27 / 297
27.立ちはだかるのは……
しおりを挟む
俺は咄嗟に足元の石を拾って、最終城壁上の獅子型人獣に投げ付けてた。拳大の石は人獣の頭に命中して、動きを止めてこっちを見る。
その隙に、バランスを崩してた小柄でオレンジ色の髪をした剣士が、むしろ体勢を沈めて下から剣を突き上げ、人獣の顎から脳天を貫いた。
日没から既に6時間は経った。今夜も果てしない人獣と剣士たちとの戦闘が、宮城を取り囲む最終城壁の上で断続的に続いている。
空が茜色に染まる頃、城壁の下から観戦したいのだけど、どう思うか? と、フーチャオさんに尋ねた。視線をより鋭くしたフーチャオさんが、少し考えてから「南側だな」と、言った。
「人獣からの攻撃は最も激しいが、剣士長のフェイロンが陣取ってる。あいつの側に居るのが一番堅いな」
という、フーチャオさんの助言を容れて、日没前に南側城壁の下に向かった。同行を申し出てくれたフィーチャオさん、衛士のメイユイ、それに報せを受けたであろうシアユンさんも合流して、戦闘が始まるのを待った。
フェイロンさんは軽く一礼しただけで、特に何も言わなかった。
それでも充分に距離を空けた位置に立っていたけど、間近で観る人獣の迫力は尋常ではなかった。最初の3時間くらいは鳥肌が立ちっぱなしだった。
5時間くらい経った頃だろうか、一体の虎型人獣が剣士と剣士の間を滑抜けて、城内に飛び降りた。俺の全身が総毛立った瞬間、俺の側に立っていたはずのフェイロンさんが城壁の真下で、虎型人獣を斬り捨てていた。
目にも留まらぬ早業とは、このことだった。フェイロンさんは何事もなかったように、俺の側に戻って来る。城壁上の篝火を逆光に受けて歩く姿は、シンプルにカッコ良かった。
やっぱり、男子として少し血がたぎってしまってたんだと思う。
オレンジ髪の剣士が「危ない!」と思った瞬間に、体が勝手に動いてた。命中したのは中学での野球経験のお陰だと思う。剣士は一瞬だったけど、俺を激しく睨み付けた。
「ダメですよ! 剣士の闘いは厳粛なものなんですから!」
と、メイユイが大きな声を上げた。やっぱり、そうか。それがシキタリってことなんだろうな。と思ったその時、シアユンさんが静かに口を開いた。
「メイユイ」
「あ。はい」
「マレビト様の言葉を受け入れるのもまた、シキタリです。当然それには、為さることも含まれると解するのが自然です」
「はい……」
シアユンさんは優しく窘めるような口調ではあったけど、メイユイはショゲた表情を見せた。俺のせいで、申し訳ない。
「意見を申し上げるのは構いませんが、咎めるのはよろしくないと思いますよ」
「はい。……マレビト様、失礼しました」
と、メイユイが俺に頭を下げたので、かえって恐縮してしまった。剣士の闘いが厳粛なものだと教えてくれて、ありがとうと伝えると、ちょっと頬に赤みが差した。フーチャオさんがメイユイの肩を叩いて「ドンマイ!」って感じの笑みを向けてる。兄貴の年の功を感じる。
フェイロンさんはその間もずっと城壁から目を離さず、俺達のやり取りには関心がないように見えた。
本当のところは、どう思ったんだろう?
