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現在。
ああ、最悪な思い出だ。
単身者用のアパートに帰宅した私は、テレビを見ながらカップラーメンを食べていた。あの後、悶絶する相良を無視し、後発の電車に乗り込んだ。
ラーメンを食べ終え、ノートを取り出す。表紙には「No.45」と書かれている。22歳の時BL雑誌の漫画賞をとって一応プロにはなったのだが、漫画だけでは食っていけないから、清掃のバイトをしている。
ネーム──漫画の設計図はノートに描く。学生時代からの慣例だから、ノートはどんどん溜まっていっていた。
ネームを描き終わり、編集者にファックスした。風呂に入ってベッドに潜り込む。バイトして漫画描いて寝る。私の生活は基本的にこんな感じだ。不摂生すぎて多分健康診断に引っかかるに違いない。
「はあ……」
相良に会ったせいで気分はすっかりダウナーである。
「オナニーでもするか……」
ごそごそパジャマをめくりあげていたら、携帯が鳴る。編集者からメールだ。ありがちな話、萌えがない。要約するとそんなダメ出しである。
「だめかあ」
私はため息をついて、携帯をシーツに放る。
萌えか……萌え……萌……。
考えるも睡魔には勝てず、私はそのまま眠りに落ちていった。
翌朝、目覚めた私は、うだうだと起き上がり、清掃のバイトへ向かう。私が働いているのは、いくつか会社が入っているビルだ。掃除のおばちゃんスタイルになり、ロビーの掃除機をかけていたら、声がかかった。
「あれー? せんぱーい」
げっ。
肩をポン、と叩かれて、私はびくりとする。
「やっぱりそうだ。何してるんですかー?」
「さ、相良……」
振り向いたら、鼻にガーゼを貼った相良と目が合う。なんでこいつがここに。ヤツが首から下げているのは、ビルの五階にある会社の社員証。オーマイガー。
私はさっ、と目をそらし、帽子を目深に被り、掃除機を素早く片付ける。
「あ、そうだ。先輩聞いてくださいよー、先輩に殴られて、俺、鼻骨にヒビ入っちゃってー」
「そう、大変ね」
相良は紙を差し出してきた。診断書、と書いてある。
「俺知り合いに弁護士いるんですけど、慰謝料請求できるらしいんですよー。なんなら暴行罪も適応されるって」
こいつ……。
「……金払えっていうわけ」
相良はにこ、と笑い、
「後で話しましょうよ。仕事、何時に終わります?」
☆
午後六時。私は喫茶店で相良を待っていた。時間がもったいないのでネームの見直しをしていたら、ふ、と影が落ちる。
「あ、漫画、まだ描いてるんですね」
「!」
私は慌ててネームをしまった。相良は私の前に座り、ニコニコ笑う。なんなのその笑顔……不気味である。
「俺、紅茶」
注文を取りに来た店員に告げ、彼はテーブルに肘をついた。
「先輩、漫画描きたいから掃除のおばちゃんなんかやってるんですかー?」
なんか、ってなんなんだ。あんたになんか呼ばわりされる筋合いないわよ、このゆとりクズめ。
「どうでもいいでしょ。いくら払えばいいわけ」
相良は紙を取り出す。
「弁護士の試算だとこんな感じですって」
私は紙を見て、さあっと青くなる。
「っ冗談でしょ」
「ほら、怪我したの顔だし。俺、福士蒼◯に似てるって言われてるし」
「福◯さんのファンに謝れ!!」
叫んで、紙を投げつけた。相良は紙を拾い上げ、
「いや、結構痛いんですよまじで」
「五万しか出せない」
「先輩ビンボーなんです? あ、だからそんなダサい服着てるんだー」
こいつ、ゴル○に依頼して狙撃してもらいたい。
「じゃ、ま、お金はいいです。先輩とは知らない仲じゃないし」
相良は紅茶をひとくち飲み、
「その代わり、一週間俺の言うことなんでも聞く、っていうのはどうですか?」
「いや」
「えー、即答?」
彼はけらけら笑い、目を細めた。顔立ちが端正なだけに、性格の悪さがにじみ出る。
「じゃあお金、払えます?」
私は唇を噛んで相良を睨みつけた。
「私を臓器ブローカーに売り飛ばす気でしょ……」
「カ○ジじゃないんだからそんなことしませんよー」
相良はけらけら笑い、
「俺、いま彼女いないんですよね。だからちょっと寂しくて」
知るか……孤独死してしまえ。
「先輩、一ヶ月だけ彼女やってもらえません?」
「は?」
なに言ってるのこいつ。
「ほら、風俗の女とかビョーキ持ってるかもしれないじゃないですかー」
「ふざけないでよ、誰があんたなんかと」
「あ」
相良が指差してきたので、なによ、と返す。
「先輩、処女?」
「っ」
図星だった。私は、彼氏いない歴=年齢なのだ……真っ赤になって拳を握り締める。
「あー、そうなんだ」
彼の整った顔が近づく。唇が動き、
「やるとき、やっぱ尻のほうがいいんですか?」
私は頭の中で相良を狙撃した。
