おにいちゃんはやんでる

あた

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自慰

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 誠司が夏期講習から帰ってくる夜、携帯が鳴った。こんな時間に誰だろう? 美月は携帯を耳に当て、返事をする。
「はい」
「美月?」
 誠司の声がして、どきりとした。
「ど、うしたの?」
「今日、帰る予定だったけどバスが遅れてる。明日になる、って母さんに伝えて」
「う、ん」
「薄着で歩いたり男を連れ込んだりしてないだろうな」
「してないよ」

 なんだか、本当のお兄さんのようだ。誠司の声は好きだった。聞いていると、落ち着く。
「あんたって、声はいいよね」
「そうか?」
「そうよ、声だけは爽やかだし、かっこいい」
「ふうん、美月は僕の声が好きなのか」
「す、すきっていうか」
「なに?」
「いい声だって言っただけよ。もう切るから」
「僕もお前がすきだよ、美月」
「っ」

 びくりとして、思わず切ってしまった。
「ば、ばかじゃないの」
 きょうだいで好きだなんて言わないのだ、普通は。
「ばかだ」
 美月は呟いて、携帯の画面をなぞった。

「あ、これ、あいつの」
 美月は風呂上がりにシャツを広げ、自分のものではないと気づく。多分洗濯物が混ざっていたのだろう。取りに行くのが面倒くさい、という理由をつけ、そっと羽織ってみる。

「……おっきい」
 呟いて、ふとももあたりまであるシャツを引っ張る。肩まわりも袖もぶかぶかだった。脱衣所から出て、キョロキョロあたりを見回し、美月は急いで自分の部屋に戻った。


 その夜、美月は眠れずに、なんども寝がえりを打った。
「……」

 ──僕もお前が好きだよ。
 着ているシャツの裾を引っ張る。顔を埋めると、誠司の匂いがする気がした。
「……おにいちゃん」

 呟いて、自分の身体を抱きしめる。下着だけの下半身をもぞ、とうごかし、熱い息を吐いた。
 おにいちゃん。

「おにい、ちゃん」
 誠司はいつも、一番はじめに美月の首筋にキスをする。身体をなぞり、美月の恥部に滑り落ちる手を想像し、背中がぞくぞくした。

「せいじ」
 横向きになり、そっとシャツをめくり上げる。腹を撫でて、胸元に触れる。優しく揉まれ、触られているのを想像した。だんだん、乳首がたってくる。
「もっと、さわって」

 こんなこと、なんでしているんだろう。いもうとでいると決めたのに。でも、やめられない。
「っ、ふ」
 乳首をつまむと鳥肌が立ち、恥ずかしくて瞳が潤んだ。顔が熱くなり、足がシーツをすべる。
「せ、いじ」

 下着の上から、指で擦る。じんわりとした感触が、指を濡らす。
 ──もう濡れてる。
「いや、やだ」
 彼ならこう言うだろう。想像しながら、指を動かす。下着の中に、そっと手を入れ、くちゅりと泥濘に触れた。

「ふ……」
 美月は指を噛んで、声を耐える。もどかしいほどの快感に身を震わせながら、指を動かす。きもち、いい。 

「せいじ、もっと」

「──なにを?」
 美月はハッとして、部屋の入り口を見た。誠司が立っていた。いつの間に。切れ長の瞳にじっと見つめられて、美月は赤くなる。

「な、んで」
 布団をかぶるが、見られたという事実がじわじわと羞恥心を掻き立てる。
「バスがなんとか来てね。今帰った」
 誠司がドアを閉め、鍵をかける。近づいてきた誠司から、後ずさる。
「やだ、来ないで」

 誠司は美月の肩を掴み、ベッドに倒した。布団をめくり、美月をじっと見る。はだけたシャツからは白い肌と胸が覗き、下着は降ろされ、愛液が内股を濡らしている。桃色の乳首を撫でながら、誠司は囁く。

「美月、続きは?」
「し、しない」
「じゃあ僕がしてやろうか」
「だめ、っん」

 唇を奪われ、美月は頰を紅潮させる。誠司の指先が耳を撫で、首筋を撫で、胸元に滑り落ちる。ゆっくり揉まれ、身体が震えた。触れられない下半身が、もどかしい。

「せ、いじ」
「どうした?」
「し、て」
「なにを?」
「下も、して」
「下って?」
「っさわって、ここ」

 美月が濡れた箇所に触れる。誠司が目を細め、指先をゆっくり入れた。ざらざらした部分を擦られ、腰が浮く。
「あ、や」
 滴る愛液を撫で、誠司は言う。
「やらしいな、美月」
「ちが、ふ」

