【敵→恋】春雪に咲く花【探偵ミステリーBL】

郁雨いくううう!

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【敵同士→恋】2話(4)【探偵ミステリーBL】

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「え?」

海斗かいとが陽向を見、ついで隣の玄沢くろさわと目配せを交わす。
陽向ひなたは視線を上げることなく、押し殺した声で言った。

「五十万でも、何十万でもやるから……ここから出ていってくれ」
「陽──」

口を開きかけた海斗を、玄沢が手で制す。

「つまり、謝花じゃばな氏が出ていくなら、支払いに応じると?」
「……ああ、喜んで。こいつが俺の人生から出ていってくれるなら、お安いご用だ」

クッと陽向の口端に、自嘲めいた笑みが浮かぶ。

「どうですか?」

玄沢が依頼主に問う。
海斗は目を細めて、陽向をじっと見つめた。

対する陽向は、窓の外に視線を向けてやり過ごすように、決して海斗と目を合わせようとはしなかった。

窓の向こうでは春の雪が吹き荒れていた。

べた雪がガラスに叩きつけられ、無惨に溶けて流れていく。
まるで、今の陽向の心そのもののようだった。

「…………わかった。出て行くよ」

海斗は自分の足元を見つめながら、こくりと頷いた。
太ももの上に置かれた拳が、わずかに震えている。

それを窓の反射越しに、陽向は見つめていた。

沈黙を破ったのは、玄沢だった。

「これで解決ですね。ただ、一つ問題が」
「問題……?」

陽向は顔を上げた。胸の奥がじわじわと冷たくなる。

「はい。出ていくにしても、一朝一夕にはいきません。住居の確保、荷造り、諸々の手続き……それに、当面の資金も必要でしょう。最低でも十日はかかるかと」

少し間を置き、玄沢が言葉を続けた。

「一つお聞きしますが──その間、氏をここに置いておく気は……?」

「何を言ってるんだ」という陽向の視線を受けて、玄沢は咳払いをした。

「もちろん、ないようですね。となると、謝花氏には次の滞在先が見つかるまで、ホテルなどで寝泊まりを──」
「ホテル!? そんな金ないよっ! しかも十日も……!」
「俺からぶんどる五十万があるだろう。そこから出せよ」

「それは無理です」

玄沢が淡々とした口調で言った。

「慰謝料の支払いは、双方の条件が完了したあと。つまり、謝花氏が引っ越しを終えた時点でお願いします」
「えっ、そうなの!? そんなの聞いてないよ!」

青ざめた顔で海斗が玄沢を見る。

「当然です。金を受け取った後もここに居座られては、今までと何も変わりませんから」

さすが探偵。
自分たちの関係の本質を、まるで手に取るように見抜いている。

『金やるから、出ていってくれ』
『わかった。出ていくよ』

そう言い合って、数日後には「金がない」と戻ってくる海斗。

そんなやり取りを、自分たちはこれまでに何度繰り返してきたのだろう。

きっと玄沢は思っているだろう。
こんなデリカシーもない、考えなしの男と、一年も付き合っていたなんて。
こいつはなんて馬鹿なんだ、と。

(……そうだ、俺は馬鹿だ)

陽向は、すっと立ち上がった。

「どこへ?」

すかさず玄沢が問う。

「俺が出ていく」

陽向は自室へ向かい、旅行用の鞄を取り出して、中に手当たり次第に荷物を詰め込む。

「……どうして? 君が出ていく必要は、まったくない」

玄沢がドア前に立ち、感情の読み取れない目で陽向の手元を見つめていた。

「ここは君名義のアパートで、契約上の権利も──」
「……あんたが俺のことを、どこまで調べたかは知らないけど」

荷物をまとめる手を止め、後ろを振り返った。

「俺は、そこまでお人好しじゃないよ」

玄沢はドアのフレームに片手をかけ、複雑な顔をしてそこに立っていた。
陽向は、鞄の口を閉じると両手を広げて見せた。

「十日間だ。十日経っても海斗がまだここに居座ってたら、俺は迷わず外に放り出す。たとえ──大雪だろうが、嵐だろうが、宇宙人が侵略してこようが、ゾンビが跋扈してようが」

ふっと、玄沢が笑った。
だがすぐに、真面目な探偵の顔に戻る。

「わかりました。その旨を氏に、一字一句違えず伝えておきます」
「よろしく」

玄沢の足音が遠ざかっていく。
リビングのほうから、彼と海斗の会話が聞こえてくる。

「ありがとう」「助かった」──そんな言葉の合間に、「契約」だの何だのという言葉も混じっていた。

陽向は音を立てず、ドアを閉めた。
これ以上、馬鹿げた話など聞きたくなかった。

海斗と過ごした一年。
無駄と徒労と、消費に終わった一年を思い返しながら、どっと疲れが押し寄せてきた。



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ご覧いただき、ありがとうございます。

現在、中華ファンタジーBLを連載中です!
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■あらすじ動画(1分)
https://youtube.com/shorts/o6KYEqYVPOI

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