俺は剣士以外の住民も戦闘に加えたいと思ってる。もちろん強制は出来ないし、なんらか適性のある人たちだけでいい。剣士たちの負担を和らげ、人獣たちとの果てのない戦闘を終わらせる活路を見出す、端緒がほしい。
でも、それには剣士たちの気持ちが立ちはだかる。俺のアシストで、オレンジ髪の剣士のプライドを著しく傷つけたことは分かった。剣士の士気を下げては、元も子もない。
いや……、立ちはだかるのは『シキタリ』か。
夜明けまで戦闘を見守りながら、俺はずっとそのことを考えていた――。
その隙に、バランスを崩してた小柄でオレンジ色の髪をした剣士が、むしろ体勢を沈めて下から剣を突き上げ、人獣の顎から脳天を貫いた。
日没から既に6時間は経った。今夜も果てしない人獣と剣士たちとの戦闘が、宮城を取り囲む最終城壁の上で断続的に続いている。
空が茜色に染まる頃、城壁の下から観戦したいのだけど、どう思うか? と、フーチャオさんに尋ねた。視線をより鋭くしたフーチャオさんが、少し考えてから「南側だな」と、言った。
「人獣からの攻撃は最も激しいが、剣士長のフェイロンが陣取ってる。あいつの側に居るのが一番堅いな」
という、フーチャオさんの助言を容れて、日没前に南側城壁の下に向かった。同行を申し出てくれたフィーチャオさん、衛士のメイユイ、それに報せを受けたであろうシアユンさんも合流して、戦闘が始まるのを待った。
フェイロンさんは軽く一礼しただけで、特に何も言わなかった。
それでも充分に距離を空けた位置に立っていたけど、間近で観る人獣の迫力は尋常ではなかった。最初の3時間くらいは鳥肌が立ちっぱなしだった。
5時間くらい経った頃だろうか、一体の虎型人獣が剣士と剣士の間を滑抜けて、城内に飛び降りた。俺の全身が総毛立った瞬間、俺の側に立っていたはずのフェイロンさんが城壁の真下で、虎型人獣を斬り捨てていた。
目にも留まらぬ早業とは、このことだった。フェイロンさんは何事もなかったように、俺の側に戻って来る。城壁上の篝火を逆光に受けて歩く姿は、シンプルにカッコ良かった。
やっぱり、男子として少し血がたぎってしまってたんだと思う。
オレンジ髪の剣士が「危ない!」と思った瞬間に、体が勝手に動いてた。命中したのは中学での野球経験のお陰だと思う。剣士は一瞬だったけど、俺を激しく睨み付けた。
「ダメですよ! 剣士の闘いは厳粛なものなんですから!」
と、メイユイが大きな声を上げた。やっぱり、そうか。それがシキタリってことなんだろうな。と思ったその時、シアユンさんが静かに口を開いた。
「メイユイ」
「あ。はい」
「マレビト様の言葉を受け入れるのもまた、シキタリです。当然それには、為さることも含まれると解するのが自然です」
「はい……」
シアユンさんは優しく窘めるような口調ではあったけど、メイユイはショゲた表情を見せた。俺のせいで、申し訳ない。
「意見を申し上げるのは構いませんが、咎めるのはよろしくないと思いますよ」
「はい。……マレビト様、失礼しました」
と、メイユイが俺に頭を下げたので、かえって恐縮してしまった。剣士の闘いが厳粛なものだと教えてくれて、ありがとうと伝えると、ちょっと頬に赤みが差した。フーチャオさんがメイユイの肩を叩いて「ドンマイ!」って感じの笑みを向けてる。兄貴の年の功を感じる。
フェイロンさんはその間もずっと城壁から目を離さず、俺達のやり取りには関心がないように見えた。
本当のところは、どう思ったんだろう?
俺は剣士以外の住民も戦闘に加えたいと思ってる。もちろん強制は出来ないし、なんらか適性のある人たちだけでいい。剣士たちの負担を和らげ、人獣たちとの果てのない戦闘を終わらせる活路を見出す、端緒がほしい。
でも、それには剣士たちの気持ちが立ちはだかる。俺のアシストで、オレンジ髪の剣士のプライドを著しく傷つけたことは分かった。剣士の士気を下げては、元も子もない。
いや……、立ちはだかるのは『シキタリ』か。
夜明けまで戦闘を見守りながら、俺はずっとそのことを考えていた――。
187
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる