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【敵同士→恋】2話(2)【探偵ミステリーBL】
しおりを挟む「慰謝料……?」
「ええ。ここ数日、私は氏の依頼を受けて、貴方の──喜屋武さん、でいいんですよね?」
こくりと頷くと、玄沢は続けた。
「貴方の素行調査と尾行の結果、謝花氏に対する数度の暴行未遂、名誉毀損、脅迫、そして器物破損行為が確認されました。これを刑法にあてはめると──」
「ちょっと待って、暴行? 名誉毀損? 脅迫って……」
「ええ。先ほどの鉢を氏に投げつけた行為もそうですが、加えて数ヶ月前には──氏の顔、正確には頭部の脇に三針縫う怪我を負わせてますね」
「ちょっと待ってよ……! あれは、海斗がっ──」
玄沢は軽く手を挙げて制し、懐からレコーダーを取り出すと、再生ボタンを押した。
『この万年発情期のクサレチ○コザルがぁ~!』
『シナサリンドー(ぶちのめすぞ)!』
さあっと、背中が冷える。
まさか自分が、こんな下品なことを口走っていたなんて。
キレている時の記憶がないから、まるで他人の声のようだ。
玄沢が小さく咳払いをして、続ける。
「これら、氏に対する日常的な名誉毀損や脅迫は、言葉による暴力とみなされます。さらに、公共の場でこのような発言をすれば、都の迷惑防止条例にも──」
「わかった、わかったから!」
「では承諾いただけますね。氏は一連の行為による肉体的・精神的苦痛の代償として、五十万円の慰謝料を請求しています」
「ご、五十万!?」
陽向は慌てて海斗の方を見るが、相手はサッと視線を逸らした。
慌てて玄沢に目を戻し、声をひそめる。
「ちょ、ちょっと待ってよ。そんな金、払えるわけ……っていうか、そもそもなんであんたがこんなことを? 警察でも弁護士でもない、ただの探偵だろう!」
「その通りです」
玄沢はまったく動じる様子もなく言い放った。
「ですがこの地域……いえ、日本全体を見渡しても、あなた方のようなLGBT──マイノリティの問題に真正面から取り組み、権利を主張するプロフェッショナルは、ほとんど存在しません」
真剣な表情のまま、玄沢はそっとテーブルの上の名刺に視線を落とした。
「だからこそ、私のような者が、時に警察や弁護士の領域までカバーせざるを得ないのです。
幸い、警察や弁護士の一部の方々も、ある程度は私を黙認してくださいますし、時には協力してくださることもあります」
陽向の頬がひくりと痙攣した。
「……それって、俺を脅してる……?」
「さあ」
玄沢は白々しく返し、感情の読めない漆黒の瞳で陽向を見据える。
どくり──
腹の奥から、何かがせり上がってくる。
これは、怒り? それとも……恐怖?
「もちろん、私は一介の探偵ですから、強制力はありません。支払いに納得できないのであれば、裁判で争っても構いません。ただ、貴方の場合──」
玄沢が鞄から資料を取り出す。
「不利な証拠が揃っておりまして。先ほども申し上げた通り、貴方は六ヶ月前、謝花氏に水槽を投げつけ、三針を縫う怪我を負わせた。この件では、警察も事情を聴きに来ています」
「だから、それはっ……!」
声が上ずりそうになるのを、陽向は必死で抑え込んだ。
「……あれは、こいつが、うーちゃんを、ギャンブルの景品としてキャバ嬢に渡そうとしたから……」
「うーちゃん?」
「ウーパールーパー。俺が故郷から唯一持ってきたペットのうーちゃん……」
「あぁ……」
玄沢が一瞬言葉を詰まらせ、室内を見回した。
「で、その〝うーちゃん〟とやらは? まさか、水槽と一緒に……?」
「まさか。ちゃんと出してから投げたよ。うーちゃんは……死んだ。三ヶ月前に。もう結構なおじいちゃんだったし」
潤みそうになる目を、瞬きをして抑え込む。
(てか、なんで俺はこんなことを、この人に話してるんだ……!)
玄沢の手元のファイルを引ったくってやりたい衝動が湧く。
あの中には、一体どれだけ自分のことが書かれているのか。
大学生の時、先輩の家で勢いで初体験を済ませたこと?
成人式に酒を飲みすぎて急性アル中で搬送されたこと?
……いや、そんなのは今さらどうでもいい。
美しくもバカな、若気の至りってやつだ。
今、何より最悪なのは──
一瞬でも見惚れてしまった男が、自分から慰謝料をぶんどるために雇われた探偵だったってこと。
(くそっ、くそっ、くそっ! もう世の中なんて信じないっ!)
「そう警戒しないで下さい」
玄沢が静かに言いながら、資料をまとめ始めた。
「私はただ、お二人が互いの希望を満たせるようお手伝いしたいだけです」
「〝二人の〟じゃないだろう? あんたは海斗が雇った探偵なんだから、〝海斗の〟希望を、だろう?」
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現在、中華ファンタジーBLを連載中です!
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■あらすじ動画(1分)
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