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92.クゥアイの一番槍
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長弓隊の斉射が始まると同時に、短弓隊の弓も唸りを上げ始めた。
望楼からでは城壁の向こう側までは見えない。それでも思わず身を乗り出して、北側城壁の両端に陣取る短弓隊に目を凝らした。
と、北側城壁に人獣たちが跳び上がってきた。
けれども、東西両端からは跳び上がらない。
――抑えてる!
思わず拳を握り締める。
西端で連射を続けるミンユーの背中にも動揺は見られない。恐ろしいスピードだけど、淡々と矢を放ち続けているのが見て取れる。
しばらくすると、東側の隊で熱湯の大鍋が引っくり返された。
すぐに、西側の隊でも大鍋が引っくり返され、槍隊が槍を撃ち込んだ。腰を落したクゥアイが連撃する背中が見える。
槍隊が下がり、再び短弓の攻撃が続く。
――機能してる。
「一番槍はクゥアイだな」
と、俺が呟くと、側に立ってくれてるシアユンさんが尋ねてきた。
「一番槍、ですか……?」
「最初に槍で攻撃した人のことを言うんです」
槍の存在を、つい3日前まで知らなかったシアユンさんに解説してみせる。一般的な用語としては槍に限らないはずだけど、この際、そこはいい。
「勇敢さを讃える言葉です」
「なるほど」
と、シアユンさんもクゥアイの背中に目を向けた。華奢な背中が、肩で息をして揺れている。
大浴場で「あんなヘッピリ腰の男の人たちに、負けるはずありません!」と豪語したクゥアイは、それだけのことはある適性を昼間の訓練で見せた。
的に置いた丸太を、百発百中で貫き、試しに置いてみた細い丸太も倒すことなく刺し貫いた。
クゥアイと同じことができるチンピラさんは1人もおらず、細い丸太を槍で突くと、刃が刺さらずに倒してしまう。
クゥアイはたちまち槍隊の姐さん扱いになって、訓練を終える頃には、指導する側に回ってた。その甲斐あってか、数人のチンピラさんは、細い丸太に刃を立てることに成功した。
今日の【初陣】には、そういった選抜メンバーで挑んでいる。
と、西側の小隊で1体の獅子型人獣が跳び上がった。
すかさず、槍隊と大鍋隊は退避し、短弓の射手は退避しながらも城壁下への斉射を続け、駆け込んだイーリンさんが人獣の不意を突いたように討ち取る。
望楼からでは、はっきりと視認することは出来なかったけど、恐らく退避する槍隊の背中を遮蔽物に活用した『隠密剣』の片鱗を見せてもらった。
鋭く速い剣だった。
西のミンユー小隊は間を置かず、隊列を戻す。
東の小隊でも同様にヤーモンが討ち取っている。連携が機能している。
やがて、ミンユーの「まもなく!」という手持ちの矢が尽きることを知らせる声が響き、フーチャオさんの指揮で小隊の前後が入れ替わった。
切れ目なく攻撃が続けられている。
肩で息をするミンユーとクゥアイが、望楼を見上げたのが分かった。
クゥアイは満面の笑みで、ミンユーは少しはにかんだ笑みで、親指を立てて見せた。
大きく手を振って労いたかったけど、なにかの合図と誤解されてもいけないので、俺も親指を立てて返し、2人に応えた。
まだまだ、恐ろしい夜は始まったばかりだけど、確かな手ごたえを感じていた。
望楼からでは城壁の向こう側までは見えない。それでも思わず身を乗り出して、北側城壁の両端に陣取る短弓隊に目を凝らした。
と、北側城壁に人獣たちが跳び上がってきた。
けれども、東西両端からは跳び上がらない。
――抑えてる!
思わず拳を握り締める。
西端で連射を続けるミンユーの背中にも動揺は見られない。恐ろしいスピードだけど、淡々と矢を放ち続けているのが見て取れる。
しばらくすると、東側の隊で熱湯の大鍋が引っくり返された。
すぐに、西側の隊でも大鍋が引っくり返され、槍隊が槍を撃ち込んだ。腰を落したクゥアイが連撃する背中が見える。
槍隊が下がり、再び短弓の攻撃が続く。
――機能してる。
「一番槍はクゥアイだな」
と、俺が呟くと、側に立ってくれてるシアユンさんが尋ねてきた。
「一番槍、ですか……?」
「最初に槍で攻撃した人のことを言うんです」
槍の存在を、つい3日前まで知らなかったシアユンさんに解説してみせる。一般的な用語としては槍に限らないはずだけど、この際、そこはいい。
「勇敢さを讃える言葉です」
「なるほど」
と、シアユンさんもクゥアイの背中に目を向けた。華奢な背中が、肩で息をして揺れている。
大浴場で「あんなヘッピリ腰の男の人たちに、負けるはずありません!」と豪語したクゥアイは、それだけのことはある適性を昼間の訓練で見せた。
的に置いた丸太を、百発百中で貫き、試しに置いてみた細い丸太も倒すことなく刺し貫いた。
クゥアイと同じことができるチンピラさんは1人もおらず、細い丸太を槍で突くと、刃が刺さらずに倒してしまう。
クゥアイはたちまち槍隊の姐さん扱いになって、訓練を終える頃には、指導する側に回ってた。その甲斐あってか、数人のチンピラさんは、細い丸太に刃を立てることに成功した。
今日の【初陣】には、そういった選抜メンバーで挑んでいる。
と、西側の小隊で1体の獅子型人獣が跳び上がった。
すかさず、槍隊と大鍋隊は退避し、短弓の射手は退避しながらも城壁下への斉射を続け、駆け込んだイーリンさんが人獣の不意を突いたように討ち取る。
望楼からでは、はっきりと視認することは出来なかったけど、恐らく退避する槍隊の背中を遮蔽物に活用した『隠密剣』の片鱗を見せてもらった。
鋭く速い剣だった。
西のミンユー小隊は間を置かず、隊列を戻す。
東の小隊でも同様にヤーモンが討ち取っている。連携が機能している。
やがて、ミンユーの「まもなく!」という手持ちの矢が尽きることを知らせる声が響き、フーチャオさんの指揮で小隊の前後が入れ替わった。
切れ目なく攻撃が続けられている。
肩で息をするミンユーとクゥアイが、望楼を見上げたのが分かった。
クゥアイは満面の笑みで、ミンユーは少しはにかんだ笑みで、親指を立てて見せた。
大きく手を振って労いたかったけど、なにかの合図と誤解されてもいけないので、俺も親指を立てて返し、2人に応えた。
まだまだ、恐ろしい夜は始まったばかりだけど、確かな手ごたえを感じていた。
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