イロコイ短編集

あた

文字の大きさ
9 / 10

(4)

しおりを挟む
「気持ちよかった~」
 相良は爽やかな笑顔を浮かべて、また明日しましょうね、手錠プレイとかいいな、などと言っている。こいつ……暴走した列車にひかれて死ねばいいのに。

 私はじくじくした痛みに耐えながら、相良を睨みつけた。
「……撮ったやつ、消しなさいよ」
「もうパソコンに送っちゃいましたあ☆」
 死ね……
 私が呻きながら起き上がると、相良が顔を覗きこんできた。

「痛い? 先輩」
「痛いわよ、生理中みたいな痛さ」
「そうなんだー。薬買って来ましょうか?」
 親切ぶってんじゃないわよ。ああもう、いちいちカンに触る。
「いらない。もう帰っていいわよね」
「送りますよ」 
「結構よ」

 私は服を身につけ、よたよた歩き出した。
「先輩」
 振り向くと、相良が私の腕を引いた。ちゅ、と唇が重なる。にこ、と笑い、
「また明日☆」
 絶対会いたくない──私は切に願った。

 ☆

 相良の彼女(笑)になってから一週間。あの発情クズは毎日私を呼び出した。鼻のガーゼは取れている。本当にヒビが入っているのか疑わしい。
 今日も今日とて、私と相良はラブホに来ていた。

「先輩の胸、すげー柔らかい」
 相良は私の身体を後ろから抱き抱え、胸を揉みしだいていた。私は無視して、漫画の下書きを描く。

 相良をモデルにしたクズ男が、異世界に飛ばされて、七人の男に犯されまくるネームを描いたら、担当が新境地ですね!とか言ってゴーサインが出たのだ。なんか納得いかない。

「ねー、せっかくラブホに来たんだからやりましょうよ」
「だから、これが終わるまで待ってってば」
 セックスのあとは疲れて原稿する気にならないのだ。
 うーん、この角度難しいわね。私は相良の方を振り向き、じっと見た。シャーペンでアタリを取る。
「よし」
「よしってなんですかーねーつまんないつまんないつまんない」

 うるさい。何かの拍子で喉ボトケが破裂すればいいのに。
「携帯ゲームでもしなさいよ」
「俺ゲームとかしないんで」
「ふーん、どうでもいいわね」
 黙った……と思ったら、いきなり振動が来た。
「ひゃ」

 相良が私の内股に携帯を押し当てている。バイブ機能が作動しているのだ。
「な、なにしてんのよバカ」
「先輩が遊べって言ったんじゃないですか」
「私で遊べとは言ってないわよ!」
「大丈夫ですよ、俺ちゃんと待ってるし。先輩原稿してください」
「このクズ……」

 私は眉をしかめ、シャーペンを走らせる。相良は私の内股を携帯で刺激しながら、耳たぶを舐めた。
「ふ」
 唇を噛み、刺激に耐える。彼の長い指が、私のホックを外した。携帯が、下着に触れる。角でぐいぐい押され、唇を震わせた。相良がくすくす笑う。

「先輩耳まっか」
「ばか、この、くず」
 ぱき、とシャーペンの芯が折れた。相良は私の顎を掴み、唇を重ねてくる。柔らかい口付けに、背中がふるえた。
「う」
 あてられたバイブが小刻みに震えて、その刺激が気持ちよくて、じんわり濡れてくる。 

「携帯って便利ですね」
「この、へんたい」
「強くしちゃお」
「あ、や」
 バイブの音が大きくなり、刺激が強くなる。相良は私のショーツをぐい、と引いて、ぐりぐり携帯を押し付けて来た。

「っう」
 私はシャーペンを離し、相良のシャツにしがみついて、刺激に耐える。彼は性悪な人間特有の笑みを浮かべた。
「先輩目がうるうる。カワイイ」
「うるうる、なんかしてない」
「してますよ。気持ちいいの?」
「気持ちよくな、い」
「でもショーツベタベタですよ」
「汗よ」
「あはは」

 あははじゃないわよ、へんたい。ショーツがベタベタで気持ち悪い。相良は私を立たせ、身体を机に押し付けた。するりとショーツを下ろす。ごそごそと避妊具をつける気配がして、熱くなったものが擦り付けられる。勝手に身体が震えた。

「先輩、ほしい?」
「ほしく、ないわよ」
「嘘つき。腰揺れてる」
 ず、と入り込んできたものに、私は声を漏らす。
「あ」
「すげ、濡れてる。気持ちいい」
 相良は吐息を漏らしながら、シャツのボタンを外していく。ブラジャーのホックがパチン、と取れる音がした。露わになった胸を、長い指が包んだ。

「ふ」
「ねえ、先輩、気持ちいい?」
「うるさい、早く、いけ」
「早くいっちゃったらつまんないじゃん」
 つまるとかつまらないとかの問題じゃない。緩やかに犯され、私は喉を鳴らした。相良が後ろから囁いてくる。

「後ろからすき?」
「そんなわけ、あ」
 出たり入ったり。それだけなのに、どうして身体が火照るんだろう。私はBL漫画描きたいのに。相良が輪姦されるエロ漫画描きたいのに、ザマァしたいのに。現実は私が相良に犯されているわけである、無情にも。

 と、相良の携帯が鳴った。
「はい、相良です」
 って普通に出るの!? 私は歯をくいしばって、声をこらえた。相良は私をゆるゆる犯しながら、
「あ、ばんちゃん、久しぶり。合コン? いいね」
 だらだら会話している。抜くか会話するか、どっちかにしなさいよクズ!

