タマって——」
「毎晩、サルのようにシコってた奴が、何言ってんだ」
不意に聞こえた声に、陽向はびくりと振り向いた。
鉄の閂がかかった牢の扉の前に、一人の男が立っていた。
常盤色の袷に、三つ紋の羽織。
髪は後ろに撫でつけられ、幅広で精悍な顔立ちに太い眉がよく映える。
がっしりとした体格は肉食獣を思わせ、闇に細く光る目はどこか蛇のように狡猾だ。
言葉にしなくても、半端ない威圧感が全身から滲み出ていた。
「誰?」
小声で尋ねると、海斗がもごもごと囁いた。
「松葉 誠吾。松葉組の組長の息子さん……」
つまり、次期組長——若頭というやつか。
「出ろ」
誠吾は顎をしゃくって陽向に命じる。
腹の奥にむくむくと怒りが湧いた。
どうして、どいつもこいつもこうも上から目線なのか。
とはいえ、ここでキレ散らかすほど無鉄砲でもなかった。
ぐっと怒りを飲み込み、開けられた牢の扉をくぐる。
「お前は呼んでいないぞ」
隙を見て出ようとした海斗を、誠吾は一蹴した。
海斗は情けない声をあげ、しょんぼりと牢に戻る。
「陽向。アレ、チューバーヤッサー、チバリヨー(その人、手強いから、気をつけろよ)」
扉が閉まる直前、海斗の声が背中に飛んできた。
「あの男、何て言ったんだ?」
地上へ続く階段を上りながら、誠吾が振り返りもせず問いかけてくる。
「ええっと……頑張れって、言ったんだ」
「ふうん」
誠吾は興味なさそうに呟くと、それきり黙り込んだ。
※
たどり着いたのは、だだっ広い和室だった。
首里城の薩摩藩接待用の和室を、さらに広く豪奢にしたような空間だ。
床の間には山茶花の花が飾られ、三方を囲む襖には牡丹や獅子、丹頂鶴の日本画が豪快に描かれている。
「さてと」
上座に腰を下ろした誠吾が、向かいの座布団を手で示した。
陽向は無言でそこに腰を下ろす。
庭に面した障子は開け放たれ、夜気に沈む見事な庭が広がっていた。
松や柏といった常緑樹が、斑に積もる雪のあいだから顔をのぞかせている。
半月は高く昇り、今が深夜であることを静かに告げていた。
「どうして呼ばれたかわかるか?」
脇息に肘をかけた誠吾が、値踏みするような目つきで問いかけてくる。
陽向は、ふっと鼻で笑った。
「呼ばれた? 誘拐じゃなくて?」
「坊や」
低くてよく通る、ハスキーな声が落ちる。
「勝ち気なのは嫌いじゃないが、時と場所を選べないのはただの馬鹿だ。早死にするぞ」
その目が鋭く細まり、陽向は思わず唾を飲み込んだ。
「……詐欺のことですか? 俺が呼ばれた理由って」
「その通りだ。知っていると思うが——お前たちが荒らしていたのは、俺が組長から任されたエリアだ。勝手な真似をして、無事に済むと思っていたのか?」
「俺は、やっていないっ!」
「……だろうな」
誠吾は顎に手を当て、節の浮いた指で下唇のラインをなぞる。
「組の者に調べさせた。お前が詐欺には関与していないというのは、わかっている」
「じゃあ、なんで俺を……?」
「謝花のことで、聞きたいことがある」
「海斗……?」
陽向は思わず身を乗り出した。
「ちょっと待って! 海斗も知らなかったんだ! あいつはただ……遊びたかっただけで、こんなことになるなんて思ってなかった。詐欺グループにうまく利用されただけなんだ!」
「その証拠は?」
「……証拠……?」
陽向は考え込み、やがて顔を上げた。
「——あいつは、バカだから。詐欺なんてできるほどの頭はない」
「確かに、あいつはバカだ。四六時中ヤることしか考えてないサルだよ」
そう言って誠吾は、陽向を見据えた。
「でも、それが本当のあいつ、か?」
「どういう……?」
「バカのフリをしてるだけかもしれないってことだ。周囲に警戒心を持たせないように装って、金をぼったくる。——身に覚えは?」
身に覚えがありすぎて、陽向は黙り込むしかなかった。
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ご覧いただき、ありがとうございます。
現在、中華ファンタジーBLを連載中です!
興味がありましたら、お越し下さいませ☺
■あらすじ動画(1分)
https://youtube.com/shorts/o6KYEqYVPOI
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