イロコイ短編集

あた

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 ☆

 一月後。
 私は喫茶店で相良を待っていた。家でのんびり本を読んでいたら、いきなり呼び出されたのだ。まったくなんなんだ。私はいらいらと携帯を見る。呼び出しといて遅刻だし。

「お待たせしましたあ」
 やってきた相良を見て、私はギョッとする。
「な、どうしたの、それ」
「いやー、やられました」
 相良は私の前に座り、青あざのできた目元を撫でる。

「前の彼女、兄貴が元ヤンで。出会い頭にばーんと殴られちゃって」
「なにしたのよ……」
「えー、ハメ撮り動画返せっていうからその子のパソコンに送ったら、兄貴が見つけちゃったみたいでえ」
「……アホなの?」

 相良は私の前にUSBを置いた。
「はい」
「なにこれ」
「ハメ撮り動画。また殴られたらいやなんで、データで返します」
「……いいわけ?」
「そりゃ惜しいですけど、一月って約束だったし」
 相良は肩をすくめた。
「仕方ないから想像でオナニーします」
「……きもちわるい」
 っていうかオナニーに使ってたわけ。
「先輩のイキ顔抜けたのになー」
 こいつバカだ。
  
 私はデータをカバンに入れ、
「で、もういいの」
「だって先輩、俺のこと嫌いでしょ」
「……あったり前じゃない」
 相良はちょっと照れたように目を緩めた。
「ほんとなんですよ、先輩がすきって」
「脅さないでしょ、普通、すきな子を」
「クズですし、俺」
「……」 

 開き直る相良を、私は胡乱な目で見た。彼は笑みを浮かべ、
「漫画、買いますからタイトル教えてください」
「絶対イヤ」
「ケチ」

 こうして、相良の恋人(笑)期間は終わった。

 ☆

 相良と会わなくなって、私はひたすら漫画を描き続けた。相良をモデルに描いた漫画は携帯漫画として配信され、500万ダウンロードを達成した。

 日本全国の乙女が相良──がモデル──の痴態を見るのである。溜飲が下がりそうなものだが、なんとなく空虚だった。
 ……なんかあの匂いが懐かしいとか。
 同じ匂いのシャンプー買えばいいんだ。
 私はドラッグストアに行き、シャンプーコーナーに立ち寄った。サンプルがないから、どれだかわからない。

「あっ、先輩」
 相良の声。
「!!」
「久しぶりですねー」
 相変わらず顔だけはいい。あざはすっかりきえていた。
「何してんのあんた」
「何って、洗剤切れたんで買いに来ました」
 こいつ洗剤とか買うんだ……いや、当たり前か。

「先輩は? 会社の帰りですか?」
「……まあね」
 なんとなく目を合わせづらい。
「あ、うち来ます? 親がめっちゃ芋送って来て、食べ切れないんですよ~」
「行かないわよ」
「そうですか」

 じゃーまた。相良はそう言って去ろうとする。なんなんだ、随分あっさりだな。人の処女奪っといて……。ああ、むかつく。思い知らせてやりたい。あんたは、男に犯されてあんあん言ってるキャラの元なんだと!
 私は相良の腕をぐいと引いた。
「へ?」
「ちょっと来て」

 ☆

 私は相良を連れ、自宅へ向かった。彼は困惑気味にこちらを見ている。
「あのー、先輩」
 私は相良に、携帯を突きつけた。
「これ、私の新作」
「はあ」

 相良は携帯漫画を読みながら、やっぱこのキャラ俺に似てますねー、とつぶやいた。
「だってあんたがモデルだし」
「えっ」
「どう、気分は」
「どうって……微妙」
 さすがに男にぶち犯されるキャラのモデルにされるのは複雑らしい。

「ざまあないわね」
 私が言うと、相良が苦笑した。
「やっぱ嫌われてんなー」
「でもこれすごい売れたの」
 つまりは相良が人気ということだ。腹立たしいが……。

「あっ、じゃあ売り上げの一部、俺にくれたり」
「なんでよ、びた一文あげないわよ」
「ちぇー」
 彼は唇を尖らせ、
「先輩、ケチですね」
「当たり前じゃない。私が描いたんだから」

「お金入ったなら、カワイイ服とか買ったらいいですよ。なんなら俺、選びましょっか」
「なんであんたに選んでもらわなきゃいけないのよ」
「先輩に似合いそうな服こないだ見つけたんで」
 絶対変な服に決まっている。とにかく復讐は果たした。禍根はない。

