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第70話 災害種
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破られた。
その言葉の意味が、耳を通じて脳内で木霊する。
学院でのパニックが脳裏に過ぎり、一気に呼吸が浅く。
鼓動が早く。
「……なんで」
誰に尋ねるわけでもない言葉が自然と口をついていた。
「取り乱さないで下さい」
そんな俺に喝を入れるかのように、エルナの声が響いた。
彼女の表情は険しいままだ。
だがそれでも絶望の色はどこにも見られない。
「――今の衝撃で一部、感知器がダメになりましたか」
彼女はなおも状況把握に務めていた。
散乱した書類の上に立つ端末は、赤い光が一つ。
消えず、揺らがず、ただ脈のように明滅を繰り返す。
そして彼女は冷めた目で俺を見下ろす。
「魔物の数は?」
端的で冷たい問い。
あまりの内心とのギャップに、喉の奥で言葉が引っかかる。
「……っ」
慌てて魔力感知を広げる。
しかし、心臓がうるさい。息が苦しい。
(落ち着け……! 今は混乱してる場合じゃない)
自分に言い聞かせる。
体内の魔力の流れを整え、視界の揺れを押しとどめる。
――そして、広げた。
「……い、一体だけです。北部に、一体だけ」
俺は答えを吐き出す。
そして言った後で、更に驚愕した。
この事態を引き起こしたのが、たった一体だけだと言う事実に。
「なるほど……」
俺の答えにエルナはただ一言、静かに息を吐いた。
その眼差しは驚愕でも動揺でもなく、研ぎ澄まされた刃のように細い。
「災害種が現れた可能性があります」
災害種。
その言葉が放たれた瞬間、研究室の空気がひび割れたように感じた。
リリアでさえ息を呑む。
「え……」
そんな声しか出すしかできなかった。
『あの……災害種って?』
ルーの気まずそうな声が脳内で響く。
災害種。
一般的に魔物は危険度で六つに区分される。
その最上位が災害種。
(……一番やばい魔物ってことだ)
端的にそれが答えだった。
学院で俺が対峙したバグベアでも三番目の危険度。
ガーゴイルでさえ四番目だ。
その上位――最悪のカテゴリーに属する存在が、災害種。
つまり。
街ひとつが壊れる可能性がある、故に災害種。
魔王級の危険度である。
「……本当に?」
自分の声が、自分のものではないと思えるほど震える。
分かっているのだ。
この圧倒的な魔力、以前感じたガーゴイルの比ではないことくらい。
「それを今から確認しにいきます」
「……え?」
何てことないように告げたエルナは、既に外套を掴んでいた。
「ちょ、ちょっと本気ですか?」
思わず静止の声を投げる。
いくらエルナとは言え、災害種相手に単独で挑むなんて不可能だ。
あの時のガーゴイルなんか比較にならない。
勇者リオン、聖女アリシア、そして賢者エルナの三人が揃ってようやく倒せる相手だったというのに。
「可能か不可能かではありません。行かねばなりません」
エルナは淡々と言い切った。
その声音は、恐怖という概念をそもそも忘れた人間のように静かで深い。
だが、それでもその表情は一段と固く感じた。
それこそ緊張感が滲み出ているかのように。
「でも……っ」
喉の奥に熱いものがせり上がる。
恐怖と緊張で、俺は自分でも何がしたいのか分からなかった。
「お兄さん、落ち着いて!」
そんな俺を止めたのはリリアだった。
彼女は俺の腕を掴み、柔らかな表情を浮かべる。
「エルナは戦いに行くんじゃないよ、確認しにいくだけ」
リリアの言葉に、一瞬だけ思考が止まった。
「……確認?」
「そうだよ。災害種なんて、本当に出てるのかどうか。まずそれを見ないと“戦い”なんて始めようがないでしょ?」
リリアは一つ一つ丁寧に言葉を紡いでいく。
その表情は真剣でありながら、俺の目を真っ直ぐに見つめていた。