現在。
ああ、最悪な思い出だ。
単身者用のアパートに帰宅した私は、テレビを見ながらカップラーメンを食べていた。あの後、悶絶する相良を無視し、後発の電車に乗り込んだ。
ラーメンを食べ終え、ノートを取り出す。表紙には「No.45」と書かれている。22歳の時BL雑誌の漫画賞をとって一応プロにはなったのだが、漫画だけでは食っていけないから、清掃のバイトをしている。
ネーム──漫画の設計図はノートに描く。学生時代からの慣例だから、ノートはどんどん溜まっていっていた。
ネームを描き終わり、編集者にファックスした。風呂に入ってベッドに潜り込む。バイトして漫画描いて寝る。私の生活は基本的にこんな感じだ。不摂生すぎて多分健康診断に引っかかるに違いない。
「はあ……」
相良に会ったせいで気分はすっかりダウナーである。
「オナニーでもするか……」
ごそごそパジャマをめくりあげていたら、携帯が鳴る。編集者からメールだ。ありがちな話、萌えがない。要約するとそんなダメ出しである。
「だめかあ」
私はため息をついて、携帯をシーツに放る。
萌えか……萌え……萌……。
考えるも睡魔には勝てず、私はそのまま眠りに落ちていった。
翌朝、目覚めた私は、うだうだと起き上がり、清掃のバイトへ向かう。私が働いているのは、いくつか会社が入っているビルだ。掃除のおばちゃんスタイルになり、ロビーの掃除機をかけていたら、声がかかった。
「あれー? せんぱーい」
げっ。
肩をポン、と叩かれて、私はびくりとする。
「やっぱりそうだ。何してるんですかー?」
「さ、相良……」
振り向いたら、鼻にガーゼを貼った相良と目が合う。なんでこいつがここに。ヤツが首から下げているのは、ビルの五階にある会社の社員証。オーマイガー。
私はさっ、と目をそらし、帽子を目深に被り、掃除機を素早く片付ける。
「あ、そうだ。先輩聞いてくださいよー、先輩に殴られて、俺、鼻骨にヒビ入っちゃってー」
「そう、大変ね」
相良は紙を差し出してきた。診断書、と書いてある。
「俺知り合いに弁護士いるんですけど、慰謝料請求できるらしいんですよー。なんなら暴行罪も適応されるって」
こいつ……。
「……金払えっていうわけ」
相良はにこ、と笑い、
「後で話しましょうよ。仕事、何時に終わります?」
☆
午後六時。私は喫茶店で相良を待っていた。時間がもったいないのでネームの見直しをしていたら、ふ、と影が落ちる。
「あ、漫画、まだ描いてるんですね」
「!」
私は慌ててネームをしまった。相良は私の前に座り、ニコニコ笑う。なんなのその笑顔……不気味である。
「俺、紅茶」
注文を取りに来た店員に告げ、彼はテーブルに肘をついた。
「先輩、漫画描きたいから掃除のおばちゃんなんかやってるんですかー?」
なんか、ってなんなんだ。あんたになんか呼ばわりされる筋合いないわよ、このゆとりクズめ。
「どうでもいいでしょ。いくら払えばいいわけ」
相良は紙を取り出す。
「弁護士の試算だとこんな感じですって」
私は紙を見て、さあっと青くなる。
「っ冗談でしょ」
「ほら、怪我したの顔だし。俺、福士蒼◯に似てるって言われてるし」
「福◯さんのファンに謝れ!!」
叫んで、紙を投げつけた。相良は紙を拾い上げ、
「いや、結構痛いんですよまじで」
「五万しか出せない」
「先輩ビンボーなんです? あ、だからそんなダサい服着てるんだー」
こいつ、ゴル○に依頼して狙撃してもらいたい。
「じゃ、ま、お金はいいです。先輩とは知らない仲じゃないし」
相良は紅茶をひとくち飲み、
「その代わり、一週間俺の言うことなんでも聞く、っていうのはどうですか?」
「いや」
「えー、即答?」
彼はけらけら笑い、目を細めた。顔立ちが端正なだけに、性格の悪さがにじみ出る。
「じゃあお金、払えます?」
私は唇を噛んで相良を睨みつけた。
「私を臓器ブローカーに売り飛ばす気でしょ……」
「カ○ジじゃないんだからそんなことしませんよー」
相良はけらけら笑い、
「俺、いま彼女いないんですよね。だからちょっと寂しくて」
知るか……孤独死してしまえ。
「先輩、一ヶ月だけ彼女やってもらえません?」
「は?」
なに言ってるのこいつ。
「ほら、風俗の女とかビョーキ持ってるかもしれないじゃないですかー」
「ふざけないでよ、誰があんたなんかと」
「あ」
相良が指差してきたので、なによ、と返す。
「先輩、処女?」
「っ」
図星だった。私は、彼氏いない歴=年齢なのだ……真っ赤になって拳を握り締める。
「あー、そうなんだ」
彼の整った顔が近づく。唇が動き、
「やるとき、やっぱ尻のほうがいいんですか?」
私は頭の中で相良を狙撃した。
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