「もういいわよ、帰って」
 相良は不服げに唇を尖らせ、私の腕を引いた。
「何よ」
「いや、だって、家に呼んどいてそれはないでしょ」
「何が言いたいわけ」
「えー、わかってるくせに」
 わかりたくないが、わかってしまう。相良が空腹の犬みたいな顔してたから。

 食われてたまるか。
 私は相良が唇を近づけてくるのを、さっと避ける。彼は呆れ気味に、
「せんぱーい」
「うるさい、ん」
 唇を奪われて、私は言葉を途切らせた。そのままベッドに押し倒される。

「……誰がしていいって言ったのよ」
「え、先輩の目がオッケーサイン出してましたよ」
「だしてないわよ、私はウインカーか」
 相良はくすくす笑う。
「面白い、先輩」

 私は彼の緩んだ瞳から目をそらし、
「彼女、いるんでしょ。私浮気に付き合う気ないし。帰りなさいよ」
「いませんよ」
「ガッ◯ー似の子は?」
「せんぱーい、ガッ◯ー似の子が合コン来る必要あると思いますう?」
 それはそうか。ガッ◯ーレベルの容姿だったら入れ食いだろう。

「あんた嘘ついたの。安定のクズね」
「先輩が焼くかなーって思って」
「ばかじゃないの」
「あっ、それ。いいなー、やっぱ」
 何がいいんだ。こいつばかなの? ニヤニヤすんな、きもい。
「シャンプーの銘柄だけ教えて帰りなさいよ」
「シャンプー?」

「あんた、髪からいい匂いする」
「俺の匂いすき?」
「話聞いてる? 私が好きなのはあんたのシャンプーの匂いよ」
 相良は目を細め、
「やらせてくれたら教えます」
 このクズ。

 私は相良の首に腕を回した。唇が合わさり、リップ音が響く。彼の頭がさがって、さらさらした髪が首筋に触れた。

 相良が私の鎖骨に口付けて言う。
「先輩、ごめんね、昔、ノート破って」
「やだ」
「えー、もう時効でしょ」
「悪いと思ってないでしょ、あんた」
「思ってますよー許してにゃん☆」
「しね」

 相良は口元を緩め、私の胸元に手を這わした。シャツを開き、胸を露わにする。
「ん」
「あれ、乳首たってる」
「たって、ないわよ」
「たってる。したかったの?」

 指先が胸の先端に触れる。私は息を吐きながら、相良を見つめた。彼は瞳を緩め、ちゅう、と先端を吸う。
「っあ」
「先輩、腰揺れてる。やらしいですね」

 相良は私の服を脱がせながら、乳首をなぶる。下着越しに指を埋められ、びりびりした感触が、全身に走った。下着が濡れているのがわかる。彼は私を抱き起こし、スラックスのホックを外した。たちあがったものが目の前に現れる。

「なめて」
 私は唇を開き、相良のをくわえる。したことないけど、BL漫画で見たのを真似て、舌や唇を動かす。
「……先輩、なんかうまくない?」
 相良は息を吐きながら私を見下ろした。

「他のやつにしたの?」
 珍しく低い声で言う。するわけない。なにもかも相良が初めてなのだ、不本意ながら。ふる、と首を横にふったら、彼は私のショーツに足を埋めた。
「なのにこんなにうまいんだ。やらしいね、先輩」

 足の指でぐ、と押され、痺れが走る。思わず見上げたら、相良が吐息を吐いた。
「なにその顔、エロ」
 彼は私の頭を掴み、腰を揺らした。口の中を、熱くなったものが行き来する。

「先輩、もう、いく」
 相良が呻くと同時に白濁がこぼれ落ち、私は咳き込んだ。
 彼は私の顎を掴み、のんで、と囁いた。誰が飲むか。ぺっ、と白濁を吐き出し、相良の指を噛んでやる。

「イテ。先輩、ライオンの赤ちゃんみたい」
 指を噛まれたのに、相良はムツゴロ◯さんみたいな顔でこちらをみていた。
「うるさい、あ」

 相良は私のショーツをするりと取り払い、足の間に顔を埋めた。じゅぷじゅぷと、濡れた部分をさらに濡らされる。舌が引いていき、ピコン、と音がしたと同時に、相良のが入ってきた。

