【完結】墓守令嬢は黒幕貴公子の溺愛に気付かない

三矢さくら

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14.侍女アニタは感服した

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秋の冷たい空気が、頬を撫でる。

フェリシア様は、いつものダボダボのルームワンピース姿ではなく、動きやすい乗馬服に身を包まれた。

スリムなスタイルによくお似合いで、ヒョロッとはされているけど、ガリッという感じはしない。

いままでお目にかかった覚えのない、アクティブな装いだ。


「アニタ、準備はいいかしら?」

「はい、フェリシア様。いつでも」

「それじゃあ、行きましょうか」


私も、ズボンを履いて、秋のブナ林の中に分け入っていく。

フェリシア様の前では、ダグさんがリードを握る白犬のイェスペルが、嬉しそうに尻尾を振っている。

そして、従士のラグナル様とレオン様も一緒だ。


「林の中など、刺客が潜むなら、ここしかないという場所ですから」


と、周囲を慎重に警戒してくれている。

王都政界から身を引かれ、辺境の領地を本拠にしたストゥーレ公爵家を狙う者がいるのかは分からない。

ただ、警戒するのに越したことはない。

けれど、従士服に身を包むうちのおひとりが、……旦那様。


――金持ちの考えることは解らんわ……。


ふと、この方がレンナルト様であることを思い出しては頭を抱えるのだけど、秘密にすると約束したのは私だ。

急いで、頭から余計な考えを追い出す。


「今日は一体、何があるのでしょう?」


私はフェリシア様に尋ねた。

フェリシア様は、いつもの瓶底眼鏡の奥で、楽しそうな笑みを浮かべた。


「まだ秘密よ、アニタ。でも、素晴らしいものが見られるんじゃないかって、期待してるのよ?」

「そ、そうですか……。それは、楽しみですね」


ブナ林の奥へと進むにつれ、ひんやりとした空気が肌を撫でる。

木々の間から差し込む光が、地面に葉の影を落とし、幻想的な光景を作り出す。

ふと、白犬のイェスペルが吠えた。


「ここね、ダグ」

「ええ、フェリシア様。……うまくいっているといいのですが」

「ふふっ。ダメなら、また来年にやり直しましょう」

「ええ……」


白犬のイェスペルは地面に鼻を近づけ、なにやら嗅ぎ回っている。

気が付くと、ラグナル様とレオン様の目が輝いていた。


――なんだか……、私だけ訳が分かってないみたいで……。


唇が、ちょっと前に出た。

しばらくして、イェスペルが立ち止まり、前足で勢いよく地面を掘り始めた。


「ここです! フェリシア様! これは期待できますぞ!!」


ダグさんが興奮した声を上げた。

クイッと瓶底眼鏡を上げて微笑んだフェリシア様が、ダグさんに指示を出す。

真っ赤にした顔で何度も頷いたダグさんが、慎重に地面を掘り起こしていく。

そして、ついにその姿を現した。

それは、白い塊。強い芳香が、私の鼻まで漂ってくる――、


「……トリュフ」


私は思わず息を呑んだ。こんな、なんでもないブナ林で、貴重なトリュフが採れるだなんて……。

しかも、トリュフの中でもより希少な白トリュフだ。

イェスペルはその後も次々とトリュフを見つけ出しては、ダグさんが手際よくそれを収穫していく。

ラグナル様とレオン様は周囲を警戒しながらも、その光景に興味津々の様子だ。


「まさか、こんなにたくさん……」


私は驚きを隠せなかった。フェリシア様が満足そうに微笑んだ。


「……幼い頃、お母様の埋葬でリルブロルに初めて来たの」

「え、ええ……」

「リルブロルの聖堂では、あたらしく埋葬するときにブナの樹を一本切り倒して、死者に捧げるという慣習があったらしいのよ」

「へ、へぇ~」

「最初に埋葬された、時の王弟殿下を弔う墓標をつくったことに由来するらしいんだけど、古文書に遺された通りに、ブナの樹を切り倒したら……、出て来たのよ。ちいさな小さな白いトリュフが」


と、フェリシア様が木漏れ日の降り注ぐ空を見上げた。


「当然、叔父様も叔母様もディアナも来なかったし、私とお父様だけの秘密にして、ダグとセルマの夫妻を聖堂住み込みの管理人に命じたの。……密かにトリュフのことを調べさせるためにね」


私はこの時、ようやく理解した。

フェリシア様がリルブロルの領有権を強く望んだ理由。それは、このトリュフを手に入れるためだったのだと。

そして、王国では生産されない、このトリュフこそが、ストゥーレ公爵家の財政を立て直す鍵なのだと。

ゆらゆらとハンモックに揺られて読書されていたのは、トリュフの収穫に適した、秋が訪れるのを待っておられたのだ。


「あ、いや。それは単に本が読みたかっただけ」

「あ、そうですか」


トリュフ生産の盛んな遠国にダグさんを派遣し、産業にできるほど増産させる技術を学ばせて、採取犬であるイェスペルを連れ帰ってもらった。


「……先代公爵閣下に、この光景を見ていただきたかった」


感無量といった表情のダグさんを、私はちいさく拍手して讃える。


「幼い頃から聡明であられたフェリシア様が、ちっこいトリュフを見逃さなかったことの方がすごいって話ですよ」


照れくさそうに頭を掻くダグさん。

内密にしたまま、聖堂の管理だけしているフリをしての研究は、たとえ辺境で人の出入りが少ないとはいえ、気を使う場面も多かったことだろう。

他家に知られれば、どんな横やりが入るか分からない。

叔父君に知られていたら、すべてを浪費されてしまっていたことだろう。

ご苦労がしのばれる、達成感に満ちた笑顔だった。

それにしても、希少な白トリュフ。しかも、これだけの量。莫大な富が約束されたも同然だ。


――まさか、トリュフで公爵家の財政を立て直すだなんて……。


と、私は、フェリシア様の深謀遠慮に、改めて感服した。

同時に、このお方に仕えることができて、本当に良かったと、心から思った。
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