【敵→恋】春雪に咲く花【探偵ミステリーBL】

郁雨いくううう!

文字の大きさ
54 / 55

【敵同士→恋】16話(2)【探偵ミステリーBL】

しおりを挟む



「!? お、お前——」

玄沢は思わず、海斗の胸ぐらに手を伸ばしかけ——途中で引っ込めた。
今触れたら、確実に変態菌が移りそうな気がして。

代わりに、ドスのきいた声で睨みつける。

「いいか。お前は今後一切、陽向には近づくな。絶対だ」
「えぇ~、それって陽向が決めることじゃない?」

海斗は人懐っこく笑いながら、縁側に向かって声を張り上げた。

「——ねぇ、陽向ぁ~!」

ちょうどボンレス君相手に海斗の愚痴をこぼしていた陽向が、ピクッと顔を上げる。

「陽向ぁ~! 俺、就職したしさ! お金返し終わったら、またやり直そうね~!」
「はぁ!? 寝言は寝てから言えよ、この筋肉クソ虫野郎!」

陽向の低い怒声が返ってくる。

「きゃーやばいっ! 陽向、可愛い過ぎ!」

一人でキャーキャー悶えていた海斗は、ふっと真顔になり、眩しそうに陽向を見つめた。
そして、ぽつりと呟くように玄沢へ言った。

「……陽向ってさ、沖縄の空にそっくりなんだよね」
「……空?」

玄沢が眉をひそめる。
海斗は陽向を見つめながら、大げさに頷いてみせた。

「あっちの空ってさ、まったく予想つかないの。今まで晴れてたと思ったら、いきなり土砂降りが降る。で、雲が去ったら、またすぐカラッと太陽が照りつけるんだ。まるで何もなかったみたいに」

海斗はまぶたを伏せると、少し寂しそうに呟く。

「陽向もね、さっきまでめっちゃ怒っていたと思ったら、次の瞬間には『もうしょうがないな』って、にぱっと笑いかけてくれるんだ。俺は、その瞬間が大好きでさ」

その口調が妙に真に迫っていて、玄沢は背中に嫌な汗がにじむのを感じた。

「謝花……もしかして、お前、陽向を怒らせるために、わざとこんなことを?」
「さあね」

海斗はにやりと笑った。その目には、どこか誠吾と同じ種類の底知れなさが潜んでいた。

——こいつを、陽向のそばに置いておくのは危険だ。

本能が告げるまま、玄沢は再び海斗の胸ぐらを掴んだ。

「言い直す。今後一切、陽向に近づくな。俺が、何が何でも阻止してやる」
「えぇ~? あんまり過保護すぎると、陽向に嫌われちゃうよ? 俺にとってはその方が都合いいけど~」
「!? やっぱりお前、陽向のこと、まだ——」
「さあね」

海斗はおどけたように肩をすくめたかと思うと、パッと明るい声で叫んだ。

「さあて、これからたくさん稼がなくちゃ! 女になって、陽向をお婿さんにもらうんだ~!」

玄沢の腕をすり抜けると、海斗は鼻歌混じりに口笛を吹きながらその場を去っていった。

「何の話だったの?」

戻ってきた玄沢に、陽向が不思議そうに尋ねる。

屋敷の横に広がる庭には、数日ぶりの青空が広がっていた。
溶けた雪がきらきらと光に反射し、枝先からぽたぽたと雫が落ちる。

「依頼料の話だ。迷惑料も含めて、謝花には倍——いや、三倍の料金を請求しておいた」

「いい話だね。それくらいはしてもらわないと。あいつには引っかき回されまくったから。しかも最後はちゃっかりいいところ持っていくし……いつもそうなんだよ、あいつは」

ぶつぶつとこぼす陽向を見て、玄沢は静かに微笑んだ。
少しの間を置いて、ぽつりと告げる。

「……陽向、ありがとう」
「え、何が?」
「さっき廊下で——」

玄沢は陽向と正面から向き合い、その手をやさしく取った。

「お前の言う通り、俺は自分に関わる全てを守ろうとしすぎて、躍起になってた。周りが見えてなかったのは、本当は俺の方だった」

そう言いながら、どこか遠くを見るような眼差しで言葉を続ける。

「お前が攫われたって聞いた時……俺は完全に取り乱して、何もできなかった。今までの探偵としての経験も、勘も、知識も、全部吹っ飛んだ」

玄沢はその時のことを思い返すように、言葉を切った。

「でもな。そんな俺を、引き戻してくれたのが——『ケンタウロス』のリエママや、常連客の連中。『カルメン・レディ』のママやホステスたちだった。みんな、夜通しで聞き込みしてくれてさ……」

玄沢はそっと陽向の手を、自分の胸に置いた。
まるで忠誠を誓う騎士のように。

「俺は守ってるつもりだった。でも、本当に守られていたのは……俺の方だったんだ。気づかせてくれたのは、お前だ。陽向。今回、俺はお前に助けられた」

玄沢の手が、陽向の手をさらにしっかりと握り込む。

「だから、俺に助けてほしい時は言え。俺もそうする。何もできないほど弱った時は、お前に頼るから」

その言葉に、陽向は大きく目を見開いた。
手のひら越しに伝わる玄沢の力強い鼓動を感じながら、口を開く。

「……わかった。俺も約束する。次に怒りでパニックになった時は、玄沢さんのところへ行く」

そう言って、ゆっくりと微笑んだ。

「あんたの顔を思い浮かべれば、少しは冷静になれそうだからさ。……俺にとっても、あんたは——大きな存在なんだと思う」

そう言うと、玄沢の顔に柔らかな笑みが広がった。

「光栄だな。今後の俺のためにも、ぜひ堪(こら)え癖をつけてくれ」
「……それは……善処します」

その「今後」という何気ない一言が、なんだかこそばゆくて——けれど、嬉しかった。

「あ、そうだ。言い忘れていたことがあった」

玄沢が、プレゼントを隠し持つ子供のように口元を緩め、もったいぶった調子で言った。

「質屋と交渉して、お前の家具を取り戻しておいた。今日あたり連絡すれば、すぐ届くはずだ」
「え、本当っ!? やったぁー! 玄沢さん、大好きっ!」

勢いよく飛びつくと、玄沢が困ったような、それでいて嬉しそうな顔をする。

「お前、勢いでなら、そういうことも言えるんだな」


○●----------------------------------------------------●○

ご覧いただき、ありがとうございます。

現在、中華ファンタジーBLを連載中です!
興味がありましたら、お越し下さいませ☺

■あらすじ動画(1分)
https://youtube.com/shorts/o6KYEqYVPOI


○●----------------------------------------------------●○
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...