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28.激論のシブキ

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目の前で、ぶるんぶるんらすのやめてください……。おっぱいからねた飛沫シブキが、顔に当たります。そもそも、湯船の中で立ち上がるの、良くないですよ。

城壁下での観戦を終えて向かった大浴場には、当然のように純潔じゅんけつ乙女おとめたちが集合していた。そうですか。定例化ていれいかしましたか。たぶん、そうなるだろうなぁって思ってましたけど。シキタリですもんね。仕方ないです。

銀髪で胸のふくらみがちょうどいいサイズの、クゥアイという女子が、俺の背中を流してくれた。あ。毎日、交代ですか。そうですか。

農家の娘さんで16歳ですか。そうですか。後輩ですか。日本で言うと高1ですね。

全然れない俺は、登場にガチガチに固まったまま背中を流してもらい、前を自分で洗い始めると、今度は浴室内に生温なまあたたかい空気が流れる。前はなぁ……。前はちょっと……。

湯船にかってから、目の前でキャッキャしてる女子たちに、ふと、剣士以外の戦闘参加についてどう思うかたずねてしまった。

いやー、める、める。

高校ひとクラス分の女子たちが、激論になって火花を散らしてる。……全裸ぜんらで。

そうじゃない。

と、思ったけど、もう俺には止められない。

迂闊うかつに発言した分余計に、異世界ここで暮らす人たちにとって、シキタリがどれだけ重く大きなものか、よく分かった。

顔に何度もピシシッと当たる飛沫シブキの数だけ伝わってくる。湯に浸かったり、立ち上がって体ひねったり、みんなが飛沫シブキの永久機関みたいになってる。

みなの意見は概ね、人の命を奪う剣士の剣は厳粛げんしゅくというシキタリを尊重そんちょうする意見と、マレビトの言葉は受け入れるシキタリを尊重する意見、矛盾むじゅんするシキタリはわきに置いて出来ることはやってみようという意見、たして住民が戦闘に役立つのかという懐疑的かいぎてきな意見。この4つに大別たいべつできた。

しかし、収拾しゅうしゅうが付かない。言いたいことを言って湯に浸かり直した娘が、話を聞いてるうちに、また立ち上がって意見を言う。

もちろん、中にはずっと無言の娘もいたけど、表情の動きを見てると、どの意見に考えが近いのかは分かる。

ただ、剣士のイーリンさんが、ずっと複雑な表情で黙ってるのに気が付いたときは、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。当事者そのものだもんな。申し訳ない。

それに、昨日も気になった黄色い髪の娘は、騒がしく議論の声が響き渡る中、やっぱり無表情で湯に浸かってる。

そしていよいよ、湯にのぼせてしまうんじゃないかと思った頃に、シアユンさんが静かに口を開いた。

「皆の考えはマレビト様に十二分じゅうにぶんに伝わった。最終的にはマレビト様の言葉を、フェイロン様がれるかどうかで決まるだろう。そろそろ、湯に浸かり過ぎが身体に毒になる頃合ころあい。この辺で終わりにしよう」

というシアユンさんの言葉で、終わりの見えなかった激論は強制終了になった。ようやく静かになった大浴場で、シアユンさんが話を付け足した。

「また、この話は我らだけでも、これほどの議論を呼ぶ。時が来るまで各自かくじせておくことで良いな?」

そうですね。結束けっそくが大事なときに、城内に残った人たちを分断ぶんだんしてしまうことになりかねません。さすがシアユンさんです。

全員が疲れた様子でうなづくのを見届けて、本日の『純潔じゅんけつ乙女おとめ会議in大浴場』は幕を閉じた。

いきなりフェイロンさんに俺の考えを聞いてもらうより、よっぽど良かった。しかし、疲れたぁ――。
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