エルナは外套を羽織りながら、ゆっくりと頷く。
「その通りです。まず“正体”を見極める必要があります。災害種か、それとも別の要因か。それが分からなければ、こちらの対処も決められません」
エルナ、そしてリリアからの言葉を受け、俺は押し黙る。
確かに、この状況で何も情報がないという方が危険だ。
結界が破られた今、その魔物が何をしてくるのかも分かったものじゃない。
(落ち着け、今慌てても、どうにもならない)
息を大きく吸って、呼吸を整える。
「……すみません、取り乱しました」
大きく息を吸って吐く。
「無理もありません。貴方の魔力感知の特性上、あの膨大な魔力にあてられ、混乱したのでしょう」
珍しいことにエルナからの労わりの声だった。
鋭い判断と冷静さで周囲を引っ張る彼女が、今だけは俺を責めなかった。その事実に、胸の奥のざわつきが少しだけ静まる。
「では、準備を整えます。リリア様、何か連絡を取れるものはありますか?」
「えっと、あるよ!」
リリアは、散乱した研究室の縁に転がっていた魔道具をエルナに手渡す。
「これはそっちで魔力を込めると、こっちが光るから」
「ありがとうございます。異常があれば直ちに信号を送ります」
エルナはその魔道具を外套の内ポケットにしまうと、俺達に顔を向ける。
「貴方引き続き感知を続けて下さい。異常があれば逆にそちらから信号を」
「……分かりました」
エルナの指示に深く頷く。
「リリア様は、感知器の再配置をお願いします」
「うん、分かった!」
リリアはきゅっと唇を結び、いつものお気楽そうな笑みを封じていた。
エルナは小さく頷く。
「では、行きます」
「……お気をつけて」
「行ってらっしゃい!」
扉が開き、閉まる。
足音が遠ざかっていく。
それきり、廊下も、部屋も、世界さえも黙り込んだように感じた。
『ディランさん』
(わかってる……)
ルーの声に、俺は深く息を吸い込む。
肺の奥まで冷たい空気を流し込み、肺ごと焼くつもりで吐き出す。
(やることは、決まってる)
再び魔力感知を広げる。
先ほどよりも慎重に、丁寧に。
すぐに、あの“点”が目に入った。
「……北部、やっぱり一体だけです。さっきより、はっきり――」
言いかけて、言葉が途切れる。
あまりにも、異常だった。
膨大な魔力の塊。
重く、濁っていて、底が見えない。
触れたら最後、その圧倒的な深さに呑み込まれてしまうのではないかと、錯覚するほどだ。
(……これが、災害種なのか)
はっきりいって次元が違う。
人が倒せるレベルなんて遥かに超えている。
一体、原作の勇者たちはどんな気持ちでこれに挑んでいたのだろうか。
時間が、妙に長く感じられる。
時計の針が動いている音さえ聞こえそうな沈黙の中、俺はひたすらに“点”を見つめ続けた。
膨張。
収縮。
膨張。
収縮。
規則正しく脈打つ魔力の波形。
あれが“呼吸”なのか、“魔法”なのか、“ただの存在証明”なのかも分からない。
「……」
どれだけ経っただろう。
一分か、十分か、一時間か。
感覚がおかしくなり始めたその瞬間だった。
――二度目の揺れが来た。
「っ……!?」
床が跳ね、天井が軋む。
今度はさっきの爆発のような瞬間的な衝撃ではなく、長く、継続的に続く振動。
「お兄さん!」
リリアに肩を掴まれ、俺は机にしがみつく。
割れた窓から、今度は熱を帯びた風が吹き込んできた。
灰と、焦げた石と、遠くで燃える何かの匂い。
「今のは、魔物の反応じゃない……」
俺の魔力感知はそう判断していた。
魔物は相変わらず一体。
動いてはいるものの、この衝撃との整合は取れない。
『外、見ましょう!』
(……ああ)
ルーに押されるようにして、俺は窓辺へとにじり寄る。
エルナの張った障壁が、破片除けの薄膜となってまだ残っていた。
その向こう側――王都北部の空が、黒く染まっている。
黒い“壁”。
いや違う、あれは――
「……影?」
思わず呟く。
