【敵→恋】春雪に咲く花【探偵ミステリーBL】

郁雨いくううう!

文字の大きさ
5 / 55

【敵同士→恋】2話(1)【探偵ミステリーBL】

しおりを挟む


「あんた、一体……」
「良かった! 来てくれたんだっ!」

海斗かいとは、ヒーローが現れたかのように喜々として男に駆け寄った。

(もしかして、こいつも海斗の相手……?)

胸に苦いものがよぎる。
やっぱり今日の自分は、本当にツイていない。

街中で思わず見とれた男が、まさかあのクソだらしない同居人の相手だったなんて。
そんな皮肉、ちょっと出来すぎている。

(いっそ、精進潔斎でもしたほうがいいんじゃないだろうか)

天に向かって叫び出しそうになるのを、どうにか堪えていると──

「助けてくれっ! あいつに殺されそうなんだっ……!」

海斗は男の背後に隠れ、コートの裾を掴んで揺すった。
対する男は迷惑そうに眉をひそめ、慇懃な声で言う。

「大丈夫ですよ。お二人の身長と体格から鑑みて、彼に貴方をしとめるのは無理です」
「でも今の見ただろう!? こいつ、細っこいくせに、キレた時の馬鹿力は相当なんだっ!」
「……おい、お前ら」

陽向はゆらりと近づき、据わった目で二人を睨みつけた。

「それ以上、小さいとかガリガリとか言ったら、シナサリンドー(ぶちのめすぞ)!」
「ひっ」

海斗はまた男の背後に隠れ、びくびくしながら陽向を指さす。

「ほら、今の! これで俺の依頼がいかに正当か、わかっただろう!」
「……依頼?」

陽向は二人を交互に見やり、最後に海斗を鋭く睨む。

「おい、海斗。依頼って、何のことだ……?」

海斗はふふんと鼻息を荒くしながら、得意げに胸を張る。
だがその手は、まだ男の黒コートをぎゅっと掴んだままだった。

「よくぞ聞いてくれた。この人はなぁ、お前から身を守るために、俺が雇った探偵なんだ!」





人は、怒りが頂点を超えると逆に冷静になるらしい。

陽向は、ソファに座った男の前にお茶を置き、テーブルを挟んで向かいのカウチに腰を下ろした。
もちろん、男の隣に座っている海斗のことは完全に無視だ。

「ありがとうございます」

男はお茶を一口すすったあと、懐から名刺を取り出した。

「申し遅れました。わたくし、こういう者です」

──LGBT専門探偵 玄沢《くろさわ》敦《あつし》

名刺にはそう書かれていた。

「LGBT専門……?」

陽向が顔を上げかけた、そのとき。

「そうなんだ、すごいだろ?」

海斗が横から、ずいっと割って入ってくる。

「この人、普段は普通の探偵なんだけど、あるツテから依頼があった時だけ、LGBT──特にゲイ専門の探偵になるんだよ! 界隈じゃちょっと有名でさ! 男同士の浮気調査とか、痴話喧嘩の仲裁とかもしてるんだ!」

注目されていないと死ぬ病にでもかかっているのかというほどに、海斗はしゃべり倒していた。

「しかもこの見た目だろ? 依頼人がひっきりなしで、予約とるのも大変だったんだぜ。ちなみに一番面白いのが──この人、ゲイ専門の探偵してるくせに、自分はゲイじゃないらしくて──」
「海斗。うるさい。ちょっと黙れ」

ギロリと睨みつけると、海斗はしゅんとソファで身を縮めた。

「……で、その探偵さんが俺に、何の用ですか?」

陽向は名刺をテーブルの上に置き、お茶でガラガラの喉を潤した。

本音を言えば、海斗が連れてきた人間なんて、怒鳴りつけて追い出したい。
たとえ、どんなにいい男だったとしても。

だが、それをしない程度の分別は、一応持ち合わせている。
──とくに、相手が探偵ともなれば、なおさらだ。

「それがですね」

玄沢は一息ついて、事務的な口調で話し始める。

「謝花海斗氏は、貴方に慰謝料を要求したいと」



○●----------------------------------------------------●○

ご覧いただき、ありがとうございます。

現在、中華ファンタジーBLを連載中です!
興味がありましたら、お越し下さいませ☺

■あらすじ動画(1分)
https://youtube.com/shorts/o6KYEqYVPOI

○●----------------------------------------------------●○
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

処理中です...