 私は指を噛んで声をこらえた。相良が、私の口を開けさせる。
「っ」
 振り向いたら、瞳が細くなった。突き上げられ、びく、と震えた。きゅうきゅう中が締まって、頭の奥が白くなる。

「うん、じゃ、また」
 相良は携帯を置き、ぐったりした私をずるずる引きずり、ベッドに連れていく。ネクタイを解いて、私の手首を縛った。
「なんで、縛るのよ」
「え? 殴られるかな、って」
殴られるような自覚があるならやめなさいよ。
「先輩、さっきいっちゃったでしょ。エロいなあ」
「し、ね、最低、やろう」
 相良に揺らされて、ベッドがギシギシ鳴る。声が漏れそうで、私はまた指を噛んだ。

「指かんじゃダメですよ、傷ついちゃう」
「だれの、せいだと」
「俺の指、噛んでいいですよ」
 ああ噛みちぎってやりたいわよ。私は口の中に入ってきた指を噛んだ。
「イテ」

 ざまあない。睨むと、相良がふ、と笑った。
「先輩、俺のこと嫌いですよね」
「当たり前よ、しねばいいと思ってる」
「俺、先輩のことすきですよ」
 ふざけるな、痛い目にあって死ね。
 相良は指を引き抜き、唇を重ねてきた。

「目、うるうる。いきそう?」
「ん、しね、あ」
 強めに揺さぶられ、私は身体を跳ねさせた。
「ん、ん、や」
「先輩、一緒にいこう」

 相良が指先を絡めてくる。私は反射的にその指を握り返した。相良は快感に眉をひそめている。クズのくせに顔だけは無駄にいいから、ほんの少しどき、とした。男のひとは、気持ちいいとこういう顔するんだ。漫画の参考に、し、よ、う……。
熱い、硬い。相良の、が。縛られて、こんな風にされて。嫌なのに。
「あ、あ、や、っん、あ」
揺れる胸に、相良が顔を埋めた。
「せんぱい、せんぱい」
「あ……っ」
 薄い膜越しに、相良が吐精したのがわかる。パシャっ、と音がした。
「ん……っ」
「先輩のイキ顔ゲット☆」
「しね……」
 私は携帯を奪う気力もなく呟いた。

 ☆

「いやー、イイですね、相模くん!」
 担当編集のYさん(♀)が電話越しに言う。
「チャラいクズが犯されて泣くって結構需要ありますよ!!」
「そ、うですか……」

 私は相模──相良をモデルにしたキャラが描かれた原稿を見下ろした。人気がなければ読み切りで終わるはずだったのに、なぜか続いている。私は今まで青春BL漫画ばかり描いていたのだが、いまひとつパッとしなかった。エロに特化したらこうも反応がよくなるとは……複雑である。

 しかし、仕事が繋がったのが相良のおかげとはね……。
 私は電話を切り、ため息をついて原稿に向き直った。


 2時間後。原稿を完成させ、ひと息ついていたら、インターホンが鳴った。ドアを開けたら、やけに顔の赤いイケメンがいた。

「あー、先輩~」
 相良がよたよたと私にもたれかかる。
「ちょ、な、どうしたの」
「へへ、おみやげ」
 彼が渡してきたのは三角コーンだ。一体どこから持ってきたのよ。っていうか酒臭いし。
「なんでうち、わかったのよ」
「えー、原稿入った封筒に書いてありましたよー」
 うわ、迂闊。

「うー、寝る」
「ちょ」
 相良はふらふらベッドまで歩いていき、ぼす、と突っ伏した。
「うへへ、先輩の匂いだ~」
 きもい。私は思わず相良に向かってファ◯リーズをかけた。相良はけほけほ咳き込んで、またへらへら笑う。なんだこいつ。 

「なんでこんな酔ったのよ」
「合コンだったんですよー」
「ふーん、カワイイ子いた?」
「いましたよ、スミレちゃん。胸がでかくてー、顔はガッ◯ー似でしたー」
「へえ、よかったじゃない。じゃあ私はもうお役御免ね」

 私は相良のコートを剥ぎ取り、スーツを脱がした。シワになるでしょうが。相良はどうでもいいが服がかわいそうだ。ハンガーにかけていたら、相良がふらふらデスクに近寄る。

「んー?」
 原稿を手に取り、
「これ俺に似てません~?」
 私は内心ぎくりとし、
「に、似てないわよ」
「そっかなあ~」
 相良は原稿をペラペラめくり、首を傾げた。
「んー?」
「……なに、なんか文句ある」
 肖像権侵害とか言われたら詰む……そう思っていたら、
「なんかあ、昔のほうが、よかったですよね」
「え」
「絵は今のが上手いけど、昔先輩が描いてた漫画のほうが、俺はすきだな~ジュンスイな感じ?」
 ホモだけどー、と相良は言っている。

「あ、んたにすきって言われても、嬉しくないんだけど」
 だいたい不純すぎる存在のくせに何を言うか。
「ですよねー」
 相良はうんうん頷き、またふらふらとベッドに向かった。そのまま倒れこみ、すやすや寝息を立て始める。

「……なんなのよ」
 私はつぶやいて、相良の背に、雑な仕草でブランケットをかけた。相良の寝顔はちょっと可愛い。寝てればいいのだ、一生。そう思いながら、携帯で写真を撮った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

幼なじみの約束

MisakiNonagase
恋愛
幼なじみの高1男女のふたりは、物心ついた時からいつも一緒過ごす両片思いだが、それぞれ今の関係が崩れるのを恐れて一歩を踏み出せないでいる。その二人の行く末は…

処理中です...