遠目だというのに、それが“巨大な何か”であることだけははっきりと分かった。
城下の建物が豆粒に見える高さで、うねりながら立ち上がる黒い輪郭。
雲を突き抜け、空そのものを塗りつぶすように広がっている。
人の形とも、獣の形ともつかない。
ただただ、巨大で、禍々しくて、悪意の塊のような影。
災害種――その言葉が、今度こそ現実味を持って胸の中で固まる。
『これが……』
(ああ……)
感知するだけで、魔力が削られていく感覚。
意識の表面がざりざりと削れて、むき出しの神経が風に晒される。
頭の奥が、痛い。
――そのときだった。
暗い空に、細い線が引かれた。
「え……?」
一瞬、見間違いかと思うほどかすかな光。
黒く塗りつぶされた夜明け前の空を、斜めに走る一本の線。
そして、その線が壁にぶつかり。
爆ぜる。
白に近い紫の閃光が、世界を割った。
影の上空、遥か高みから落ちてきたそれは、一点で止まり、次の瞬間には幾何学模様に広がる。
魔法陣だ。
空そのものをキャンバスにした巨大魔法陣が、災害種の頭上に展開される。
円と線と記号が途中で途切れることなく、完璧な形で描かれていく。
その中心から、光が――
「あれは……」
何度も続く衝撃の正体。
エルナではない。何者かがあの魔物に対して攻撃を行っている。
「ヴァルグレイスだ!」
直ぐ側に来ていたリリアが声を上げた。
「え、あれが」
魔法陣が消えては爆発を繰り返す。
圧倒的速度で、確実に。
あれを行っているのが、宮廷魔法第二位ヴァルグレイス。
「引きこもってるんじゃ……」
「言ったでしょ、あの人、自分の邪魔をされるのが嫌いなんだよ」
リリアは肩を竦めて言った。
彼女にしては珍しく呆れた様子だ。
「でも……これなら」
エルナ、ヴァルグレイス、二人の宮廷魔法師が現場にいる。
この事実は、俺の不安を少しだけ軽くした。
結界は破られた。
災害種も現れた。
状況は最悪だ。
――それでも。
(終わってなんか、いない)
王都も。
俺たちも。
まだ、ここからだ。
その言葉の意味が、耳を通じて脳内で木霊する。
学院でのパニックが脳裏に過ぎり、一気に呼吸が浅く。
鼓動が早く。
「……なんで」
誰に尋ねるわけでもない言葉が自然と口をついていた。
「取り乱さないで下さい」
そんな俺に喝を入れるかのように、エルナの声が響いた。
彼女の表情は険しいままだ。
だがそれでも絶望の色はどこにも見られない。
「――今の衝撃で一部、感知器がダメになりましたか」
彼女はなおも状況把握に務めていた。
散乱した書類の上に立つ端末は、赤い光が一つ。
消えず、揺らがず、ただ脈のように明滅を繰り返す。
そして彼女は冷めた目で俺を見下ろす。
「魔物の数は?」
端的で冷たい問い。
あまりの内心とのギャップに、喉の奥で言葉が引っかかる。
「……っ」
慌てて魔力感知を広げる。
しかし、心臓がうるさい。息が苦しい。
(落ち着け……! 今は混乱してる場合じゃない)
自分に言い聞かせる。
体内の魔力の流れを整え、視界の揺れを押しとどめる。
――そして、広げた。
「……い、一体だけです。北部に、一体だけ」
俺は答えを吐き出す。
そして言った後で、更に驚愕した。
この事態を引き起こしたのが、たった一体だけだと言う事実に。
「なるほど……」
俺の答えにエルナはただ一言、静かに息を吐いた。
その眼差しは驚愕でも動揺でもなく、研ぎ澄まされた刃のように細い。
「災害種が現れた可能性があります」
災害種。
その言葉が放たれた瞬間、研究室の空気がひび割れたように感じた。
リリアでさえ息を呑む。
「え……」
そんな声しか出すしかできなかった。
『あの……災害種って?』
ルーの気まずそうな声が脳内で響く。
災害種。
一般的に魔物は危険度で六つに区分される。
その最上位が災害種。
(……一番やばい魔物ってことだ)
端的にそれが答えだった。
学院で俺が対峙したバグベアでも三番目の危険度。
