【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら

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93.祖霊さん、祖霊さん

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しばらくして、シーシに連れられたミンリンさんが望楼ぼうろうに姿を見せた。

俺の顔を見たミンリンさんが、ポッとほおを赤らめて頭を下げた。

それは、ズルい! 自分で「むにゅう」と押し当てといて、いつまでもそっちかられるのはズルいなぁ! 思い出して照れるのは、俺の方だけで良くないですか!?

と思ったけど、もちろん俺の顔も赤くなってるのが分かる。

「ニシシ。ミンリン様が、短弓たんきゅう隊の闘いぶりを見たいんだって」

と、シーシが言った。

そうだ。シーシには道具作りを、ミンリンさんには建築物けんちくぶつのことを相談することが多くて忘れがちになってたけど、ここは上司じょうし部下ぶかのコンビだった。

北側の手すりにミンリンさんと並んで、短弓たんきゅう隊の闘いぶりを見守る。夜風にミンリンさんの、いい匂いがふわっとただよってきて、ドキッとしてしまう。

せま望楼ぼうろうに、黒髪スレンダー長身美人のシアユンさん21歳と、黒髪インテリ巨乳陰キャ女子27歳のミンリンさんがいて、急に大人な空間になったような気がしてしまう。

真紅しんくの髪をした、元気印ショートボブ貧乳ボクっのシーシがいなければ、どこの研究室だって感じだ。

うっすらとくさいものを感じて、北側城壁に目をらす。

短弓たんきゅう隊の初陣ういじんは、順調じゅんちょう経過けいかしているように見える。すでに1時間は経過しているはずだけど、隊列たいれつに乱れは感じない。

ひとつ収穫しゅうかくもある。

恐らく人獣たちに知能ちのうはない。

おそろしいスピードと、怖ろしいパワーでおそかってくるけど、攻撃は直線的だ。フェイントなどは入らない。剣士との闘いで薄々うすうす感じていたけど、短弓たんきゅう隊との闘いぶりで確信できた。

れれば確実に死が待っているし、なにより数が多すぎるけど、1体1体は直線的に襲い掛かってくるだけだ。

「落ち着いていこう!」

と、声を掛けている、ちょい悪だけど高校野球の監督のようなフーチャオさんは正しい。

スピードと数にまれずに、1体ずつ確実に仕留しとめ続けるのが正解だ。

あせって人獣じんじゅうれ全体をどうこうしようとすれば、呑まれる。

ミンユーの矢も、クゥアイの槍も、淡々たんたんと、しかし、確実に人獣じんじゅう仕留しとめていっている。

恐らく間近まぢかにいれば「淡々と」とは言えない緊張きんちょうの連続だろうけど、望楼ぼうろうからは、町工場の職人さんが数万、数十万の部品を正確に作り続けている姿にも重なる。

と、手すりから離れたミンリンさんが、ゆかに大きな白紙の紙を広げた。

すぐに筆を手に取り、なにやら図面をき始める。アイデアがあふれ出ているかのように、すごいスピードで描かれていく。

途中、筆を止めては、シーシに相談している。技術的に実現可能な方法を相談しているようだった。

この2人の本来の姿なんだろうなと思う。ミンリンさんが発想はっそうし、シーシの技術で形にしていく。

ミンリンさんと知り合って、まだ7日。1週間だ。

全裸ぜんらのミンリンさんが湯船を泳ぐように近付いて来て、初対面の挨拶をされるという、忘れられない出会いだった。

初対面が全裸、その後、真面目まじめな場所で真面目な話をするという、今でもれないシチュエーションの最初がミンリンさんだった。

異世界こっちに召喚されて、いきなり絶体絶命ぜったぜつめい風前ふうぜん灯火ともしびから始まった異世界生活は、嵐のように過ぎて行く割に、1日1日が濃密のうみつで忘れられない。

それでも、ようやくここまで来たという思いが強い。

城壁で弓を引き続けるミンユーと、槍をち込み続けるクゥアイの背中を見詰みつめる。南側ではメイファンの長弓ながゆみうなりを上げ続けている。

3人も初対面全裸だったけど……、それはさておき、10日でここまで来た。

剣士以外も前線で闘っている。

漆黒しっこくの夜空を見上げると、昨夜ゆうべよりほんの少しだけ広がった月が浮かんでいる。

――祖霊それいさん、祖霊さん。

俺を選んでつかわされたという、祖霊さん。

これで正解ですかね?

闘えてますけど、正解ですか?

心の中で問いかけたけど、こたえてくれる訳でもない。

せめて早く、マレビトとしての呪力じゅりょくってヤツを発現はつげんさせてくださいな。

激しくひびき続ける戦闘音の中、俺は細い月にいのっていた――。
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