【敵→恋】春雪に咲く花【探偵ミステリーBL】

郁雨いくううう!

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【敵同士→恋】16話(3)【探偵ミステリーBL】

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「あっ、いたいた! 喜屋武さんっ!」

玄沢の車から下りると、アパートの前でうろうろしていた大家妻が、慌てて駆け込んできた。

「もう何日も帰ってこないから、心配したのよ! 引っ越し屋のトラックが来てたとか聞いたし、どうしちゃったのかと思って……」

「……あ~、その、いろいろありまして……ご迷惑おかけしました。もう大丈夫です」

「そう。それならいいわ。でもね、それより大変なのよ。ちょっと来てちょうだい!」

勢いのままに腕を引かれ、どこかへ連れて行かれる。

(またか……今度は何のトラブルだよ)

げんなりとため息を吐きつつ、陽向は思う。
やっぱり、自分は一度、真剣にお祓いを受けた方がいいんじゃないか——そんな気がしてならなかった。

「ほら、見て。すごいでしょ?」

花壇の前に立ち、興奮気味に話しかけてくる大家妻の言葉に、陽向はバカみたいにこくこくと頷くしかなかった。
あんぐりと口を開けたまま、目の前の光景を呆然と見入る。

「どうしたんだ?」

車を駐車場に入れ終えた玄沢が、ひょいと後ろから顔を覗かせた。

「あら、玄沢さん! あなたも見てちょうだいよ! これ!」

大家妻が指さした先にあったのは、ずらりと並ぶプランターたち。
玄沢が目を見張り、感嘆の声を漏らす。

「おぉ……これはまた、すごい数の蕾だな」

モッコウバラ、ムスカリ、マーガレット、アネモネ、ラナンキュラス、ルピナス、アリウム、チューリップ、デージー、ポピー——。

どれも芽吹いたばかりの若葉のあいだから、こぼれそうなほどに蕾をつけていた。

「気温が暖かくなったと思ったら、まるで爆発みたいに芽を吹き出してね。ねえ、あなた一体何をしたの?」

まるで魔法でも使ったのかとでも言わんばかりの調子で、大家妻が不思議そうに聞いてくる。

「え、いや、特別なことは……。根づまり起こしてたから鉢増しして、あと元肥を少し入れたくらいで……」

「鉢増し? あら、そうだったのね。忘れてたわ。もうそんな時期だったのねぇ……あなたが鉢を引っこ抜いてくれなきゃ、気づかないところだったわ」

「あ、いえ……その説は、本当にすみませんでした……」
「いいのよ。結果オーライ! むしろ感謝してるわ」

と、ふいに声色が柔らかくなった大家妻は、ふと口元に手を添えて言う。

「そうねえ、もしよかったらだけど……私が手をかけられない時、この子たちのお世話、お願いしてもいいかしら?」

「え、いいんですか? お安いご用です。実家じゃ毎日、祖母と庭木の世話してたんで。こっちに来てから庭がなくて、ちょっと寂しいくらいでしたし」

「まあ、素敵なおばあ様ね。だったら甘えちゃおうかしら。その代わり——これから多少の騒音苦情があっても、私がもみ消しておいてあげる!」

ウインク一つ残して、大家妻は軽やかに去っていった。
スキップでも始めそうなほどのご機嫌ぶりだ。

「……だとさ。これで多少部屋でうるさくしても、お咎めなしだな」

玄沢の意味ありげな笑顔に、陽向の顔が一気に真っ赤になる。

「ち、違う! 今のは、海斗に説教するときの声がうるさかったって話で——」
「はいはい、わかってるよ」

苦笑まじりに両手を上げながら、玄沢が再びプランターに視線を戻す。

建物のまわりはまだ厚い雪に覆われているというのに、そこだけ春のスポットライトを浴びているように明るく、あたたかかった。

「楽しみだな。この蕾たちが全部咲けば、きっと圧巻だろうな」
「うん……もしかしたら、おばあの家のよりも、すごくなるかも」

春の雪がすっかり溶ける頃。
アパートの窓際が色とりどりの花で埋め尽くされる光景が、目に浮かんだ。

(あぁ、そうか)

胸にすとんと、ある思いが染みてくる。

何も、必死に探し求めなくても、居場所というのは、こうして、いつの間にか近くで咲いているものなのかもしれない。

陽向は、隣に立つ玄沢をそっと見上げた。

「花が咲いたら……大家さんに少し分けてもらって、届けるよ。それで……もし良ければだけど、雪人さんのお墓に……」

自信なさげなその言葉に、玄沢は無言で陽向の頭にぽんと手を置いた。

「ありがたくもらうよ。あいつも、いつまでも白い花だけじゃなくて、いろんな色があった方がきっと喜ぶだろうからな」

そう言ったあとで、玄沢はにやりと笑った。

「……何なら、マンションの方にも配達頼もうかな。もちろん、そのまま泊まりは確定で」
「なっ……」
「ん? 今、そういうこと想像したろ? 目がキラキラしてるぞ」
「し、してないっ……! 見んなっ……!」
「おい……? 陽向? ちょっと待て。その手に持っているものを下ろせ! それが当たったら、さすがに死ぬ!」

説得虚しく、春のうららかな空の下に、玄沢の「ぎゃーっ!」という悲鳴が高らかに響き渡った。


(完)



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ご覧いただき、ありがとうございます。

現在、中華ファンタジーBLを連載中です!
興味がありましたら、お越し下さいませ☺

■あらすじ動画(1分)
https://youtube.com/shorts/o6KYEqYVPOI


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