ガーゴイルでさえ四番目だ。
その上位――最悪のカテゴリーに属する存在が、災害種。
つまり。
街ひとつが壊れる可能性がある、故に災害種。
魔王級の危険度である。
「……本当に?」
自分の声が、自分のものではないと思えるほど震える。
分かっているのだ。
この圧倒的な魔力、以前感じたガーゴイルの比ではないことくらい。
「それを今から確認しにいきます」
「……え?」
何てことないように告げたエルナは、既に外套を掴んでいた。
「ちょ、ちょっと本気ですか?」
思わず静止の声を投げる。
いくらエルナとは言え、災害種相手に単独で挑むなんて不可能だ。
あの時のガーゴイルなんか比較にならない。
勇者リオン、聖女アリシア、そして賢者エルナの三人が揃ってようやく倒せる相手だったというのに。
「可能か不可能かではありません。行かねばなりません」
エルナは淡々と言い切った。
その声音は、恐怖という概念をそもそも忘れた人間のように静かで深い。
だが、それでもその表情は一段と固く感じた。
それこそ緊張感が滲み出ているかのように。
「でも……っ」
喉の奥に熱いものがせり上がる。
恐怖と緊張で、俺は自分でも何がしたいのか分からなかった。
「お兄さん、落ち着いて!」
そんな俺を止めたのはリリアだった。
彼女は俺の腕を掴み、柔らかな表情を浮かべる。
「エルナは戦いに行くんじゃないよ、確認しにいくだけ」
リリアの言葉に、一瞬だけ思考が止まった。
「……確認?」
「そうだよ。災害種なんて、本当に出てるのかどうか。まずそれを見ないと“戦い”なんて始めようがないでしょ?」
リリアは一つ一つ丁寧に言葉を紡いでいく。
その表情は真剣でありながら、俺の目を真っ直ぐに見つめていた。
エルナは外套を羽織りながら、ゆっくりと頷く。
「その通りです。まず“正体”を見極める必要があります。災害種か、それとも別の要因か。それが分からなければ、こちらの対処も決められません」
エルナ、そしてリリアからの言葉を受け、俺は押し黙る。
確かに、この状況で何も情報がないという方が危険だ。
結界が破られた今、その魔物が何をしてくるのかも分かったものじゃない。
(落ち着け、今慌てても、どうにもならない)
息を大きく吸って、呼吸を整える。
「……すみません、取り乱しました」
大きく息を吸って吐く。
「無理もありません。貴方の魔力感知の特性上、あの膨大な魔力にあてられ、混乱したのでしょう」
珍しいことにエルナからの労わりの声だった。
鋭い判断と冷静さで周囲を引っ張る彼女が、今だけは俺を責めなかった。その事実に、胸の奥のざわつきが少しだけ静まる。
「では、準備を整えます。リリア様、何か連絡を取れるものはありますか?」
「えっと、あるよ!」
リリアは、散乱した研究室の縁に転がっていた魔道具をエルナに手渡す。
「これはそっちで魔力を込めると、こっちが光るから」
「ありがとうございます。異常があれば直ちに信号を送ります」
エルナはその魔道具を外套の内ポケットにしまうと、俺達に顔を向ける。
「貴方引き続き感知を続けて下さい。異常があれば逆にそちらから信号を」
「……分かりました」
エルナの指示に深く頷く。
「リリア様は、感知器の再配置をお願いします」
「うん、分かった!」
リリアはきゅっと唇を結び、いつものお気楽そうな笑みを封じていた。
エルナは小さく頷く。
「では、行きます」
「……お気をつけて」
「行ってらっしゃい!」
扉が開き、閉まる。
足音が遠ざかっていく。
それきり、廊下も、部屋も、世界さえも黙り込んだように感じた。
『ディランさん』
(わかってる……)
ルーの声に、俺は深く息を吸い込む。
肺の奥まで冷たい空気を流し込み、肺ごと焼くつもりで吐き出す。
(やることは、決まってる)
再び魔力感知を広げる。
先ほどよりも慎重に、丁寧に。
すぐに、あの“点”が目に入った。