「は、や」
 彼は携帯をこちらに向けながら、
「ね、ホモ漫画描きながら興奮してたの?」
 くちゅん、と腰を揺らす。
「してな、や、奥、が」
「奥? 奥欲しい?」
「は」

 相良は私の身体を二つ折りにし、ずくずく抜き差しした。愛液が音を立て、跳ねる。
「あ、あ、あっ」
 身体が痺れて、私は震える。相良は揺れる胸を掴み、
「先輩目がとろけてる。ハメ撮りすき?」
「ちが、う」
「ちがうんだ……先輩のなかすごいことになってるけど」

 撮られてる。レンズ越しに、相良がこちらをみている。突き上げられ、私は高い声で鳴く。
「あ、あ、や」
「先輩ドMでしょ」
「あ、っ」
 最奥を突かれて喉を鳴らす。
「ほら、激しいとなか締まる。やらしいね」
「うるさい、くず」

「顔まっかで、あそこぐしょぐしょで、胸揺れて、あんあん言って、先輩すごい可愛い。あとで一緒に見ましょうね、先輩が俺に犯されて鳴いてるとこ」
「は」
 中が締まって、また擦り上げられる。
「は、あ」
「ほら、アヘ顔ピースして」
「誰がするか、へんたいクズ」
「へんたいちんぽで、先輩はいっちゃうんですよね」
「っ」
 屈辱だ。しねばいいのに。相良も私も。
「ほら、クズちんぽで先輩のここ、たくさん突いてあげる」
「あ、あ、や」 

 相良は容赦なく私の中を抉る。
「あ、あ、っん」
 唇が合わさり、私は相良にすがりついた。相良が柔らかく口付けてくる。
「クズちんぽ気持ちいい?」
何言ってんのばか。そう言おうと思ったのに。
「ん、き、もちいい」
何言ってんの、私。相良のが大きくなる。
「かわいい、先輩」
相良は私の胸を片手で鷲掴み、ピストンを早くする。私は背中を仰け反らし、怒張に身をよじる。気持ち、いい。変になる。じゅぷじゅぷと突かれるたびに溢れ出した愛液が、シーツを濡らした。
「は、いく……先輩、アヘ顔ピースの準備して」
「しない、わよ、ばか、クズ」
「じゃあ、下の名前、呼んで、俺の名前呼びながらいって」 

 あんたの名前なんか知るか、そう言おうと思ったのに。
「よし、あき」
 なかに入り込んでいる相良のが、大きくなる。相良は携帯をシーツに落とし、私の胸に顔を埋める。
「は、ゆり、せんぱい」
 久しぶりに、下の名前、呼ばれた。不覚にもきゅんとした瞬間揺さぶられ、私はびくびくと極まった。 

「は……」
 相良が呻いて、私をぎゅ、と抱きしめる。
 私は重い、と呟きながら、やけに甘い匂いのする髪を撫でた。

 ☆

「ねー先輩、遊びましょうよー」
 日曜日。仕事をする私を後ろから抱きしめ、相良が言う。こいつは休みだが、私に休みはない。全国の乙女が、相良がぶち犯されるのを待っているのだ。ざまあない。

「仕事中よ。邪魔したらGペンで刺す」
「えー、つまんないつまんないつまんない」
「携帯ゲームでもやりなさいよ」
 相良は不服げにこちらをみた後、携帯を取り出し、私に差し出した。
「先輩のアヘ顔、待ち受けにしちゃった♡」
「!!」

 奪いとろうとしたら、華麗に避けられた。私はGペンを構える。
「このクズ……刺されたいようね」
「やっぱり先輩と遊ぶのが一番楽しいな」
 むかつく後輩は、そう言って笑った。
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みんなの感想(2件)

とと
2021.04.24 とと

あた様の書くツンデレヒロインたちが可愛くて大好きです。
特に「私のサイテーな先輩」はムーンで拝読してからとても好きな作品なのですが、再投稿するご予定はございますか?
ぜひご検討よろしくお願いします。

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ルカ
2018.09.12 ルカ

以前(ムーンでですが…)「私のサイテーな先輩」を読ませていただきました。
あたさんのお書きになるツンデレヒロインの中でも一番好みのお話です。
先輩がバスケしてる様子を某女神に喩えているところや肩甲骨と羽の描写など表現がステキでとても好きなお話だったのですが、こちらでも削除されてしまった?ようでとても残念です…
いつかまた読めるようにしていただけると嬉しいですm(_ _)m

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