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94.信頼の大浴場(1)

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「昨日、スイラン殿どのがなされておりましたように……」

と、ミンリンさんは言った。

――むにゅうぅ(上)。

「私も、マレビト様にご相談したいことが……」

――むにゅうぅぅ(下)。

えっ? 

これから大浴場で俺の背中をくれる人は、打ち合わせですか?

――むにゅうぅぅぅ(上)。

泡だらけの豊かなふくらみが、ゆっくりと丁寧ていねいに丁寧に俺の背中をすべっていく。

これまで毎朝、だったけど、「あっ! この感触かんしょく知ってる!」と感じてしまう自分に、また別の気恥きはずかしさがみ上げてくる。

毎朝の順番がどうなってるのか聞くのも、期待しているみたいで気恥ずかしく、結局、聞けずじまいになってた。

とにかく、今朝けさの大浴場では、望楼ぼうろうで一緒だったミンリンさんが待ち受けていた。

夜明けと共に、いても立ってもいられなくなった俺は、ミンリンさんやシアユンさんを残して、望楼ぼうろうりた。

宮城きゅうじょうの外に出ると、初陣ういじんを終え城壁から降りた短弓たんきゅう隊の面々が、昇ったばかりの朝陽あさひに照らされて輝いていた。

南側から駆けてきたメイファンがミンユーをめ、無事を喜んでいる。

姉妹の肩をポンポンっとたたくフーチャオさんの表情には、安堵あんどとやりげた娘たちへのほこりが入りじっていた。

夜明け前から仮設住宅かせつじゅうたくを出て、遠巻とおまきに短弓たんきゅう隊の背中を見上げていた住民たちから、歓声かんせいが上がる。

一晩中、槍をるい続けたクゥアイは、お祖母ばあさんに抱き締められている。

クゥアイの表情に疲れの色は隠せないけど、かがく汗がしたたる顔に、さわやかな笑顔を浮かべている。

俺の護衛ごえいあわてて付いて来たメイユイの目には、涙が浮かんでいた。

その視線の先には、短弓たんきゅう隊の面々を激しい戦闘から守った、衛士えいし装甲そうこうがあった。

「みんな……。一矢いっしむくいてくれたよ……」

と、メイユイが小さくつぶやく声が聞こえた。

普段のメイユイは、雑におっぱいを押し当ててくるわ、俺をロリコンと勘違かんちがいして大騒ぎするわ、あきれたり笑わせてもらうことも多い。

だけど、人にはそれぞれ、他人がれられないシリアスな一面が秘められている。

そして、俺が何より驚いたのは、槍や熱湯の大鍋で人獣じんじゅうと闘ってくれた、チンピラさんたちの顔付きがガラリと変わったことだ。

楽しげに肩を抱き合う姿は、前のそれと変わらないけど、浮かんでいる表情が全然違う。引きまった兵士の顔だ。

日没から日の出まで、およそ10時間の死地しちが、チンピラさんたちの風貌ふうぼうを、まったく別人のように変えていた。

彼らを死地に送り出す俺は、同じように引き締まった顔をしているだろうかと、思わずにはいられなかったけど、彼らに感じるたのもしさが一段も二段も上がった。

俺は、その場で住民たちに囲まれ、多くの方が戦闘への参加を志願しがんしてくれた。

城壁の上へ矢や水を補充ほじゅうする、荷運にはこび担当の姿も目にしていた住民は、「自分にも何かできることはないか!?」と、俺の周りに殺到さっとうした。

その熱気ねっきに胸を熱くし、何度も頭を下げた。

フーチャオさんに志願者たちの取りまとめをお願いして、メイユイと宮城きゅうじょうに戻った。そして、俺は今、顔を赤らめている。

――むにゅうぅぅぅう(上)。

感動も感激も、全部、吹っ飛ぶわっ!!!

望楼ぼうろうで図面をなにやら熱心にいていたミンリンさんのほほには、少しすみも付いている。先に顔を洗ったらどうですかね?

――むにゅうぅぅ(下)。

「城壁の上に、矢や水を運びやすくするためのやぐらを組んではどうかと……」

――むにゅうぅ(上)。

その話、すごく興味ありますけど、大浴場ここでやります?
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