「……北部、やっぱり一体だけです。さっきより、はっきり――」
言いかけて、言葉が途切れる。
あまりにも、異常だった。
膨大な魔力の塊。
重く、濁っていて、底が見えない。
触れたら最後、その圧倒的な深さに呑み込まれてしまうのではないかと、錯覚するほどだ。
(……これが、災害種なのか)
はっきりいって次元が違う。
人が倒せるレベルなんて遥かに超えている。
一体、原作の勇者たちはどんな気持ちでこれに挑んでいたのだろうか。
時間が、妙に長く感じられる。
時計の針が動いている音さえ聞こえそうな沈黙の中、俺はひたすらに“点”を見つめ続けた。
膨張。
収縮。
膨張。
収縮。
規則正しく脈打つ魔力の波形。
あれが“呼吸”なのか、“魔法”なのか、“ただの存在証明”なのかも分からない。
「……」
どれだけ経っただろう。
一分か、十分か、一時間か。
感覚がおかしくなり始めたその瞬間だった。
――二度目の揺れが来た。
「っ……!?」
床が跳ね、天井が軋む。
今度はさっきの爆発のような瞬間的な衝撃ではなく、長く、継続的に続く振動。
「お兄さん!」
リリアに肩を掴まれ、俺は机にしがみつく。
割れた窓から、今度は熱を帯びた風が吹き込んできた。
灰と、焦げた石と、遠くで燃える何かの匂い。
「今のは、魔物の反応じゃない……」
俺の魔力感知はそう判断していた。
魔物は相変わらず一体。
動いてはいるものの、この衝撃との整合は取れない。
『外、見ましょう!』
(……ああ)
ルーに押されるようにして、俺は窓辺へとにじり寄る。
エルナの張った障壁が、破片除けの薄膜となってまだ残っていた。
その向こう側――王都北部の空が、黒く染まっている。
黒い“壁”。
いや違う、あれは――
「……影?」
思わず呟く。
遠目だというのに、それが“巨大な何か”であることだけははっきりと分かった。
城下の建物が豆粒に見える高さで、うねりながら立ち上がる黒い輪郭。
雲を突き抜け、空そのものを塗りつぶすように広がっている。
人の形とも、獣の形ともつかない。
ただただ、巨大で、禍々しくて、悪意の塊のような影。
災害種――その言葉が、今度こそ現実味を持って胸の中で固まる。
『これが……』
(ああ……)
感知するだけで、魔力が削られていく感覚。
意識の表面がざりざりと削れて、むき出しの神経が風に晒される。
頭の奥が、痛い。
――そのときだった。
暗い空に、細い線が引かれた。
「え……?」
一瞬、見間違いかと思うほどかすかな光。
黒く塗りつぶされた夜明け前の空を、斜めに走る一本の線。
そして、その線が壁にぶつかり。
爆ぜる。
白に近い紫の閃光が、世界を割った。
影の上空、遥か高みから落ちてきたそれは、一点で止まり、次の瞬間には幾何学模様に広がる。
魔法陣だ。
空そのものをキャンバスにした巨大魔法陣が、災害種の頭上に展開される。
円と線と記号が途中で途切れることなく、完璧な形で描かれていく。
その中心から、光が――
「あれは……」
何度も続く衝撃の正体。
エルナではない。何者かがあの魔物に対して攻撃を行っている。
「ヴァルグレイスだ!」
直ぐ側に来ていたリリアが声を上げた。
「え、あれが」
魔法陣が消えては爆発を繰り返す。
圧倒的速度で、確実に。
あれを行っているのが、宮廷魔法第二位ヴァルグレイス。
「引きこもってるんじゃ……」
「言ったでしょ、あの人、自分の邪魔をされるのが嫌いなんだよ」
リリアは肩を竦めて言った。
彼女にしては珍しく呆れた様子だ。
「でも……これなら」
エルナ、ヴァルグレイス、二人の宮廷魔法師が現場にいる。
この事実は、俺の不安を少しだけ軽くした。
結界は破られた。
災害種も現れた。
状況は最悪だ。
――それでも。
(終わってなんか、いない)
王都も。
俺たちも。
まだ、ここからだ。
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