 抱き寄せられ、また唇を奪われる。舌先が首筋を舐め、ゆっくり身体を下る。黒髪が、下腹部に埋まった。誠司は美月の手を握り、囁くように言う。

「見てろ」
「ふ、ああ」
 内股を舐められ、濡れたそこに舌を這わせられる。花芯を舐めながら、指先を入れられる。美月が掴んだシーツがくしゃくしゃになり、下半身が震え、目の前がちかちかする。

「や、ひ、あ」
 溢れ出た愛液が、シーツを濡らした。引き抜いた指を、誠司が美月にかざす。美月は真っ赤になって枕を抱き寄せる。
 誠司はシャツを脱ぎ、ズボンのポケットに手を入れた。彼の手にある避妊具に、美月は真っ赤になる。

「な、んでそんなの」
「夏期講習で持ってるやつがいた」
「なにしに、いってんのよ」
 誠司がそれをつける間、美月は困ったように枕を抱きしめる。

「美月、おいで」
 美月は枕を持ったまま、誠司に近づく。腕を引かれて、膝立ちにさせられた。誠司がじっと美月を見つめる。
「自分でいれて」
「っ」
 そんな、恥ずかしいこと。
「したいんだろう?」

 指先が耳に触れ、身体が震える。早く入れて。誠司はそう囁きながら、美月の背中を撫でる。美月は恐る恐る誠司の性器を握った。しごいて。そう言われ、ぎこちなく手を動かす。熱くて、かたい。こんなのが、入るなんて。ゆっくり腰を下ろすと、誠司が美月を抱きしめた。

「美月」
「せい、じ、ふ、あ」
 耳を噛まれ、びくりと身体が震える。ほぼ同時に、きゅう、と膣内がしまった。
「しまった?今」
「や、あ、あ」

 揺らされて、美月は誠司にしがみつく。誠司は美月の胸を撫でながら、尋ねる。
「どうして、俺の服を着て、してた?」
「ち、が、おかあさんが、まちがえ、て」
「名前を呼んでたのは?」

 それも間違えたのか?意地悪く言いながら、誠司は美月の胸の突起を舐める。
「ん、ひ、あ」
 美月は、彼のサラサラした髪に指を絡めた。誠司が手を伸ばし、ベッドサイドの電気をつける。明るいひかりに、上気した肌が照らされた。

「あ、や」
「可愛いよ、美月」
「見たら、やだ」
 美月はふるふる首をふる。
「どうして?」
「はずか、しい」

 中のものが震え、美月は身体を揺らす。
「せ、いじ」
 誠司は美月をベッドに倒し、抽送を早くした。くちゅ、くちゅ、という音が鼓膜を刺激する。
「あ、ん、う」

 最初はあんなに痛かったのに、嫌だったのに。どうして、こんなに身体が熱くなるんだろう。

 好きなんだ。
 誠司のことが、好きなんだ。こいつはひどいやつなのに。美月にしたことを、何一つ謝ってくれないのに。こんなの、絶対間違ってるのに。

 美月は誠司の首に手を回し、掠れた声で言う。
「も、う、いきたい」
「ああ」
 唇を奪われ、奥を突かれる。お腹の奥から、何かがくるような感覚がした。
「ふ、ああっ」

 どくん、と波打った誠司の性器を、美月の膣内がしめつける。身をすくめた美月の髪を、誠司が梳いた。
「いたくないか?」
「う、ん」

 誠司が性器を引き抜いて、ティッシュを手にする。
 美月は寝転んだまま、布団を引き上げた。シャツを羽織る誠司の背中を見る。

「ねえ」
「なに?」
「京都行ったら、か、彼女、つくるの?」
 誠司は美月を振り向き、口元を緩めた。

「さあ、どうしようかな」
「っ」
「そんな顔するな。僕はお前としかしないって言っただろ」
「だめだよ」
「なにが?」
「私と一緒にいたら、あんたはよくならないよ」
「そう思うなら、どうして妬くんだ?僕を受け入れるんだ?」
「家族、だから」

 傷つけられたから、誠司の痛みもわかるようになった。やり方は間違っていたけど、美月を愛してくれたから。他の人だって、愛せるはずだ。

「私なしでも、大丈夫になってほしい。だって、あんたはもうこの家から出るんだから」
「お前は、僕がいなくても平気なのか?」
「平気だよ」
 嘘だ。
「──そうか。よかった」

 誠司はベッドから立ち上がった。美月は布団を顔まで引き上げる。本当は、行かないでほしい。一緒にいてほしい。パタン、とドアが閉まる。

「っ」
 美月は身体を丸めた。どうしてだろう。猫を川に投げ捨てるような、美月にあんなことをして平気でいるような、そんなやつを、どうして。

 本当は、器用なんかじゃないから、寂しい人だから。誰にもわかってもらえなくて苦しんでいるから。誠司の感情が恋じゃないなら、美月の感情も恋じゃないのかもしれない。

 それでも胸が苦しくて、美月は嗚咽をこらえながら涙をこぼした。
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